七十話
「てめぇ! 調子に乗るんじゃねえぞ!」
で……下水道に子供達の救出部隊として入って初戦が終わった直後の事だ。
藤平が何故か俺の胸元に手を伸ばして来たので少し下がって拒否る。
「今度はなんだよ……」
一応、俺達が潜った入口が一番キラーブロブが少ないし、子供たちの侵入経路だって分かっているから、そこから救助隊は侵入している。
ブルは先発隊としてフィリンがライラ教官を見つける前に迅速に救出に向かっていったそうだ。
で……ラルオンは個人で魔導兵を所持しているそうで、別の大きな水路から侵入するとの話だった。
が、何故か藤平が俺と飛野、ライラ教官の部隊の方に付いてくるって事で下水道に入った。
ライラ教官は常日頃の稽古とかあって俺の腕前を知っているし、フィリンなんかも見知った関係だ。
飛野に関してもライラ教官に近接が多少出来ると話をし、藤平も似た感じ更に弓が使えると陣形を組む事になった。
ライラ教官を先頭に近接を立候補した藤平で少し離れた所で飛野、中衛は俺とバルトで、後衛はフィリンとなった。
一応、俺が視界と言うか魔物の発見率が高いからレンジャー役って感じで援護も出来る様にって感じで。
初戦に関しては楽勝だった。
騒ぎの所為で活気づいた団体で出てくるキラーブロブに関して、ライラ教官を先頭に色々と上手くやったとは思う。
一応、ラルオンやライラ教官の助言、武器の支給もあって藤平も飛野も属性武器を持っていたしな。
……藤平がこっちの武器の方が攻撃力があるって物理攻撃をしたのは呆れた。
大事にはならなかったのだけど……前衛三人が取り残したキラーブロブに俺がスターショットを当ててトドメを刺して戦闘が終わった所で藤平が俺に詰め寄ってきた感じだ。
「覚えたての魔法が使えますってか? 俺達に当たったらどうするつもりなんだよ!」
いや……藤平は元より、飛野やライラ教官さえも離れた所に居たキラーブロブを仕留めたんだけど?
フィリンの方は後方から出てきたキラーブロブに魔法を放って倒していたし、バルトも飛野と上手い事連携して倒していただろ。
「フジダイラ準冒険者、トツカ上等兵は魔法兵であり、常日頃から魔法の訓練をしている。味方への誤射などしない」
ライラ教官も過敏に反応する藤平に眉を寄せて注意する。
「コイツは下手くそなんだよ! おちおち背中なんて預けていたら怪我するぞ!」
ここぞとばかりに藤平が俺を指差してくる。
悪いけど俺、かなり練習しているし投擲修練やマルチアイの影響もあって狙い撃ちは得意なんだがな。
その気になれば藤平の相手をしている魔物を、藤平に当てずに紙一重で仕留める事だって出来る自信がある。
ま……藤平が何に不愉快になっているのかを想像するのは容易い。
「兎束、魔法使えるんだな」
「色々とあってさ」
「すげーな。人間が魔法覚えるのって大変だもんな……マジックシード高いし」
飛野の反応が普通だろ。
「異世――」
サッとライラ教官がシャウトする直前の藤平の口を押さえつけて注意する。
「騒ぐな。ここの魔物は音に敏感だとさっき言ったばかりだろう」
押さえつけられ、目を白黒させた藤平が渋々頷く。
「まったく……フジダイラ準冒険者、そんなにもトツカ上等兵が信用できないなら今からでもラルオンの部隊へ行け。嫌なら大声を出すな。わかったか?」
「……チッ!」
藤平の奴、不快な態度を見せつつ黙った。
はぁ……いきなりこれは先が思いやられる。
何なら俺がラルオンの方に行きたい。あっちはあっちで疲れそうだけど、藤平を相手にするよりは楽かもしれないし。
飛野が俺の耳元に顔を近づけて囁く。
「藤平の奴、絶対兎束が魔法を使える事に腹を立てたんだよな?」
「だろうな……」
藤平の中で俺のポジションは一体何なんだと色々と説教したい。
少しでも俺が上だと許せないってどんだけ俺は下に見られている訳?
「あの……」
フィリンが俺を心配そうな顔で声を掛けようとしている。
ああ、魔法が使える俺と同じ兵士枠ってフィリンもそうだしね。
藤平はフィリンが魔法を使える事に関しては全く触れないな。
間違いなく俺が魔法を使える事が気に食わないんだろう。
……藤平の奴が何と言う気だったのか地味に気になるなぁ。
フレーズからして間違いなく異世界地雷十カ条だろうけど、そろそろ数出てるな。
10個くらいあるか……?
「この飛野とアイツは俺と同郷でさ。なんか突っかかって来るってだけだから」
気にするなって感じでフィリンに小声で応答していると藤平がキッとこっちを睨んで来る。
ヤバ……聞かれたか?
とは思ったけれど、藤平はそこで黙り込んだ。
「じゃあ……早く迷い込んだ子供たちの保護をするぞ」
「はい。バルト、匂いを辿って行けないか?」
「ギャウ?」
クンクンとバルトが俺の命令に従って鼻を鳴らす……。
「ギャーウ……」
自信なさげに下水道の奥の右側を方角を指し示した。
まあ……臭いが酷いからなぁ。子供たちの匂いなんてそうそう残っちゃいないか。
「現在、下水道内の各所でギルドの戦える兵士たちが捜索に当たっている。他の部隊が向かった所とは別の所を捜索するぞ」
「ハッ!」
ライラ教官の言葉に兵士として敬礼して任務に当たる態度を俺とフィリンは示し、俺達はキラーブロブが出てくる下水道を進んで行った。
道中は……まあ、飛野も藤平も遅れを取る事は無かった。
一応二人ともそこそこ力を付けているからか負けるって事は無い。
後方援護で俺とフィリンが魔法で色々とサポートもしているしね。
ちなみにスターショットには応用があって、投擲用の短剣に付与して投げるって小技がある。
魔法剣って程じゃないけれど、これでキラーブロブの分裂を阻止出来る。
バルトもブレスを吐いたりして、進んではいたんだが……。
「貴様! いい加減にしろ! 私達のやるべき事を何だと思っている!」
「な、な、な……」
藤平に対してライラ教官の堪忍袋が切れる出来事が起こった。
事はキラーブロブの群れが際限なくとばかりに出てくる巣らしき場所に入り込んでしまった時から始まる。
「助けてぇえええ!」
即座に撤退するのも手だったのだが、キラーブロブの巣の手前のくぼみに子供が入り込んでいて助けを求めていたのだ。
ここで引いたらあの子供がキラーブロブの餌食になってしまう。
避けるわけにはいかないと俺達はキラーブロブ達を倒しながら子供の保護のために動いていた。
ただ……藤平の奴、自分の近くに居るキラーブロブは倒すのだけど、飛野の近くに居て、藤平にターゲットを変更するキラーブロブは無視……どころか蹴っ飛ばして飛野の手を煩わせる始末。
「お前……」
スタンと、俺がスターショット付与の短剣投擲でキラーブロブを仕留めたのだけど、飛野は藤平に不愉快そうに眉を寄せる。
「なんだ? お前が戦いたい相手じゃないのか?」
そんで……なんて言うか、俺たちの中で一番動きが鈍いのが藤平な訳だ。
チラチラとライラ教官を見る目だけは機敏でさ。
「バーストサンダーレイン!」
そうこうしている内に……フィリンの魔法が上手い事炸裂して俺達はキラーブロブの群れの一部を撃破。
「俺が行くぜ! 見てろよ!」
そこを藤平が待ってましたとばかりに子供に向かって駆けだした。
「おい! 陣形を崩すな!」
天井から降り注ぐキラーブロブ達から藤平を守りつつライラ教官は後に続いた。
で、子供のもとに駆けつけて抱き上げ、振り返り。
「あぶなぁあああい!」
なんともわざとらしい大声で藤平がライラ教官の背後に降りかかろうとしていたキラーブロブに剣を投擲して倒したわけだ。
問題はそこじゃない。
ライラ教官も接近に気づいていて、振り返り様に切り倒す挙動をしていた、が藤平が露骨に剣を投げた感じで助けた。
「大丈夫か! けがはないか?」
「あ……ああ……礼を言う」
とりあえず助けようとしたしって感じでライラ教官は藤平を褒めた。
思えばこれが悪かったのかもしれない。





