異世界の戦士として国に招かれたけど、断って兵士から始める事にした

二章

九十一話

　目を凝らして確認する。

　が……Ｌｖどころか、何者なのかすらわからない。

「貴様は何者だ！　何を知っている！」

　ライラ教官が剣を抜いて構え、斬りかかるのだが、分身している様な速度で大きく距離を取った謎の人物が大きく距離を取って武器を持って構える。

　するとそこから刀身が現れる。

「フルムーンスラッシュ」

　抑揚のない声でそう言いながら横に凪ぐ動作をすると、藤平が放った攻撃と同様の物が、ライラ教官目掛けて放たれた。

「な――」

「危ない！」

　避けられない速度で放たれた一撃を俺は咄嗟にＬチャージを使って追い付き、ライラ教官に飛びかかって、紙一重で避ける。

　飛んで行った剣撃が後方の岩を斬り裂いて消え去る。

「ふむ……力が漲る。成果は十分か……ここで君を実験台にして戦って殺すのも良いけれど、そうなると後々歯ごたえがなさそうで面白く無い」

「何を言っているんだ！」

「それに答える義理は無い。まあ、精々指をくわえて見ているんだな。この世界はいずれ俺が支配するのだから」

　そう言うと謎の人物は武器を振り上げ地面に振り被った。

「それじゃ、機会があったらまた」

　すると衝撃波が発生し、パワーウォールクラッシュとなって土煙が起こる。

「みんな！　逃げろ！」

　急いで距離を取って衝撃波が消える所まで逃げた俺達の背後には大きな煙が巻き起こり……先ほどの謎の人物は姿を消していたのだった。

「さっきの奴は一体……」

　ライラ教官が忌々しげに眉を寄せてからヒステリー女の方に顔を向けて胸倉を掴んで尋ねる。

「おい、アイツは何者だ！」

「し、知らない！　私が知っているのはヒデキにあの武器を渡して、ラルオンの魔導兵をパワーアップする機材をくれただけだもん！　味方だと思っていたの！」

　いや、その状況で味方だと思う方がおかしいだろう。

　藤平の暴走を助長させたのはアイツだったのか？

　くそ……異世界の戦士って代物に関しても色々と知っていて暗躍していそうだ。

「これは……急いで報告せねばならんな」

　と言う訳でライラ教官の指示の元、俺達は藤平を捕縛し、撤収作業に移った。

　魔獣兵に関してであるが、切断された所をどうにか繋ぎ合わせて回復魔法をしばらく掛け続けると応急修理として歩けるようになった。

　魔導兵でこの修理は出来ないので国が回収する手はずとなっている。

「ギャウ！」

　で、元ラルオンの魔導兵である藤平の魔導兵からバルトがコアらしき物を取り出して俺達に見せていた。

　それは藤平が連れていた小型の円形ゴーレムだ。

「……何かわかる事があるかもしれん。国には提出せず、ラスティに見てもらう」

　と言う訳で魔導兵のコアも回収した。

　そうして魔獣兵の修理と首都への飛空挺を手配する為、近くにある竜騎兵の修理が出来る街に到着。

　するとそこにタイミングよく、セレナ様が俺達を出迎えてくれた。

　専用の個室を用意してくれて、そこで俺達は話をする事になった。

「トツカ様、フィリン、ブルトクレス様。この度は過酷な指名依頼を受けたとの話を聞いて急いで馳せ参じました。どうやら無事なご様子ですが……ライラ、何があったのですか？」

　普段の温和な表情は鳴りを潜めてセレナ様はキリッとした表情でライラ教官に尋ねる。

　ライラ教官を始めとした俺達からセレナ様は話を聞くと、考え込むように口元に手を得てる。

「これは驚くべき事態であると同時に、姫として国を思う者として見過ごせませんね。早急に異世界の戦士たちの安否の確認を優先しましょう。であると同時に、フジダイラ様の調査を国に全て任せるのは危険と判断しますわ」

「しかし……調査をするなら……」

「もはやレラリア国でどのような陰謀が渦巻いているのか私でも判断しかねる状況です。王にはこの件で急いで報告を致します。大々的な調査班を派遣しますが……どちらにしてもトツカ様、貴方の安全を我が国は保障できなくなりつつあります」

　迅速な決断と、俺の身の安全に関する懸念をすぐにぶつけて来るなぁ。

「ではどうしたら？　国が言っていた儀式を受けたらこのような事は無いのではないのですか？」

　俺の問いにセレナ様は首を横に振る。

「異世界の戦士様の為に行われた儀式に関して疑問が浮かんでいる現在、トツカ様に施したとしてフジダイラ様と同様の事が起こらないと保証は出来なくなっております。トツカ様の浸蝕率が危険になる前に綿密な調査をさせて頂きます」

　やはりそう考えるのが自然か。

　むしろ……大迷宮から命からがら脱出できた際に会ったクラスメイトの影が歪んで見えたのは見間違いじゃなかったんじゃないかとすら感じている。

「トツカ様に私達が求めるのはご自身の身の安全、そして危険な力の使用を禁止する事です。どうか何があろうともその力を使用する事が無い様にお願い申し上げます」

「はい……出来る限りそのお言葉に添えるように努めます」

「であると同時に……異世界の戦士の皆様にその力を使わない様にして頂きたいと考えています」

　セレナ様はライラ教官と視線を交わしたかと思うと、フィリンに目を向ける。

「これからトツカ様方は異世界の戦士の皆様の所へ向かって頂いてよろしいでしょうか？」

「もちろん、こちらからお願いしたい話です」

　この事実を一刻も早く皆に説明しなくてはいけない。

　しかも国が何らかの暗躍をしているのは元より……みんな力を使って戦っている。

　いつ藤平と同じような状態になってしまうかわからない。

「それでですが……私が掴んでいる異世界の戦士達の所在ですが……既にレラリア国から離れ、他国に居るとの話なのです」

「た、他国へですか？」

「ええ……もちろん、各国を巡る飛空挺に乗船して頂く事になるでしょう。後、兵役は解除されませんので事件が解決し、何事もなくトツカ様の命の保証が出来た際にも期間の延長が無い様に手配しますわ。それに……仮ではありますが冒険者資格も与えます」

　かなり破格の待遇で自由に動き回れる立場を得られたぞ。

　もはやこれは冒険者と同じに動けるって事じゃないのか？

　けれど、それくらい現在の状況がやばいって事だ。

　冒険者資格を貰えたのも、その方が動き易いからだろうしな。

「さしあたって状況を考え、フィリン……あなたは」

　ここでフィリンが手を上げた。

　許可するとばかりにセレナ様とライラ教官が頷いた。

「私を置いていくのは嫌です。何があろうと同行します」

「フィリン？」

「……フィリン、本当に良いのかしら？」

「はい……私が、そうしたいんです」

「ブー！」

　ブルも手を上げている。

「なんだ？　ブルトクレスも同行したいのか？　お前は巻き込まれたにすぎん。望めば別の部隊替えが出来るぞ」

「ブーブー！」

　ブルは頑なに縦に首を振らない。

「ブ！」

　梃子でも動かないとばかりにブルが俺の手を握る。

「……わかった。お前の好きにするが良い」

「ブ！」

　ライラ教官の許可が下りた事でブルはレラリア国の敬礼を行う。

　うう……巻き込んでしまったのにフィリンやブルは俺についてきてくれるのか。

　ああ、申し訳ないと思いつつ嬉しく思ってしまう。

「ではこれから迅速に行動して行きましょう。みなさん。どうかお気をつけて行動をしてください」

　という訳で俺達はレラリア国を離れ、一路、クラスの皆の元へと向かう旅へ出る事にしたのだった。