六十八話
「何か妙な陰謀が仕組まれている。だから冒険者業は継続して行くけれど、国の騎士に雇用された冒険者って事にしないかって提案された感じだな」
なるほど……異世界の戦士にならなかったのは俺、飛野、そして藤平だもんな。
一応全員、保護をする形になっている訳ね。
「確かに異世界の戦士として戦ってくれるなら良いに越した事は無いが、こんな感じで暗躍している連中がいるなら別だって……保留した感じ」
「気楽に皆に任せてれば良いよねって俺達放り投げたもんな」
罪悪感が無いのかと言えば、多少はある。
だけど……アイツらも結構気楽に戦っていると言っていたから任せているに近い。
この裏に何があるのか、まだ俺達はわかっていない。
「じゃあ、一応みんな使命は果たしている?」
「そうなる。地図だと……」
飛野がレラリア国を含めた近隣国の地図を見せてくれる。
「ここにあるレラリア国や近隣国に攻め込んでいる危険な魔物の生活圏を皆はかなり押し返して人類の領域を取り戻しているみたいだ」
「はー……」
表向きの評価ってのは中々に凄いんだな。
異世界の戦士として世界を救うって方向に間違いは無い訳ね。
ちょっと罪悪感。
国も世界の為に俺達を異世界の戦士として後悔しない様に暗躍しているのかもと思うと、申し訳なく思える。
「ちなみに異世界の戦士って俺達よりも前にもそう囁かれた人がいるらしい。その人によって魔物の生活圏から奪還したって英雄の話が各地にある」
「ふーん」
「今回はかなりの数の異世界の戦士がいるから、脅威は抑え込めるだろうってさ」
今までの情報から考えるに、藤平が望む無法者の冒険者が安易に封印を解き放ってしまった危険な魔物からの侵略に対抗すべく俺たちが呼ばれた。
皆は真面目に異世界の戦士として戦い。人々は生活圏を取り戻して感謝をしているって所か。
「んじゃ、飛野。お前はあの武器持ってるわけ?」
「いいや……保護された所で事情を説明して預けた後で、ゴタゴタの内にいつの間にか……」
やはりそうか。
「とにかく、異世界の戦士になるにしても、裏で暗躍している謎の連中からしっかりと情報を得てからって事になるみたい。その辺りの情報交換と、兎束と話をする為に来たって感じ」
「このノリだと……藤平も近々きそうだな。アイツもこっち勢力の冒険者に乗せられて冒険者の下に入ったから」
「つーことは俺の後輩になるんだな」
飛野がいたずらっ子みたいな顔で答えるので、俺は頷く。
「そうだ。後輩だ。存分に先輩として注意してやれ」
「んな事したらシャウトするだろアイツ」
「だなー」
なんて感じで飛野と雑談を交わす。
ああ良いね。同郷の奴との話ってこういう感じで世間話が出来るんだ。
フィリンやブルを相手に出来ない話題が出来るからこそ、ホッとする時がある。
藤平では味わえないのが何とも皮肉っているなぁ。
「トツカ上等兵」
ライラ教官が俺に声を掛けて来る。
「旧交は温めたか?」
「ええ、飛野を呼んで下さりありがとうございます」
「気にしなくて良い。ヒノ、これで信用してくれるか?」
「はい。兎束も巻き込まれていると本人から聞けて納得しました」
「うむ……トツカ、ヒノ。両者共に情報交換を十分にするだけの時間を用意させるつもりだ。しばらくは好きにしていて良い」
「これは俺に特別休暇をくれるって事で良いんですか!?」
一応非番の日とかあるけれど、予定の無い休暇を貰えるなら嬉しくないはずはない。
「ギャウー」
バルトも休み=俺と遊んでもらえるとの考えから目を輝かせる。
「ヒノと旧交を温める時間を与えるだけだ! 今後の事もあるだろ! 遊ばせる訳じゃないぞ!」
イエーイ! 飛野と話をしていれば遊んでいて良いって言っている様なもんだ!
「そうだ飛野! 今、みんなで竜騎兵を作ってるんだ! せっかくだから見に来いよ」
罵倒とも言えなくもないニックネームを名付ける研究者とは出来れば会わせたくないが、飛野になら教えても良い気がする。
見せて減るもんじゃないし。
「良いのか?」
「ああ。ライラ教官も良いですよね?」
「良いだろう。フィリンやブルトクレス、ラスティには後でしっかりと説明しよう」
って訳で俺は飛野とその保護者の騎士を連れて作製中の竜騎兵を見せに行く事にしたのだった。
「てめぇえええええええええ! 喧嘩売ってんのかコラァアアアアアアア!」
研究所に到着するなり、聞き覚えのあるシャウトが耳に入り、思わずウンザリした。
おいおい……アイツがいるのかよ。
ちょっと所かかなり心配になりつつ、みんな揃って声の方に行かざるを得ないので向かう。
すると案の定、藤平がいた。
「へい。ヒデキ。ちょっと落ち着けYO!」
ラルオンが藤平を宥めつつ、ラスティがかなり困ったと言うかウンザリした顔で藤平を見ている。
「だって私、名前覚えるの苦手なのよ。だからニックネームを着けているの。ニックネーム呼びじゃないなら作ってなんかやらないわよ」
「こっちは凄腕冒険者なんだぞ! お前の作る兵器を最も上手く使いこなしてやるって言うのにふざけんじゃねえぞ!」
「幾らアンタがライディング持ちだったとしてもねぇ……」
「だからヒデキ! あんまり期待するなYOって行ったじゃないかYO!」
「異世界地雷十カ条! 無駄に個性的で不快な奴! 存在がウゼー! 死ねよ!」
はぁ……本当、変わらない奴だな。
ここはやっぱり声を掛けに行ってラスティの機嫌をこれ以上損ねない様に、藤平を遠ざけないといけないよな。
怒ってどこかに去って行きそうだけど。
飛野の方に視線を向ける。
『どうする?』
『ここは間に入らないと面倒じゃないか?』
『もっと面倒にならないか?』
『一応相手をしないとさ……こっちも上司いるし』
視線だけで会話が出来たような錯覚をしてしまう。
俺は深くため息を漏らして、代表って感じで藤平一行に近付いて声を掛ける。
「なんだ随分と騒がしいなぁ……」
「ん?」
怒りの形相を浮かべていた藤平が俺の方を見て……舐めた顔になる。
「ああ、そこに居るのは権力の犬じゃねえか! 丁度良い! お前もこの女と話をしてみろよ!」
これは仲間を見つけたって扱いなのか、それともバカにする対象がノコノコやってきたとでも思っているのだろうか?
「よ! 藤平。相変わらずだなお前」
「ゲ! 飛野! てめえも居やがるのか! 無駄に群れてやがって!」
俺と飛野が一緒にいたら群れているって事になるのか?
どんな理屈なのかはよくわからん。
と言うか……藤平は飛野に苦手意識を持っているのか?
「無駄かどうかはお前が決める事じゃないだろ」
「うっせえ! 俺ももう準冒険者なんだよ! すぐにお前なんか追い抜いて冒険者になってやるからな! 調子に乗んなよ!」
ああ……冒険者の下で働いているって所で先輩であるのは自覚済みなのか? 先輩風を吹かされるのが嫌なんだろう。
飛野もそれ以上刺激するのは避けたいと思ったのか、俺に全部任せるとばかりに一歩下がった場所に立っている。
はいはい……なんで俺が藤平の相手をする係になっているんだろうな。
「良いから兎束! さっさとこの女と話をしてみろっての!」
ラスティをまるでNPCみたいな扱いで指差しているなぁ。
ちゃんとした人だぞ。現に思い切りラスティが嫌な物を見る目で藤平を見ている。
なんて思った所で、不快な藤平ではなく実験の協力者である俺に意識をラスティは向ける。
「クッキー、今日は何の用? 実験に協力してくれるのかしら?」
「えー……今日は旧友を誘って色々と見て回っている所です」
「あら、そうなの。クッキーの――」
と言う所で藤平が俺とラスティの間に入る。
「ちょっと待てよ、てめぇええええ! ふざけんな! 何親しげに話してんだよ!」





