八十五話
魔獣兵に乗り込み移動して数日……藤平の占拠している村が見えてきた。
今回はライラ教官にも魔導兵が支給されている。国も相応に事態を重く見ているって事なのかな?
俺達の乗っている魔獣兵よりも大型で、フィリンが目を輝かせていたっけ。
そこそこ良い機体らしい。
村は周囲を木製の塀で囲み、要塞化が進みつつあるように見える。
ただ、まだ完全な要塞化が済んでおらず、一部ががらんどうとしていて、そこに魔導兵がいて村の男連中と一緒に作業をしている様だ。
見た所……村の男連中の表情は暗い。
嫌々やらされていると言った状況なのは一目でわかる。
後、村の周囲にあちこち抗争の爪跡らしき残骸が散らばっている。
完全にやらかしているな……という印象しかない。
ズシンズシンと近づきつつ、フィリン、ブルを魔獣兵から降ろす。
まずは俺が様子見と言うか藤平と話をする手はずだからだ。
俺の接近に気付いたのか……ラルオンの魔導兵がこっちに向かって近づいてくる。
「なんだ? この村は今、立ち入り禁止だぞ。ここはレラリア国じゃねえんだ! 出て行け!」
何がレラリア国じゃねえんだ! だ、と悪態を吐きたくなる、藤平の声が響いた。
完全に黒だな。
落ち着け、俺……まずは話をしてからだ。
「藤平、これは何の真似だ?」
「あ? その機体に乗ってんのは兎束か? またお前か。異世界地雷十カ条、いつまでも報いを受けないうざい奴! 何回出て来るんだよ、おめぇはよ! いい加減ワンパターンで飽きたっつーの!」
「それはこっちのセリフだ」
お前の場合、毎回毎回あの手この手で登場した挙句、叫んで去っていくけどな。
などと考えていると、操縦コアの画面に画面通信の文字が浮かび上がって藤平が映し出された。
相変わらず自信に満ちた表情をしてんな。
ただ……首と腕回りに微妙に光る刺青みたいな物が走って見える様な気がする。
なんだろう。あんまり良い様に見えないな。
「は! 見かけばかりのちっせー機体に乗ってんだな!」
俺だと気づくなり罵倒から入るのか……相変わらずな奴だ。
敵機から操縦ログを受信……データ反映中……。
って文字が隅に浮かんでいる。
どうなっているんだ?
何故態々こちらに自分の操縦ログを送ってくる?
「俺の事はどうでもいい。藤平、お前……自分が何をしてるのかわかっているのか?」
「はぁ? 何してるって俺の国を建国したんだよ! そうすりゃダンジョンの報酬も国に盗られる事もねえからな!」
「名案でしょ! ヒデキの偉業を不当に国が認めないのだから、私達が国を作ればダンジョンで得られる資源は私達の物になるのよ!」
魔導兵の後方からこの前のヒステリーが偉そうにぶっ放した。
その後ろには……ローブを羽織った正体不明の仲間らしき奴もいる。
ぞろぞろ犯罪者が徒党を組んでやがるな。
盗られるって……どうしてコイツ等は身勝手な事ばかりぶっ放すんだろうか。
「そんな事実はない。貴様ら! 直ちに武装を解除し、投降しろ!」
ライラ教官が俺の後方で武装である剣を藤平達に向けて宣言する。
「は! なんで投降なんてしなきゃいけねえんだ! バカじゃねえのか!」
「そうよそうよ!」
ここは一応、藤平と話をした方が良いな。
本当にラルオンの殺害をしたのかの確認しなくちゃいけない。
「藤平、お前はラルオンとそのパーティーメンバーを殺害して、冒険者カードを不正利用しているという嫌疑が掛けられている。それは事実なのか?」
俺の問いに藤平は舐め切りつつ恍惚とした表情で答える。
「ああ、ぶっ殺してやったぜ! 俺とニーアの稼ぎの上前を撥ねつつ偉そうに何でもかんでも上から物を教えようってしてくるウゼー奴だったからよ! ハハッ! 俺がほんのちょっと本気を見せてやったらあっさりと死にやがったぜ!」
完全に黒かよ……どうしようもないな。
前々からおかしいと思っていたが異世界に来て藤平の常識というか、良心のストッパーはぶっ壊れているぞ。
「文句があるなら俺を倒してから言うんだな! ダンジョンで鍛えた俺は怠けているお前よりも強くなっちまったんだぜ!」
ああ、つまり藤平はあれから沢山魔物を倒してLvを上げましたって言いたいのね。
俺が言ったLvよりは上だって事なんだろう。
俺はあまりダンジョンに潜らずに兵士業をしていたから藤平の予想通りにあんまりLvは上がっていないが、訓練は毎度してるぞ。
最近ではライラ教官の荒行に加えてバルトの鬼畜シミュレーションをこなしてんだ。
シミュレーション内のライラ教官も鬼強い。
絶対本物よりも強く設定されている。
「……貴様の言い分は聞いた。ではレラリア国の騎士として犯罪者には報いを受けさせねばならんな」
ライラ教官が一歩踏み出そうとしたので俺が腕を伸ばして遮る。
「トツカ伍長?」
「ライラ教官、藤平の相手は俺だけでさせてください。同郷の者として……せめてもの責任を取りたいのです」
ここでライラ教官が藤平を処分したら異世界の戦士である皆の経歴に傷や迷惑が多大に掛る。
ましてや野に放たれた異世界の戦士は危険だと言う印象を周囲に与えかねない。
なら、その責任を同じ異世界の戦士である俺が取って藤平を捕縛すれば帳消しに……したい。
「……わかった。だが、何かあれば間に入るぞ」
「ええ、フィリンとブルも、俺と藤平の間に余計な事をする奴が出てこない限りは何もしないでほしい」
「無茶は絶対にしないでくださいね」
「ブー」
ブルが俺の意図を察して村の方に意識を向け、そっと引き下がって回り込みを始める。
そうだ。藤平は押された途端、妙な真似をしかねないからひっそりと動いて欲しい。
「じゃあ藤平、俺がお前と一騎打ちだ。他の奴らは余計な真似は無しの決闘でけりを付けよう。お前が勝ったら俺達はこの件から手を引いてやるよ」
「は! いいぜ! お前なんて俺がぶっ殺してやる! やっといつまでも報いを受けないうざい奴に引導を渡せるぜ!」
本当、相手を殺すとか平然と言えるな。
俺は出来れば藤平を捕縛してしかるべき罰を与えて終わらせたい。
甘いと思うけれど、出来ればの願望だ。
ともかく、藤平は応じたのだから余計な真似はまず出来ないだろう。
「じゃあ……勝負……」
魔獣兵を操り、武器を取り出して構える。
俺の得意な戦いは投擲と狙撃だけど、ライラ教官の熱心な訓練のお陰でレラリア流剣術って言う技能も修得済みだ。
スキルポイントを節約出来て良いね。
とにかく、剣術の腕前もそこそこ上がっているので多少の自信も付いた。
「開始だ!」
「パイロットの腕は俺の方が上だぜ! 死ね! 雑魚兵士!」
藤平がそう叫びながら俺の操縦する魔獣兵に向かってラルオンが所有していた魔導兵で駆けてくる。
武装は大型のシミターみたいな形状をした巨大剣だ。
データ反映完了。行動予測開始します。
ボヤァっと藤平の操縦する魔導兵が別画面でどう動くか表示される。
これはバルトの行う相手の行動予測だ。
相手の動きを解析しきったバルトがたまに行う数秒先の相手の行動だな。
で、バルトが冗談で前に作った擬似ラルオン機搭乗藤平と同じ感じで、藤平が一直線にこっちに駆けて来ている。
俺は訓練でやった通りに剣を後ろ手に引いて、藤平の跳躍切りを躱し、剣で突く。
「なに!? だが――」
ギリギリで避けられると藤平は思っていなかったのか驚きの声を上げつつ、機体の噴射剤を出して急旋回を行う。
その動作も予測済みだ。
回り込む藤平の機体の足に向かって尻尾で引っ掛けを行い。転倒を誘う。
「くっそ! そんな攻撃、受ける訳ねえだろ!」
転ぶ直前、藤平は俺に向かってラルオン機の後ろに搭載されている大砲を放って衝撃で距離を取ろうとしつつ攻撃してくる。
のを……盾で上に弾いた。
「ざけんじゃねえ!」
で、転倒した藤平がその体勢で剣を俺に向かって投げつけて来るので持っていた剣から手を放し、身体を逸らしながら投擲された剣を躱して柄を掴んで構える。
うん。バルトが構築した藤平より二ランクぐらい運転が荒くて下手だ。
未来予測も正確で藤平の動きが手に取る様にわかる。





