六十五話
「ブ?」
「ギャウ?」
食べないの? って感じでブルとバルトが俺を見てくる。
「ああ、そうだな。みんなで食べよう。フィリンには内緒な」
こう言ったデザートこそ、フィリンが喜びそうだけど、これは夜食だ。
見張りの合間に食べるお菓子って事で空腹を満たす為に食べるんだ。
と言う訳で切り分けてそれぞれ食べる。
プルンプルンだけど、歯ごたえのあるゼリーが口の中で仄かな甘みとして広がる。
こんにゃくゼリーみたいな食感だな。悪くは無い。
魔力も回復するし、昼間に消費した分を補充するには十分だろう。
「ブヒー!」
「ギャーウ!」
ブルもバルトも気に入ってくれたのかパクパクと食べてくれた。
眠気も心なしか飛んでいて、見張りの時間は過ぎていったのだった。
ま、暇だったから近くの木をダーツの的にしたり、バルトにボールを取りに行かせたりして息抜きとかしていた。
ダンジョンの見張りっていうのも大変なんだなぁ。
しかも時々魔物が出てくるし……ま、俺たちからすると出てきたら魔石とか手に入って良い小遣いになる感じだけどさ。
今度、時間つぶし用に本でも持ってくるかな?
ま、とりあえず交代で仮眠を取りながら見張りをしていった。
そうこうしているうちに、見張りの時間は過ぎていき、朝靄と共に空が徐々に明るくなってくる。
「そろそろ交代の時間だな」
おそらく今日の朝はライラ教官が監査を終えてギルドで挨拶するってところだろう。
俺たちの仕事は時間単位で決められていて、忙しないな。 思えば俺も異世界での生活に慣れたもんだ。
なーんて思いながら、交代要員が来るまで俺とブル、バルトは見張りをしていたのだった。
見張りの交代をしてソルインの街にあるギルドに戻ってきたところで朝礼が行われ、想像通りライラ教官が出てきて挨拶を行った。
「ふむ……この街のギルドの者はよく訓練をしているようだな。話は以上だ! 後で個人で話を聞く、何か提案したいことがあったらその際に言うように!」
ライラ教官も相変わらずの仕事をしているようだった。
俺たちは個人面談は無いみたいで仕事に戻る。
後は……まあ、決められた配属で仕事をする簡単な仕事かな?
あ、とうとう俺も事務と言うか受付業務をさせられるようになったのが今までとの違いか。
冒険者が依頼の羊皮紙を持ってくるので、その冒険者に見合った物であるのかをこっちが判断する仕事だ。
えっと……今回の依頼は近隣の迷宮で見つかる薬草採取と魔物の素材ね。
発注者は薬屋協会。
「承りました。冒険者カードの提示をお願いします」
「ほい」
パーティーを組んだ冒険者だ。
冒険の難易度的には軽度……対して冒険者のランクは、C……うん。大丈夫かな。
取得技能とかに採取系があるし、経歴もリーダーは兵役を積んだみたいだ。
これなら俺でも許可を出せる。
ポンとスタンプを押して受注許可をする。
「ではこちらの番号札をどうぞ。皆様の仕事が成功することをお祈りしております」
って感じで返答をして番号札を渡して仕事を終える。
受付の仕事ってこんな感じなんだな。
なんて思っていると……。
「あの……」
なんか冒険者とも兵士とも異なる商人って感じの人が受付に来た。何やら切迫したご様子。
「うちの荷物が盗賊に襲撃されて奪われちまった。どうか取り返してくれねえか! 金はもちろん出す!」
ああ、もしかしてこれは依頼を出す側ってことなのかな?
「少々お待ちください」
俺は立ち上がって、初めての応答なのでこの部署の上司に相談に行く。
「商人らしき方が盗賊の襲撃を受けて荷物を奪われたと仰っているのですが、どう返答すべきでしょうか?」
「ん? ああ、わかった。行く。最近聞く話だな……担当を呼ぶ」
って感じでどうも依頼の担当者に受付を変わってもらって依頼が更新される。
確認するとどうやら賞金首に盗賊がいるらしい。
先ほどの依頼者からの追加賞金が加算されて張り紙の値段が変わった。
情報も更新されて依頼の掲示板も貼り替えさせられた。
大規模な依頼みたいで、偵察任務とかギルド側が独自に依頼を作ったりしている。
「調子はどうだ?」
ライラ教官がバルトの喉を撫でてから作業中の俺に声を掛けてくる。
「ギャウウウ……」
「冒険者に依頼の手続きをするだけじゃなく、他の所から依頼を受け取ったりもするんですね。当たり前ですけど、あんまり見てなかったので驚きました」
「当然ではあるが、ギルドの仕事はこういう何でも屋な所がある。依頼と言うのは常に求める者が先におらねば発生しないものだ」
冒険者が先にあるのではなく、困った人、頼みごとが先にある。
当然のことだけど、ゲームなんかの感覚で、依頼と言うのはそこかしこに溢れているもんだと思っていた。
「注意しないといけないのは依頼人の場合は相手の経歴とかだ。物を頼んでおきながら精算時に難癖をつけたりする奴も居たりする。そういった問題を起こした場合は依頼を貼り出すのを断ることも時にはあるんだ。そういった判別にターミナルが使われる」
ああ、なんかターミナルにポーンと触らせないと依頼を受け取ったりしない時がある。
確認した所、ターミナルでギルド側は今までの利用歴とかのチェックを付けられるみたいだ。
当人自身が証明に使われるので、利用歴に問題がある人物は事前に弾かれるって事なんだろう。
……すり抜けとかやり方はありそうだけど、さすがにそこまではカバーしきれないか。
悪徳依頼とかの見分けをするのは中々に難しそう。
怪しい頼み事は上司に相談するってのがギルドの鉄則だ。
ほうれんそうみたいな仕組みがしっかりしている。
……ダンジョンに挑んで危険な魔物の封印を解いて国が滅ぶような事があるらしい世界だから、この辺りは慎重かな?
「ラスティの所に行ってくれたんだな」
「ええ……色々と凄い方でしたよ。エロ教官」
「その名で呼ぶな。で……お前はどんなニックネームになった?」
「クッキーですね」
「……羨ましい名だな」
ライラ教官に羨ましがられてしまった。全然嬉しくないんですけどね。
「ラスティからギルドにライディング持ちの実験に付き合ってくれる奴がいないか? と言う依頼が取り下げられているから、お前達が上手くやったのだろうと言うのは分かった。経過は良さそうで結構。アイツは問題こそあるが裏は無い。頼りにして良い」
「確かに、ニックネーム以外は割と良い人ですよね。フィリンと仲が良いですよ」
「専門家だしな。高名な冒険者はアイツに個人所有の竜騎兵を作って貰ったりして恩に感じている奴も多い。その為、発言力自体はあるんだ」
「それは……ハナクソさんから聞きましたね。ライラ教官は竜騎兵は所有しないので?」
立場的には持ってそう。
やっぱり作って貰ったのかな?
「何分、輸送に時間が掛るし、私の場合は必要な任務の際に支給されるだろうという所でしかない。アイツに頼らなくても国が作ってくれる」
ああ、持ってないんだ?
まー……ライラ教官クラスなら国が作ってくれるか。
高性能な竜騎兵とか乗ってそう。
俺もフィリンやラスティから教わる程度でしか知らない。
国の最新鋭の竜騎兵とかどんなのか知らないし、今度聞いてみた方が良いのかなー?
もしくはムーフリス大迷宮に挑む際に見に行った竜騎兵が最新型だったのかな?
「なるほど、どんな研究をしているか後でレポートに提出した方がいいですか?」
「そこに気づくとは助かるな。フィリンに頼もうと思っていた所だ。お前から伝えておいてくれ」
「はーい。まあ……バルトのナンバーが相当良かったそうで、実験に協力すると新しい兵器とかが完成しそうです」
「政治的、権力的な問題が出てきそうだが、分かった。後々確認して行こう」
「それで、このままだと俺に竜騎兵が支給される事になりますが、ライラ教官的にはどうなんですか?」
「貴様が作って貰ったと言うなら良いと思うぞ。バルトに関しては貴様を主と認定して書き変え出来なかったとしておいた。お前は妙な事に巻き込まれるから何かあっても生き残れる様にな。最悪、ラスティの所にでも預けておけばいい」
わー……ライラ教官の慈悲深さに感謝しか出来ないや。
破格の高待遇だもんな。
「期待にこたえられるように努力しますよ」
「貴様は十分に努力していると思うがな。まあ、がんばれよ」
って感じでライラ教官と話を終えて受付仕事に戻った。





