八十二話
「ブルトクレス様は……元々の振る舞いから戦闘兵の資格を授かっていましたわね。後は警備兵長の資格も授与されるでしょう」
ああ、ブルは治安維持に関しては他の追随を許さないもんな。
よくピンチの弱者が居る状況に立ち会うし……そう言った星や運命でもあるのだろうか?
「それでですね。トツカ様は伍長に格上げになりますわ」
「は? 二階級特進?」
上級兵の二つ上が伍長だ。
ポジションで言う所のパーティーリーダーとして部下を持つ役職だ。
「ええ、現在、トツカ様はライラの右腕として様々な雑務をこなしているとの話であり、同時に個人で竜騎兵を所有している。ここまでの力を持つ者を上級兵や兵長で居させる事は出来ないのです」
あー……つまりバルトの所有者にしてライディング持ちだから自然と階級を上げざるを得ないと。
もちろん、今までの勤務状況なんかも加味しているってセレナ様は補足している。
「これまでの仲の良い者たちと行く冒険で代表を流れで行うのではなく、独自の判断でギルドから兵士を招集して任務や依頼に当たる事が出来る様になる。現在、貴様は冒険者ではなく兵士だから、そう言った事も可能になるのだ」
うわぁ……権力と言うか責任重大な役職を授けられそう。
「まあ、そう言う訳で私の了承を得ずとも勝手に任務をある程度こなす許可が下りたと言う訳だ」
「そうは言いましても……」
「わかっている。基本的にはいつもと変わらん。ただ、私が居ない場合でも好きに動く許可が与えられたにすぎん。わかったな?」
ここは敬礼気味に言った方が良いかな?
「ハ! 身に余る光栄です。期待にこたえられるように努めます!」
「うむ! それで良い!」
ライラ教官が褒めてくれた。
着実に出世しているけれど、大丈夫なのかなー。
「異世界の戦士であるトツカ様だからこそ、でもありますわね」
「ライディングを貴族や王族の地位を持つ者から授かる事無く修得出来るという点で、厄介な存在であるのは事実……貴様がその力を私欲を満たす為だけに使わない事を祈るばかりだ。貴様は竜騎兵の資格を所持したのだ」
竜騎兵を操縦する資格って、取得が面倒なのに、俺はアッサリと覚えちゃったからなぁ。
力を持つ者には相応の地位が必要なんだろう。
……飛野や藤平もライディングは所持しているし、それだけで普通の冒険者よりも上なのは……事実か。
「今後とも、兵役を……頑張ってくださいね」
「はい」
って感じに割とあっけなくセレナ様から階級特進を言い渡され、俺は伍長、フィリンとブルは兵長に位が上がってしまったのだった。
それからライラ教官の仕事の手伝いをしながらレラリア国の各地を回りつつ仕事をして行った。
で、もう俺が異世界に召喚されて……七ヶ月半くらい経過した頃だろうか。
「この無礼者! 私を誰だと心得ていますの!」
とある町のギルドで受付業務をしていると、同様に受付業務をしている者に怒鳴りつける声がギルド内で響き渡った。
「私はニーアバッハ=アーレルアその人なのよ! あなたの様な下賤な者とは立場が違うの! だからしっかりと確認し、報酬を支払いなさい!」
なんだこの大声は……一体どうしたって言うんだ?
「ですから……報酬の支払いは依頼を受けた代表の方を連れて来て頂かないと支払いが出来ないのですって」
「何度も言わせるんじゃありませんの! その代表から委託されて私が来ているのよ! 良いから上司を出しなさい!」
怪訝な空気に眉を寄せて近づくと、受付の人が俺に助けを求める視線を向けてくる。
「ギャウ」
バルトが俺の肩をペシペシ叩く。
ああ……一応、今回の担当内だと階級が上なのは俺か……。
何だかんだ出世した所為でこう言った奴の応対をする事も増えたんだよなぁ。
なんて感じでため息をつきながら俺は受付を代わる。
一応、事情は聞いた。
どうやら依頼を達成したとの報告があって応対をする事になったのだけど、冒険者カードの所持者ではなく、その部下が報告と報酬の受け取りに来たんだそうだ。
ただ、委託されているのだから問題ないとの一点張りと……。
「担当を変わらせて頂きました。兎束雪一と申します。この度の依頼に関してなのですが、代表である冒険者でないと受付をする事が出来ない決まりになっておりまして」
なんかクレーマーっぽい相手は俺と同じくらいっぽい年齢の女の子だな。
滅茶苦茶気が強そうと言うか、どっかの貴族か何かだとわかる出で立ちをしている。
長髪の髪に艶があるし、肌もきれいだ……一般人ではないだろう。
冒険者の下で働いている貴族出身の準冒険者って所かな?
「あなたもなの? どこの馬の骨の代表なのか知らないけれど、身の程をわきまえなさい! アーレルアの家を知らないとでも言う気?」
良いから報酬を寄越せの一点張りだ。
どこのどいつだ。こんなギルドで騒動を起こす様な部下を雇用している奴は……と出された資料を確認。
ゲ……ラルオンだ。
こんなのを面倒見てるのか。もっと教育しろよ。
「決まりは決まりです」
「融通が聞かない無能な兵士ね! その顔覚えたから覚えてなさいよ! その様な対応をしたあなたは、私の一言で速攻で解雇は約束された様なものよ!」
やれるものならやってみろ! って言いたくなって来るなぁ。
一応、俺は後ろ盾にライラ教官とセレナ様が居るから下手な貴族じゃ解雇なんて出来ない。
「ご自由に。ともかく……代表の冒険者をお連れになってきてください」
「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
ああもう、うるさいな!
決まりを守れない奴が金を貰えると思うなっての!
こんなヒステリーも冒険者になりたがるのか。
「なんだなんだ! どうしたんだってんだよ!」
ここで聞きたくない声が聞こえてきた。
そうだよな。
ラルオンの部下が報酬を受け取りに来たならコイツも居ても不思議じゃないよな。
……? なんか小型の手足の生えた石造りの球体を連れている。
えっと、確かゴーレムだよな。アレ。
「あ! ヒデキー!」
クレーマー女がズカズカとやってきた藤平の元に駆け寄り、腕をからませて俺を睨む。
「コイツがね! 冒険者カードを出しているのに報酬を出さないって言ってるのよ! 信じられないわよねー!」
「なにー? って、てめえは兎束じゃねえか!」
またも舐め切った目で藤平は俺を見ながらカウンターに肘を乗せて挑発してくる。
「なんだ? 今度はギルドの受付ってか? 三下業はつれえなー。こんなしょうもない仕事しか出来ねーようになったか」
どうやら藤平の中で兵役に就いている俺は出世コースから外れて閑職のギルド受付の業務をさせられているって事になったっぽい。
ちげえよ……これも兵士としての仕事なんだよ。
一応、出世した所為で現場責任者をやらされているんだが。
なんて言っても藤平の中で俺のポジションは変わらないんだろうなぁ。
ただ、藤平、お前ってさ……クラスの根暗なポジションだったよな? なんて言うか、高圧的な脅し屋ポジションに変わってるぞ、キャラが。
……この二種の本質は実は同じって事なのかね。
「これも兵士の仕事で、本日、俺はここの代表をしてるの。で、藤平、これはどういう事なんだ?」
俺は先ほどのやり取りをしっかりと藤平に突きつける。
「冒険者にとって依頼ってのは大事な仕事で取引だ。代表者である冒険者が報告に来ないで他人に任せるなんて言語道断なんだが」
「うるせーな! 俺達がラルオンに任されたからこうして仕事を報告してるんだよ!」
ラルオンから?
う~ん……あのラルオンが藤平にそんな事を任せるとは思えないんだけどな……。





