六十二話
「骨は、ソルインで出されるゴミを集めたら集まるかもしれないですよね」
ああ、なるほど。ゴミを拾ってここに持ってくれば良いのか。
ハナクソさんの話を聞く限りだと竜騎兵をこの人に作って貰えた例はほかにもあるみたいだし。
「前に竜騎兵を作った人は山奥にある肉食魔物の巣の下に転がっていたのを運んできたわ」
ウォーターグリーンオルトロスの巣を思い出す。
確かにあそこなら骨は集めやすいし、それに近い場所がこの辺り近隣にもあるのかもしれない。
「んじゃ。試しにやってみようか」
「はい。ソルインの街に何時まで滞在する事になるかライラさんに聞く事になりますけれど、頑張って作ってみましょう!」
「おー!」
「ブー!」
「ああ、もちろん。継続してバルトのコアの調査は手伝って貰うわよ」
「はい」
こうしてバルトの為、整備兵になりたいフィリンの興味の為に、俺達は手分けして材料を集める事にした。
とりあえず兵士の仕事の休憩時間に俺がバルトと一緒にラスティの研究所に来て、調査をしながら色々と教わるって事になった。
他に余裕のある時はフィリンとブルが物資の調達を兼任してくれる。
ちなみにブルは運搬の力仕事がやりたいそうだ。
力仕事好きだもんな。ブルは。真面目で尊敬するよ。
手始めに俺達はソルインの街にあるゴミ捨て場と酒場や飯屋に交渉し、食べ残しの骨を無償で譲って貰う事が出来た。
兵士って立場からゴミ収集をしたいと言ったら二つ返事でくれる人がたくさんいて良かった。
ブルに荷車でゴミの山を引いて貰いながらフィリンと一緒に骨探しに躍起になる。
「骨のゴミ収集をしていまーす。いらない骨があったら受け取りますよー」
街一つを回ると結構な量が集まって行った。
みんなゴミに関しちゃ捨てれる時に捨てるって感じみたいだ。
この世界は魔物がいるから肉が家庭で提供される事も多い。贅沢なごちそうって訳ではない。
そうこうしている内に日が暮れてきたので、一旦研究所に骨を納品してギルドで就寝したのだった。
なんか目的があって行動すると言うのも中々に楽しい感じがする。
そして翌日……俺達は兵士としての仕事をする事になった。
一応それぞれ志望があるので、兵士業に関しては合計で半日で、他は冒険者業等の関わりのある仕事をする事になる。
訓練とかね。日々忙しい事になるのは請け合いだ。
ただ……ソルインでの俺の仕事はと言うと……。
「飛空挺の厨房でお菓子作りをしていたね……んじゃ、手始めに何が作れるか見せて貰おうか」
朝の訓練、走り込みと模擬戦闘等の稽古が終わった後、朝食を取った後、ソルインの人気パン屋兼お菓子屋に派遣されていた。
この国は俺に何を望んでいるのだろうか?
俺に菓子職人に成れとでも言っているのか?
しょうがないので教わったハーブクッキーと飛空挺の菓子職人直伝であるケーキを調理して出す。
店長が俺の作ったハーブクッキーとケーキを試食した。
「この味は……!? まさか、お前に教えた人は……あの方なんじゃないか!? 弟弟子かお前!?」
「いや……別に……」
なんか知っている味らしく、店長は俺の事を随分と気に入り、厨房で菓子作りを更にやらされる事になってしまった。
「良いか? 菓子作りも重要だが、パンも作れて損じゃない。徹底的に叩き込んでやるから、存分に覚えるんだぞ」
「……はーい」
そうして言われるままに繁盛店の菓子作りの手伝いを俺はすることになってしまった。
客が途切れない店の手伝いとか……と思いつつ店内で食べる客に飛空挺で培った接客術を行い、卒なく応対する。
「いやぁ……冒険者志望の兵士が手伝いに来るって言うから不安に思っていたが、想像以上に有能な奴が来て助かったぜ。また明日も来いよ」
客の切れ間、兵士ではないアルバイトと交代で俺は派遣作業から解放された。
……ライラ教官とかからは冒険者として利用する施設側からの視線を学ばせるためにこういった仕事をするんだって話だったはず。
お菓子屋とかって冒険者が利用する店なのか……?
疑問が尽きない。そして俺の経歴がどんどん謎の方向に積み上がっている様な気がしてきた。
「ギャウ」
ポイッとお菓子屋で貰ったパンをバルトに投げ渡す。
パシッと掴んだバルトがパンをモグモグ食い始めた。
ラスティの話だと、バルトが飯を食べられるのも古代種だかららしい。
現代の竜騎兵の食事は魔石だそうだ。
時間は昼を過ぎた辺りの時間だ。
一応休憩時間って事になっている。夜には見回りと見張りの仕事を交代で行う予定を組まされているっけ。
タイムスケジュールとしては健全かな?
仮眠を取っておいたりするのが良いかもしれないが、タイミング的には丁度良いのでフィリン達とソルインの下水道清掃でキラーブロブを狩る約束をしている。
そうして目的地に向かっていると。
「なんだお前は! やろうってのか! ああ!? みんなやっちまえ!」
裏路地で喧騒の声が聞こえてきた。
……一応俺も兵士な訳だから駆けつけるべきだ。
そう思って喧騒の方に向かう。音からして曲がり角を二つ曲がった先だろう。
「うお!」
「ぐふ!」
裏路地で喧騒が静かになった?
影が僅かに見えるけどなんか倒れる姿が見える。
急いで曲がると、そこには呆然とした女性と、倒れている男たちがいた。
「これは……だ、大丈夫ですか?」
呆然としている女性にそう尋ねる。
この雰囲気からして、ブルが運よく遭遇し、嫌がる女子を暴漢から守る為に倒したって所だろうか?
「名も告げずに去っていくなんて……なんて素敵な狼男なのかしら……」
ホッと……夢うつつと言うかのように被害者らしき女性はそう呟いた。
「え? あの、大丈夫ですか? 見た所、何やらこいつらに無体な事をされそうになっていたと推測出来ますが……」
「あ、はい。貴方は……警備の方ですね。はい。ですが大丈夫……です」
どうやら女性は無事な様だ。
「では念のためにギルドに来て頂いてよろしいですか? この者達も縛って連行いたしますので」
って事で近くの店で手伝いをしている兵士に声を掛けて、暴漢たちは連行されて行った。
被害者の証言だけだと何なのだが、こいつらはガラが悪く、既にほかの店でも問題を起こしているとの事で捕まえる事が出来た。
「ギャウ……?」
くんくんと鼻を鳴らしていたバルトが首を傾げていたけれど、どうやらこんな観光地であるソルインの街にも犯罪者ってのは居るっぽい。
観光客目当ての犯罪者って事なのだろうか?
更なる蛇足なのだが、この女性は別の男性と一緒に観光に来ていたのだけど、男性の方は絡まれた所で怖気づいて逃げてしまったとか何とか。
危機一髪だったんだなと思う。
ってやり取りをしていたら、集合時間に遅れそうになっている事に気づいて急いで向かった。
集合場所に行くと、先にフィリンが待機していて下水道の地図を広げていた。
「あ、ユキカズさん。バルトも」
「待った?」
「いえ、私も今来た所です」
ちなみにフィリンがソルインの街でやっている仕事は受付業務と、浄水設備の管理手伝いだそうだ。
魔法が使える兵士って事でそこそこ良い所に斡旋してもらえているらしい。
ブルは相変わらず肉体労働、運び込まれる物資の搬入手伝いと、薪割り。
「はい。手伝いをさせられた店での貰い物」
フィリンにもパンを渡す。
「ありがとうございます。あ、これ……香ばしくて美味しいですね」
「一応人気店らしいよ。賑わっていたよ」
「ユキカズさんはそう言ったお店に縁が深いですね」
「……そうだね」
なんでこうなっちゃったんだろう。
始まりは訓練校での出来事だったのは間違いない。





