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五十一話


「……どっちにしてもどこで手に入れたのかわからない品を持っているから全部没収したってことなんじゃないか? 大雑把にさ」

「くそ! 俺は何にも悪いことなんてしてねえのに!」


 いや、してるだろ。

 盗掘は犯罪だって冒険者ギルドで言われたじゃねえか。


 冒険者業に就くために兵役が嫌なら盗掘をやめて、どっか……酒場でも宿屋でも農家でもいいから住み込みの仕事をするくらいしかない。

 お願い掲示板を依頼と思って受けて小銭を稼げば冒険者気分は味わえるんじゃないか? 魔物退治で罰せられることは相当稀だし。

 魔物の巣に入って寝ている魔物を突いて町まで連れていく形で逃げたら大犯罪だけどさ。


 ……藤平が夢見る冒険者になるには、それこそ異世界の戦士として出遅れ気味だけど、クラスのみんなに合流しかないだろう。

 その方が国や周囲に文句を垂れ流すより有意義だ。

 こんな所で顔を真っ赤にして怒っていたってつまらないしな。


「ふん……まあいい。腹は立つがいつまでも騒いでいたってしょうがねえ。次は奪われないようにすりゃあ良いだけだし、人がいない所に行けばいいんだ」


 こりゃあどこかに没収された装備以外を隠しているな。

 抜け目が無いというかなんというか。

 とりあえず俺の立場から言わせてもらえば……後で報告しておきます!

 知っていたのに黙っていたら怒られちゃうしな。

 で……またも藤平は俺を舐めた目をして鼻を鳴らして尋ねてくる。


「それで兎束。お前、アレからどれくらい強くなったわけ? Lvを教えろよ」

「ん? Lv60だけど?」


 俺のLvを聞いた藤平がカーッと怒りに顔を歪ませる。


「何Lvが高いことを自慢してんだよ! 迷宮に行ってLvを上げてもらったからって調子に乗ってんじゃねえよ! お前のLvはな! 中身がねえんだ! 苦難ってのを乗り越えて、着実に努力しねえと身に付かねえんだよ!」


 ああもう、うるさい。

 食片飛ばしてくんな。


 お前……前にあった時、俺のLvを聞いて勝ち誇っていたことをすっかり忘れてるんじゃないのか?

 こりゃあ藤平の奴、俺よりもLvが下なんだな。


 見た感じ藤平は……お前、体を鍛えたりしているように見えないんだが?

 一応、ここ三ヶ月半で俺は随分と体が引き締まったし、戦い方を覚えたと思うぞ。

 ブルに始まり、ライラ教官からある程度稽古をしてもらっているし、毎日走り込みをしている。

 腹筋も大分引き締まってきた。


 逆に藤平は変わったように見えない。

 異世界に来た頃と全く同じ身体付きをしている。

 Lvは上がっているはずだから強くはなっているだろうけど、ここまで変化がないのは逆に凄い。


 後……迷宮で強い人に魔物を倒してもらって引き上げる行為……ゲーム用語でパワーレベリングって言うんだけど、そういった行為をしてもらったとか勝手に想像するのはやめろ。

 俺が幾つもの死線を越えてきたのか……いや、言ったところで藤平は認めないだろう。

 言い返すのは簡単だが、それは激しく面倒だし、激昂した藤平がそのまま逃げるのでラルオンの依頼が失敗に終わる。


「お前さ……この程度のLvで怒ってちゃキリがないぞ。異世界の戦士として国に抱え込まれた奴らなんて平均90超えらしいぞ」


 ここは俺よりも遥かに格上がいることを教えて意識を逸らした方が無難だ。


「はぁああああ!? 信じらんね! 中身の無い奴らが美味しい目に遭ってて悔しくねえのか!」


 いや、全然?

 そもそも国の要望通りに頷いた連中が美味しい思いをするのは当然だろう。

 異世界の戦士って位だし、強い魔物と戦っているんだしな。

 そういう敵と戦っていれば自然とLvも上がっていくだろう。

 というか、Lvや強さを求めていたなら最初から冒険者なんて目指さないしな。

 何よりアイツらにはあの武器が……今はそれはいいか。


「あ、お前は兵士なんかになった奴だもんな! 悔しくねえんだ。負けっぱなしで良いのかよ! このへたれ雑魚が!」


 ……多少は意識を逸らせたみたいだけど、相変わらず俺への罵倒が酷いな。

 何に勝ちがあって、何に負けがあるのやら。

 本当、その生き方、疲れないんだろうか?


「くそ! 俺だってな! すぐにLvを上げて強くなるんだよ! バカにすんじゃねえぞ!」

「してねえだろ。その件とは別で、お前に良い話を持ってきたから聞け」

「んだよ。兵士は良いとかだったら聞かねえぞ。そんな三下業はしねえよ」


 本来、この世界の人が特に後ろ盾が無い場合に冒険者になる方法を三下はないだろうに。

 むしろ手厚い制度で守られているんだぞ。

 そりゃあ結構命の危険があったりするし、いざって時は国民を守るために率先して前に出ないといけないけどさ。

 感覚的には警察に近いか。


 場合によっては冒険者らしいこともできるんだぞ。

 賞金首を狩ったりさ。

 うん、大変だけど冒険者っぽい所は十分ある。


 ……ただ、藤平はきっと理解しないだろう。

 理解してほしいとも思っていないけどさ。


「実は国の依頼でお前と戦った冒険者が、お前の強さと才能を見込んで仲間としてスカウトしたいんだとさ。いきなり話しかけたら警戒するって思って俺に仲介してくれと頼まれた」

「なに!?」

「待遇に関しては詳しくは話し合ってくれとしか言いようがないが、準冒険者として、現役冒険者から教わりながら活動できる。盗掘とかそういったしがらみを気にしなくてよくなるんだ。どうする? 話を通すか?」


 嫌ならいいんだぞ。

 と、俺は暗に伝えながら藤平に尋ねる。

 すると藤平は腕を組んで胸を張りながら偉そうに頷く。


「お前がそこまで言うなら、その話……聞いてやろうじゃねえか」


 なんで偉そうなんだよ。

 本当だったら頼み込んだりするんだぞ。

 飛野を思い出せよ。

 アイツも準冒険者だろ。


 本当に面倒な奴だなぁ……。

 コイツと話をするくらいならライラ教官のスパルタ訓練の方がマシだぞ。

 こう、精神的な面倒臭さが肉体的つらさを上回ってきた。


 だが、俺はトーラビッヒのパワハラを経験した男。

 藤平程度の精神攻撃など、もう痛くも痒くもない。

 表情は普段のまま内心ではへらへらできる程度には精神強度が増しているのだ。


 そうだな……今度飛野やクラスメートに会ったらコイツの話をして、笑いの種にしてやろう。

 共通の話題になるだろうし、遠くで見ている分には笑える奴だからな。

 要するに、真面目に相手するだけバカってものだ。


「はいはい。わかったよ」


 というわけでそっとラルオンの方を見て手招きする。

 呼ばれたことを察したラルオンが俺たちの方にやってきて、俺の隣に座った。


「YOUは話を聞いたかな? 俺の名前はラルオン=リトース。冒険者だ。この前はどうもだZE☆」


 もしかして、この喋り方って俺がそう聞こえるだけなのかな?

 藤平がラルオンを見て少し不安そうに俺の方に視線を向けてきた。


 ああ、お前でもそんな顔をするのな。

 気持ちはわからなくもない。

 ライラ教官とラルオンだったら俺は間違いなくライラ教官の方を選ぶ。


「藤平秀樹だ」


 で、藤平はラルオンに視線を戻して自己紹介する。


 ……。


 …………。


 ………………。


 いや、何か言えよ。

 準冒険者として、これから何をさせられるのか、とかさ。

 その交渉だろうに。


 ラルオンは藤平が何も聞いてこないことを確認したのか、口を開いた。


「ヒデキ、この前のファイト、実にクールだったZE。それを見込んでYOUを俺の配下としてスカウトしたい。まずその動きの良さ、判断力、才能。磨けば誰もが一目置く冒険者にだって簡単になれると俺は信じてるYO!」


 ラッパーかな?

 こう、このふざけた口調をせずに真面目に答えてくれれば楽なんだけどさ。

 それともそういう言動をすることで油断を誘う作戦とかなんだろうか?


「お……おう」

「で、俺の配下になれば、国から報酬で貰ったお前の装備を返すんだZE! 盗掘は犯罪DA・KE・DO! これからは合法になるんだZE。どうだい? 俺の下でがんばって見る気はないかい?」


 装備の返却と聞いて藤平が身を乗り出した。

 しかも才能とかヨイショされているわけだから悪い気分にはなってない感じだ。

 国のヨイショと何が違うのかは不明だが、結構単純なんだな。


 なるほど、コイツを扱うにはこうやって持ち上げればいいのか。

 微塵もやる気は起きないけど、凄いです藤平様ーーとか言っているだけでちょっとしたおこぼれがもらえるかもしれないぞ。

 微塵もやる気は起きないけどな!


「そ、そこまで言うなら少しくらい群れてやってもいいかもしれねえな。しっかりと俺に教えろよ」

「OK! 良い返事を聞けて良かったYO! 差し当たってヒデキ、YOUのポジションは俺の配下……準冒険者ってことになるんだZE」


 そう聞いて藤平の眉が少しだけ上がる。

 まあ、なんていうか、誰かに使われるのを嫌いそうだもんな。

 もしも異世界に召喚されなかったら将来どうするつもりだったんだろうか。


「本当ならYOUの才能があれば配下じゃなくても良いのだYO! でも、それだと国が認めてくれないから我慢してくれYO!」

「そ、そうか? よくわかってるじゃねえか」


 上手い!

 さすがは現役冒険者なのか?


「ヒデキなら準が抜けるのも一瞬だYO! これからびっしり教えるから、成長してくれよNA!」


 チェキラ! って感じで両手を揃ってピストルみたいにして藤平を指差すラルオン。

 しかし……この人の下で準冒険者をするなら俺は兵役で良いと心から思えてしまう。

 いや、悪い人じゃないのはわかるんだけどね。

 なんていうか、一緒にいるだけで滅茶苦茶疲れそう。


「わかった。これからよろしく頼むぜ」


 藤平が手を差し出すと、その手をラルオンは引っ張って両手で握手を交わす。

 うん……こう、いろんな意味で充実している感じな雰囲気だね。

 ただ、ラルオンの手は無数に傷の治った跡やタコがあって、冒険者って職業が大変で、その荒波を乗り越えてきた者だと語っている。


 なんだろう。

 ラルオンはふざけているけれど、実は凄腕なんだってわかる。

 藤平はそれに気づいているのか気づいていないのかよくわからないけど、これでもかと目を輝かせているように見えた。


「それじゃあ早速一緒に来てくれYO! 装備を返却して、これから色々と教えていくからYO!」


 サッと立ち上がったラルオンに誘われて藤平がついていく。


「そんな訳で、ユキカズ。今回はありがとうだZE☆」


 ピーンと報酬の銀貨を指で弾いてラルオンは去っていく。

 その後を藤平がついていく……前に俺の方にやってきた。

 なんか勝ち誇った顔をしてんな。


「これが選ばれた者とそうでない無能な国の犬との違いだぜ。そのことを正しく理解しろよ、負け犬。努力っていうのはな、見てる奴は見てるんだ。わかったか? じゃあな」


 何言ってんだ、お前。

 そんなにも俺に勝ち誇って楽しいのか?

 というか準冒険者になった程度で偉いと思ってるなら、飛野はお前の先輩になるんだぞ?

 三ヶ月半は早く冒険者になっているんだしさ。


 そもそも新米準冒険者なんて世間の評価や立場からすると俺より遥かに下なんだが……わかっていないだろうな。

 新米警官と自称探偵見習いくらい差がある。


 とは思ったが、ここでそう言い返したら間違いなくシャウトするだろう。

 そうなったらより一層面倒になるし、ラルオンが困るしなぁ……。

 まあ、言い返さずに不快そうに邪険にするのが無難か。


「それじゃあ選ばれた藤平様にはクッキーの代金を――」

「国の犬は大変だなぁ! じゃあな! もう俺に話しかけるなよ! 俺の冒険者ライフが始まるぜー!」


 俺の請求を意図的に無視したいらしく、意気揚々と藤平はラルオンの後をスキップしてついていった。

 相変わらず疲れる奴だった。


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イラストの説明
― 新着の感想 ―
[一言] 彼を出すと読者がへらない?
[一言] 結果出してる主人公より犯罪者の方が優遇されるのはきつい。
[一言] 結果だけ見ると反省ゼロで盗掘有耶無耶になって装備帰ってきた挙句に有能冒険者の従者にまでなるドチャクソ高待遇で読者への精神攻撃がヤバい
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