九十二話
異世界の戦士の末路をマジマジと見せつけられた俺達は一路クラスの皆に会うために、王女様が用意した飛空挺に乗って移動中だ。
「クッキー、調子はどうかしら?」
「まあ……」
「ギャウー」
それで、俺は今……飛空挺の格納庫、修理された魔獣兵のコックピットに収められた形で休息を取らされている。
この飛空挺はラスティが出資した物で、個人用にしてはそこそこに大きい。
なんでラスティが俺たちと同行しているのかと言うと、バルトの製造目的と、俺の異世界の戦士としての因子なんかの話を伝えた所、急いで用意と言うか関係各所に声を掛けて駆けつけてくれた形となっている。
要するに……バルトと俺の調査がしたいって本音があるのだろう。
「何度も言うけど、外に出ても良いけれど、長生きしたいならばバルトに搭乗しておくのよ」
「わかってますって」
日常生活における浸蝕率の増加を極力落としつつ、それでも生じたエネルギーを効率よく貯蔵する仕組みがバルトには施されているそうで、いざって時のために俺はバルトに乗り込む事が半ば義務化されてしまっている。
まあ……少しでも長生きしたいのはお互いに承知の上だしね……。
バルト経由で俺のバイタルチェックをラスティはしてくれている様だ。
「しかし……バルトに謎の浸食を抑える効果があるとはねー」
「ギャウ!」
どういった縁なのかとか、出来過ぎだとは思うけれど、考えてみればバルトとの出会いとかも仕組まれた罠からだった訳だから……偶然ではないのかもしれない。
相手が想定していないとしても、例えば……俺を浸蝕する力経由で何らかの導きがあったとかな。
「本当……こんな変化をするなんてね。研究が捗るわ」
ラスティが俺を人ではなく研究素材として見ている様な気がしてきた。
「ラスティさん。俺の名前は?」
「クッキーの名前? トツカでしょ。で、フジダイラの容体が気になるのかしら?」
……うん。間違いない。これは俺を獲物として認識して覚えてしまったのだ。
良かったな藤平。お前も覚えてもらっているぞ。
研究素材としてだがな。
藤平も一応、ラスティの研究所に連れて行き、入念なチェックをされる事になった。
まあ、人としての自我は無いが、落ち着きがないので眠らせて培養槽に漬けて調べている様だけどさ。
……培養槽で眠らされていた藤平の末路を思い出し、俺は寒気を覚える。
俺もいずれああなってしまうのだろうか?
日々少しずつ増えて行く浸蝕率の数字が、俺の寿命を示す物だと知り……死の恐怖をひしひしと感じるようになってしまった。
「藤平の事で何かわかった事はありますか?」
「……正直に言って、何も……ね。分析の結果だとオークに似た遺伝子構成をしている何かだとしか言えないわ」
「……それでラスティさん。俺の力って結局何なんですか?」
「そこなのよねー……バルトに搭載されているシステム関連も調べては居るのだけど因子適合者って事しか分からなくて……たぶん、クッキーに宿るそれが因子なんだとは思うけど……城の研究資料とかを調べようとしたけど、それらしい痕跡も無いし」
ちなみにセレナ様が城の方に出向いて色々と研究なんかをしている場所や、異世界の戦士の世話をしている人とかに事情を尋ねたのだけど、これと言った情報は得られていないとの話だった。
みんな、世界の為に戦うか、平和に何処かに出かけているそうで、城には居なかった。
もちろん、セレナ様はきな臭さを感じていて、王様の方に話を通した所、王様も既にこの件は解決したと思っていて驚いていたとか。
一刻を争うって事なので、俺達は先行で出かけてしまっていたが異世界の戦士達と合流した際には王様から直接に事情を説明すると話を付けたと……ライラ教官は言っていたっけ。
あ、一応、藤平捕縛の功績や緊急性等から今後の任務も合わせ、セレナ様の独断でフィリンとブルにそれぞれライディングの技能が授けられた。
フィリンもブルも、魔導兵や竜騎兵を操縦する事が出来るようになっている。
なんて言うか、不思議な位、俺達出世して来てるね。
「ここにある機材でわかるのだと……強力な力なのは間違いないのよ。一時的に力を引き上げる事が出来たり、浸蝕して変身能力を宿したりね」
「えーっと手術で取るとかは……?」
「無理。どうもクッキーの細胞内に混ざりきっているみたいでね。バルトの能力でその浸食を弱めるプロセスを解析している程度よ」
うへぇ……治療不可とか嫌だなぁ。
「ただね……異世界の戦士とは別に、私達の今の文明の創世記に人類の天敵と呼ばれる……化け物の逸話はあるのよ」
「化け物……ですか?」
「そうよ。まあ、実在はするんでしょうね。例えばダンジョンとかで封印されているのを解いて国が滅んだとか言われるのはその手の化け物の断片とか言われたりするし、その化け物の反応に似てるっちゃ似てるわね」
……え? もしかして、封印された化け物を、その化け物の力を宿した人間、異世界の戦士に倒させようとしているって事なのか?
「近年だと、魔王とか呼ばれる封印が解かれた地を牛耳っていたのが……オークの始祖だと言われる化け物の断片で。20年くらい前は大変だったそうよ。オークが活気づいて各地で暴れたそうだわ」
あ……なんかその辺りは本で見た気がする。なるほど、そこに結び付くのか。
「それでわかるのはクッキーが、特に魔導薬物を摂取しなくても人を超えたLvになれるって事」
「人を超えたLv……?」
と、俺が尋ねた所で、格納庫の扉が開いてライラ教官達がやってくる。
「なんだトツカ伍長、お前は知らなかったのか?」
「なんか聞いた気はしますが、まだ知る必要は無いと思っていました」
「まったく……妙な所で知識が偏っているなお前は」
「そりゃあこの世界に来て日が浅いんですからしょうがないじゃないですか」
ライラ教官も俺の事情を把握しているのに妙な所で教えてくれない。
それとも俺がなんでも自身で収集していると思っているのだろうか?
「はぁ……それもそうか、良いか? なんで兵士がターミナルを介さない肉体強化、下地作りに力を入れるかは前にも教えたな?」
「はい」
「それは限界Lvに到達した際の最終的な能力を少しでも上げるための成長率を引き上げる為でもある。本来、何も魔導薬物等を使わない場合、人間の限界はLv99なのだ」
えー……俺のLvは現在67……割とあっという間だ。
と言うか異世界の戦士は最低90越えって話だったはず。
「異世界の戦士仲間と話をした際、最低90Lvと言ってましたが……」
「どうやら異世界の戦士と言う存在はその限界が人を超えているのだ。つまり容易く超えるのだろう。それも貴様を蝕む因子によるものなのだろうな」
「一応、限界を超える方法が無い訳じゃないのだけどね。エロ」
ラスティがそこで補足をする。
ただ、エロってライラ教官を呼んだ所で、ライラ教官の眉が跳ねる。
「マジックシードよりも希少な代物だがな……それこそ、異世界の戦士達にでも取ってきてもらわねば確保出来ん代物だ」
はぁ……なんか抜ける手段はあるみたいだけど、それも希少な道具であるらしい。
なるほどなー……人間の限界があるから魔導兵や竜騎兵ってのは存在するって事なんだろう。
「異世界の戦士のLv上限が普通とは異なるのはわかりました」
これもある意味、藤平の喜ぶチートだったってことね。
異世界の戦士に標準搭載されているものみたいだけどさ。





