六十三話
「キラーブロブに関してだけど、どんな状況?」
「そうですね……下水道の調査が行われたのが二カ月前だったそうなのですが、かなり増えていたとの報告が出ていますね」
「二ヶ月後だから更に……って所か」
「必要数を集めるのには良いと思いますよ。キラーブロブの強さも私達で相手出来る程度ではありますし」
「そうなんだ?」
「はい。物理攻撃の効果は低いから普通の冒険者や兵士は忌避する傾向がありますが、属性攻撃が出来る手立てがあるなら、やっぱり難しくは無い相手ですね。むしろ下手な物理攻撃は危険です」
「どうして?」
「どうもキラーブロブは分裂しやすい性質をもった魔物みたいで下手な物理攻撃をすると分裂して数が増えてしまうんです」
そりゃあ厄介だ。日本だとヒトデとかその辺りの生き物に近い面倒くささがありそう。
「ブルさんにはヘルファイアを使って貰わないといけないですが、出来れば攻撃には参加しない方がいいかもしれないです。火に弱いらしく、私達の目的である新鮮な細胞が破壊されてしまうので」
「ブルにも攻撃魔法を使って貰う方向をお願いしないといけないか」
一応、ブルも魔法が使えるのだけど補助魔法がブルの使える魔法だ。
俺のスターショットも若干物理っぽい魔法の側面があるし……フィリンに頼る事になりそうな予感。
「バルトも属性攻撃は使えるか」
「ギャウ!」
光のブレスを狙って放つ事が出来る。
「ラスティさんから聞いた話によると、バルトはユキカズさんの修得した魔法に合わせた主砲を使っているって話です。一応光の主砲ですね」
ああ、俺に連動した攻撃なんだ?
「じゃあフィリンが主なら他の属性の息も吐ける感じ?」
「ギャウ……」
そう露骨に眉を寄せるなよ。フィリンが不憫だろ。
「私はライディングを持っていないので登録は難しいですよ。他にも手がない訳じゃないですが、ユキカズさんから引き離すのは酷ですって」
「そんなもんかねー……」
「ギャウギャウ!」
ガブガブとバルトが抗議する際の甘噛みを受けつつ、ブルが来るのを待つ。
やがてブルが荷車を引いてやってきた。
「ブー!」
どうやら本日の骨収集を先にしてくれていた様だ。
「おっすブル! ブルが来たって事は早速、下水道でキラーブロブ狩りをするか」
と言う訳でフィリンと話をしていた作戦を説明した。
「とはいえ、数が多かったらブルにもキラーブロブを倒して貰うから、見ているだけって事は無いから安心してくれよ」
「ブ!」
ブルがヘルファイアを力強く握りしめて頷く。
「で、ブルは他に攻撃魔法は覚えたいか?」
「ブー……」
ちょっと返事に元気がない。
それより肉体強化に勤しみたいって感じだね。
向き不向きがあるから俺も強制はしないぞ。
ブルの場合は、補助魔法と回復魔法が多少使えれば良いだけなんだし、余計な魔法が必要ないか。
「じゃあ……さっそく行こう! あ、臭いが酷いらしいからマスクとかはしっかりと着用しよう」
「ええ」
「ブー!」
「ギャーウ」
バルトもこの戦いが自身の新しい身体の材料になると分かっているのか目がキラキラとしている。
さーて……キラーブロブがどの程度強いのか試させてもらう事にしよう。
って感じで俺達は、荷車から死体を迅速に持ち帰れるように手押しのカートを三台降ろして運び、ソルインの街の下水道に潜って行った。
「うわー……確かに多いね」
下水道にある鉄格子を開けて中に少し入った所で出てきた。
俺の視界には暗闇の中で目視出来る範囲で4匹いる。
大きさは個体ごとの差が大きい。大きいのだと大型犬みたいなサイズの奴もいるし、小さいのだとこぶし大のまでいる。
目で分かる魔物名だけでもチカチカしてくる。
で……数を感覚で言うと一つ目のナメクジが大量に水路の先に居る感じと言った方がいいか。
水路内にもいるみたいだ。
「フィリン、水路に二匹、壁に二匹既にいる」
「じゃあ早速……キラーブロブ退治をして行こう」
「はい! 水路に居るのには私が魔法を使いますね」
「うん。俺はスターショットで狙い撃ちしておくよ」
「ギャウ!」
って感じで俺とフィリン、バルトが各々キラーブロブに向かって属性攻撃を放つ。
俺の放ったスターショットが先制でキラーブロブに命中! バシッと良い感じにキラーブロブが跳ね跳んだ。
「仕留めたかな?」
と、思ってキラーブロブを確認すると、ムクリと起き上がってこっちに跳ねてくる。
思ったよりもタフだ。
「ギャウ!」
「――!?」
バシュっとここでバルトのブレスが命中、ビチュッと音を立ててキラーブロブは動かなくなった。
確かに思ったよりもタフな魔物みたいだ。
「ライトニングショック!」
「――!!??」
ビクンビクンとフィリンの電撃魔法を受けて水中に居た大きめのキラーブロブが浮かび上がった。
見た感じ死んでいる様だ。
「次、行きましょう!」
「そうだね。これならそこまで――」
と言う所で気配が変わったと言うか、何かの変化を俺達は察する。
奥から何匹もこっちに向かって這ったり跳ねたりする音が聞こえてきた。
「騒ぎを聞きつけてどんどんやってくるみたいですよ」
「ブウ!」
「んじゃ、目当ての素材が群れをなして来ているんだ。こっちもお出迎えしよう! 行くぞ!」
「ええ!」
「ギャーウ!」
って感じで俺達は下水道の入り口でキラーブロブ達の討伐をして行ったのだった。
結果だけで言えば……勝てない相手じゃない。
ただ、確かに数が多いって印象だ。
こちらのLvは確かに高いのだけど、それでも魔力と言うのは限りがある訳で、しばらく戦っていたらバルトのブレスの残弾が尽き、俺のスターショットも使いきって、精神的な疲労が厳しくなった。
数が多いとフィリンが範囲魔法で殲滅してくれたし、最終的にブルがヘルファイアで無双してくれたから事無きは得たのだけど……ね。
「数多いってのは本当だね。入り口でこれだけいるとか……」
予定時刻近くまで狩っている内に次の仕事の時間が近づいてきたので、キラーブロブの死体を運び出す事に集中する事になった。
幸いにして下水道入口回りで集まってきたキラーブロブの殲滅は終わった。
討伐したと証明するための魔石も採取して別口で集めてある。
ギルドには兵士が個人的に街の清掃をしましたって報告書を書いて提出予定だ。
討伐報酬もこれで得られる。
死体の処理も、ラスティの所に運搬って事まで纏めてあるし。
「ですね……倒すよりも死体の処理の方が大変です」
「ブー」
カートにキラーブロブの死体を載せ、下水道から運び出し、魔石を取りだして荷車に載せていく。
骨を集めるのも大変だったけど、こっちはこっちで大変だ。
バルトは魔石を何個かバリバリ食った後、疲れたのか寝てる。いい気な物だ。
そうこうしている内に本日狩ったキラーブロブの下処理が完了した。
「じゃ早速納品しに行こう」
「はい! どうなるか楽しみですね」
「ブ!」
「結構な量を狩ったよね」
三人で荷車を引いて行く。
量が量故にかなり重たいが、その重さがブルにとって心地いいのか力の限り引いてくれる。
「そうですね……ただ、使える部位はもっと少ないかもしれないので、なんとも言えませんね」
「まー……そうなるよね」
加工がしやすい細胞って定義がね。
キラーブロブの死体がまるまる使えたら良いけれど、きっと違うだろう。
そう思いながら俺達はラスティの所に荷車に載せたキラーブロブの死体の山を届け、装置に放り込んで行く。
ガタガタと装置が分別して行っている。
「ああ、クッキー達、来たのね。今夜はここでご飯でも食べてく? キラーブロブなら、ハナクソがキラーブロブ焼きって料理を作れるわよ。味は悪くないわ」
「遠慮させて頂きます」
「ブー」
下水道で倒した魔物の焼き料理はさすがに食べたいって気が全くしない。
他に食い物がないって言うならともかく!
しかも制作者のニックネームが悪過ぎて尚の事だ。





