春雷、珈琲と煙草、僕。
この強風であの公園の桜の花は散ってしまうだろう。
君と2年連続で見に行った、あの山の公園。頂上の展望台から瀬戸内を背景に眺める桜は、とても美しくて。
前の年は目障りだった葉桜も、今年はなんだか言い難いほど必要なものに思えてならなかった。
面倒くさい、と言いながら。きっと僕は、君とそうやってあの展望台で、海と桜の絶景を眺めるこの季節を心待ちにしていたんだと思う。
そして君は、あの日を境に連絡を断った。
僕にとってはあまりに突然だったけど、君にとってはようやく、なのかもしれない。
きっと君の事だから、悩みに悩んで、考えに考えて、そして苦しんで泣いて。そしてようやく決められたことなんだろう。
君は今、何を思ってるんだろう。
清々した気分?
それとも、決断を下してもなお悩んでいるだろうか?
僕にはもう、彼女の真意を聞く術は残されていない。
聞けたとしても、君は優しいから、また笑ってはぐらかす。
今、僕の手元には珈琲とフーコーの論文があり、左手には煙草を挟んでいる。
ポケットの中で、車のキーにぶら下がったお守りを転がしてみる。去年の末に地元でも有名な縁結びのお寺で買った、君とおそろいのお守り。これでもう大丈夫、そんなことを考えて安心したことを思いだす。
そうしながら論文に目を通すと、フーコーがこんなことを言っていた。
「言説のみを分析しても真実は理解できない。言説に隠された社会的事実を分析して、人は初めて真実に辿り着き得る。」
クソッタレと思う。
僕は結局、君の真実を何一つとして見抜けなかったんだ。