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八十九話


「うっぜぇえええええええ!」


 藤平は攻撃の邪魔をされたのでブルに向かって突撃していく。


「フルムーンスラッシュ!」


 三日月の斬撃を飛ばす、中級剣技の技を強化したっぽい攻撃を藤平がブルに向かって放とうとしたので今度は俺が周囲に落ちている魔導兵の残骸の鋭い鉄片を拾って藤平に投げつける。

 ドスドスと藤平の腕に命中。


「いで!? うっぜえ奴だな! おい!」


 刺さりはしなかったけれど、藤平の攻撃を僅かに遅らせた事でブルは攻撃を避ける事が出来る。


「バウウウウウ!!」


 ブルが僅かに力を貯める動作をした後、大きく腰を落として正拳突きを放つ。

 しっかりと藤平の腹に命中、ドスンと衝撃が走って藤平が吹き飛んで行くが空中で姿勢制御をしてアッサリ着地した。

 やっぱり固い……簡単に倒れちゃくれないか。

 ブルの技を受けてこの程度なのか……あの技、ブルが練習にって狼男姿でギルド隣接の訓練所にある練習用案山子を一発で粉々にした攻撃だ。

 長く力溜めをした後の斧よりも若干威力は落ちるけれど出の早さからこっちに軍配が上がる。


「スターショット!」


 追撃に俺がスターショットの魔法を放って牽制した。

 藤平は高速で動いて俺のスターショットを避けて俺に急接近、もちろん合わせて俺も高速で移動していく。


「あああああああうぜぇうぜぇうぜぇ! 俺がここまで力を出してんだからさっさと倒れろよ! 異世界地雷十カ条! 雑魚がいつまでもしつこい!」


 藤平は顔に手を当ててから更に吠える。


「ああもう面倒くせぇえええ! もっとだ。もっと力を増してやる! はぁあああああああああ!」


 俺の視界に浮かぶターゲットアイコンが何重にも藤平に集約する。

 何かしているって事の強調表示だろう。

 藤平から更に力の煙と言うかそんな表示が膨れ上がって行く。

 筋肉も更に増長して行っている。

 しかし……Lチャージを使ってやっと追い付ける速度で動いているからか身体が軋んでくるのがわかる。


「ゼェ……ゼェ……」


 ブルも酸素が欲しいとばかりに舌を出して荒い呼吸を繰り返しながら根性で戦ってくれている様だ。

 俺はブルに視線を向け、合図を送った。

 コクリとブルは頷き、ヘルファイアを取り出して力を込め始める。


 そこで、フィリンが合図している事に気付き、指差す方角に目が行く……。

 わかった。


「これでお前ら一撃でお陀仏だ! パワーウォールクラッシュ!」


 力強く藤平が地面に武器を叩きつけるように突きさす。

 すると藤平を中心に大きく衝撃波が発生し、周囲に居る俺をブル諸共避ける暇なく蹂躙しようと試みていた。


 早い!

 衝撃波がけた違いに大きく、避けるのが非常に難しい高さにまで上っている。

 逃げるのは不可能。


 なら……切り札は今切らねば話にならない。

 バルト……力を貸してくれ!

 武器形態になっているバルトに力を込める。

 するとバルトは俺の意思に呼応するように残された力を解き放つ。

 視界に浮かぶはあの時の技名。ただ……身体への負荷はあまり感じない。


 いや……もっとだ。

 この一撃だけで良い、出来れば使わない様にしていたLドライブを意識すると俺の手足にカッと力が入った。


『そなたの中で今、求める力とはなんだ?』


 全てがスローになって行く中で声が聞こえる。

 求める力……俺が求めるのは俺の後ろに居る、他が為に無意識に身体を動かせる親友の様な力だ。


『なるほど……つまり我では無いのだな。それもまた良いだろう。その力もまた……我なのだから……さあ、願いの為に……振うが良い。ああ悪いが完全には再現できなかった。まだそなたは我の力の汚染が浅い証拠だ。頼らずにいる事を誇れ……』


 と、声の主は言い終わるとスローだった光景が元に戻って行く。

 俺の手足に大きな変化が起こった。

 その形状はブルと同じく狼男の様な手足。

 あまりにも力を行使していて疲れていた身体に力が漲る。


「ハンドレッド……ダガー!」


 力強くバルトを振り下ろすとカッと光で形作られた無数の短剣が迫りくる藤平の起こした衝撃波に無数に飛んで行った。


「はぁあああああああ!」

「おりゃああああああ!」


 藤平の衝撃波と俺のハンドレッドダガーがぶつかり……大きく爆発が巻き起こった。

 爆風が俺とブルを通り抜ける。


「これで終わりだな! ハッハッハ! 俺が本気でやってやったんだからあの世で感謝しろよ!」


 藤平が勝利を確信したのか何やら高笑いを始めている。


「……それはどうかな?」

「な、何!?」


 俺が土煙の中から飛び出し、藤平に向かって素手で殴りかかる。

 藤平の鳩尾に俺の拳がクリーンヒット。

 そのまま追撃の蹴りを放っておく。


「うぐ……いい加減にし……ろ! 俺が放った攻撃でてめぇは死んだ……はずなんだよ! いつまで俺の手を煩わせやがる!」


 咽た藤平が憎悪の目を俺に向けて叫ぶ。


「だから勝手に殺すな! ああ、これで条件は同じ……じゃないな」


 藤平の変身と俺の変身はまだまだ違いがある。

 俺の場合、手足……腕くらいまでしか変化していないが藤平の場合は頭部や変化している部位が大きい。

 それと……なんか尻と言うか尻尾辺りがモゾモゾしているのだけど、ちょっと見ると尻尾が俺には生えているっぽい。

 ただ……イヌ科のそれじゃないんだよなぁ。なんかトカゲっぽい。

 もしかして……さっきの声の再現が出来なかったって、これの事……なのか?


「第二変身くらいまで使ったお前と、まだ第一段階の俺でこんな差が出ているなら、俺が勝っているってことだろ?」


 ここで出来る限り藤平を挑発して俺に意識を向けさせる。


「てめぇ! 何調子こいてんだよ! 多勢に無勢で俺をいたぶって勝ったつもりか!? あぁ!?」


 そう言うお前は俺たちが持ってない武器を持って力の限り暴れ回っているだけだろ。

 その衝撃波で村の方にも被害が行ってるぞ。距離が開けば威力も大分落ちるみたいだけど……。

 お前のヒステリー女なんてライラ教官がどうにか助けださなかったら巻き添えだったんだからな。


「今度こそぶち殺してやらぁ! 喰らいやがれ!」


 っと、予想通りの軌道で俺に向かって高速移動をして武器で斬りかかって来る。

 この軌道なら避けられるな。

 サッと、藤平が好きな回り込みの軌道と身を逸らした動作で藤平の側面に回り込み、流れるように蹴りを入れ、目標地点に押し込む。


「フィリン!」

「はい! 行って! バルト!」

「ガァアアアア!」


 そう、フィリンが指差していたのは緊急脱出で乗り捨てた魔獣兵。バルトが俺の右手に引っ付いているにも関わらず動いていたのだ。

 遠隔操縦とかそう言った事まで出来るって事なのかもしれない。

 その足が切断されて動けない魔獣兵の必殺のブレス……主砲の射線に藤平を突き飛ばして入れ込んだ。


 バシュっと魔獣兵のエネルギーが込められたフレイムブレスが藤平に向けて放たれた。

 本来、ドラゴン等の人間が相手をするのが難しい大型の魔物種の、竜騎兵等の主砲を人間がもろに受けたら痛いじゃ済まない。

 文字通りミンチになったり跡形も残らないだろう。


 藤平の脅威性は戦っている俺だからこそ、判断出来る。

 異世界の戦士としてこの世界の人々の為に持たされている武器を持って、人々に危害を加える藤平にはもう遠慮なんて出来ないんだ。

 だからやるしかない。


 そもそもこれが通じるかすらわからない。

 ゴオっと、巨大な火の玉が藤平を飲み込む。


「ぐあああああああああああ!?」


 藤平の絶叫が響き渡る。

 と、同時に巨大な火の玉が爆発を起こして煙が周囲に舞う。


「……」


 目を凝らす……ああ、うん。

 ブルに視線を向け、合図を送る。


「……やったか?」

「な、訳ねえだろぉおおおおおおおおおおお!」


 藤平が煙の中から俺目掛けて突撃してきた。


「ああ、そうだろうな。見えていた」


 俺は相手の魔物とかの名前がわかる。

 もちろん、それは生死も含めてな。

 煙の中でお前がまだ生きているのがわかっていた。

 だから意表を突こうとするお前の裏を突かせてもらったんだよ。


「バウ!」


 藤平の軌道に合わせ、ブルが飛びだし藤平に向かってヘルファイアを振り被った。

 ドゴォっと物凄い打撃音が響き渡る。

 正直、殺す気で放たないとこんな音にはならなかっただろう。

 ベキッとヘルファイアが折れ曲がってしまった。

 それほどまでにブルが力を込めた一撃だ。

 下手な魔導兵や竜騎兵でもこれを受けたらひとたまりも無い。


「ガハ!」


 ドガンって音を立てて、藤平は地面にたたきつけられた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ほんと、ウザいな、コイツ。
[一言] 後方腕組みおじさんポジの神っぽいヤツ日和見主義なだけで悪い奴ってわけでもないのか
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