六話
兵役一日目。
正確には訓練校に派遣されて一日目か。
道中は滅茶苦茶大きな馬車……なんか牛ともドラゴンとも言い難い謎の魔物が引く大型の乗り物に揺られて移動した。
乗り物酔いでその日はダウンしていてよく覚えていない。やっと降りて宛がわれたベッドで寝てた。
何か乗り物酔い対策が必要かもしれない。
その後は訓練校らしき場所の近くの宿に泊められた。
で、入学式っていうのかね。訓練校の兵士達が新兵を出迎える式に招かれた感じだ。
「貴殿達が我等が国の兵士として活躍する事を期待している」
なんか代表っぽい人が演説をしていたのが印象的だったなぁ。
その後は生活用品、衣服の支給をされた。
服まで統一なんだなぁ……異世界に来て兵役……分かっていたけど軍隊に所属するんだ。
なんて思いつつ、身体測定をさせられた。
どうもターミナルっぽいアレで俺のステータスが見えるっぽい。
先輩兵士が俺を見て眉を跳ねあげる。
「ん? お前は……なんだこのLvは!?」
と言うところで上官っぽい奴が肩を叩いて首を振る。
「そいつは推薦だ。Lvは不問にしろとの指示だ」
「は!」
そんなわけで辛うじて俺は怒られずに済んだ。
とは言え、どうも兵役を受けるのに最低限のLvとかがあるっぽい。
その辺りの免除をしてもらっているんだろう。
身体測定の次は模擬試合……心得がある者は先輩と試合をする様子だ。
俺はやはり免除された。まあ、ステータスを見れば雑魚だろうしね。
で、身体測定の後はベッドへと案内される。
その途中。
「食事は決められた時間にしか出ないからいつまでもチンタラ寝てるんじゃないぞ! いざって時に敵は待ってくれないからな!」
なんていろんな時間割を先輩兵士は説明してくれる。
新兵達……人間も居れば耳が人じゃない亜人や姿が人とは離れた動物みたいな獣人って人種も居る。
で、長い説明の後に……4人ベッドとか想像していたら2段ベッドが無数に並んだ大きな部屋に一人一人名前を呼ばれてベッドを宛がわれるようだ。
「貴様等新兵は最初の二カ月はこの新兵用の部屋で寝泊まりだ! 何かあったら直ぐに報告するように!」
何か意味があるのだろうが、今の俺は察する事はできないな。
「トツカ=ユキカズ!」
「はい!」
「お前はここだ!」
そう指示されたのは角の2段ベッドの上。
「そして……出戻りのブルトクレス。お前はその下だ」
「ブー」
……声がした方角を見る。
そこには……3頭身とでも呼んだ方がよい、二足歩行の豚がいた。
足は短い、で手の方はもっと短い。何なんだコイツ?
身長は地味にあって、俺の胸くらいある。角度によっては卵みたいな体型にも見える。
耳に謎のタグが付いてる。それピアスか何か?
「プ……オークの上とか哀れだな。俺だったら臭いで鼻が曲がりそうだ」
近くに居た奴に指差されて笑われる。
え? これ、オークって生き物?
あのファンタジーの?
随分とファンシーな外見してないか?
むしろペット枠じゃないのか、コイツ。
「ブー」
もそもそとオーク……ブルトクレスだっけ? は荷物を解いてベッドに置いていく。
あれ? 尻尾がふさふさの犬みたいだ。
クルクルとした豚の尻尾じゃない。
まあ良いや。とりあえず挨拶だよな。
「兎束雪一だ。雪一が名前で兎束が名字な。これからよろしく」
自己紹介をするとブルトクレスは俺の手と顔を交互に見てから動きが止まる。
どうしたのだろうか?
で、恐る恐ると言った様子で小さなあんよとばかりの手を伸ばして俺の手に載せた。
「うえ」
近くでこっちを見ていた奴が声を漏らしている。
何か気色悪い事でもあったのか?
「ブルトクレスで良いんだよな?」
「ブー」
コクリと頷いた。
「少し長くて呼び辛いからニックネームで呼んでいい? ブル、とか」
「ブー」
頷いたのでどうやら良いようだ。
そんな訳で自己紹介を終えた後はその日の訓練、新兵の受け入れをさせられた。
重たい物を持って校庭を何周もさせられる奴だ。
「いいか! お前等訓練兵は同じベッドの奴がパートナーだ! パートナーの失敗の補佐をできず何が兵士か! さあ! 走れ走れ! 訓練兵共! まずは何にしても体を鍛えろ! そうすれば最終的に強くなれる!」
で、ブルは俺の荷物を横から取って隣を軽く走っていた。
体力あるなー……いや、Lvが高いのかもしれないけど。
俺は走るのだけで精一杯でしかも足も遅いと来たもんだ!
「お前等だらしがないぞ! もっと根性見せろ!」
先輩達の洗礼を受けて息を切らしているのは全体の二割くらいか……残りは割と平気そうにしてる。
兵役を就く前にそれなりにLvを上げている者が大半で、この程度はへでも無いんだと。
うへ……きっつー。
そういや……Lチャージって何だろう?
意識してみる。
カッと体の内側から力が溢れだした!
「おおおおおおお!」
底なしのスタミナで息切れせずに走り抜けた。
周りが滅茶苦茶遅く感じる。
スゲー便利! なんか発動したっぽいし。
「訓練兵ユキカズ……合格だ」
先輩も驚いている。
いやぁ、これが異世界人効果って奴かな?
なんかここに来て初めてのファンタジー感。
ブルはー……マイペースに荷物を担いで追い掛けてきた。
かなり速いんじゃないだろうか?
で、その後は食事、配膳までやらされたぞ。
……飯が滅茶苦茶不味い!
今まで宿で出された食事を食べていて異世界の食事も悪くないやと思っていたらこれだ。
マジで臭い飯。
周りの連中の顔も渋い。
つーか……青い謎のゼリー状の物体は何だったのだろうか。
腹を壊しそうだけど、みんな食っていたので我慢して流し込む。
その頃になって、Lチャージの効果が切れたのか突然力が抜けて足が鉛のように重くなる。
体が悲鳴を上げてるのが分かった。
ゲームじゃないがLvを急いで上げて追いつかないといけないんじゃないか?
危機感が募りつつも自由時間になった。
就寝まで思い思いに行動が許可されるようだ。
訓練校には建物の各所にいろんな施設が設置してある。
冒険者になるための設備でもあるのだろう。
図書室や談話室、さらに模擬訓練室と無数にある。
俺はターミナルの前に立ってアクセスした。
兎束 雪一 Lv1 侵食率 0.93%
所持スキル 異世界言語理解1 No:Lチャージ
スキルポイント10
昨日は侵食率が0.09だったのにいきなり増えてる!
間違いない! このLチャージってのを使うと急激に増えるんだ!
未知過ぎる謎の数値!
城の人達は異世界人独自の大気適合不備と言っていたが!
Lチャージで増えるってのはどういった理由があるんだろうね?
できる限り使わずギリギリまで我慢しよう。
ファンタジー感とか言って調子に乗っていた俺、痛すぎる。
使うならせめて危機的状況にしろよ。
さて……一日目の感想として、俺……弱過ぎだろ。
召喚された異世界人はこの世界の連中よりも強いって話だが、激しく怪しい。
と言うかスキルポイントという項目から色々と調べてみよう。
確か座学的な授業は明日からあるらしいけど、今は少しでも体の苦痛を取りたい。
この疲れは間違いなく明日、筋肉痛で動けなくなる。
何か便利な物は無いか?
「お? 結構いろんな項目があるんだなー」
異世界文字翻訳……ステップ、タックル……魔力回復力向上、イーグルアイ……オウルアイ……何だろうか?
無数にスキルがあってよくわからん。
オンラインゲームの経験はあるけど……それに当てはまるのだろうか?
とはいえ、うぐ……こりゃあきついな。
ステータスを見るとスタミナが結構危ない数値だ。
何か無いか……あった!
スタミナ回復力向上。
習得条件 クリア
どうやら条件を満たしているとポイントさえ振りこめば習得できるようだ。
試しに1ポイント使ってスタミナ回復力向上を習得してみる。
体に光を纏った気がしたけど……特に変化は無いように見える。
兎束 雪一 Lv1 侵食率 0.93%
所持スキル 異世界言語理解1 No:Lチャージ スタミナ回復力向上1
スキルポイント9
これで新しく習得したって事なんだろうけど……目に見えた効果の実感ができない。
しょうがない。スタミナ回復にもう少し振っておこう。
そんなわけでスタミナ回復力向上を4まで振ってみた。
今のところ、スキルポイント1で1Lv上げられるのかな?
お? なんか父さんが飲んでいた高価な栄養ドリンクを飲んだ時みたいに疲労が取れたような気がする。
重たかった体が僅かばかり軽くなってきた……多分。
そう思いながらスタミナの数値を見ていると目に見える形で回復している。
うむ……後は……道中でも気になる所が多々あったわけだけど、文字が読めないのは厳しい。
そういった意味で便利なスキルとかないかな?
さっき異世界文字翻訳ってのがあったから徐に1振っておく。
するとレラリア国文字と項目が出たのでチェックすると習得できた。
便利で良いね。
これで残りスキルポイントは5か……何かあった時に必要なスキルに振れるように残しておいた方が良いよね。
一応確認……剣とか斧とかその辺りの修練スキルはある。
魔法の類は……無いのかな? 見当たらない。