八十四話
いつかはそうなるんじゃないかと思っていたが、とうとう藤平が賞金首になった。
俺に指名の依頼まである訳だが、ご丁寧に受注する場合はライラ教官を含めたパーティーでの参加の強制だ。
「まさかこの様な状況になるとはな……いや、ありえた事だった、と今にしてなら思えるか。ラルオンにも気を付ける様に言っておいたのだが……」
俺はギルドの支部長室に呼ばれて、ライラ教官から直々にそう告げられた。
「……確かに、可能性としてはありましたが……」
藤平の罪状はラルオンとその仲間の殺害、そして冒険者カードの不正使用、力に寄る恫喝、元セナイール領とアーレルア領の間にある村の不法占拠だそうだ。
なんでもこの村近隣で出没した賞金首を討伐後、誰が一番強いのかを主張し、村を力で支配しているらしい。
で、藤平曰く、この村を発展させて国にするつもりなんだそうだ。
しかし、色々と強引に力で解決、金が足りないので冒険者ギルドで依頼を不正に受けて資金運用に充てようとしたとか、色々と杜撰な感じで行われているそうだ。
「ラルオンが殺されたというのは本当なんですか?」
「死体に関しては見つかっていない。だが、フジダイラが酒場で誇らしげに自慢していたとの証言、ラルオンやその仲間のカードを無断使用し続けている点からそう判断せざるを得なくなった。何より、奴はラルオンの魔導兵を自身の所有物の様に乗り回している。証拠も多数見つかっている」
うわぁ……完全に黒って感じ?
というかラルオンって殺しても死なない様なタイプじゃないか?
色々と悪運高そうだし、腕前は凄腕らしいのに。
あんなでもラルオンの冒険者としてのランクってレラリア国では上から数えた方が早い凄腕冒険者なんだ。
白兵戦の強さもライラ教官に比べたら少し下程度で、Lvも相当高い。
「更にフジダイラとアーレルアの者を除いても、他の仲間がいたはずだが、ピタリと消息がつかめていない」
ああ、ラルオンだけで藤平達の相手をしていた訳じゃないのか。
俺の方とは色々と違いがあるなぁ。
……まあ、藤平に冒険者一人で相手をするのは疲れるか。
で、その仲間達も行方不明……。
はぁ……。
「正直に言っていいか?」
「何でしょうか?」
「これも我が国で暗躍している例の連中の差し金ではないかと私は考えている」
「可能性は高いですね」
藤平は良い様に利用して踊らされているとは思う。
だが、藤平は腐っても異世界の戦士の資質を持った存在。
そんな奴を犯罪者にして何を企んでいるんだ?
「……奴にもお前やヒノが遭遇した事件の話は行っているはずなのだ。にも関わらず……」
ライラ教官が嘆くように言葉を零す。
ああ……藤平にも国が不穏な動きをしているから、保護しているって話はしているのか。
にも関わらず保護してくれている冒険者を殺して好き勝手にって……限度を超えている。
異世界だからって何をしても良い。気に食わない奴は殺して良いって発想がおぞましい。
「でだ……この依頼はトツカ、差出人不明の上、国直々に指名で発行されている。どうする?」
「どう考えても罠だと思いますが……」
「断った場合、次はお前と同郷のヒノに行くと段階分けされている」
「飛野が断ったら?」
「……専用の特殊編成された部隊がフジダイラの討伐を行う、と伝達が来ている」
つまり異世界の戦士が討伐に向かうと。
おそらくは……と、ライラ教官は暗に俺と同郷の連中が招集されて藤平を殺すようにと命じられるだろうと伝えてくる。
「どう考えても罠であるのは間違いない。断った場合の責任は私と姫が取る……断ってもいい様な許可まで記されている。おそらく、お前が異世界の戦士の資質を持っているから、断る余裕を与えてあるのだろう」
本当、ライラ教官達は慈悲深いね。
良い様に踊らされているのは藤平と見て良いだろう。
お前がもう少し理性ある行動をしてくれれば、こんな事態にはならずに済んだだろうに。
「この情報自体がガセで、俺と藤平を争わせたいという可能性は?」
「それも加味して、フジダイラにお前が話に行く……と言う手もある。手紙や魔導兵による通信でも良いだろう」
藤平相手に手紙でのやり取りか……まともに返事しそうにないんだよな。
直接聞くのが良さそうなのは事実か。
聞いてくれればだけどさ。
断っても良い、けどそうなったら飛野に命令が行く、飛野が断れば今度は他のクラスメイトに話が行く。
「後、これは私が個人的に気になっている点だが……何故貴様が最初に指名されているのか、だ」
まあ確かに異世界の戦士なら誰でもいい訳だしな。
それこそヒノでもいいし、別の誰かでもいい。
多分、俺と藤平の仲が悪い事を知っているからだろう。
「もちろん国……姫の権力で止める事も可能だ。フジダイラも別の者に任せる事も出来る」
……はぁ。
本当、なんで俺が藤平専属のクラスメイトの役目をしているのかね。
転移初日の事が思い出されるよ。
ラルオン程の相手を殺せたのは、どう考えても不意打ちからのナンバースキルによるものだろう。
そうなると普通に倒すのは難しいはずだ。
一度罠に掛けられて捕まっている訳だから、警戒心も高い。
正面切ってやるしかないか。
「承知しました。この依頼、お受けします。ライラ教官はブルとフィリンに被害が及ばない様に守って頂いてもよろしいでしょうか?」
「何を言う。上司である私が前に出なくては人の上に立つ資格等ありはせんぞ」
「そこは……藤平と同郷の者としての責任って事でお願いします」
「……わかった。出来る限り善処しよう。フィリンもお前が妙な事に巻き込まれているのを察して、何かあったら置いていかない様にと念を押されているし、ブルトクレスもお前を気に掛けているからな」
「内緒にしていましたが、フィリン達にはそろそろ話をしようと思っています」
「それが良い。同じ部隊であるし、もはや隠す必要も無いだろう。彼女の性格からして無いとは思うが、フィリンがそれで引いてくれるのなら……身勝手だが私も安心出来る」
「はい」
ライラ教官と話を通した所で、フィリンとブルが支部長室に招集される。バルトはブルの頭に乗って着いてきている。
であると同時に藤平に賞金が掛り、俺に指名依頼が来ている事を伝えた。
「そんな……いえ、同郷だからと理由はわかるのですが、なんでユキカズさんが?」
「ブー!」
「今まで内緒にしていたのだけど……俺はさ……国が話題にしていた特殊部隊って話で出てくる異世界の戦士なんだよ」
「……やっぱりそうだったんですか」
「ブー」
ああ、フィリンもブルもなんとなく察してくれては居たんだね。
「正確には……異世界の戦士を辞退して、兵役に就いた。が、正しいんだけどね」
「激戦地へ行く事になりますものね……気持ちは察する事が出来ます」
一応、世間での評価として異世界の戦士は現在……魔物の地となってしまった元人の国をかなり取り戻せていると言う話だ。
封印が解き放たれた化け物を倒し、人類の生活圏をかなり取り戻したと言う華々しい話を聞く。
俺がその戦士に属せたのに断ったと言うのは理解されないんじゃないかと思ったのに……。
俺は……戦うだけじゃ無く、兵士として……いずれは冒険者として生きたかったんだ。
「ダンジョンに置き去りにされた事件に巻き込んでしまったのは、俺が原因である可能性は非常に高い。今まで俺は二人の善意に甘え過ぎていた……軽蔑されるだけの事を黙っていた。申し訳ない」
「……いいえ、あの事件はとても大変でしたが、そのお陰で私はユキカズさんやブルさんという掛け替えのないお二人とより親しくなれました。夢だった整備兵への道も開けました。ですから謝らないでください」
「ブー!」
フィリンに合わせてブルも拳を握って鳴く。
なんとなく謝るなって言ってるのがわかる。
「それで……俺と同じく異世界の戦士としての役目を拒否して好きに行動している藤平に賞金が掛った。同郷の者として、裏に何か暗躍する者がいるのがわかっていても責任を取る事になったんだ。俺が拒否をしたら飛野や他の戦士達の手を煩わせかねない」
元々ラルオンに藤平の仲介を行ったのは俺だ。
最初から話が通じないから何かしら理由を付けて再逮捕して牢屋にぶち込んでおけなんて事も言えたはずなんだ。
でも、藤平も冒険者として頑張って覚えればどうにかなる可能性を賭けたかったのかもしれない。
俺への数々の暴挙を目を瞑ったとしてさ……でも、上手く行かなかった。
奴は踏み込んではいけない領分を侵した。日本と言う恵まれた国で育ったにも関わらず、殺人に手を染めてしまったのだ。
私欲を満たす為に。
……いや、話をしないと確信は持てないか。
「藤平が本当に悪事をしているのか、俺は問いに行きたい。そうするとフィリン達も巻き込みかねない。だからこの依頼は受けるけれど、フィリン達は安全な所にいてくれ」
「いえ……国の依頼であるならば、兵士である私達は行わねばいけない義務があります……私達はレラリア国の兵士なんです。やり遂げましょう」
「ブー!」
藤平が仮に黒だったとしても、出来る限り殺さずに生け捕りにして、しかるべき場所で罰を受けるようにさせたい。
……不安だな。
俺はライラ教官に視線で会話する。
何かあったらフィリンとブルをお願いします。
ライラ教官は無言で頷いた。
「では出撃だ。しっかりと装備を纏めるのだぞ!」
っと、俺達は賞金首になった藤平の捕縛を行う為に出発したのだった。





