七十二話
飛野は内緒話とばかりに俺の耳元で教えてくれる。
「俺さ、藤平とは同じ中学だったんだよ。それでアイツさ、最新式のスマホを買ってもらったって自慢しに来たクラスメイトに、バルトを見た時みたいな態度で接して、その日の午後辺りにそいつの視覚外からぶつかってスマホを落として壊した事あるんだ」
邪魔だ、ボサッとしてんじゃねえよ!
と、偶然を装って藤平は最新式のスマホを破壊して見せたらしい。
もちろん壊したんだから弁償って事になったのだけど、藤平は自らの非を認めなかった。
最終的に親が呼びだされて、親が賠償する事でこの騒動は収まった……のを飛野は覚えていたらしい。
藤平のあの態度は嫉妬だから、お前の事を凄いと思って素直になれないんだと囁かれたからバルトはニヤニヤ藤平を見ていたらしい。
それもどうなんだろうな。
「やっぱり故意だったんだなって思ってさ。まさか兎束にも偶然を装って剣を投げるとまでは思わなかった」
こりゃあ確定だな。藤平の奴、何がそんなに気に食わないんだか。
怪我でもしたら良いとでも思って投げたのか?
やり返して大怪我させてやろうか?
「あまつさえ被害者面をしてトツカ上等兵の評価を下げようとする態度! いい加減にしろ! ここはお前を活躍させる舞台装置じゃない!」
「な、い、ち! ち、違う! 俺は悪くねえ! アイツが前に出たのが悪いんだろうが! それに俺の活躍を忘れるんじゃねえよ!」
藤平が俺を指差してライラ教官の声に張り合う位の大音量で叫ぶ。
「活躍? 命令違反を活躍と貴様は認識しているのか? ラルオンに貴様の教育に関して詰問せねばならんな。立派な傷害罪だぞ」
「はぁあああ!?」
藤平が不快そうに眉を跳ねあげる。
「とにかく、貴様は邪魔だ。この任務から外れて貰う。みんな、少しばかり休憩をした後、未発見の子供の捜索を再開する。では休んでいてくれ!」
ライラ教官は深呼吸をしてからフィリンに子供をより安全な親元へ届けるように指示を出して、下水道前に用意された緊急仮設テントへと向かう。
ここで持ちかえった情報を報告し、次に子供がいそうな場所の目星を付ける様だ。
「信じらんね」
藤平が不満の声を漏らしながら俺と飛野の所まで来る。
「俺は何も悪くねえのによ!」
「いや……」
お前、さっき俺を攻撃した事を忘れるなよ。
「ギャウギャーウ!」
やーい! 怒られてやんのー! って感じでバルトが飛んで威嚇の声を上げている。
やめなさい。
まったく……子供っぽいドラゴンだ。
「お前なら避けれるだろ。現に俺の投げた剣を掴んだじゃねえか!」
そんな信頼してますって態度で言ってもな……不快な顔をした俺への返答がおかしかっただろ。
藤平は俺を攻撃した事に関して完全に棚に上げているみたいだ。
「そもそもだ! ここは俺の活躍と命を救った事に関して感謝して惚れる所だろ!」
まーた、何か物語からの発想か?
もしかしてあぶなぁああい! って感じでライラ教官に降ってきたキラーブロブを倒した事やフィリンの後ろに居たキラーブロブを倒した時の事を言っているのか?
あまりにもワザとらし過ぎてフィリンはドン引きしてたぞ。
「助けられたのにあんな事言って良い訳ねえんだよ!」
「礼は言っていたがな……それを言ったら藤平、お前はライラさんに助けられてたじゃん。お前も惚れなきゃいけねえだろ」
飛野がここで余計な事を言う。
そんな事言っても、それはそれそれこれはこれ、になるに決まってるだろう。
「はぁ!? なんで俺があんなババアに惚れなきゃいけねえんだよ!」
あそこまで露骨なアピールしておいてババアとか言い出した。
ライラ教官がババアかー……藤平にとって怒って注意してくる年上の女性は全部ババアになったんじゃないか?
「異世界地雷十カ条! 説教! イキリ! 恩知らずな登場人物! 顔が良いだけの性格ブス! あんな奴がいるから国の為になんて働きたくねえんだよ! 死ね!」
見事なブーメラン発言に俺も飛野も絶句するしかない。
しかも一度に四つも出てきた。
分類的には説教とイキリは同じカテゴリーなのかもしれない。
しかし、そろそろ十カ条、超えてるんじゃないか?
カウントしてないけどさ。今日だけで5~6個出たぞ。
「付き合ってられっか! バーカ!」
つかつかと藤平は怒りに身を任せてどこかへ行ってしまった。
子供達の命はどうでも良いのか? 断られてもやる気を見せろよ。
「異世界地雷十カ条……無責任な藤平。子供はどうでもいいのな、なんてな」
「ギャウ!」
藤平が居なくなった後、飛野とバルトが言った。
お前等、仲良いよな。
「兎束、藤平の投げた剣を掴んだ動作、カッコよかったなぁ。俺も真似したい」
直前の皮肉を完全に無かった事にして話題を切り替えた。
いや……掴めると思ったから掴んだだけだし……。
「偶然出来ただけだから、そう褒めないでくれ」
……正直に言おう。苛立ちよりもなんか解放感が強い。
うん。アイツとは一緒に居るだけで疲れる。
少なくとも冒険者になってもアイツとはパーティーは組めない。
「とにかく、まだ子供達は残されているんだろ? 急いで救出しないとな」
「ああ」
「ブー!」
「お? この声は、俺の親友!」
ブルが俺たちの所に駆け寄ってきたのでその姿に癒される。
藤平といると心が疲れてしょうがない。
ここで性格イケメンを見て悪感情を浄化して貰おう。
「ブー……」
性格イケメンが何故か俺が近づくと眉を寄せている。
一体どうしたと言うのか。
「俺の親友って……」
「ユキカズさん。もう少しブルさんへ歯に衣を着せるべきかと思いますよ」
子供を送り届けたのかフィリンがやってくる。
飛野の呟きは無視だ。
「ブル、お前の方はどうだった? 子供を助けられたか?」
「ブ!」
俺の質問にブルはグッと親指を立てている。
どうやらブルが居た部隊も子供の救出に成功していた様だ。
「さすがはブルだな!」
俺たちが入る前に既に先発隊として動いていたんだ。人命にかかわる動きはブルの方がはるかに早い。
少なくとも恩着せがましい態度で女性陣限定で助ける奴なんかと比べられる様な人物じゃないな。
「みんな集まっているか。すぐに救出に向かうぞ!」
ライラ教官もやってきて、次の指示を出すようだ。
「ブルトクレスも丁度居たか、では私の部隊に入ってくれ! これからすぐに再度下水道に潜入するのだが……子供が残されている場所が判明した。であると同時に問題がある」
「問題ですか?」
「うむ……」
ライラ教官は下水道の地図を広げる。
「まず、残った子供がいるのがここであるのだがな……」
居場所まで分かっているのに助けに行けない?
そう首を傾げていると……。
「ここの手前にキラーヒュージブロブが騒ぎで移動し、鎮座してしまっていて、救出するにはコイツを移動させねばならない」
「倒せないんですか?」
「残念だが魔法や白兵戦でコアを倒すには相当骨が折れる挙句、周囲のキラーブロブを吸収して迅速に傷を回復する……竜騎兵ないし魔導兵が必要な相手だ」
うへ……なんでそんな所に逃げ込んじゃったのかと愚痴りたくなる。
けど、ここはどうにかしてあげないとなぁ。
命が軽い世界ではあるけれど、助けられるなら助けるに限る。
「なので動きの良い者が、キラーヒュージブロブをこの箇所まで誘導……出来ればこのXポイントに連れて行き、待機していた魔導兵がここで戦う。その間に救助を行う」
「魔導兵は居るんですね。ラルオンですか?」
「ああ、ラルオンにやってもらうと話が付いた。現在目的地近くで待機している。すぐに向かうぞ」
「ハッ!」
と言う訳で俺達は子供達救出作戦へと参加をするのだった。





