五十八話
「ここですか?」
「そうみたい」
「ギャウ?」
「ブー」
鉄格子が並ぶ大きな屋敷、……いや洋館か?
なんかシャッターとか舗装された道路とかあって、割と近代的な印象を受ける建物だな。
研究所って言われても何の不思議も無い場所に来たぞ。
そこにある門で俺達は地図を見て再確認する。
それから門に備え付けられているベルがあるので鳴らした。地味に俺の居た日本みたいな近代的な仕組みじゃないか?
ゴーン! って良い音が響く。
「はい」
屋敷から初老の執事みたいな人がやってきて門の前で待つ俺たちの所にやってくる。
「当屋敷に何のご用でしょうか?」
「あ、ライラ=エル=ローレシア様からの紹介でやってきた、その部下の兎束雪一と申します。まずはこの手紙でご確認を」
俺が代表になって執事みたいな人に手紙を渡す。
一応執事って事にしておこう。
執事は俺から手紙を受け取ると後ろの蝋で押された印を確認して眉を上げてから俺の方を見る。
「しばしお待ちください」
それから足早に執事は屋敷の中に入って行き、しばらくすると何やら白衣を着た女性を連れてやってきた。
「手紙は確認したわ。入りなさい」
ガチャリと門が開いて、俺達は屋敷の敷地に入り、そのまま洋館っぽい屋敷の中へと進む。
入った直後は大きな玄関ホールの部屋だ。
何かに似ている……生物災害で有名なあの洋館を連想させるのは俺のボキャブラリーが欠落している所為だろうか?
「手紙の内容を確認したし、現物を今、目にしているけれど、竜騎兵の可変したコアと言うのはその子で良いのかしら?」
「ギャウ……」
バルトが白衣を着た女性の視線を受けて俺に飛びついて俺を盾にして隠れる。
「えー……その……」
「ああ、自己紹介がまだだったわね。私の名前はラスティ=ルモルトよ。よろしくね」
割と親しげでありつつ、なんか自信に満ちた感じに胸を張って応えた。
微笑しているその顔は勝気な女性だと印象付けさせられてしまう。
「兎束雪一です。階級は上等兵であります」
この辺りはまず自己紹介と階級説明だよな。他国の人とかに説明する場合は国名も言う必要があるけれどさ。
俺が元々居た基準とは異なるかもしれないけれど、こうしろと教わっている。
「彼女はフィリン=ロイリズ。コイツは俺の相棒であるブルトクレス。皆同じ階級であります」
「そう。わかったわ」
「そして、この子がバルト=ズィーベンフィアという竜騎兵のコアが可変したドラゴンです」
「ギャウ……」
で、ラスティさんって人にバルトを紹介する。
「じゃ、自己紹介は終わったし、ちょっとこの子を見せて貰って良いわよね?」
「あ、はい」
「ギャウウウウ!」
バルトが何故かラスティさんに見て貰うのが嫌なのか俺に引っ付いて離れずにいる。
医者嫌いかお前は!
「おい! 見て貰うんだから大人しくしろ!」
「ああ別に気にしなくていいわ。ここからでも確認出来るしね。逆にしっかりと捕まえていて欲しいわ」
「わ、わかりました」
言われるままラスティさんはバルトをマジマジと確認し、何やらコードっぽい物を持ってきてバルトに噛ませたりして確認しているようだった。
「確かに製造番号の名前との違いは無い様ね。こりゃあ非常に助かるサンプルが来てくれてよかったわ」
「サンプル?」
「ああ、こっちの話よ。具体的に言えば製造番号が50番台じゃ話にならないし、かといって80番じゃ私の求めている情報が得られないから助かるって話。なるほどねー……こんな感じに組まれているのね」
なんて言うか……バルトにコードを噛ませているだけで分かるものなのか?
「ギャウ!」
なんかバルトも疑問に思ったのかコードに何か力を入れる。
するとラスティさんの持っていた機材の画面がぶれていた。
「別に妙な事をする気は無いから落ち着きなさい。貴方の識別番号を検証しただけでしょ」
「ギャウ」
「まあ良いわ。とにかくこっちに来なさい。久しぶりに面白いサンプルが来たんだもの。相手をしてあげないとね」
って感じで研究所とも言える洋館の奥へと案内される。
バルトを見つけた迷宮の設備をなんとなく連想させる機材が所々で目に入る。
それで……大きなガラス玉みたいな物がある部屋に案内され、ラスティさんは部屋にある椅子に腰かけて俺たちの方に視線を向けた。
「さて、まずは何を話した方が良いかしら? 聞きたい事はある? どれくらい理解があるのかを話さないといけないわね」
こういう場合はフィリンが聞くのが一番かな?
そう思ってフィリンに視線を向ける。
「じゃあ、私達の中で一番、竜騎兵の事を知っている私がお尋ねしますね」
「ええ、どうぞ」
「バルトはなんで竜騎兵であるのに……こう、分離して小さなドラゴン姿に成れるのでしょうか? 私も調べたのですが、どうも詳しい事は分からない事ばかりです」
「その子の目的は試験運用だったのでしょうね。色々とテストをしてそれを次世代に反映させるための試作モデル。だからその後の確立した竜騎兵ではオミットされた仕組みがある……と言う事でしょ。前に遺跡から見つかったってモデルが居たわ」
今の竜騎兵だって似た様な構造システムはあるじゃないの。と、ラスティはフィリンに答える。
「コアの重要部品、凝縮されているから分かるはずよね」
「もしかしてメモリーコアですか?」
「正解よ。その子は試作モデルだからメモリー化する部分が大きくてそんな姿なのよ。で、小さなドラゴンに成れるのは戦闘した際に、仮に敗北しても、体から分離して単独でも情報を持ち帰る為の機能って事よ」
なんか専門知識的な事をフィリンとラスティさんが話している。
俺にはよくわからない。
ただ……ロボットモノのアニメの設定とかで見た様な気がしなくもない。
「ま、それだけのコアじゃ出来る事はタカが知れてはいると思うけれど、私の推測に間違いがなければ、このコアを使用できるんじゃないかしら?」
ラスティさんがそう言って後ろにある大きなガラス玉……たぶん、コアって奴の剥き身の奴を指差す。
「そこであなたのマスターを搭乗させるからセットアップ出来ない?」
その台詞を聞いてバルトが俺から離れて剥き身のコアへと飛び出して行った。
ドプンと中に入ると同時に、バルトはコアモードに変化して大きなコアの中に溶けて消える。
ピッと、ラスティさんの机にある機材に反応が表示された。
ガシュっと……バルトに初めて乗った時の様な感じで座席っぽいのがコアの中に半透明で浮かんでいる。
「やっぱり正解みたいね」
「みたいですね」
いや、二人揃って分かったみたいな反応されてもな。
「ここまで互換性の高いコアと言うのはやっぱり迷宮で見つかる遺物なのねー……今の技術じゃ拒絶反応とか出て、乗り換えが難しい子も多いって言うのに……」
いや、よくわからないのだけど?
「えっと、コアと言うのはパーツの付け替えとかして行けるのはユキカズさん達も分かりますよね?」
「うん」
「分かりやすく言えばコアは竜騎兵の心臓にして脳の部分なんです。竜騎兵や魔導兵の操作経験を反映する有数な魔導頭脳ですね。ここがメモリーコアと言います。この部分を他のコアに乗せれば、理論上は別の竜騎兵にも今までの竜騎兵と同じ人格の子を乗せる事が出来るんです」
あ、なんとなくわかった。つまりはメモリーカードとかそんな感じの部分なんだな。
別のPCでもメモリーカードをさしてコンバートすれば使えるみたいな感じ。
で、バルトはそのメモリーカードが動いて生きているみたいな。





