七十六話
「ブー!」
ブルもわかっているのかフィリンの背中を押して居る。
「じゃ、じゃあ……みんなで押しましょうよ」
「俺は部外者だから見てるよ。だって、君たちが作ったんだしね」
飛野は辞退か……。
ここでフィリンに強要しても、フィリンは遠慮して悪いと思ってしまうかもしれない。
「わかったよ。じゃみんなで、せーので押そうね」
「はい!」
「ブー!」
俺達三人はボタンに指を伸ばし、各々見合ってから。
「せーの!」
ポチっとボタンを押した。
するとゴボゴボと培養層の液体が抜けて行き、竜騎兵が完成する。
ドシンと地に足を降ろした竜騎兵がパチクリと瞬きをしてこちらを見ている。
「ギャウ!」
ま、バルトが操作しているんだから特に警戒とかする必要は無い。
親しげな感じでバルトも鳴いた後、自身の身体の様子を確認している様だ。
手を閉じたり広げたり、感覚を確かめている。
「ギャウウウウー!」
悪くないのか楽しげに鳴いている。
「最初の完成予想図とは少し違う感じになったわね。でもま! これで良いでしょ!」
「ええ! これぞ新たな竜騎兵の形……いえ、ラスティさんの仰る通り、魔獣兵です!」
ラスティとフィリンが熱く拳を握っている。
一応、竜騎兵っぽい名残はあるけど、違うって事なのかな?
確かに羽が随分とコンパクトだけど。
「さあクッキー! 早く乗りなさい! ああ、装備の方は私が用意しておいてあげたから受け取りなさい」
ガシャっと地面から大きな剣と盾が出てきた。
竜騎兵用の装備まで支給してくれるんだ。
助かるけど良いのかな?
「じゃあバルトー、搭乗するぞー」
「ギャーウ」
待ってましたとばかりに舌舐めずりをするんじゃない。
バルトは俺の指示に従い、膝をつき、両手を地面に付けて胸が開いてコアが露出する。
やっぱり想像通りコアが小さめで一人乗りだ。他の人を乗せたらかなり窮屈になるだろうなぁ。
俺が搭乗するとコアがそのまま胴体に収まって閉まる。
暗くなったがすぐに視界がコアに映し出された。
ここだけ見ると、本当……ロボに乗っているみたいな感じがするよなぁ。
装備も着用っと。
ホワイトパピー:グロウアップ エネルギー残量(満腹度) 99% ブレス弾数4
肉体装備
頭 試作試験型バイオモンスター。アンダーリザード
体 量産型第四世代バイオドラゴン。ヴィーゼートカスタム
手 量産型第四世代バイオドラゴン。ヴィーゼート・レッドDカスタム
足 試作試験型バイオモンスター。アンダーティラノ
尻尾 試作試験型バイオモンスター。アンダーティラノ
翼 試作試験型バイオモンスター。フライアイボール
所持装備 竜騎兵用ソード
竜騎兵用シールド
武装
フレイムブレス
シャインブレス
スターブレス
スローイン
胴体と手以外がバイオモンスターって肉体装備だ。
ラスティの実験とフィリンの願望が混ざった感じで出来上がっている。
確かに竜騎兵であり、魔獣兵って形になった代物なのは間違いない。爬虫類っぽい魔物で合わせているからそこまで不自然な感覚はしないな。
翼に関しては……まあ、オマケ程度の情けない翼だね。フライアイボールの羽って事なんだろうけどさ。
どうもこのフライアイボールの羽のお陰で視覚効果が向上しているみたいだ。
何だかんだ装備一つで色々と技能が搭載されているみたいで、非常にバランスが良い。
えっと、エネルギー残量の所に満腹度って追加表示が入っている。
当初の予定通り、魔石以外もエネルギーとして使用出来るんだったか。
「アーマーが無いけど大丈夫かな?」
「重量が無駄に上がるから、速度を重視するならアーマーはあまり付けずに行きなさい。それに、魔獣兵の皮を信用しなさいな」
ああ、そう言った考えもある訳ね。
確か経験値を得ることで強化出来るんだっけ。
一歩踏み出すとドシンと重量感を感じる。
「それじゃ……今日は好きに出かけて、新たな兵器の実験に行きなさい。あ……外に出たら空に向かって一発主砲を放つのよ。祝砲式なんだから」
「承知しましたー! よーし! みんな行こう! 背に乗って!」
操縦して地面に伏臥姿勢をとり、ブルやフィリン、飛野が乗りやすい様にする。
「はい! さ、みなさん乗りましょう」
「ブー!」
「おー! なんかドキドキするな!」
一応小型の竜型魔獣兵なので、三人も背中に乗ると窮屈になっているけれど、三人とも乗ってくれた。
「じゃ、行くよ!」
俺はそのまま立ち上がり、歩きだす。
ライラ教官やラスティ達が見送る中、俺達は進んで行く。
うん。シミュレーションよりも動きが速いし、重力を感じる。
良い感じだと思うなぁ。
ドシンドシンとラスティの研究所の建物から出て空を見る。
おー……空がちかーい。
とりあえず主砲……ブレスを放てって事なので、空に向かって固定武装のフレイムブレスを発射。
口を開き、喉の奥からカッとブレスが放たれたっぽい。ボーンと良い感じの音がした。
大きな火の玉が空に飛んで行き、大分高く飛んで行って弾けて消えた。
「祝砲式完了ですね! それじゃ近くのダンジョンに魔物退治に行きましょー!」
「おー!」
「一番近いのはソルインの湖にあるダンジョンですね! あそこに行きましょう」
「え? 船が要るんじゃない? この魔獣兵が乗れる?」
確かに小型の竜騎兵や魔導兵が入れるくらいに入口はあるけど……中型や大型だと無理なダンジョンだったはず。
そもそも湖で、大きな船は一応あったけど、普段は小舟での移動だった。
「大丈夫です。この魔獣兵は水中移動が可能ですので泳いで行けます」
「あ……そうなんだ」
「水陸両用って結構便利なんだな」
「ブー」
って事で魔獣兵を操縦し、湖を泳いで渡る。
尻尾が良い感じにオールみたいに動いてくれて、進めるぞ。
武器に関しては沈みはするけれど、持っていく事は出来るみたいだ。
あ、湖の桟橋からこっちを指差している子供たちを発見、フィリンとブル、飛野が手を振ると、子供達も手を振り返してくれた。
どうやら竜騎兵だって事は分かってくれている様だ。
「いやー……ちょっと窮屈だけど乗っているだけで良いってのは中々楽で良いな。馬とも違う豪快さがある」
「どっちかと言うとゾウに乗っての移動に近いかもな」
「そうだな」
大きさ的にこの魔獣兵はゾウくらいだからなぁ。
「大型の竜騎兵だと色々と違うんですけどね。もっと乗りやすくて豪快ですよ。空も飛べますし」
「そりゃあ……落ちそうで怖いな」
「あ、そうですね。落下が怖いのは間違いないです」
「ブー」
そんなこんなでダンジョン前に到着。
「えーっと……お前らはライラ上級騎士直属の連中だよな。竜騎兵でダンジョンに来たって事は……」
「はい。ちょっとダンジョンに挑戦します」
フィリンが答えると見張りの兵士がため息を漏らす。
「あいよ。話に聞いてた竜騎兵が完成したんだな。試験運用って事なんだろうから行ってこい」
って事で見張りの兵士から許可を貰ってダンジョンの中へと進んで行ったのだった。
ダンジョンは浅めの階層で魔物を倒して行った感じだ。
日帰り予定だったしね。
シミュレーションをかなりやりこんでいたお陰か、初めて乗った時の様な無様な事は無かった。
ブルやフィリン、飛野と陣形を組んで魔物との戦闘も経験した。
大きな魔物は俺が相手をして、他の取り巻きはブル達が相手をするって感じでの戦い。
戦闘が終わったらエネルギー補給って事で大きな魔物の肉を魔獣兵は食べる事が出来た。
結構バリバリとグロい感じに食べたけれど、食べた分だけエネルギーが補充できるから中々悪くは無い。
効率的で運用しやすいのは間違いないと思えたな。
敢えて問題を言うとしたら魔獣兵で倒すと経験値が魔獣兵に集まって俺達には入らない点だけど……ま、魔獣兵の操縦する楽しさの代価だと思えば少しは納得出来たかな?





