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六十話


「ああ、養成システムも搭載済みなのね。なら操縦に馴れる為にもやって置いて悪く無いんじゃないかしら?」


 ラスティさんの言葉と共に文字が浮かび上がって魔物が出てくる。

 アンダーティラノリザードと言う名前の恐竜が出現……前に戦ったっけ。

 あの時と同じ装備なら……っと、前回と同じく動かして手持ちの装備とブレスを使って攻撃する。

 一匹だけならそこまで苦戦する事無く倒せるな。


 討伐完了 1ステージクリア

 次のステージに移行しますか?


 って出てきた。

 ……ゲームセンターとかであるロボットを操作して戦うゲームで見た事あるぞ。


「今回は試しなんで」

『ギャウ』


 俺の言葉を理解したバルトがシステムを終了させる。

 練習機能付きとか……こんな事も出来るんだな。

 腕前を上げるには良いのかもしれない。


「ギャウ!」


 ニュッとコアの中でバルトが実体化して俺に飛びついて来た。

 と、同時にコアは消灯し、コックピットが開く。

 ラスティさんが何やら口元に手を当てて夢中になって端末を凝視しているようだった。


「オートヒーリング機能まで載せてる。いろんな機能が搭載されていて興味が尽きないわね。しかもこの子、フュージョンモードまで搭載済みなのね。非常に危ないから使用は厳禁ね」


 なんですかその必殺技みたいな機能。


「フュージョンモードってアレですよね。竜騎兵と搭乗者の神経を接続して反応速度や性能を大幅に引き上げるって話の」

「ええ……ただ、長期間の使用を行うと搭乗者を喰らってしまい、完全融合してしまう禁断のシステムよ」

「乗りたくなくなってきたんですが……」

「ギャウ!」


 バルトが俺の言葉に反応して頭を甘噛みし始める。

 あ、噛む力が強い。そんなに乗せたいのか! 絶対にそのシステム使うなよ!

 とりあえずそのまま俺はコアから降りる。


「当面はコアだけで反応を調べるけれど、並行してボディ作りを始めましょう。どんな竜騎兵のボディが作りたいかしら? あなた達の望む設計図を描いて欲しいわ」


 って感じでラスティさんが俺達に図面らしき物を出してくれる。


「ああ、その前にあなた達とはニックネームで呼んだ方がいいわね。そっちの方が覚えやすいし、正直……人の名前を覚えるの苦手なのよ。竜騎兵や魔導兵の名前は覚えられるのに」


 それはあなた自身の問題なんじゃないですか?


「差し当たってあなたは……名前は確かクズだったかしら?」


 誰がクズだ!

 そりゃあ打算でかなり動くし、嫌いな奴、トーラビッヒが不幸になった時にざまあみろとか思ったけれど、初対面の相手にクズと罵られるのは不快だ!


「……バカにしてます?」

「いえ、トーカクズとか確かそんな名前だったわよね。で、あなたはレズで……そこのオークはク○○○○だっけ? エロの紹介でしょ?」


 フィリンがレズでブルが名前を言ったらピー音がしそうな物に改名されているぞ。

 というか誰だよ、エロさん。


「えっと……違います」

「エロって……ライラ教官の事ですか?」

「そうそう。そんな名前だったわよね。ニックネームなら辛うじて覚えられるのよ。だからどれか好きに選んで頂戴」


 ライラ教官のフルネームはライラ=エル=ローレシアである。

 ミドルネームとファミリーネームの頭文字を合わせてエロって。

 なんとなくライラ教官が言っていた問題はあるが、悪い奴じゃないって事がわかった。

 人の名前を覚えるのが壊滅的にダメな人なんだこの人。

 で、覚えられるニックネームが最悪過ぎる。


「……わかりました」


 こういう人もいるんだな。天才って感じの人みたいだし、ここは妥協しよう。


「クッキー、ケーキ、イキリ菓子野郎、権力の犬、とかどうかしら?」

「その喧嘩買って良いですか?」


 なんだそのネーミングセンスは! 俺を怒らせたいとしか思えないぞ。

 もはや罵倒でしかない!

 誰がクッキーでケーキのイキリ菓子野郎で権力の犬だコラ!

 ピンポイントで気にしている事を言うとか天才だな!


「落ち着いてください! ラスティ様に悪気は全くないんです! ただ浮かんできたニックネームが的確にお客様達の神経を逆なでする物でしかないだけなんです! どうか我慢してください。これさえ無ければ国の竜騎兵と魔導兵の第一人者でいられた方なんで、どうか……お願いします!」


 執事がここで俺に縋りつくように止めてくる。

 ……なんかこの人が、何かで国から不遇な立ち場を与えられている理由が分かる気がする。

 きっと権力者とかにも似たように妙な名前で呼んでしまうのだ。

 アンタとか名前を呼ばない方向で行けないのだろうかとは激しく思う。


「むしろまだマシな名前があるだけ、貴方は運が良い方なんです!」

「ハナクソは気にし過ぎよ。この程度で文句なんて言っていたら何もやって上げないわよ」


 ……執事の名前はハナクソさんですか。

 ひでぇや。

 この人、よく執事の仕事続けていられるな。


「じゃあフィリンは?」


 俺がそう言うとフィリンは表情を青ざめる。


「政治の道具、嫁w、軍事マニア、ヒョロヒョロのどれかが良いんじゃない?」

「……」


 あ、やっぱりフィリンも気に障ったのか無表情になっている。

 どう考えても怒っているのが一目でわかるぞ。

 確かに、フィリンに比べたらマシだと思える名前がある。

 というか草生やすな。

 どんな発音だ。


「ラスティ様の実験に協力さえして頂ければ竜騎兵を作って頂けると言うのは冒険者の中では囁かれている話でありまして、作って頂いた高名な冒険者様の懇意もあって今の立場に居るのです。乗る技能を所有しておられるなら出来ればお断りにならない事を推奨します!」


 ハナクソさんが俺にそう苦しい助言をしてきた。


「材料さえ持って来たらある程度は融通を利かせるわね。こっちも手伝って貰っている様なものだし」

「悪くは無いとは思うのですけど、その……そのニックネームの中から選ばないといけないと」

「じゃないと呼び辛いじゃないの。どれが良い?」

「……クッキーで」

「……ヒョロヒョロでお願いします」


 フィリンはあのニックネーム内だとヒョロヒョロなんだね。軍事マニアはまだどうにかなりそうな気がするのだけど。


「後は……」


 ブルが次のターゲットになった!


「女好き二世、父親似、繁殖王者ブタキング、女コレクター辺りかしら」

「ブ……」


 うわぁ……なんかブルがこれまでにない位渋い顔をしていらっしゃる。

 ただ、非常に腹が立つネーミングなのはわかったぞ!


「ブルを不快にさせるとは失礼な!」


 俺が怒りのままにラスティを指差す。


「俺もあなたにニックネームを授けてやる! この罵倒――」

「ですから! どうかお怒りを抑えてください!」


 ハナクソに口を押さえられてしまった。

 ええい放せ! ブルを罵倒する奴はゆるさんぞ!


「ユキカズさん。自分の時は不快な顔して丁寧に怒っているって意思表明する程度だったのに、私の時は同情でブルさんの時は怒るんですね……」


 フィリンの秘めた怒りのプレッシャーが俺に襲い来る。

 う……しょうがない。ここは自重しなくては!


「ブルのネーミング、てっきりトンカツとかポークステーキとかになると思っていたんだけど……」

「オークで語られる性的なワードが多いですよね」


 くそ、的確にオークという種族を狙いうちしやがって。

 ブルが性的な騒動を起こした事なんて微塵も無いぞ! 暇さえあれば筋トレをしている健全な奴なんだ!


「あまりブルはここに縁がないかもしれないけれど、ブルはどれが良い?」

「ブ」


 ブルが俺に分かるように手で数字を上げる。

 1だそうだ。

 それでよかったのか。


「では女好き二世で良いそうです」

「このワード内でブルさんが我慢できる名前がそれなんですね」


 父親似とかはまだ我慢出来そうなワードに聞こえなくもないが。

 ああ……もしかしたら父親の事を嫌っているとかなのかもしれない。

 よくわからないブルの過去と言うか事情を垣間見た様な気もする。


「そう。じゃあこれからよろしくね。クッキー、ヒョロヒョロ、女好き二世」

「……よろしくお願いします」

「はい。お願いします」

「ブー……」


 こうして何とも言えない自己紹介が終わった。

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イラストの説明
― 新着の感想 ―
[一言] ニックネームの方が長くて覚えづらいじゃん!
[一言] メタルマックス2のバトー博士かな?
[良い点] バトー博士キタコレw バイオとメタルマックスのネタ、うまかっです [一言] 博士にニックネームを付けようとして執事に止められたのは、博士を怒らせない為じゃくて大人の事情ってやつですね。わか…
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