八話
で、次は籠と作業用の鎌を持たされて訓練校から出される。
他にもいろんな仕事をさせられるみたいだけど、俺とブルは一緒にどうやら雑草取りの仕事みたいだ。
「さて、薬草取りの仕事だ。お前等は訓練校近くのサラソン草原でアエローとリアンの採取をしてもらう。この薬草だ」
……訂正、薬草取りだった。
見本を見せられたし、本でも確認したけど覚えきれないな。
と言うか草原にあるのはどれも同じような草に見えてしまうぞ。
「それと雑魚魔物に気を付けろよ。この辺りはスリープラビットとエレキジェリーが出るからな」
魔物も出るのかよ。
鎌で戦えって事?
「では解散!」
訓練兵達の目が死んでるぞ。
元気な奴はサッサかと歩いていくけどさ。
「ブー」
「ああ、うん。薬草の見分け付かないんだけど、どうすればいい?」
ブルにそう言うと任せろとばかりに前を行ってしまう。
……トリュフって豚に取らせるんだっけ?
そんな失礼な事を思い浮かべつつ俺達は地平線が見える草原を草刈りしながら歩いていった。
で、ブルが薬草を見つけて採取していく。
アエローは葉っぱだけで良くてリアンは茎が必要らしい。
それは覚えた。
で、スリープラビットとエレキジェリーが時々出てくる。
初めて見た時は魔物の上に名前が出て驚いた。
「ブー!」
轟音とばかりに音を立てて、ブルがこの二種の魔物を見つけると同時に殴りかかる。
武器を使うまでもないといった様子だ。
ま、時々俺目掛けて魔物が来るので鎌で殴りつける。
「――!?」
うえ……嫌な手ごたえ。
まだ戦い方をよくわからないんだよ。
イテッ! 噛みつかれた!
めっちゃ痛い!
痛みに悶えているとブルが俺と戦っているスリープラビットの頭を握って潰して放り投げる。
だらんとしたウサギの死に顔はトラウマになりそうだ。
それから籠に入れたアエローとリアンを手で練って俺の傷口に当てる。
ひんやりした感覚と共に痛みが引いていった。
で、長めの草で縛って応急手当てをしてくれた。
おお……助かる。
「ありがとう」
「ブー」
そう鳴いたかと思うとまた採取作業にブルは戻っていった。
うう……完全に足手まといだ。
で、薬草採取が終わったら今度は調理場で芋っぽい食材の皮むきをさせられる。
ブルは井戸から水を汲んで施設の風呂に水を入れる仕事をさせられた。
日が暮れるまでこんな感じで仕事をさせられた。
「うえ……」
自由時間になってベッドにもたれ掛かる。
疲れたっちゃ! じゃなくて……。
「訓練兵共! 風呂だぞ! 手短にな!」
サッサかと訓練兵達が洗面用具を片手に風呂の準備を始める。
どうやら何でも手短にするのが兵士らしい。
俺も入ろうかと思ったけどブルはずっと腕立てと屈伸をしてた。
「ブルは入らないの?」
「ブ?」
俺が声を掛ける。
すると周りの連中の顔が曇ったような気がした。
「おいおい、冗談だろ? オークと同じ風呂とか」
「はぁ……」
まあパッと見、豚だけど……ここにいるって事は一応人のカテゴリーなんじゃないの?
コボルトとか狼男とかも当然のように風呂に行くわけだし。
「ともかく来るな」
なんて冷たい言葉を投げつけられつつ同じ訓練兵達は風呂に行ってしまった。
あれか、種族差別か?
「うーん……じゃあ、とりあえずお湯を分けてもらって井戸場で行水で良いか」
「ブー」
なんかブルが俺に言ってるけど言葉がわからん。
付いてくるし、嫌がっているわけじゃないと思いたい。
異世界言語理解のLvをもう少し上げなきゃわからないのかもしれない。
桶に若干冷めた風呂場のお湯を貰って井戸の近くで手拭い片手にブルと行水した。
ここ二、三日、汗を掻きまくっていたから拭うだけでもスッキリしてくるなぁ。
ブルの方は……タワシかな? 妙に硬い洗面具で体を擦っている。
「手伝おうか? 昼間助けてくれたし」
「ブ?」
ブルからタワシを借りて背中を擦る。
このマスコットみたいな豚っぽい何かに関しちゃ色々と疑問に思っていたわけだけど、微妙に小汚いんだよな。
なので、なんとか綺麗にならないかと思って擦って落とした。
「ブー」
気持ち良さそうな声を上げて震えている。
嫌ではなさそうなのでなによりだ。
最後は温くなったお湯を掛けて終了!
手拭いで水気を拭き取って部屋に戻る。
今日の終わりにターミナルでステータスを確認。
兎束 雪一 Lv3 侵食率 0.96%
所持スキル 異世界言語理解1 異世界文字理解1 No:Lチャージ スタミナ回復力向上4
スキルポイント11
……?
Lvが上がってるのはブルと一緒に魔物を倒したからだろうけどスキルポイントが思ったよりも増えてる。
Lv1に付き一つじゃないのか。
ステータスも若干上がっている。
Lvとは関係無い所のはず。
体力が少しばかり付いたって事なのかも知れない。
と言うかゲームっぽ過ぎて安易に技能が覚えられるけど……なんかしっくりこないな。
うーん……とは言え利用しない手は無い。
HP回復力向上も少し取っておこう。
これは怪我の具合で前後するから様子を見て1で、残りは何か攻撃スキルっぽいのを習得すべきだな。
支給される武器とかは返品しなきゃいけないし、安易に剣とか取ったらそれ一本で行かなきゃ勿体無い。
最初は可能性を定めず汎用的に使える物が好ましい。
となると……投擲系かなー。
落ちてる石でも投げれば武器になるし、どんな武器でも投げる事で真価を発揮できるから損は無い。
というわけで投擲修練を2ほど取った。
それ以上は……習得条件を満たせない。
お? 修練に技が内包されてるのか。
ぼんやりとどんな技なのか浮かんでくる気がしてきた。
ただ、しっかりと技を使いこなすにはまたスキルを振る感じみたいだ。
練習するって習得条件もあるみたいだし。
異世界万歳。
今度は出遅れる事が無いようにしよう。
残りは……確か昼間の座学でイーグルアイとかの技能系で推奨されていたキャットアイを習得しておこうかな。
理由として視力が良くなり、夜間でも少し見えるようになるらしい。
まあ、視力や命中はイーグルアイとかの方が良いし、オウルアイほど夜目は利かない器用貧乏だけど、両方の底上げができるんだとか。
最終的には全部取って上位のスキルにする事になるから、取得した瞬間から効果を実感できるキャットアイが良いそうだ。
後は……授業や本に無い、腕力アップとか取っても良いけど、スタミナ回復力向上みたいに損だとか言われたら困るので保留しよう。
書物を読んで調べたんだけど、必要Lvとか習得までの訓練期間とかの経験談ばかりで明確に決まったものではないっぽい。
兎束 雪一 Lv3 侵食率 0.96%
所持スキル 異世界言語理解1 異世界文字理解1 No:Lチャージ HP回復力向上1 スタミナ回復力向上4 投擲修練2 キャットアイ2 採取補正1
スキルポイント6
その後はやはり就寝したんだが短時間で起きてしまった。
スキルの所為でショートスリーパー化してしまったぞ。
とりあえず少しは慣れるようにキャットアイを習得した効果を実践。
うーん……昨日よりは暗い部屋の中が見えるような気がする。
本を読むには暗いなぁ。
目に悪いからさすがに明るい所で読書はしようと思うけど。
この晩も似た感じに起き上がって校庭を走った後、読書をした。
少しは足が速くなったかな? 二日でなるわけないか。