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五十九話


「本来は相性とか互換性とかあるのですけど、ここは余計なので省きますね」

「うん。で、さっきの会話から推測するに、仮に竜騎兵が撃破されても、情報を持ち帰れるようにあんな姿に成れるって事で良いんでしょ?」

「ユキカズさんは理解が早いですね」


 まあ、ここは日本のアニメとかパソコン関係からの知識からだけどね。

 ブルは良くわからないって感じで呆然としてる。ちょっとその姿は可愛い。


「私達の技術で再現された竜騎兵の場合はバルトみたいに小型のドラゴン姿にはなれないんです。何が理由か分かりませんが」

「それはこっちで説明出来るでしょうね」


 そう言ってラスティさんは答える。


「竜騎兵が何を想定して作られているのかって言うと凶悪な魔物に相対するためなのはわかるわよね?」

「はい。人では敵わない大型の魔物を相手に戦うってことですよね」


 迷宮でバルトに乗って戦ったから分かる。

 俺の場合は謎の武器で戦えはしたけれど……普通の人間であの魔物たちを倒すのは相当骨が折れるはずだ。


「そうなのだけどね。竜騎兵と言うのはその製作途中でいろんな問題を抱えていたりするわけ。土台、強力なドラゴンを人間が意のままに操ろうってのが難しかったのでしょうね」


 そりゃあ……異世界でロボット、じゃなくてゴーレムを使って戦う魔導兵ってのはまあ分かる。

 ドラゴンの体の中に入って操縦するってのは予想外だった。

 竜騎兵と魔導兵の違いをフィリンは俺に教えてくれている。

 魔導兵は生き物じゃないし、ゴーレムでどっちかと言うと機械が近いかもしれない。

 夢の異世界でロボットに乗れるのはロマンだね。

 ただ、魔導兵と言うのは如何せん生き物じゃないから成長するという要素がない。なので素材自体を引き上げるのが精々なのだ。

 一応、使い込んだ武器を更に強化するとかは出来るらしいのだけど、生き物に比べると若干面倒な手順を踏まねばならない。

 逆に竜騎兵は生き物である故に道具よりも早く、『成長』する事が出来ると言う長所を持っている。

 それでなのだが、魔導兵は竜騎兵に比べて搭乗者に経験値が入る……と思うだろうが実際は異なるそうだ。

 どうも魔素の染み込む仕組みとして大きい物に向かう傾向が若干あるらしい。

 この場合は、魔導兵に魔素が染み込んでしまうってことだ。

 その点で判断すると、竜騎兵が若干有利って所だ。


「それで迷宮内で見つかる竜騎兵の開発者達の痕跡を辿ると、いろんな試行錯誤の末に完成させたんでしょうね。私達はそんな竜騎兵の完成品を参考に、繁殖で増やしたり、錬金術で再現したりってやっている訳。それであなた達が連れてきた子は、製造番号が非常に良いモデルで色々と消された所が残されているの。いうなれば……古代種って感じかしら」


 おお、古代種。そう聞くとちょっとロマンがある気もする。

 って所からラスティさんの後ろに浮かぶ機材の画面が高速でスクロールしている様に見える。


「そこの情報を閲覧しても大した事ないから落ち着きなさい。って書きこみも激しいわね。相当やんちゃな子ね」


 なんか凄い事をバルトは仕出かしてないか?

 割と余裕そうに見えるけど……大丈夫なのか?


「結論から先に述べると……正確にはこの子は竜騎兵であって竜騎兵ではない存在ね」

「そうなのですか?」


 フィリンが意外そうな表情でラスティさんに尋ねる。


「ええ、第一試作バイオモンスターってのは、まだ竜騎兵って完全に決定していなかった名残なの。だからこの子なら別の素体で動かせたりするも出来るはず。だからこそ面白いのよ!」


 何やら力を込めた口調で言われてしまった。


「と言う訳だから、あなた達、このバルトって子で色々と実験したいから手伝いなさい」

「いや、そんな事言われましても……」

 俺はバルトを見て貰ってどうしたらいいか相談しにきたにすぎないのに……。

「正直、この子が最初に乗っていたボディに関してはまあ興味がないわけじゃないし、優秀な代物であるのは保証するけど、一番重要な所が転がってきたようなものね。きっとあっちじゃ何の疑問も持ってないでしょ。外装コアだけでも動かせたのでしょうし」

「国はバルトの体の方だけで解析は出来ないって事ですか?」

「そうなるわ。ただ……こっちの事情も関わるのだけど、竜騎兵の研究を踏み出すのに大きな一歩になりえる可能性を大いに秘めたコアであるのは間違いないわ」

「それは一体……」

「竜騎兵はバイオドラゴンでしょ? だけど、この子を上手く解析し、私の研究を組み合わせることで搭乗型魔物、バイオモンスター……魔獣兵を作りだせるのよ」


 竜騎兵でも無く魔導兵でも無く、新たな搭乗兵器・魔獣兵が作りだせると言う事か。


「なんか失敗が怖いのですけど」


 そんな無茶な事をして一体何になると言うのか。

 甚だ疑問でしかない。


「そんな失敗をする様なチンケな研究をしちゃいないわよ。私を誰だと心得ているの?」


 いや、知らないですけど。

 竜騎兵に詳しいって事くらいしか俺は知らない。


「最近有名な竜騎兵、ライドラシリーズの製作者ですよね。お名前は存じ上げております」

「ま、あれは実験作だけど国の連中は評価しているわね」


 業界人しか分からないネタを振られても俺には本気で分からない。

 ただ、分かるのはバルトのコアを上手く使うことで新機軸の兵器が作りだせるって言いたいのは分かった。


「ドラゴンタイプしかないのが面白みが無い所だったのよ。上手くすれば局地運用とかコスト削減とか出来て便利でしょ。この研究が上手く行けば私の権限でアンタ達に搭乗型魔物兵器をプレゼントしてあげるわ」

「ユキカズさん! これは是非とも受けるべきですよ! 私達が個人で竜騎兵に匹敵する代物を持たせてくれるんですよ!」

「作ったその場で没収されそうじゃない?」


 良い代物と言うのは権力者に没収される宿命がある気がするのだけどな。


「そんな事したら私が国に抗議してやるわ。さすがの私を無視なんて国は出来ないわよ?」


 おおう。そんな権力のある人なのかこの人。


「どうも反応が鈍いわね。しょうがないわ……一匹竜騎兵のボディを作ってあげるから、それから実験を手伝いなさい」

「そんなポイッと作って渡せる物なんですか?」

「材料さえあればね。それとどんな竜騎兵にするかとかのリクエストにもよるわよ」

「ユキカズさん! 出来る限り手伝いましょうよ!」


 フィリンも竜騎兵作りって所で目を輝かせている。


「あ、この子がアンタを乗せたいって騒いでいるわ……しょうがないから乗ってあげなさい」


 執事がキャスター付きの階段……大きな図書館とかで使いそうな奴を持ってきて、大きなむき身のコアの目の前に設置する。

 ……俺に乗れと?


「搭乗者を乗せた際の反応が見たいから早く乗りなさい。操縦は多少した事あるんでしょ?」

「……はい。迷宮から脱出するまでですけど」

「それなら結構、動けはしないけれど、乗るだけでも色々と分かるから」


 そんな訳で俺は階段で登ってコアへと一人、搭乗する。


 ピーンと……前回乗り込んだ際とよく似た感じで画面が表示された。

 ……全部赤文字なんだが。



 ホワイトパピー:グロウアップ  エネルギー残量 0% ブレス弾数 発射不能


 肉体装備


 頭 無し


 体 無し


 手 無し


 足 無し


 尻尾 無し


 翼 無し


 所持装備 無し


 武装


 無し


 操縦不能、早急にパーツ装着を求める。



 視界はオフラインって感じで真っ黒なので、コアから見える範囲俺自身の視界で映し出されている。

 そりゃコアだけなんだから何も出来ないよな?

 なんて思っていると、フッと映像が浮かび上がる。


 ――パイロット養成システム起動――

 これまでの情報からシミュレーション開始。


 で展開された光景はダンジョン内で見たフィールド……ムーフリス大迷宮25階のフィールドだった。

 装備もあの時の状態になっている。


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