表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/394

九十八話


「ユキカズさん。ブルさんはブルさんのお母さんをユキカズさんが取らないか心配してるんですよ」


 ふむ……俺はブルのお母さんに目を向ける。


「ブー」


 大らかな感じで胸を張って、ブルのお母さんは笑ってる。

 包容力はありそうだね。しかも正義感と言うか人助けを息をするように出来るし、誰かのために行動出来る素敵な人だ。

 女性だしね。魅力は十分にあると思うよ?

 ブルの親父が相当に酷い奴みたいだけど、性格で選ぶと言う点で言えば見る目があるんじゃない?

 うん。ブルのお母さんも冗談だってわかって笑ってるんだな。

 とはいえ……。


「ブル」

「ブ?」

「お前が俺にパパになってほしいと思っているなら俺は残された時間を全てブルに捧げよう。どうする?」


 これはアレだ。

 ブルは父親を探している、どうやら物心付く前には居なかったらしい。

 帰りを待つ母親のために行方不明の父親を捕まえて喜ばせると言うか、会わせてあげたい。自分も会いたいって思うのは父親が恋しいと言う事だ。

 だけど、それがすぐには叶わない。


 で、俺はなんかブルの父親に雰囲気が似ているらしい。

 上位互換ってアサモルトが言ってるし。

 なら俺が父親代わりとしてブルを支える事は出来るだろう。

 その為ならブルのお母さんですらも口説き落とす努力をしよう。


「ハーレム王な父親からブルのお母さんを救い出す為に尽力する」


 なんか間違ってるような気もする。

 けど、ブルのお母さんの幸せを考えると、そんな酷い奴を忘れて幸せになるべきだろう。


「ブブブブブー!」


 ブルがちぎれんばかりに首を横に振っている。


「やばっ! 堪え切れん! アハハハハ!」


 アサモルトが腹を抱えて笑い始めた。

 何がおかしい!


「フィリン、やはりトツカは変人だな。アイツと一緒に居て本当に良いのか?」

「否定はできませんが……良いんです」

「悪い奴ではないんだがな……異世界の戦士というのは変人ばかりなのかもしれん」

「ブブー」


 って感じでブルのお母さんもなんか笑っている様なやり取りがあった。

 まあ、ブルがそんなにも嫌ならしょうがない。

 それから……ライラ教官の元に兵士たちがやってくる。

 で、何か報告をしていた。 


「どうかしました?」

「ああ、今回の襲撃に関しての調査が終わってな。やはりダンジョンを根城にしていたオークがダンジョンから逃げ出して近隣の街に略奪に来たのだそうだ。で、大半は殲滅出来た様だと周囲の偵察をしていた者達が報告に来た所だ」


 おお……まだ残党と言うか他に襲ってくるオークがいたら下手に動けなくなる所だったけれど、それは何より。


「確かブルの生まれ故郷と言うかお母さんの住んでいる村って近くにあるんですよね? 大丈夫なんですか?」


「その辺りは気にする必要はねえよ。むしろあっちの守りの方が単純な戦闘力じゃ上じゃねえの?」


 アサモルトが当然の様に答える。

 ブルの実家のある村ってどんな場所なんだろうか? 是非とも立ち寄りたい。

 と思いつつ、昼間の事を考える。

 オークであるブル達にオークと戦わせてしまったし、ブルのお母さんの前でオークを俺は……殺したんだよな。


「……」

「なんだ?」

「いや……ブル達にオークと戦わせて良いのかって思って」

「あー、それか。異世界の戦士ってのは感性が違うからよくわかんねえかもしれねえけど、オークって一括りされてるけど、特に気にしなくて良いんだ。敵国とかの連中が同じ人間でも容赦とかして良い訳じゃねえだろ? お前が見てんのはきっとそれくらい視野が広い所の問題だよ」


 アサモルトが言わんとしている事はわからなくもない様な気がしなくもない。

 同じ人間でも殺し合うのだから敵オークを味方オークが殺しても気にしなくて良いって考えだ。

 俺は直接手を下したわけではないが、藤平を実質手を掛けたともいえる。

 寿命が迫っているアイツの死期を縮めてしまったんだしな……まあ、自業自得の意味が強いが。


 人々を無理やり連れ去って酷い事をしようとするオーク……盗賊相手に容赦はしなくて良い。

 兵士としてそう教わっている。

 もちろん、生かして捕えられるなら捕えるに越した事は無い。


 ただ、オークは力が強いので生け捕りは相当難しい。

 現に俺も主犯であるオークジェネラルは仕留めざるを得なかった。

 アサモルトが俺の肩をとんとんと軽く叩く。


「お前のそう言う甘い所、本当、ブルトクレスの親父と似てるよ。そう言う所も含めて嫌いじゃねえよ」

「……」

「ブ!」


 ブルとブルのお母さんが揃って手を上げて鳴いている。

 気にするなって言ってるのはわかった。


「ま、とりあえず明日も忙しくなるだろうから、異世界の戦士様はドーティス達の事なんて気にせず自分のやるべき事に専念してくれってもんだ」

「はあ……」


 個人的には出来ればブルやフィリン達ともう少し話をしていたいんだけどなー。

 浸蝕率とかもそこまで警戒しなきゃいけない数字ではないし。


「ラスティが格納庫で待っているぞ。お前は持ち場に戻るんだ。明日から異世界の戦士が向かった前線基地に向かわねばならんのだぞ」

「……承知しました」

「ブルトクレス、フィリン。お前達も魔導兵の調整のために向かってくれ、良いな?」

「はい」

「ブ!」

「ブー」


 ああ、ブルのお母さんとお別れか。

 もう少し色々と話と言うかブルに関して色々と話したかったな。訓練校時代にはこういう事があったとか、最近狼男姿だとモテまくってますとか。

 なんて非常に名残惜しく思いながらライラ教官にレラリア国流の敬礼をして、俺はブル達に手を振ってバルトを背負って魔獣兵の元へと戻ったのだった。

 本当……魔獣兵のコアが俺の自室になっちゃったなー。


「ギャウ!」

「ああはいはい。バルトも好きだぞー」

「ギャーウー」


 しょうがないのでブルのお母さんの代わりにバルトを撫でる。


「んじゃバルト……アレを頼む」

「ギャウ!」


 バルトが俺の命令を受けて魔獣兵内で操縦シミュレーションを起動させる。

 最近起動させている操縦シミュレーションの仮想敵はナンバースキルと謎の武器を使用した藤平だ。

 攻撃力が竜騎兵よりも上でありながら的が激しく小さく機敏に動く相手を想定している。


 正直に言えば難易度が高すぎる。

 針に糸を通すかのように繊細に大きな魔獣兵を動かして広範囲に攻めてくる藤平を叩きのめす為に戦う形だ。

 一撃で即死するような攻撃を放ってくる相手を想定した戦闘。


 ただ、これからの戦いを想定した場合、出来て悪い方法じゃないから覚える事にしたのだ。

 じゃなきゃ何かあったらナンバースキルに頼って行く事になる。

 そうなったら敵の思う壺だ。


 出来る限りナンバースキルを使わずに勝てるようにしないとこの先を生き残る事等出来ない。

 如何せん的が小さいから当てるのが面倒なのにちょこまか動くからより当て辛い。

 挙句タフで攻撃力もあると来たもんだからな……。


「……く」


 藤平の行動の癖を覚えて対処しているのにそれでも懐に入られてナンバースキルをぶっ放される。

 辛うじて避けた所で藤平の放つブルスマッシュが更に飛んでくるもんだから避けるので精いっぱいだ。


 ……避けられる様になっただけマシか。

 翼の性能で目で追えるのが幸いだ。

 これ以上の速度で動かれると絶対に勝てない。

 いや……異世界の戦士の本気の戦いに魔獣兵で挑むって事自体が無謀なのは分かってるけどさ。


 サッとバックステップをしながら飛びかかってくる藤平を剣で思い切り叩きつけそのままブレスを当て、一回転して尻尾を当てて吹き飛ばし、流れ様に盾を投げつける。

 ゴン! っと吹っ飛んだ藤平に盾が命中し、しばらく行動不能状態となった。

 まあ痛くて悶絶してるって状態の現れだろう。


 ここまで来るのに苦労したぞ。

 どんだけちょこまか動き回るんだよ。

 しかも広範囲攻撃を避けるので大変だった。

 そこから武装に登録されている必殺を放ってフィニッシュを仕掛けるが削りきれない。


 バルト……ステータス上げ過ぎじゃないか?

 とは思うけれど魔獣兵のスペックでトドメを刺しきれないって事かもしれないか?

 なんて感じで俺はこれからの戦いに備えた戦闘訓練をしていたのだった。

 ちなみに今晩の戦闘結果だが……まあ、あまりよくは無かったな。

 どうにかして勝率を上げたいもんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
イラストの説明
― 新着の感想 ―
[一言] 対藤平想定なら外野狙われることまでシミュレートした方が良いような
[気になる点] >「いや……ブル達にオークと戦わせて良いのかって思って」 「あー、それか。異世界の戦士ってのは感性が違うからよくわかんねえかもしれねえけど、オークって一括りされてるけど、特に気にしな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ