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七十七話


「ユキカズさん、中々操縦が上手になりましたね」

「バルトに色々と叩き込まれたからねー」

「ギャウ!」


 ちなみに魔獣兵は俺の言葉を発するだけでなく、バルトの鳴き声も発する事が出来る。

 俺とバルトで操縦しているんだから当然かな?


「飛野も操縦するかー?」

「いや、魔物が出て来て戦う際に攻撃でみんなを巻き込みそうで怖いから辞退する」


 あらら……確かにそれは少し怖いかもしれない。

 俺もするかもしれないって脳裏を過る時があるし。


「そう言えばオート操縦って言うかバルトがそのまま戦ってくれるってやり方もあるんだったっけ」

「ギャウ」


 俺が魔獣兵から降りると、バルトがそのまま操縦と言うか、身体を操作して動かし始める。

 おお……自分で動かさずに動いている光景を見ると、中々に迫力を感じる。


「竜騎兵や魔導兵の自動戦闘ではやれる限界がありますが、この辺りの魔物ならバルトに任せても良いでしょうね」

「ま、とにかく、これで新たな戦力が加入って感じで良いね」


 中々豪快で楽しいダンジョン探索だった。

 燃費があまり掛らないって事で魔石もある程度確保出来た。

 宝箱も多少見つけたけれど、鉄の剣とか弓、槍とかそこまで値が張らない代物をちょこちょこと見つけたに留まった感じだね。

 ネプチューンシリーズってのを見たかったけれど、しょうがない。

 尚、ダンジョン内は雨が降り続ける山みたいな場所だった。

 平和なダンジョン探索って感じで……俺達は帰還した。

 ちなみに魔獣兵なんだが、ラスティの研究所にある駐車場と言うか魔導兵や竜騎兵を収めている舎に停めた。


「ギャーウ」


 武器を降ろした魔獣兵がその場でうつぶせになって丸まる形で横になり、コアを露出させてバルトが出てきたと思ったら、コアが収納される。

 で、バルトがパタパタと飛んで来て俺の肩に乗った。

 魔獣兵の様子を確認する。

 パッと見だと眠っている様にしか見えない。


「休眠状態に入った様ですね。この状態ならエネルギーの消耗も無いですし、食事で補充した物を効率よくエネルギーに変換出来ます。バルトが乗り込むまでずっとこの状態でしょう」

「ギャウ」

「へー……」

「ブー」

「なんか不思議な感じだな」


 飛野の言葉に納得だ。

 生きているロボットって感じなのになぁ。


「後はラスティさんに任せて、私達は帰りましょうか」

「了解。明日から異動だしね。今日はゆっくり休もう」

「そうなったらしばらくお別れだな」

「ああ……そうだな」


 飛野とは今日までで、明日からは別か。







「数日だったけど中々楽しい時間だったよ。またどこかで会えたらこうして冒険しようぜ」

「ああ!」

「はい。ヒノさん。またどこかで」

「ブー!」


 フィリンとブルも大分飛野と打ち解けてくれて嬉しい。

 こうして俺達はソルインでの任務と竜騎兵改め、魔獣兵作りを終えて次の任務地へと向かう事になったのだった。

 が……。


「あの……ライラ教官。幾らなんでもこれはどうなんでしょうね」


 翌日、俺は魔獣兵を操縦してライラ教官の指示する次の目的地へ、皆を乗せてノシノシと歩いて向かって行く。


「うるさい。せっかくお前が乗り物を手に入れたんだ。利用しないでどうすると言うんだ」


 確かにそうなんでしょうけど……どんどん俺の立場が低くなっている様な気がする。


「ギャウー」


 バルトは俺が操縦する事でご機嫌で、フィリンやブルは数時間もすると馴れたのか魔獣兵の背に乗って各々本を読んだり懸垂をしたりし始めている。

 移動用の荷物は背負わせたバックパックに収めていて、まあ……旅をするって意味じゃ効率的なのは分かるけど……。

 なんだかな……って感じで俺はみんなを背に乗せて目的地へと移動して行ったのだった。

 幸いなのは移動がある程度自動操縦が出来て、その間に相変わらず模擬戦闘で遊んでいられる所かな。

 とにかく……こうして足代わりにも魔獣兵はなってくれるのだった。

 燃料が足りなくなったらどうするつもりなんだろうか? ライラ教官は……。

 とは思いつつ、道中で遭遇する魔物とかを餌にしたりして、旅は順調に進み、数日で次の勤務地へと移動、そこでもギルドの雑務やお菓子作りなんかをして行った。





 やがて……二週間半くらい過ぎた頃の事。


「俺への指名依頼?」


 ある日のとある街、ライラ教官がなんか微妙そうな顔をしながら俺に依頼を持ってきた。

 ギルドの受付をしていたフィリンもその場に居る感じだ。

 ブルは見回りの仕事で街を見て回っている。


「今度は何ですか? ホテルの一日ヘルパーですか? それとも厨房でお菓子作り、もしくはお菓子屋のお手伝いですか?」


 あの飛空挺の菓子職人、どれだけ顔が広いんだよ。何処でもアイツに教わったと見抜かれて戦力扱いだ。

 行く先々でそれぞれの得意なお菓子を教え込まれて、無駄にレパートリーが増えて来ているぞ。


「……改めて思うが、貴様は本当に冒険者でいさせるには惜しい人材とその界隈の奴らに思われているのだな。流れの敏腕ホテルマン、もしくは菓子職人か貴様は!」


 ライラ教官が激しく惨めになる様な事実を突きつけて来る。

 知らんわ! 俺もそこまで真面目に宿の仕事とかしてない。言われた通りに接客とか、パーティーでの手伝いとかしていただけだし。


「ユキカズさんは多芸ですものねー……」

「ギャウギャウ」

「バルトさんが目印になっちゃっているんですよ。小さい白いドラゴンを連れた敏腕ホテルマンで菓子職人って……」

「むしろ兵士が武骨な連中が多過ぎて戦力にならないのが理由なんじゃないですか?」

「痛い所を突くようになってきたな」

「そりゃあ、兵士になって随分と経ちますし、ライラ教官に揉まれていますからね」


 こう言った言い合いも出来るくらいにはライラ教官達との付き合いも長くなってきた。


「そうじゃない……まったく……フィリンも一緒に来てくれ。ブルトクレスがこの場に居ないがしょうがない。後で紹介して欲しい」


 と言う訳で俺達はライラ教官に連れられて依頼人の呼び出し……呼び出しじゃない。ライラ教官が直接俺達を案内して居やがる。

 なんとなく嫌な予感がしながら俺達はギルドの依頼人呼び出しの札を持ちながらギルドの来客室へと案内された。


「ここだ」


 コンコンと部屋をノックしてからライラ教官が室内に入り敬礼している。


「レラリア国所属近衛上級騎士、ライラ=エル=ローレシアとその配下……入室致しました」

「今はそんな堅苦しい礼義をしなくて良いわよ。私達はお忍びで来ているのですから……」


 って室内に入った所で俺達は、誰が来たのか分かった。

 フィリンの友人にしてレラリア国のお姫様が、朗らかに俺達に微笑んで手を振っていたのだ。


「トツカ様、フィリン。お久しぶりですね」

「お久しぶりです。セレナさ……セレナ」


 フィリンが様付けしようとしてやめた。セレナがちょっと悲しそうな顔をしかけたからなぁ。


「お久しぶりです。お忍びで来たのでしたっけ?」

「ええ、内緒で皆さんに会いに行くのも中々に楽しいですわね」

「ギャウ?」


 バルトが俺の肩からセレナに向かって鳴く。


「あらあら、報告は聞いているわ。可愛らしいドラゴンさんですね」


 お菓子を食べる? って感じでセレナ様は朗らかにバルトに近づいて手に持ったお菓子を口元に近づけさせる。


「ギャウ」


 ポリポリとバルトは差し出されたお菓子を食べる。

 その様子をセレナ様は楽しげに微笑んで見つめているようだった。

 完全に俺を視界から外してませんかね?

 やっぱり天然入っているなぁ、この人。

 悪い人じゃないとは思うんだけどね。


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