七十九話
「さて……と」
セレナ様に頼まれたお陰で俺達は自由時間と言うか人探しの時間を貰える事になった。
とりあえず街を見回りしながら件の狼男探しをする事になる。
ライラ教官はセレナ様の護衛って事で、俺たちとは別行動になった。
「その狼男さんを探すにしても……現場に遭遇しないと始まらないですよね」
「そうなんだよなー……」
誰かが困っている所に遭遇しなければ始まらない。
「そもそもブルとも合流して手分けして探した方が良いだろうしなぁ」
まずはブルに会って、こういう依頼を俺達は受けて人探しをする事になったって話をしなくてはいけない。
ついでに街の見回りだ。
「無難な所で囮捜査とかしたら良いのかもしれないね」
「例えば何をするんですか?」
「そうだなぁ……」
俺はフィリンを見る。
隣国の末のお姫様なんだっけ? 普段から一緒に働いているし、竜騎兵や魔導兵なんかの話を聞いている関係から、セレナ様とは感覚が違うけれど、確かに美少女ではあるんだよなぁ。
兵士の服で普段はあんまり意識してないけど。
「ユキカズさん? なんで私を見ているんですか?」
「いや、フィリンが私服で裏路地とか歩いていたら不埒な輩が群がってきそうだなと思ってさ。フィリンって可愛いでしょ?」
「言いたい事はわかりましたけど……私が襲われても良いって思ってるんですか? それと……その……」
なんかフィリンの顔が赤くなっている。
ああ、恥ずかしくなってきちゃったってことかな?
「ギャーウ」
なんかバルトがバカにした様な声を出している。
なんだ? フィリンが可愛くないとでも言う気か?
「フィリンもLv高くて暴漢なんて返り討ちに出来るくらいは強いし、囮捜査をしても大丈夫だと思うんだけどな……」
魔法はかなりの腕前になってきているし、唱えられる魔法も増えて来ている。
常に勉強をしているフィリンは今はライラ教官が期待している魔法兵だ。
俺なんて未だに使える魔法の種類は少ない。
どっちかと言うと最近はお菓子の技術か、魔獣兵に乗って遊んでいるかの二択になってきている。
魔獣兵の中で寝るとより一層疲れが取れるからなぁ……遊び続けて寝るのを忘れていた時もあるくらいだし。
何だかんだ異世界での兵士業はストレスが掛る時があって、遊びたいって時もある。
魔獣兵はそう言った意味で、個人で遊べる体感型ゲームって感じで良いんだ。
まあ、バルトで遊んでいないと、ギルドの兵士仲間に酒に誘われるってのも問題かな。
友好の為に誘われるのはわかるんだけど、酒を飲むのに魅力を感じない。
飲まずに1時間くらいでサッと切り上げる時に訓練って言うのが良い言い訳なんだ。
ライラ教官もバルトで遊ぶのには怒らない所か根を詰め過ぎるなって心配してくれるし、都合が非常に良い。
バルトも喜ぶしね。ちなみにフィリンが定期的に何か水晶の欠片みたいな物をバルトから受け取ってラスティに送ってる。
たぶん、俺の操縦データとかだと思う。
「フィリンがライラ教官の代わりにセレナ様の相手をして、ライラ教官が囮捜査をしても、不良は絡んで来ないと思うんだよね」
「それ……ライラさんに言ったら怒られますよ?」
「まあ、分からなくもない。さすがに本人の目の前で言ったりするような事はしないさ」
あれでも乙女な所がきっとあるだろう。
ギャップは大事だ。ライラ教官は化粧もしっかりしていて自分を律している人だしね。
「ともかく、フィリンも美少女で強いんだし囮捜査に適していると思うんだ」
「わ、わかりました……じゃあ着替えましょうか」
って所で裏路地から喧騒の音が聞こえてきた。
「んだてめぇ! やるのか!? ああ!? 俺はなぁ! Lv25なんだぞ! そんなハリボテの筋肉で勝てっと思ってんのか!」
藤平みたいな台詞だけど声が違うな。
どこでもこの手の連中って潜んでいるなぁ。
ライラ教官の話だと冒険者に憧れて兵士になろうとしたけど挫折した悪い奴がこう言った暗い場所に生息するんだとか。
「なんか喧嘩の匂いがするし、仲裁に行こうか」
兵士である俺達が行けばこの手の連中は即座に下手に出る場合がある。
どこの世の中も不良崩れって連中はいるって事だろう。
賊と不良の間みたいなポジションだ。
本格的に暴力に走る奴ってのもいるけどさ。国家権力が怖くないのかね。
Lv25……まあ、そこそこLvが上がっているんじゃない?
訓練校にいた頃の訓練兵の平均より少し高いし。
兵士崩れかな?
「はい」
って感じで喧騒の場面に行こうとしたその時!
ドカ! バキって感じの音が聞こえてきた。
「うぐ!」
「ぐあ!?」
「な、なんだコイツ! グアッ!」
俺達が駆けつけるよりわずかに早く喧騒の音は静かになってしまった。
この感覚、覚えがあるぞ。
「ギャウ!」
バルトも覚えがあるのかスーッと飛んで行ってしまう。
喧騒の場面に辿りつくと、幼い兄妹っぽい子供と足元に転がっている野郎たちと言うシチュエーションこそ違えど似た様な状況だった。
「カッコいい……」
少年はなんか目をキラキラさせて救い主が向かった方角を見ているっぽい。
妹らしい子は飴玉を舐めて兄っぽい少年の手を握っている。
「お兄ちゃん……」
「俺……この飴玉、宝物にしたい」
「ギャウ! ギャウギャウ!」
バルトが先行して狼男の行方を追ってくれているのか高い所から俺を呼んでくれる。
「っと! フィリン、ここは任せた。俺は件の狼男に声を掛けてくるよ」
「はい!」
って訳で俺は急いでバルトの指差す方向に移動する。
最近やっている白兵戦のシミュレーションで培った移動方法、パルクールを見せてくれる!
って感じで裏路地内を走って行くと、確かに見つけた。おいおい……跳躍して建物の屋上によじ登るとかサルみたいな奴だな。
俺もLvのお陰で出来るけど、面倒だ。
で、ターゲットなんだが、後ろ姿でわかる銀色の毛並みの狼男。
確かに銀色で綺麗だな。
ただ……滅茶苦茶足が速い!
バルトの誘導が無かったら追い付けなかったのは間違いないぞ。
で……件の狼男が人目を気にするように立ち止まる。
やがて……ニュッと狼男の姿が縮んで行き、見慣れた姿に変わった!?
「!???」
いや、本気で首を傾げたくなる。
あの後ろ姿だけでわかる銀色の綺麗で屈強な狼男が見知った体型になって銀色の名残が殆ど無くなってしまったのだ。
で、その主は腰に巻いてあった上着……独特の形状をした上着に袖を通して何事も無く歩きだそうとしている。
「ブー」
うん。
その主とはブルトクレスである。
「ブルー」
「ブ!?」
俺が声を掛けるとブルがバッと振り返りこっちに近づいてくる。
「ギャーウ」
バルトが納得した様に何度も頷いている。
ああ、もしかして最初に俺たちが遭遇した時、ブルの匂いだったから首を傾げていたって事?
「ブ?」
こんな所でどうしたの? って様子でブルは身体を傾けて俺にボディランゲージで意思を伝えてくる。
性格イケメンが正体を隠した変身ヒーローになっちまったよ。
普段は皆に後ろ指を指されるオーク、だけどその正体は人助けをして無言でその場を去っていく変身HEROー! なんかありそうなお約束!
藤平じゃ絶対に理解できないヒーロー像だね!
これは指摘したらダメなパターンか?
悪魔とかオーク神とかと契約してブルは変身能力を授かっているとかなのかな?
バレたらカエルになるとかさ。
「ブル、これは聞いてもいい話なのかな? 聞いたらダメとか妙な制約があって破ったらブルが酷い目に遭うとかだったなら、これ以上聞かないから安心してくれ」
「ブー?」
ブルはよくわからないのか首を傾げた後、頷く。
どうやら聞いてもいいようだ。
「さっきどうやら人助けをしている銀色の狼男を見つけてな。俺は追っていたんだけどさ……」
「ブー……」
俺がブルの方に卒なく聞くとブルが若干眉を寄せる。
それからため息をしたかと思うとブルは上着を脱いで少し離れた所で踏ん張る。
すると僅かな魔力の流れの感覚と共にブワッとブルの造形が変わり、屈強な銀色の狼男姿に変わった。





