九十六話
「皆! こっちを見るなよ! 発射!」
周囲に指示を出して翼の目の部分を大きく開かせ、発動する。
カッと放たれたのは翼の武装、フライアイズボールビースト+2の特殊武装……魔眼だ。
フライアイの持つ催眠効果のある魔眼を放てる。
もちろん、エネルギー消費量が高く連続発射等は出来ないがこれで相手を麻痺させたり幻覚を見せたり出来るそうだ。
効くかどうかは別だが、オークの一部が俺に意識を向けていたので、効果があった!
「ブ、ブウ!? ガガ――」
棒立ちになって動けなくなったオークがいる!
「ブガアアア!」
思わぬ攻撃に怒り心頭のオークジェネラルが俺に向かって飛びかかって来た。
「おらよ!」
斧の一撃を剣でぶつける。
く……重量のある攻撃だ……火花が散り、押される。
着地したオークジェネラルの周囲にズシンと土煙が上がる……ブル並みの一撃を放ってきやがったな……敵としてのオークがこんなにも脅威だとは。
いや……このオークジェネラルは強魔素所有個体と記されていた。普通のオークとは違うってことなんだろう。
「ブガアア!」
そうしてオークジェネラルは後ろに手を伸ばし……なんだ? 石弓!?
ピピっと石弓に解析が働く。
ジェネラルバリスタ・マジックナパーム
ボォオオオオ! っと業火が俺の乗る魔獣兵に放たれる。
一瞬で燃え広がり、俺は火だるまになる。
「はああ! く……」
火が消えない。ナパームみたいな代物か!
思えば周囲の建物はこの炎で燃やされたっぽい。
魔獣兵の体内温度が徐々に上がって行く……が、幸いなのは魔獣兵は火に対する耐性がそれなりに強い所だな。
と言う所で歌声が聞こえてくる。
なんだ? そう思っていると、燃え盛る家々に雨が降り注ぎ、オークジェネラルに水弾が放たれる。
「おら、上位互換、さっさと仕留めな」
そう言ったのは屋根の上に居る……アザラシ? だけどこの声は……。
気にしている暇は無い!
「主砲発射準備! 3、2、1……発射!」
周囲の警告のために宣言しながらオークジェネラルに向けて詰め寄りながら剣を振り被り、動きを止めてブレスを発射。
発射可能数は少ないが、口径が大きいブレスがオークジェネラルに放たれる。
「ブウウ――!」
ボンと巨大な光の弾をオークジェネラルに向かって放ち、命中させる。
避けさせたりはしない! 避けても当てる!
バシュッとオークジェネラルにブレスが命中する。
上手く仕留めたか!?
そう思ったが、オークジェネラルはムクリと立ち上がる。
く……しぶとい。
「ブガアアアアア!」
攻撃をものともしない突撃とブレスにオークジェネラルが怒りの咆哮を上げている。
が……俺に意識を向けていて良いのかな?
まあ、気付かれない様に俺が目立つ行動をしていたんだがな。
俺の視線での合図を察してくれたのだ。さすがとしか言いようがない。
「ブウウウウウ……ブ!」
そう……流れるように斧での連続攻撃をしてオークを倒したブルがいつもの力溜めを行い、そのままオークジェネラルに向かって背後から斧を振り被る。
「ブガア!?」
ドシュっと背後からの一撃を受けてオークジェネラルが大きくよろめいた。
今だ!
「はぁああああ!」
オークジェネラルの喉元目掛けて力の限り、剣を突き刺す。
ドスっと命中する手応え、そのまま流れるように横に切り、盾で弾くように体当たりをして押し倒す。
「ブ――ガフ……」
「これで終わらせる!」
ブレスをオークジェネラルの顔面にぶちかまし、絶命させた。
ビクッと俺のトドメの一撃で僅かに痙攣したが、オークジェネラルは動かなくなった。
スッと……魔獣兵に魔素が流れ込んで来るのを確認。
トドメをさせた事を理解する。
「おお……オーク共の大将を倒した!」
「うおおおおお!」
「おおおおおおお!」
戦っていた者達の歓声が響く。
「まだ敵はいるんだ! 早く救出を!」
俺の声に、戦っていた者達が頷き、大将を倒されてうろたえるオーク達へと駆けだす。
「このまま畳みかけろ!」
「うおおおおおおおおお!」
と言った様子で、捕えられた者達を救出するのにそんなに時間は掛からなかった。
そうしている内に、気付いた……俺が居た場所とは別の方向でも火の手が上がっていた事に。
「さーてと、忙しくなりそうだ」
と言う声と共に雨が降り始め……火が鎮火して行った。
雨を降らす魔法……か?
さっきのアザラシは……いない。
ズシンズシンと街に居た魔導兵と竜騎兵が増援が来ないかと警戒していた俺の所にやってくる。
その下にはライラ教官達も一緒の様だ。
「トツカ、お前はそっちに向かっていてくれていたか」
「ライラ教官たちは……」
「ああ、オーク共が姑息にも街の二箇所を攻撃していた様でな……どうにか被害は最小限で抑える事が出来た」
うへぇ……。
「どうやら大物はお前の方に潜んでいた様だが、アサモルトはどこだ?」
「そう探さなくても怠けちゃいないさ」
はぁっと面倒そうに頭を掻きながらアサモルトがやってくる。
「まったく、この規模の雨を降らすのは疲れるねぇ」
「貴様がやったのか」
あいよって様子でアサモルトは肩を鳴らしながら頷く。
魔法使い……なのか?
「さっきアザラシが……」
「ああ、それは俺、魔法使う際にはそっちの方が良いと思ってな」
と、パーカーだと思っていたコートのような服をアサモルトが羽織ると……アザラシに変身した。
直立で立っているその姿は何処と無くファンシーに見えなくもない気がするけれど……。
「貴様、セルキーだったのか」
「俺の皮を盗ったらさすがの騎士様でも容赦はできねぇぜ」
セルキー……って確か、アザラシの皮を羽織る事でアザラシに変身するって妖精だったっけ?
日本での知識で俺も曖昧だけど、レラリア国の人種図鑑に少数種族の記載を見た覚えがある。
マジックシード無しで水の魔法が使える種族で、大切にしている皮を羽織る事で変身できる人種……だとか。
「大物だったみたいだぜ」
アサモルトが俺が仕留めたオークジェネラルの死体を見て呟く。
「生け捕りにした方が良かったでしょうか?」
「いや……ブルトクレスには悪いが、敵のオークは会話が成立しない。生け捕りは考えなくて良い」
「ガウ」
と、ブルが狼男姿で合わせて鳴いている。
「ブルのお陰で助かった。あの援護がなきゃもう少し苦戦していたと思う」
「ガウ……?」
ん? ブルが首を傾げている? 一体どうしたと言うんだ?
「あの……ユキカズさん。ブルさんは私達と一緒に居て、あっちの部隊のオーク達の相手と、人質の救出をしていたのですけど……」
「え? じゃあ……俺と一緒に戦っていたブルは?」
少なくとも咄嗟に見た感じだとブルだって思っていたんだが……。
……そう言えばオーク達を返り討ちにした後、住民達の手当てをしている内にどこかに行っちゃった様な?
ニュッとブルが狼男からオーク姿に戻った所で、近くにいた住民がブルに視線を向ける。
「お? そこにいるのは……ブルトクレスじゃないか。久しぶりだな」
と……なんかブルの尻尾の方を見てから住民が声を掛けてきた。
「ブー……ブウ」
コクリとブルがそのまま頷いた。
「お前の母ちゃんが近くに居てくれたお陰で被害を抑えられたよ」
おや?
俺が首を傾げていると、ライラ教官がアサモルトの方に顔を向ける。
「貴様……知っていたな」
「くく……こりゃあすげえな。運命っつーかなんつーか、特に会話をしたわけでもないのに、息の合った連携をしてたぜ」
いや、何笑ってんだよ。そして何故俺を見ている。
「ブ……」
ブルが一際眉を寄せている。
「ブー」
そこにズシっと……手ぬぐいを頭に巻いたブルそっくりの人物がけが人を背負って横切った。
「ブ?」
「よ! さっき会ったな。ドーティス、お前の息子が帰って来てるぜ」
「ブー」
ブルそっくりの人はけが人を治療している野戦ベッドに寝かせると……俺達の前にやってきてブルに片手を上げて挨拶をする。
「ブ、ブー……」
合わせてブルも鳴いている。
とりあえず両者の違いは……外見は殆ど同じ、ただ、違うのはお尻回りか。
ブルにはふさふさの尻尾が生えていて、ブルそっくりの人物はそのままズボンを履いていて無い。
というか……息子?
さっきの台詞とかから察するに……もしかしてブルの母親か!
「これはー……なんと」
「尻尾が無いと違いがわからない位そっくりですね」
「いや、ブルの方が男だからか角ばっているぞ!」
いつもブルを見ている俺にはわかる。
違いを見るとなんとなく、ブルの母親は若干丸みがある。
それでもよく似ているけどさ。
ブルが増えた……フフ。間違いない、ブルと同じタイプ……友達になりたい。
「トツカ、魔獣兵に乗っているにも関わらず表情が一目瞭然だぞ」
「ギャウ」
お? なんかライラ教官達が俺を呆れた目で見ている様な気がするのは……気のせいじゃないな。
「ブー……」
と言う訳で俺達はブルのお母さんと出会ったのだった。





