六十六話
報告任務とか規定がかなり細かいみたいだ……怒られない様に十分注意して行かないと。
って感じで受付仕事も初めてだったけど、とりあえず終える事が出来た。
はー……飛空挺でホテルマンしているよりも気が抜けない気がして疲れるなぁ。
こっちが許可をする事で冒険者に死人が出るかもしれないって思うと、本当……怖い仕事だ。
責任自体はそこまで無いのだけどやっぱり心が痛む。
身の丈に合わない依頼を受けようとする冒険者が少ないから助かるけどね。
一度それっぽいのが来たけど、準冒険者の者で、あなたの上司をお連れくださいと断った。
ちょっとゴネられた所で、部署の責任者がやってきて、上司と連絡を取った。
その際に上司の冒険者が身の程知らずな依頼を請けるな! って準冒険者を叱っていたから良かった。
話によると、そのまま請けさせろってパターンもあるらしい。
その場合の末路はあんまり良くないと教えられた。
ギルドは常に忙しいんだなぁ。
って感じで受付業務は終わった。
その後は休憩時間までまたパン屋で働かされる。午後の仕事だったなぁ……。
おやつ時を過ぎた辺りで自由時間になった。
今日は出発前にラスティの研究所でどれくらいキラーブロブから細胞が採取できるのかを測ってから行こうって事になっている。
その為、研究所で集合だ。
ハナクソさんとはもう顔パスで研究所内に入れさせて貰える。
「すー……すー……」
あ、フィリンが研究所のコアのある部屋で仮眠を取っている。
結構忙しない日々になっているから疲れが出て来ているのかもしれない。
ブルが来るまでは寝かせておこう。
「ギャウ?」
バルトが今日も訓練する? って感じで目を輝かせている。
俺がゲームをする事を喜ぶドラゴンって言うのもなんだかなと感じてしまう。
可愛らしいとは思うけれど、それで良いのか?
「遊んでいる内にブルが来ちゃうだろうから、今回は静かに待ってような?」
「ギャウ」
って事でフィリンを起こさない様に俺はフィリンに紹介してもらった竜騎兵の簡単な書物に目を通す事にした。
ふむふむ……ざっくりとした概要でしかないのだけれど、竜騎兵は最新鋭だからって強い訳でも、古いから強い訳でもない様だ。
車と感覚が似ているかな?
で、竜騎兵の開発コンセプトは強靭なドラゴンに乗って戦う、ドラゴンナイトが大元だったみたいだ。
鉄すら弾く強固な鱗を持った魔物を使役して戦うと言うのは確かに、戦闘面では非常に頼もしい。
何だかんだ人間ってのはか弱い生き物だからなぁ。
最初は背に乗って戦っていたけれど、如何せん背に乗る人間を狙えば良いとか、無理な動きで落ちてしまう等の懸念、それならドラゴン自体を操縦できれば良いんじゃないかって感じで考えが移って行ったと言う推測が本には記されている。
ロボットに乗るのと似た感じだと俺は思ったけれど、ここはやはり異世界なんだなと思わせてくれる。
日本のアニメとかだとロボットに乗って戦うと言うロボット物は数知れずだけど、ドラゴンに乗って戦うってのはさすがに少ない。
探せばあるのだろうとは思うけれどね。
名機と呼ばれているドラゴンは第一世代のレッドDの系譜を受け継いだ第八世代のブラックSみたいだ。
総合的なバランスが良いとか書かれている。
そもそも後先考えない戦闘力って所に特化させたもので、継続戦闘とか局地戦闘ともなると事情が異なるらしい。
持たせる装備でも強さは別れるみたいだなぁ。
後方射撃に特化した第4世代ヒドラBとか、種類は無数にある。
この世代が進めば強くなるってわけじゃないのが俺としては覚えるのに躓きそうな感じだなぁ。
あ、野生種から取り入れたって竜騎兵もある。
うーん……奥深い。
なんて思っていると。
「ブー」
ブルが仕事を終えてやってきた。
「ん……」
ブルの声にフィリンも起きたみたいだね。
「集まったみたいだね」
「え? あ、ユキカズさんとバルト……来ていたんですね」
「うん。気持ちよさそうに寝ていたし、ブルが来るまでって事で静かにしてたんだ」
「起こして下さってもよかったのに……ありがとうございます」
気にしないでって感じで挨拶をしてから俺達は昨日納品したキラーブロブからどれだけの細胞が取れたのか装置を見て確認する。
もう選別は終わっている様だ。
「アレだけ積んで50キロしか確保出来ずにいるんだ……」
荷車に満載したキラーブロブを放り込んで50キロか……。
効率はあまり良くないか?
ラスティ曰く、残りは好きにしても良いけど引き取るって事だったっけ。
分離させたキラーブロブの残骸も言えば返して貰えそうではあるけど、正直……いらないな。
「でも、もう50キロも集まったとも言えますよ?」
……まあ、確かに、昨日の数時間で50キロも確保出来たのなら、この調子で行けば1000キロは届かない数字ではない。
今日も昨日と同じ量とってくれば10分の1を確保出来る。
「明日は非番の日だし……三往復位は頑張れば出来そうではあるよね」
せっかくの休日に何してんだとは思うけれどさ。
賄いで貰ったお菓子とかで魔力の回復を図ったり、骨収集を併用して行けばソルインにいる間に竜騎兵の材料は確保出来る……かもしれない。
「はい! ユキカズさん。ブルさん。お願い……出来ませんか?」
「いや、それはこっちがする側である訳だし……」
バルトが上手く運用し、俺のこの先の戦いとか冒険者になった際の行動力とかの為に、竜騎兵を作って貰う機会を利用しているんだしね。
フィリンは整備兵になる夢があって、竜騎兵の整備が出来るって事を喜んでくれていると思うと嬉しくはある。
「ブルは良いのか?」
「ブ!」
問題なし! って感じでブルが指を立てている。
うう……何から何まで助かるねぇ。
「じゃ、さすがに明日は三往復するのは厳しいと思うから二往復で、これから頑張ろうか」
「はい! 頑張ります! それにキラーブロブ退治をすれば、兵士の仕事をしているって事で評価も上がりますし、治安も良くなって良い事尽くしです」
「ギャーウー」
「ブウ!」
「で、二回狩りをしたら皆で飯でも食べに行こうよ。俺が奢るからさ」
「奢るって良いんですか?」
フィリンとブルが申し訳なさそうに聞いてくる。
「うん。お金にはそこそこ余裕が出来ていてさ。具体的には飛空挺でのチップ代が結構洒落にならない感じに……」
お金持ちが乗る客船タイプの飛空挺だからこそかもしれない。
実は結構なお金を俺は現在持っている。
依頼掲示板に張られている報酬を見て、少しばかり優越感に浸れるかもしれない位には……。
いや、金持ちって程ではないけどね……うん。冒険者よりもホテルマンとかに鞍替えしろとか言われちゃうかもしれない。
藤平が行きたがった店でブルとフィリン、バルトにお腹いっぱい食べさせても大丈夫なくらいには持ってる。
「2人に奢る以外にもちょっと貯めていて、それで尚余ってるから気にしないで」
「ユキカズさん。飛空挺で沢山働いていましたもんね……じゃあ、お言葉に甘えて、楽しみにしています」
「ブルも遠慮するなよ! しっかりと食って筋肉をつけるんだ!」
「ブー!」
ブルは割と遠慮するから筋肉をつけるんだって言葉で誘導して奢る事にしている。
ああ、装備代に当てろとか、他に使い道があるだろって考えが浮かぶかもしれないが……俺たちがダンジョンから持ち帰った品代と比べたら、微々たる金額だ。
貯金よりも今は日々のストレス解消にお金を使って良い物を食いたいんだよ。
って事で、俺達は計画を進めて行くのだった。
とりあえずソルインの街の下水道の清掃業務って事でキラーブロブ討伐をして行く。
ドブ掃除とかも一緒にしたら良いのかな? なんて思いもするけれど、さすがに俺達三人と一匹じゃ厳しいか。
ライラ教官も俺たちの行動に関しては定期的に確認に来る感じで、大きく干渉も手伝い等もしてくれない。
これも経験って事で判断してくれている。
キラーブロブ程度なら俺たちでも余裕で処理できるって思っているみたいだし。
現に、遅れを取る事は無い。
休日の豪華な食事を食べに行ったけど、かなり楽しかったな。
フィリンもラフな格好で来てくれて、賑やかに食事を皆で楽しんだ。
他国の王女様ってだけあって、フィリンもそれらしい恰好をすると美少女なんだよなぁ。
いや、普段から顔が良いのは分かっていたけれど、兵士の服とは違う服を着るとより引き立つ感じ。
途中、俺とブルがいるにも関わらず、フィリンが何度かナンパっぽい感じで声を掛けられそうになったし。
大人しそうな女の子だからってのも声を掛けられる理由かもしれない。
なんて言うか……異世界でもナンパな奴っているんだなぁと思ったな。





