七十五話
「まだ数日は余裕がある。今日の出来事でお前達の竜騎兵も完成するのだろう? それが終わってからでも十分だ」
「ありがとうございます」
「気にするな。部下が頼りになる戦力を得るために頑張ったのだ。しっかりと報酬を甘受するのも、役目なのだぞ」
「そうなのですけど……ラスティの実験の手伝いを出来ていない様な……」
「そこは竜騎兵の運用とバルトのコアから得られる情報収集でかなり進んでいると、ラスティが報告している。気にしなくて良い」
うーん……それで良いのかなー?
「ま、楽しみにしていれば良いさ」
「はい」
近日中に異動か……飛野と一緒にこの街に居られるのはそれまでって所か。
「あ、そうだ。バルトってパイロット養成システムってのがあってさ、ゲームセンターのロボットゲームみたいな感じの遊びが出来るんだぜ。バルト、飛野をプレイさせても良いか?」
「ギャウ? ギャー」
バルトがなんか両手を前後させて動かしている。その後、何かに跨るポーズ。
「ライディングを持っていれば良いってことか?」
「ギャウ!」
お? 頷いた。
どうもバルトに乗る為の前提技能がライディングの様だ。
「飛野、持ってる?」
「持ってる」
「じゃあこれから遊びに行くか」
「ギャウ!」
バルトの目が輝く、お前は好きだよなぁ。遊んでいるのは俺たちなのに、喜ぶとは、どんな気持ちなんだろう?
「トツカ上等兵は明日も仕事があるんだから程々にするのだぞ。訓練も根を詰め過ぎると良くない」
ライラ教官が苦笑いを浮かべて注意して来る。
俺からすると遊びだけど、ライラ教官からすると訓練って認識なのか、この辺りは日本人と異世界人の認識の違いなのかもしれない。
「はい! それではライラ教官、トツカ上等兵はこれより、飛野を連れて共に竜騎兵の訓練を行いに向かいます!」
「うむ! 許可する!」
って感じで笑顔で見送るライラ教官達に手を振りながら俺は飛野を連れてラスティの研究所に行き、飛野に竜騎兵の操作シミュレーションで遊ばせたのだった。
飛野も最初の二時間位はかなり興奮して操縦していたが、疲れてきたと言ってコックピットから降りて宿屋に帰ってしまった。
俺はその間、作成中の竜騎兵を見ていた。
一応、日々補充していた細胞を使ってパーツの方は作られていたんだ。
最初は胴体で、次に頭、足に腕、尻尾、羽は最後って感じで。
今日、大量の素材が運び込まれて選定しながら製作が続けられている。
バラバラに作られていた竜騎兵のパーツが更なる改造を施されて形になっている姿は……日本じゃ見られないSF染みた製造工程だ。
だけど、やっとの事完成すると思うと心が躍るかな。
胴体に関しては特に思う所は無い。普通にドラゴンって感じで。
頭は……なんかスレンダーな首をしている感じだけど、なんとなくドラゴンではなくワニや恐竜っぽいかな? ドラゴンとは少し意匠が異なる気がした。
足もずっしりしていて……腕は思ったよりも小さい。うん。バルトの最初の身体に比べると心もとないけれど、俺たちが頑張って作っている竜騎兵なんだとは思わせてくれる。
「ギャウ」
バルトが俺にも遊んで欲しいと言った様子で催促するので、飛野が帰った後に俺も乗って日課の操縦シミュレーションを行う。
――パイロット養成システム起動――
パイロットの技能向上に依るロック解除。
情報収集によるアップデート完了。
新たなステージと白兵戦のシミュレーションを解禁致しました。
ってメッセージが表示された。
「白兵戦?」
ギャウって感じでバルトが何やら操作をするとフッと……なんか感覚が軽くなり、コックピットが消えて着地する。
周囲を見渡すと白い空間に一人立っていた。
……どうなっているんだ?
白兵戦のシミュレーションを開始します。
所有武器は使用者の装備を再現。
敵を出現させます。
フッと俺の目の前にキラーブロブが現れる。
スタンと手慣れた感じにスターショットを持っていた短剣に付与して仕留めると、やられるモーションをキラーブロブが取った後、消える。
キラーブロブ討伐。
次のステージに移行しますか?
ああ、これが白兵戦のシミュレーションって事なのか。
どんな仕組みなんだ?
ステージが色々と選べる。単純に運動と言うかアクロバットの練習なんかもある様だ。
壁走りって訳じゃないけど不安定な足場での訓練みたいなのがある。
「今回はいいえで」
そう答えると俺はコックピットに座っているのに気付く。
どうやら白兵戦モードが解除されたらしいが……僅かに寝ていた様な不思議な感覚だ。
夢を見せて模擬戦闘をさせるシステムも搭載しているって事なのかもしれない。
まあ、今するのは竜騎兵の操縦の練習な訳だし、後々気が向いたら白兵戦の練習もすべきだろう。
まさに養成システムなんだな。
パイロットモードに移行……新たな敵を表示。
って所で……ラルオンの魔導兵が出てきた。
おいおい。バルトの奴、ラルオンの魔導兵とその操縦を見て分析したっていうのか。
滅茶苦茶歯ごたえのある敵を相手にさせられそうだな。
そんな感じでゲームだからこそと、擬似ラルオンを相手に操縦して戦う。
結果的に言えば滅茶苦茶強かった。バルトも調整しているのか途中で手加減された感じがする。
見た目の割に機動性が滅茶苦茶高いし、こっちの戦闘力が若干低めと言う嫌らしさがあった。
シチュエーションチェンジで最初のバルトの身体じゃないと最初は勝てなかったぞ。
で……ラルオンの魔導兵相手の擬似シミュレーションが終わると次の敵が出てくる。
今度はキラーヒュージブロブだった。
うん。こっちはこっちで俺が戦いたかったから良い相手だね。
擬似ラルオンとの戦いの後だから思ったより楽に勝てた。
で……その次は、ラルオンの魔導兵なんだけど、表示が何か違う。
叫びの魔導兵って書かれている。
『異世界地雷十カ条!』
って吹き出しをしながらこっちに猛攻してくる。武器を投げたり奇妙な動きで翻弄はしてくるけど……うん、ラルオン程じゃない。
俺も若干苛立っていたので、魔導兵や竜騎兵を倒す際の確実なフィニッシュ攻撃、コックピットもぎ取りを行って勝利した。
ただ……な。
「バルト……お前、藤平を嫌い過ぎ」
完全にバカにしてるぞ。
そもそもなんで藤平がラルオンの魔導兵に乗っているってシチュエーションで戦わせた。
一番強かったのがラルオン搭乗の魔導兵っていうのもなんかむなしかったぞ。
「ギャウ!」
楽しげにバルトが鳴いたのは気にしないで上げよう。
とにかく、新たなステージとか色々とやれる事が増えた事は素直に娯楽として喜ぶ事にしよう。
ちなみに、竜騎兵操縦技能(初伝)は既に修得し、中伝になっていた。
シミュレーションでそこそこ腕前が上がって技能を習得出来たようだ。
ただ……実戦はどうなるかが不安な所かな。
そうして数日……明日、このソルインの街を去る事に決まったその日、俺、フィリン、ブル、バルト、飛野はラスティの研究所に集まった。
ライラ教官たちも別室のガラス越しから見ている。
「とうとう完成よ。クッキー」
培養層に浮かぶのは俺たちが材料を集めて作りだした竜騎兵。
バルトは先にコアに入って最終調整を行っていた。
「それじゃ、早速祝砲式を始めましょう」
祝砲式と言うのは魔導兵や竜騎兵の完成を祝う、進水式みたいな行事の呼び名らしい。
竜騎兵は本来、そこまで大がかりな事はしないのだけど、ラスティの所では恒例の行事なんだとか。
ま、個人で竜騎兵を作るって言うならこう言った祝いをした方が感動も一入ってって事なのかも。
「じゃ、クッキー。このボタンを押しなさい。そうすればあなた達の竜騎兵はこの世に産声を上げる事になるわ」
ラスティが培養層にあるボタンを指差している。
「ここはフィリンが押したら良いんじゃない?」
フィリンは何だかんだずっと竜騎兵に関して暇さえあれば来てラスティと様々な調整をしたり数字を色々と見て打ち込んでいた。
バルトもそんなフィリンのめまぐるしい努力に関して非常に好意的に受け取っていて、親愛の情を見せている。
「わ、私よりもユキカズさんが押した方が良いですよ!」
フィリンはここで遠慮しちゃうんだね。
だけど、一番がんばっていたのはフィリンだ。
俺はバルトと一緒にコアに乗って遊んでいた事が多い。





