七十一話
「よし! ガキは助けた! 行くぞ! おいクソガキ! じっとしてろ!」
「うええええええん! 怖いよぉおおおお!」
藤平が怖いってわけじゃなく、パニックになっていて助けが来たから必死に引っ付いている感じ。
水場で溺れた人が起こす二次被害と例えるのが適切かもしれない。
まあ、藤平のクソガキ発言は問題あると思うが。
「くっそ……動き辛れえな!」
愚痴をこぼしつつ、藤平とライラ教官は、キラーブロブの群れが近づく窪みから離脱する。
「スターショット!」
「ギャウ!」
「ライトニングショック!」
俺とバルト、フィリンが援護射撃を行い。どうにかこうにか藤平とライラ教官は俺たちの元に戻ってきた。
「ふう……どうだ? これで任務達成だな」
「一人保護出来たにすぎんがな」
子供達って事なので、迷い込んだ子供はまだいる。
とはいえ、一度離脱するのが無難だ。
「大丈夫か?」
安心させる為にポケットに入っていた飴を子供に差し出す。
……いや、なんで俺も自分のポケットに飴が入っているのかを疑問に思いたい。
パン屋で作って賄いで貰ったものなんだけどさ。
「あ……クッキーの兄ちゃん」
クッキーの兄ちゃんって呼ばれても文句が言えなくなってきた。
「兵士のお兄さんだ」
俺がここで泣きじゃくる子供に注意する。
それから飴をなめさせる。
するとホッとしたのか子供は泣くのをやめ、落ち着きを取り戻しつつあった。
藤平が降ろして立たせる。
「他にも友達がいたよね?」
「ひっく……うん。ただ、みんな驚いて散り散りになったから分からない」
まー……そうだよね。
他にもいるか。
「おい。さっさと逃げねえと魔物が団体で来てるぞ」
飛野がキラーブロブの群れを指差して言った。
あれだけ倒してまだいるのか……ここの下水道に生息するキラーブロブの数は果てしないな。
もっと大規模な清掃が必要だと感じさせる。
「とりあえず一時撤退。この子供を安全な場所に連れて行ってから再捜索に入る」
「ハッ!」
ライラ教官の指示に俺達は従って下水道からの脱出をする事にした。
その帰り道……行きでアレだけ倒したのに、キラーブロブが補充されていた。
どうも子供たちの捜索騒ぎで下水道内のキラーブロブが興奮状態に入り、何処からともなく出てくる様になってしまった様だ。
「ったく! キリがない!」
ライラ教官が斬り伏せながら来た道を戻る。のだけど、やはり群れに遭遇……段差のある地形で高い所から器用に落下してくると言う厄介な場所で交戦する羽目になった。
でだ……。
「あぶなぁあああい!」
またもわざとらしく藤平が……剣を投擲した。
お前投擲修練取っている訳?
ノーコンを疑いたくなるおぼつかない剣投げでフィリンからそこそこ離れた所にいるキラーブロブの目の前に投げた剣が刺さる。
「大丈夫か!」
キラッと、なんとなく色目を使った顔立ちで藤平がフィリンに近づき、心配しているとばかりに声を掛ける。
おい。お前が持ち場を離れた所為で飛野の負担が増えているんだが?
藤平が抜けた陣形を俺が補佐する形で前に出て飛野の手助けを行う。
「サンキュ、兎束」
気にするなって手で合図を送りつつ、サッと剣にスターショットを通してキラーブロブを切り捨てる。
手慣れた相手だ。
「ギャウ!」
バシュッと降り注ぐキラーブロブをバルトも射抜いて行く。
「怪我はない……みたいだな」
「あ、はい……大丈夫ですよ」
フィリンは藤平が投げた剣とキラーブロブを交互に見ながら答える。
で、藤平が取りに行きやすい様にキラーブロブに魔法を放って仕留める。
「……私は陣形を崩すなと言ったはずだが? 武器を無意味に投げるな」
ライラ教官のこめかみに怒りのマークが浮かんでいる。
「緊急事態だったんだからしょうがない」
「……」
あー……ライラ教官の握る拳の力が強まっているのが分かる。
ただ、これで怒らないだけライラ教官は大人なのかな?
んで、藤平の奴は剣を取ったかと思うと前衛に戻って来る。
俺とバルトが前衛で戦っている所にな。
「喰らえ! はああああああ!」
っと、アクセルエアの構えを取ってキラーブロブに攻撃をして行った。
ここまでは……まあ、順調だったと思うよ。
うん。
キラーブロブが音を聞きつけて更なる増援を呼んで来た。
「ヒィイイ……」
「大丈夫、みなさん強いですから」
子供をフィリンが宥めつつ、戦い続ける。
あまり強くは無いが、数がどうにも多くて困る。
「トツカとバルト! お前も前に来い! 右翼を任せるぞ! ヒノとフジダイラは左翼、私は正面を行く! 一気に押しあけて脱出だ!」
「はい!」
止む無くライラ教官の指示で俺とバルトも前衛になり、右側に立ち、一気に進もうとしたその時。
「……」
「ギャウ!」
スターン! と俺とバルト目掛けて剣が飛んできた。
軌道はバルト一直線だった。
バルトはサッと回避し、威嚇の声を上げる。
で、俺は飛んできた剣を重心をずらしてかわして握りの部分を掴んで睨みつける。
「うろちょろすんな! 戦闘の邪魔だ!」
藤平がここぞとばかりにバルトに怒鳴りつける。
「……おい。これはどういう意味だ? 俺はともかく、バルトに当たったらどうするんだ? 事と返答次第じゃ許さないぞ」
……お前は自分の担当陣形分かってんのか?
俺は右翼、右側に居るキラーブロブの群れを屠っていて、お前は左側だ、ライラ教官が正面に居たのを見ていたのか?
バルトは俺の補佐をする為に近くを飛んでいただけだろ。
「そっちの処理がおぼつかないから俺が手助けしようとしたらお前らが勝手に前に出たんだろ」
「……」
さすがにカチンと来たので無言で藤平の足元に剣を投げ返してやる。
じゃないと戦えないだろうし。
投げるの下手くそな癖に良く武器投げる奴だ。
「うわ! 何するんだ! この野郎!!」
藤平が露骨に被害者ぶりながらライラ教官をチラチラ見ている。
「兎束! 連携を何だと思ってやがる! こんなんだからお前はダメなんだよ! 権力の犬! 兵士の癖にしゃしゃり出てくんな!」
ブチっとここで大きな紐が切れる音が響いたと俺は感じた。
「ギャウ!?」
それはバルトも同じだった様でビクッとしている。
「貴様! いい加減にしろ! 私達のやるべき事を何だと思っているんだ!」
「な、な、な……」
怒りにまかせたライラ教官のアクセルエアで前方のキラーブロブは絶命、フィリンが俺達に当たらない様に範囲魔法が炸裂してキラーブロブ達の数が大きく減る。
そこでライラ教官は藤平の襟首をわしづかみにした後、肩で背負って駆けだした。
「行くぞ! これで脱出だ!」
「は、はい!」
って感じで俺達は下水道からどうにか脱出する事が出来た。
で……下水道から出て安全な所まで逃げ切ってからライラ教官は藤平を無造作に投げつけてから思い切り睨みつける。
「あいて! 何すんだよ!」
「何をするんだもクソも無い! 貴様はさっきから自分が何をしているのか理解しているのか!」
怒りの形相でライラ教官は藤平を思い切りしかりつけた。
「人命の関わる作戦遂行中にも関わらず指揮官の命令を無視して勝手に救助対象に向かう。魔物に雑な処理をして仲間に負担を与える。無意味に武器を投擲し、あまつさえ恩着せがましい態度……までは我慢してやろう。私自身の誤解だと譲歩しよう」
あー……うん。
ライラ教官はしっかりと見てますよね。
「だが、先ほどの味方への攻撃とも取れる投擲はさすがに看過できん! 貴様……この小型ドラゴンにどれだけの価値があるのかわかっているのか?」
確かに……一応バルトは俺が主だけど、ラスティ曰く古代種で遺物の竜騎兵コア。
金銭で言えば途方も無い代物だ。
そんな途方も無い代物を引き連れている俺もどうかとは思うけど、バルトが俺に着いてきたがるし、キラーブロブ程度には遅れを取らないから連れてきた。
属性攻撃出来るしね。
そのバルトをどう見ても狙って攻撃しましたって感じに攻撃されたら俺も不快に思う。
「やっぱ狙って来たな」
飛野がここで呆れ果てたって様子で呟く。
「ギャウ!」
なんかバルトと飛野が分かり合っていたって感じで親指立てて合図を送っているがどうなってんだ?
「いやな……バルトには先に注意しといたんだよ。絶対にお前を狙った何かをしてくるから注意しておけってさ」
「ギャーウ」
もしかして内緒話をしていた時の事か?





