五十六話
「ユキカズさんの差し入れ美味しいですね」
「ギャウ!」
「ブー」
今日のおやつは俺が作ったマフィンでした。いや、お菓子作りの先輩が今日はマフィンを作れって言うから作っただけで、余り物だよ。
アエローで作った飴とかもある。
密かに持っていたハーブティーで優雅なティータイムをしていた。
大蝙蝠の脂肪を絞って擬似バターにしてケーキを作った時は複雑な気持ちになったもんだ。
「俺は冒険者ではなくお菓子屋にさせられそうになっている気がしてきた」
「これも一種の才能だと思いますけど……」
どうなんだろう……何か間違っている気もする。
ちなみにバルトに球体になって貰って擬似的にチェックとか出来るんだけどさ。
地味に驚いたっけ。
バルトは球体モードで俺のところに収まりたがるんだよね。
あんまりさせてないけど。
「トーラビッヒの所に居た時とは別の意味で色々と忙しいね」
「そうですね。時々魔物警報もありますし」
なんて話をしていると警報が鳴り響いた。
お? 早速行くか! と俺達は持ち場に駆けだし、甲板に出る。
すると既に戦闘準備が済んでいた船員が襲撃してきた魔物を相手に戦っていた。
今回も変わらずジャイアントバットとかボムズアホウドリが来ているなぁ。
あ、なんか見覚えのない個体って……ブラウンフライアイボールが数体混ざっている。
「ブー!」
ブルが飛空挺備え付けの大砲の弾を大砲に詰めずに飛んでいる魔物相手に投げつける。
ごーん! って良い感じに魔物に当たって仕留める事に成功。
ブルって投擲修練取っているのかな? まあ、そこそこ数が居るから適当に投げても当たるか。
「スローインダガー!」
掛け声と共に奥に居るブラウンフライアイボールの眼球に、支給された短剣を投げつけて当てる。
ザクっと良い感じに命中。
「バースト……サンダーレイン!」
フィリンが魔法を詠唱して雷の雨を降り注がせる。
「ギィイイ!?」
それだけでジャイアントバットとボムズアホウドリはバラバラと落ちて行った。
今日は数が多いな。
なんて思っているとスーッと蝙蝠みたいな羽の生えた悪魔としか言い様がない魔物が何匹も甲板に取りついてきた。
ブラックガーゴイルって魔物みたいだ。
「ガーゴイルか……どうやらこの群れの本隊のようだ。早急に仕留めるぞ!」
ライラ教官の指示のもと、船員が一丸になって挑む。
とはいっても、そこまで苦戦するような相手じゃない。
「よっと! おりゃあああ!」
フックをブラックガーゴイルに当ててそのまま力任せに他のガーゴイルに当てたりして薙ぎ払う。
「スターショット!」
で、俺の隙を窺う様に飛びかかってきたガーゴイルにスターショットの魔法を放って牽制し、そのままシミターで切り裂いた。
うん。勝てない相手じゃないね。
料理経験から何処を食卓に出すかが脳裏をよぎってちょっと嫌だ。
お? その中にブラックガーゴイルリーダーを発見。
「ブル! バルト! それとライラ教官!」
俺は群れの主らしき空中に居るガーゴイルのリーダーを指差す。
「ブ!」
「ギャウ!」
俺の指示に呼応してブルが迷宮から持ち帰ったヘルファイアを取りだして駆けだし、その背中をバルトが掴んで浮かび上がる。
「ギャウウウウ!」
ブルを担いで飛んで行くバルトが無数のブラックガーゴイルの中を巧みに飛んで行きブルを空中で放り投げる。
「ブウウウウウ!」
くるくると縦回転しながらブルは勢いを付けてブラックガーゴイルリーダーに斧を振りおろして一閃!
「ギャアア――」
ブラックガーゴイルリーダーは縦に一刀両断されてそのまま落下していく。
「ギャウ!」
パシッとブラックガーゴイルリーダーに飛び付いたバルトが空中で魔石を噛みついてほじくり出し、落下していくブルを空中で掴んで甲板に戻ってきた。
「ギャア!? ギャアア!」
リーダーがやられた事を察してガーゴイル達は蜘蛛の子を散らすように去って行った。
「ふむ……リーダーを殲滅する事が出来たな。これでこの空域も少しは安全になっただろう」
そんな様子をライラ教官は平然と言ってのける。
ま、これも飛空挺の日常って事なのかな。
「投網無しでやっちまったよ」
「毎度思うけど、ライラ隊の連中はすげーな」
「オークはともかく、部下の二人ってまだ若い方だろ」
「トツカは相変わらず目が良いなー……飼育しているドラゴンも優秀だし」
なんて船員達が囁き合っている。
ちょっと誇らしい。
「ギャウ!」
「よくやったぞ」
と、バルトを撫でまわす。
バルトは嬉しそうに撫でられ、俺に魔石を持って寄越す。
これも一応物資として献上する物だ。買い取り扱いなので俺たちの評価が上がる。
「空中戦ってのも中々に馴れてきたなぁ。バルトとブルのコンビネーションはやっぱ早くて便利だ」
バルトが飛べるのでブルを担いで空を飛んでいる敵を叩きに行けるのは大きい。
俺やフィリンは遠距離で攻撃出来るしね。
「よくやったぞお前達、常にそのように行動出来るように」
「ハッ!」
「ブー!」
と、ライラ教官の褒め言葉に俺達は敬礼して応える。
とまあ、飛空挺での戦闘はこんな感じだ。
ああ、場所によっては大きな野生のドラゴンとかグリフィンとか出てきたりするらしいのだけど、その場合は飛空挺の主砲をぶっ放して倒したりする感じとか聞く。
生憎、俺たちが乗っているのは安全な空路だそうでそんなのは相手にしないけどさ。
と言う訳で休憩室にまた俺達は戻って行く。
「あ、私達の休憩時間がそろそろ終わりですね。行ってきます」
「ブー」
「いってらっしゃーい」
で、俺とバルトだけが休憩室で休む羽目に。
……暇だから接客にでも行っちゃおうかな?
バルト相手に遊んでいても良いんだけど。
なんて考えているとライラ教官がやってきて声を掛けてきた。
「調子は……さっきの戦いを見て、良いのはわかった。随分と暇そうにしているな」
「そうですね。休まされているって状況ですので」
「貴様は何を言っても卒なくこなすからな。バルトも客人達に人気だし、休める時に休ませんと体を壊しかねん」
「そこまで疲れは無いですけどね」
一応異世界の戦士って事でこの世界の人とは何か違うらしいし、スタミナ回復力向上のお陰で疲れもそこまで無い。
バルトに関しては起きてたら俺の近くに居るけど、眠い場合は俺のベッドで寝ている。
「それでライラ教官。俺に何か用ですか?」
ちなみに最近俺はフィリンに回復魔法を教わっている。
簡単な擦り傷程度なら治せるようになってきたぞ。
まだ技能としてステータス表示に反映されていないけどさ。
「ああ、一応、この客船はこの先の街が終着地点でな。次の旅へと出る訳だが、私達は乗り換えて新たな町へ一時赴任となる」
お? 新しい職場への移動になるのか。
優雅な空の旅も悪くは無かったけど、それも悪くない。
刺激の多い旅だった。
「承知しました。フィリン達にも伝えておきますね」
きっとライラ教官はフィリン達にも伝えておこうと思っているだろう。
だから先に応えておく。
「任せる。それでだな。その赴任先の街の近くにバルトを見て貰うのに向いている研究者が居る。お前はその研究者に会いに行って貰う」
「研究者ですか?」
バルトに関しては、預けられた俺からしてもよくわからない所があるもんなぁ。
フィリンは興味津々で調べていたけれどさ。
専門家にはやはりどこか遅れを取っているのだろう。
「ああ、ちょっと癖があるが悪い奴ではない。不快には思わないで接してやってくれ」
ライラ教官も知っている人なんだろう。
ただ……何だろう。この言い回し、トーラビッヒを連想してしまうのだが。
「そう不安な顔をするな。癖があるだけでお前に害は無い。問題があるなら私が対応する」
ここまで気を使って貰えるなら行っても良いのかなー?
いや、上司であるライラ教官の命令には逆らえないんだけどさ。
「大丈夫ですよ。フィリンも一緒に来るんですよね?」
「ああ、そこで竜騎兵に関しても一緒に学べる。悪くは無いはずだ」
「ギャウ?」
って訳で新たな派遣先が決まり、俺達は客船型飛空挺から降りる事になったのだった。





