六十七話
って感じで……俺達のキラーブロブ退治をしながらのソルインの日々は一週間半程、特に問題なく続いて行ったのだった。
結果として報告すると、ソルインの下水に居るキラーブロブが大分減ってきている様に感じる。
最初は入り口だけで荷車に満載するほど、キラーブロブの死体が確保出来たけれど、徐々に奥の方まで行けるようになってきたし、俺たちが出入りしている下水道の匂いが大分薄まって来ていた。
俺達の行動をソルインの人たちも見ていて、「毎日精が出るわねぇ……下水道を綺麗にしようとしてくれてありがとう」って感じでお礼を言われたりする事が増えた。
他にもキラーブロブの死体を見て興味を持った子供たちとかが集まって来たりしてね。
バルトがマスコットとして絡まれたりした。
で、パン屋で働いている俺の事を覚えていた子供が俺を指差して言って来て……賄いのお菓子とか配って仲良くもなった。
「クッキーの兄ちゃん。今日もキラーブロブ退治か?」
「後で行く予定」
パン屋で接客をしていると子供たちがパンを買うついでにこっちの予定を聞く様になってしまっている。
親しまれているって事で良いのかな?
「それと俺はクッキーの兄ちゃんじゃない。兵士のお兄さんと呼べ」
「えー? でも街の人たちもみんな呼んでるよ? クッキーが上手だって店長が言ってたって」
店主が情報源か!
俺がキッチンに居る店主に視線を向けると素知らぬ感じで口笛を吹かれる。
く……どうして俺はクッキーが付きまとうんだ。
一応、兵士の服を着ている訳で、子供たちと話をするって点では日本基準で罰せられる謂れは無い。
現にガラの悪い連中は俺達を避ける訳だしね。
兵士ってこういう時に便利だ。
ちなみに子供たちと仲良くなったお陰で、ソルインの街の近道とか裏道とか色々と教えてもらったぞ。
「んじゃなークッキーの兄ちゃん」
「毎度ありー」
子供がパンを買って行くのは微笑ましいはずなのに、俺は何故パン屋で店番をさせられているのかと考えてしまう。
……とりあえずパン屋の仕事が一区切りついた。
ああ……加工しやすい細胞に関してだけど、俺達の努力が実を結んで800キロまで集まった。
この調子なら後数日で目標まで溜まるだろう。
それから作りあげるらしいのだが、どれだけの時間が掛るのかは分からない。
他に……コアに乗った操作シミュレーションも大分攻略が進んでいる。
バルトが考えているらしいのだけど、ステージが40を超えた。
プレイする度にシチュエーションが異なったりするので常に新鮮に楽しめる。
どうやらステージ構成はバルトが常時新しく構築してくれているっぽい。
結構凄いんじゃないか?
最近だと完成する予定の竜騎兵での操縦を想定した感じで練習をしている。
かなり奥深い操縦性が必要で、毎日楽しませて貰えているな。
ゲームをしてリラックスしているのか、遊んだ後は体調が良くなるし、頭もスッキリする。
さてと……パン屋の仕事が終わったのは良いが、次の仕事は街の見回りが待っている。
兵士は治安維持のために街のパトロールがあるんだ。
他にも街の出入りの門とかの門番とかな。昼間は黙って立ってないといけないからダンジョン前の見張りより面倒くさい。
ボケっと立っていられるだけマシかもしれないけど。
なんて感じで街の見回りをしていると……。
「おーい。兎束、兎束ー」
聞き覚えのある声に振り返る。
するとそこには飛野が俺の方に駆けて来る所だった。
「お? 飛野じゃないか。久しぶりだなー」
「久しぶり」
軽く挨拶を行う。飛野が来た方角を見ると……ライラ教官が、なんかこっちを見ながら誰かと話をしている。
「調子はどうだ? こっちは……まあ順調」
「ギャウ!」
パタタっとバルトが俺の肩に着地する。
飛野がバルトを指差して笑顔になる。
「なんか凄いの連れてんな」
「成り行きで世話をするようになってな」
ブルに構うと焼きもちを焼く謎ドラゴンだ。
「すげーな! なんか騎士の直属部隊に配属になったんだって?」
「うん。そっちも色々とあってさ」
「そっかー……こっちも色々とあった。正直、何度死ぬかと思ったか」
「何かあったのか?」
「んー……あったと言えばあった。それとこの世界の現状をマジマジと体験する事になっちまったよ。異世界の戦士枠で戦っているみんなは本当、世界の為に頑張ってるんだなってさ」
飛野の話だとこうだ。
力を付けた異世界の戦士達ってのは危険な魔物の封印が解かれて人が住めなくなり、人類の生活圏を脅かす魔物の軍勢を押し返し、国があった地域の奪還の快進撃をしているらしい。
その最前線と言うのはどの国もかなり悲惨な状況だったりしたそうだが、異世界の戦士が頑張っているこのレラリア国はかなり押し返せているそうだ。
飛野の上司である冒険者はその前線への補給部隊と言う安全だけど報酬が破格の依頼を運よく、受注する事が出来てしばらく、飛野を連れて行っていた……。
飛野は前線の戦場を見ようと思えば見える範囲まで近づいた事もあるそうで、魔物達との激しい戦いの爪跡を目撃したんだとか。
で、事件は起こった。
ある日の輸送任務……輸送する積み荷に何やらこれからの戦いをより優位にする物が収められているって話を聞きつつ、運んで行った。
そうして積み荷を運んでいる所で、最前線からはぐれたのだろう。危険で凶悪な魔物が輸送部隊である飛野が所属していた隊に襲いかかってきた。
奮闘する上司の冒険者とその仲間達だったが、相手の魔物はあまりにも強力で手も足も出ない。
助けを呼ぶにも、すぐには駆けつけられず、しかも竜騎兵や魔導兵が必要な程の強敵……だったらしい。
このままでは全滅だ! と言う所で積み荷が反応し、積み荷から武器が飛び出して手に収まった。
その武器の力で飛野はその凶悪な魔物を撃破し、上司の冒険者共々、命からがらその場をくぐりぬける事が出来たとかなんとか。
……覚えのある出来事だとしか言いようがない。
「どうにか犠牲者が無く生き延びる事が出来た所で国が駆けつけてくれたんだ。で、どうやらこの積み荷の武器ってのは異世界の戦士に渡す為の代物だったらしい」
「……」
「聞き覚え、兎束にもあるって知ってる」
「ああ、そうか」
どうやら飛野も分かって事情を説明してくれていた様だ。
「俺の上司である冒険者は俺が凄い奴だったんだなとか褒めてくれたんだ。凄くうれしかったけど、同時にさ……あんな強力な魔物が襲ってくる様な世界を平和にする為に戦いもせずに冒険者見習いでいて良いのかって思ってさ……」
「あー……」
気持ちはなんとなくわかる。
世界の為に戦ってくれって言う所で断って各々好きに行動している訳だしね。
「だから、冒険者になるってのは一時中断して、異世界の戦士として戦って世界を救ってからでも良いんじゃないかって思い始めていた訳。あの武器の力が凄かったってのもあってさ」
「……俺にそう話をするって事は、違うんだろ?」
俺の質問に飛野が頷く。
「うん。そうやって迷っている所で、あそこにいる騎士に声を掛けられてさ。今回の出来事は故意に起こされた可能性が高いって教えてくれたんだ」
ライラ教官の隣に居る人物が俺の視線に手を上げてから頷く。
どうやら姫様の派閥所属で良いみたい。
「兎束の所でも似た様な事が起こっていたんだろ? 俺が巻き込まれるほんの少し前だったらしいじゃないか」
「まあ……な。シチュエーションは違っているけど、積み荷に仕組まれていたってのは同じだな」
バカの一つ覚えってわけではなく、仕組まれたからこそ、かもしれない。
こう……運命に酔える様にするなら武器屋とかからポンと渡されるとかより良いだろう。
地面に刺さった聖剣とかだと挑戦するかわからないしね。
周囲が知っていないと始まらない。





