五十話
「くそっ……ふざけんじゃねえぞこの野郎……くっそ!」
「お? そこにいるのは……おーい。藤平ー」
ぶつぶつと兵士の詰め所から追い出されて不快そうに城下町を歩く藤平に自然を装って声を掛ける。
ちなみに藤平が既に詰め所で身ぐるみを剥がされたことに気づいて、シャウトして怒りに任せて出ていったと報告で聞いている。
ははは、相変わらず下品な奴だな、とか思わなくもないが今は仕事だ。
「お前は兎束!?」
俺の顔を見るなり、居心地の悪い顔をして視線を逸らす。
なんだその反応。
会いたくない奴に会いましたみたいな反応だ。
まあ俺に対して奢るとか言いながら自分の分しか払わなかったり、と碌なことをしていないからだろうが。
「どうしたんだ? 随分とスッキリした格好をしてるけど……」
「んだよ、んなこと聞いてどうすんだよ?」
いや、お前が自慢していたことなんだが。
それが無かったら普通聞くだろ。
この手の自慢するのが何よりも好きな奴の思考は理解しがたいな。
「まあいいや。せっかくだしな……前回と同じく、そこらで茶でも飲むか」
「は! 俺はそんな無駄な事に金を使う気ねーぞ」
「……今回は俺の奢りで良いよ」
ぎゅーっと藤平の腹が鳴る。
「本当か? お前がそこまで言うなら付き合ってやってもいいぜ」
コイツは本当に上から目線でしか話ができないのな。
呆れて物も言えん。
そんな訳で藤平を連れて近くのカフェ……。
「こっちの店にしようぜ!」
と、高そうなレストランを藤平は指差す。
奢りだと高い店を指定しようとする奴だったとはな。
知れば知るほど、距離を置きたくなる。
それが藤平という人間だ。
これがブルやフィリンだと話は違う。
ブルは安い方を望み、フィリンは俺に合わせた店を選んでくれる。
彼らは得がたい貴重な友人なんだと実感した。
それに気付かせてくれたという意味では藤平に感謝してもいい。
高い店では奢らないけどな。
「俺の財布を考えろ! そんな店で奢れるほどの金はねーよ!」
「はぁ!? 奢るって言ったじゃねえか!」
まったく……人をなんだと思ってやがる。
依頼だからラルオンが出してくれるけど、不自然じゃない範囲で出さないとおかしいだろ。
「じゃあお前が出せ。決定権は俺にある」
「チッ! ケチ臭ぇ」
本当、コイツと同郷だって思われるのも不快になってきた。
けど我慢だ我慢……何か問題を起こされると俺が困る。
そんな訳で前回と似た様なカフェに座り、茶と菓子……それとサンドイッチを注文。
そういや異世界だけど似た料理はあるんだよな。
品が来ると藤平がすぐに手を伸ばし、食べ散らかし始めた。
ムッチャムッチャクッチャ!
と音を鳴らしながら食べる藤平。
汚いなー。
本当、コイツと同郷だって思われるのも不快になってきた。
などと短時間で同じ感想を二度も抱かせる凄い奴だよ、お前は。
「なあ兎束! 信じられっか? この国、俺が人から貰った物を没収しやがったんだ! 許せねえよな!」
食いながら喋るな! 食片が飛んでくるだろ!
なんて不快に思いつつ藤平の話を聞く。
貰った……ねえ?
奪ったんじゃないのかと疑いたくなるが、これは藤平の大ボラだな。
罪に聞こえない範囲で説明して、同意してほしいとかそんな感じだろう。
「くれた奴が奪われたとか言ってお前の装備を盗ったのかもしれないがー……」
「だろ? 俺は悪くねえよ! ダンジョンで倒れている奴を助けて、その報酬に貰ったんだからよ!」
それは無断で?
咄嗟に言いそうになったのをぐっと堪える。
「挙句、宝を盗掘だって没収しやがったんだ! ふざけるんじゃねえよ! 俺が見つけたんだ! 俺の物なんだよ!」
これは兵役に就いてこの世界のルールを知っている俺が答えても良いところだろう。
言いたいことはわからなくもないが、ルールはルールだからな。
「ダンジョン内の物は基本的に統治をしてる貴族の物ってルールがあってな……冒険者の資格が無いと盗掘として罰せられるんだそうだ」
「ダンジョンで見つけた物だって誰が証明するんだよ!」
「その辺りはダンジョン探索を行った後にギルドに報告する決まりになっているんだ。何が見つかったのか、とかな。報告を怠ると位の高い冒険者でも罰せられる。希少な品じゃないならそこまでじゃないらしいけどな」
見つけた宝って言ったらその辺りを想像するだろう。
それともダンジョンでもない所に宝箱が転がっているとでも言うのだろうか?
「まあ、盗賊を倒して巻き上げたとかなら……誤魔化せるか」
「だろ?」
いや、お前が見つけた物って言っただろ。
二転三転している。
盗賊のアジトで見つけた宝とでも言う気だろうか?
だが、その場合、盗賊はどうしたんだってことになる。
「とはいえ、それも元は盗品だしな。勝手に使うのはそれはそれでな……結局は盗賊と一緒に国に通報して分け前を貰う手順が必要なんだ。労働の対価で宝がもらえるんだよ。高過ぎるならこっちが金を払ったりしないといけない。出さない場合は査定に響く」
生き辛いって意味だとこの世界はゲーム的な生活はしにくいのかもしれないな。
まあ、盗賊からの物品没収は美味しいとか座学で聞いたけどさ。
相当希少な代物でない限り、盗賊を捕まえた者が所持する権利を得るらしい。
貴族の家宝が盗まれた~~みたいな特殊なケースとかだと持ち主に返還されるそうだけど、その場合でも取り返してくれたお礼が出ることもあるそうだ。
査定に関しても、それ以外で納品をしていると目を瞑ってもらえたりするそうだ。
評価値って感じかな?
最高が100だとして宝を着服するとマイナス1みたいな感じで下がる。
献上すれば上がる。
ああ、献上した際はもちろんお金はもらえる。
その差引を上手く使って金を稼いでいるんだな。
「何でもかんでも国、国、国! 利益を吸い取る腐りきった所じゃねえかよ!」
そりゃあ民あっての国であり、世界だ。
人の世の中で生きるには国という集合体に属して、そのルールに従わねば罰せられるのは当然のことだ。
それが法ってものだしな。
でなければ……今こうして安全に店でご飯を食べられるのも国が悪人や魔物から街や村を守っているからに他ならない。
恩恵を受けているのだからその分の利益を献上しなければいけないだろう。
そうしないと国としての運営ができなくなる。
もちろん絶対に不正が無いとは言わないけどさ。
だが、少なくもルールを守っているうちは利益の方が多いのが国ってものだ。
「……ちなみに管理というか、人里から近いダンジョンは民間人が入らないように見張りの兵がいる。盗掘はお勧めしないぞ」
座学で教わった。
人里から離れていて見張りを立てるのが大変だ、とまた別の話があるんだけど……それは黙っておくか。
尚、未発見のダンジョンを発見した場合は報告の義務があって、調査はその後になる決まりだ
発見者にも少なくない報酬が発生するのだが、侵入は禁止されている。
ダンジョンは利益になるが、同時に害を発生させる可能性もあるのだから、国として当然の判断だな。
しかし……藤平の奴、これだけ盗掘をしておきながらこの国のルールを知らないとは恐ろしいな。
……このまま黙るとうるさそうだから、逃げ道を作っておこう。
「まあ、前にお前が言っていたラビリンスフィールドなら別だけどさ。それも場所によっちゃ報告するのが無難なのさ」
例外というか微妙に政治的な関係でグレーなのがラビリンスフィールドだ。
ここを領地とするのは厳しい所があるらしい。
そんな所で見つけたら……まあ、文句も言い辛い訳で。
それでも屁理屈的な制度があって、場合によっては冒険者は献上しなくちゃいけない。
でないと、いざって時に対応できないからな。





