九十五話
「んー……」
「ギャウ?」
ラスティの飛空挺から降り、魔獣兵に乗って俺は待機を命じられている。
ライラ教官を先頭として、街のギルドで情報収集を行うとか……俺は待機で、魔獣兵の中って事だ。
ここ数日、ずーっと魔獣兵の中に居て、大分馴れて来てしまっているなー。
さて、新しい街並みと言っても、飛空挺の発着場でしかなく、街の方もそこまで大きくは無い。
遠くを見ると大きな森と山脈が見えて景色自体は絶景である。
で、俺達が降りた場所はバルトが国の端末やターミナルなんかで仕入れた情報に因ると奥へ行くほど、魔物の脅威度が高い区域……らしい。
ピピっと凝視すると進化した魔獣兵の翼が展開されて何故かズームモードになる。
翼 試作試験型進化バイオモンスター。フライアイズボールビースト+2
このパーツの性能が変化して、視界が非常によくなってしまっているのだ。
変化したパーツの中でもっとも伸びた性能をしている……らしい。
因みにこの視界と言うのは翼からの映像っぽい。
ラスティの調査によると解析能力が大幅に向上しているとか何とか。
特に意識せずとも見ているだけでズームになってしまう。
上手く運用するなら狙撃とかか? 他にも分析能力も上がっているらしいので、戦闘ではかなり有利に戦える。
飛空挺に乗っている際に襲ってきた空飛ぶ魔物を相手に命中補正がかなり掛っている様だったし。
バルトも非常に狙いやすくなった様だった。
そうして街の外をぼんやりと見ていると……森、木々の合間からなんか沢山の人影っぽいのが来る。
直後。
「敵襲! 敵襲!」
ウー……っと大きく警報が鳴り響いた。
「何があったんですか?」
現場へと走って行く兵士に魔獣兵に乗った状態で声を掛ける。
「異世界の戦士って者達に拠点を潰されたオーク共の残党が群れを成して街に襲撃に来たんだよ。こんな所まで来るとかどんだけだよ!」
と、愚痴っている。
「アンタ、竜騎兵の操縦者だろ! 早くアイツらを仕留めてくれ! じゃないと無数の被害者が出る!」
う……オークって、ブルと同族って事だよな。
そいつらを相手にしろと……思わず息をのんでしまう。
世間一般にはまだオークへの認識は人類にとって危険な魔物に近い。
一部の大人しいオークが耳などにタグをつけられて、許可されているにすぎない。
オークと言う生き物は俺の知る日本でのサブカルチャーなどで語られる、性欲の旺盛な生き物……だそうだ。
普段のブルを見ていると忘れてしまうが、この世界の認識でもそこは変わらない……っぽい。
仮にオークに生け捕りにされようものなら悲惨な末路が待ち受けているとか……言われている。
ライラ教官達と合流してから……いや、俺の階級は伍長で有事の際には自己判断が許可されている。
おそらくライラ教官やフィリン、ブル達も目的地は同じだ。
ブルの場合は狼男化をすれば味方からの誤射は避けられるので、ライラ教官が命じるはず。
「ギャウ!」
バルトが放心気味の俺を叱咤するように鳴いて、立ち上がる。
……そうだな。人間だって悪い奴がいるんだ。
悪いオークを倒すのは自然の事だよな。
「わかった! いこう!」
そう思って俺は魔獣兵を操作して一路前線へと駆けだした。
ドシンドシンと、素早く現場に到着した俺は周囲を確認する。
塀の一部が崩され、家に火の手が上がり、人々が一目散に逃げようとしている光景だった。
前方にはオークの残党……ズームで確認。
お? 俺の知るブルの倍以上の巨漢なイノシシの様な亜人と緑色のゴリラみたいな奴らだ。
視界にはオークと記されている。
あー……オークにも種類があるんだっけ。
「ブハアアア!」
歴戦の戦士って体躯をした巨漢のオークリーダーが斧を片手に雄たけびを上げ、部下のオークソルジャー達に向かって進軍を命じている。
「ブフゥウウウウ!」
リーダーの命令に従い……か弱き人々に向けて舌なめずりをしながらオーク共は駆けて行く。
何が目的なのかは一目瞭然だ。
既に一部の人々が捕まり、動けない程にぼこぼこに殴られ、後方に担がれて運び出されている。
完全に略奪が目的だ。
「させるか!」
主砲とばかりにブレスを放とうと思ったが中断する。下手なブレスは捕えられた人々を巻き込みかねない。
く……しょうがない。肉弾戦で叩きのめすしかない!
「オーク共に奪われてなるものか! 住民の避難を優先しつつ、俺達が行くぞ!」
「「「おおー!」」」
現に兵士たちも声を上げて、被害者の救出とオークの討伐のために各々武器を持って構える。
その最中……燃え盛る街並みの中で母親に手を引かれて全力で走っていた男の子が転んでしまった。
「わ!」
「何してるの! 早く! 早く逃げるのよ!」
そこを逃がさないとばかりにオークがやってきて大きく拳を振り上げた。
「――!」
母親が男の子を全身を使って庇おうと覆いかぶさる。
させるか!
俺は咄嗟に持っていた竜騎兵用の剣をオークに向かって投擲しつつ駆けよる。
「ブフゥ!」
が――ガキンと俺が投げた剣をオークリーダーが斧で弾き飛ばした。
嘘だろ……幾らオークだからって魔獣兵の投擲をそのまま弾けるなんて……。
と言う所で、ゆらぁ……っとオークリーダーの背後に黒い炎の様な物が立ち込めている。
このオークリーダー……身の丈が三メートルを超える化け物だ。小型である魔獣兵より少し背が低い位なのでどれだけ大きいのか分かる。
オークジェネラル(強魔素所有個体)
そう名前の表示が変わった。
オークジェネラル……確かオークの中でも一際強力な個体で人間が白兵戦で挑むのは無理と判断される竜騎兵、魔導兵が戦う賞金首クラスのオークだ。
しかも何らかのパワーアップした上位個体……。
バルトの分析結果に危険信号が表示されている。
が、今の問題はそれじゃない!
オークに襲われそうになっている人々が! 兵士たちも助けに入るには難しい。
く……ナンバースキルを発動すれば……と、俺が決断しようとしたその時!
「ブゥ!」
オークの拳をはじき返して華麗に回転して着地する影が現れた。
「ブファ!?」
「ブ! ブウウ!」
流れるように斧を振り被り、襲い来るオークと剣戟音を奏でつつ、詰め寄り押し返した所で、その影は子供を庇った母親に声を掛ける。
「あ……」
「ブウウ!」
顔で早く逃げろと意思を伝えると、母親は頷き、子供の手を取り、一直線に逃げ出す。
「ブウウウ……」
母子の無事を確認した影……ではなく、ブルはそのままオークに向かって流れるままに斧を振り被ってどんどん押して行っている。
おお……凄い。このタイミングで駆けつけられるなんて。
ただ、なんで狼男姿じゃないんだ?
敵味方の区別が……って種類が違うから一発か。
「ガアアアアア!」
ビリビリと空気が振動する。
オークジェネラルが雄たけびを上げ、俺の方へと斧を振り被る。
「コイツは俺に任せろ! うおおおおおおおおお!」
まだ周囲には逃げ遅れた人々がいる。後方には捕えられた人達もいるんだ。
まずはこのリーダー格を仕留めないと始まらないのは元より、逃がすわけにはいかない。
「バルト……ここが踏ん張りどころだぞ!」
「ギャウ!」
予備の剣を抜き、盾を構えて、翼を広げてオークジェネラルを相手に距離を取る。
オークジェネラルも俺を一番の脅威と認識しているのかジリジリと間合いを測っていた。
大きさはこっちが上だが、強さはどうだろうか。
逃がすわけにはいかない。
……特殊武装を使う!





