九十四話
「……どんな奴なのかわかった。出来れば会いたくないな」
「ユキカズさんが二人になる様なものですか」
「下位互換だって言っただろ? 目の色を変えるのは女限定、男には……まあ、普通に良い奴だったよ」
「むしろトツカはブルしか見てない様に見えるがな」
「それはブルが良い奴だからじゃないですか」
「はいはい。んで、性格さえ良けりゃ外見とかには拘らない奴だったな」
外見には拘らないってどういう事なんだろう?
「ブルトクレスの父親はオークじゃねえよ。母親がオークなんだ」
「なんと……それは随分と……」
ライラ教官が訝しげな目でブルを見ている。
「なんですか? ブルに不満があるとでも? ブルはモテモテじゃないですか!」
一部のブルが助けた方々にブルは人気があるんだぞ!
彼女たちは見た目や種族ではなくブルの人柄にほれているんだ。悪い人たちじゃない。
現に俺は彼女たちと熱くブルに関して話し合った。
若干引いていた様な気もするけれど、ブルの事を想っているなら俺も応援する!
「ライラ教官、外見でブルを差別するのはどうかと思いますよ?」
この可愛い子ブタみたいな姿を気持ち悪いと思うのが間違いなんですよ。
狼男姿が筋肉質のイケメンらしいけど、俺はそっちに関しちゃ綺麗だなって感性しかない。
「トツカ、気にする所はそこなのか?」
「ユキカズさんは異世界の方ですから感性が違うのかもしれないですよ」
「だが……他の異世界の戦士やフジダイラから得られた証言を元にすると……」
「うーん……」
いや、フィリン、なんで俺を見て唸るわけ?
「ブ……」
ブルも困った様な声を出して……? 俺、なんか変な事言った?
「ギャウウウ」
ずーっとバルトは俺の頭を甘噛み継続中である。
「で……その父親ってのは何処に?」
「しらね」
知らないのかよ。じゃあブルの力の秘密ってのもよくわかんないじゃないか。
ラスティも俺と同じようにブルの検査をしたけど、特に異常は無いって言うし。
「アイツは事情を何も言いやしなかったし、あの頃の俺は仲間とは言え、端っこよ。決戦じゃ不参加、平和になった後も、いつの間にかアイツは何処かに行っちまったしな。上級騎士様も覚えてないか? 20年前にレラリア国に進軍したオーク軍を追い返した戦士達の話をよ」
「有名な話ではないか……確か、突如オーク軍の背後にいた封じられた王が弱体化を見せ、侵攻された土地を取り戻すに至った出来事だ」
「その戦いで色々と貢献したのがブルトクレスの父親な訳よ。そうでもないと今でもあの地はオーク軍の物だったと思うぜ?」
「おお……ブルの親って結構凄い親なんだな。その親譲りの力なのか」
物凄い父親の力を使えるって事……なんだろう。
異世界の戦士に匹敵する力を持つ親か……何者なんだろうな。
「ブ……?」
ブルが頭を傾けている。どうやら良く知らない様だ。
「って訳で俺の知るアイツに関してはこんなもんだ。他には……子供は大体、銀色の綺麗な体毛を体の何処かに宿してんだよ」
と、アサモルトはフィリンの方を見る。
「ペンケミストルの王族にもアイツは良い女って関係持って子供を産ませたはずだぜ?
知らねえか?」
「……もしかして、ルリーゼお姉さんですか?」
フィリンも心当たりがあるのかハッとした様に言う。
「ルリーゼお姉さんのお母さんは昔、武勲を立てた人として有名で、戦後ルリーゼ姉さんを産んで育てていました……」
なんか話が繋がって行くみたいだけど、俺は知らない人だからわかんないなー。
「ルリーゼ姉さんは優しくて綺麗で、いざという時に頼りになるお姉さんです。私をレラリア国に入れる様に手配してくれたのもルリーゼ姉さんでした」
「ちなみにブルトクレスが一番年上……のはずだぜ。アイツが最初にアタックしたのがブルトクレスの母親だからよ。人助けをする良い女の力になりたいってよ。あれで味をしめたんだろうよ」
「入れ込み方が完全に同じではないか? トツカ」
「ぐぬぬ……」
違うよ。
俺がブルと仲良くなりたいのはブルが良い奴だってわかったからだ。
「話を変えて……ルリーゼ姫がブルトクレスと異母兄妹……と言うのか?」
「言われてみれば確かにこの銀色の綺麗な毛はお姉さんと同じです。なんで気付かなかったのでしょう」
「ブルトクレスだからだとしか言いようがない」
フィリン達がブルの尻尾を凝視して言う。
「そんな訳でどういった原理なのかは知らないけど、アイツの子供ってのは例えオークであろうともこうなっちまう訳よ。んで、なんでブルトクレスの後見人になってコイツを兵役に就かせたかって言うと、コイツ、その親父を探すために冒険者になろうって思ってるっぽいんだよ」
「そうなのか? ブル」
「ブ」
俺の質問にブルはコクリと頷いた。
「行方不明の父親を捜すために、権利として便利な冒険者資格を求める……壮大だな」
親の繋がりとかでもっと効率的な手段がありそうだけど、不器用さがブルらしい。
「さすがブルだな。そんな真っ当な理由だったんだ」
「ブー……」
俺が感動しているとブルがトーンの低い声を出しながら何故か視線を逸らす。
「ちげぇよ。ブルトクレスの目的はその行方知れずの父親をとっ捕まえてこれ以上弟や妹を増やさない様にしようって所だろうさ」
ビクッとブルがアサモルトに言われて反応する。
「そう言えばダンジョンで前にブルさんがなんで兵役を就いているのかって話をした際に伝えようとしてましたよね?」
あー……なんか覚えがある。
片方の手を叩いて引っ張って行く感じの動き、の後に尻尾。
「少なくとも行方はわからねえけど、アイツがどっかで生きてるってのが、子供には何故かなんとなくわかるんだとさ。だからブルトクレスはこれ以上、父親が女を作らない様にするのが目的な訳よ。他にも居るんだぜ? 同じ目的で各地を回ってる奴」
ハーレム王な父親からこれ以上不幸な女性を作らせない為に頑張っていたのか。
ブル……不憫であると同時に、諸悪の根源である父親を倒すための行動だったんだな!
「そういう事なら俺も応援するぞ、ブル!」
「ブ……ブー」
「その父親の上位互換と言われる奴に応援されるブルトクレスの心情を察するのは容易いな」
「あんまり嬉しくないでしょうね。ブルさん。ユキカズさんがお父さんと同じ道を歩まない様に手綱を握ると良いですよ」
「心外な、俺はブルの親友になりたいだけですから」
「……ブルさんが女性だったらどうしてました?」
うーん……と、考えてみる。
「ブ?」
非常に分かりやすい運動が大好きで善行を息をするように出来るブルが女だったら?
どれだけ罵倒されても誰かを助ける事をやめないブルだぞ?
「告白してるかもしれないな」
なるほど、ブルの父親の気持ちがわかった気がする。
「ブヒァ……」
なんかブルが鳥肌を立てた様な声を出したぞ。失礼な。
「ブルさんは心の底から男として生まれた事を感謝してそうですね」
「そうだな。生まれる性別が正しかった。女だったらトツカが猛烈なアタックをしていたかもしれん。それは……幸せなんだろうか?」
「くっくく……で、博士さんよ。そろそろ船から降りるんだろ?」
「そうね。異世界の戦士って連中が向かった場所へ行く途中、件のオーク侵略大戦で人々が取り戻した地に飛空挺を着陸させて陸から行くわよ」
「空からはいけないのですか?」
「ここまではどうにかなるけれど、最前線は封じられた魔物が解き放たれて凶悪な魔物が空を飛び交っているのよ。地上から行く方がいくばくかマシなのよ」
今まで黙って、俺のモニター分析をしていたラスティがアサモルトの質問に答えた。
ちなみにアサモルトのニックネームはモブだそうだ。そのニックネームで耐えれるのな。
なるほど……この先は歩き……と言うか魔獣兵に乗って移動か。
「ブゥ……」
微妙にブルが小さな声を上げていたけれど、一体どうしたと言うのだろうか?
モブもなんか笑いを堪えている様な顔をしているし、どうも嫌な予感がするなぁ。
なんて思いつつ、俺達はクラスの皆が向かったと言う最前線の道中の街へと着陸したのだった。





