四十九話
「た、ただいま確認致します」
手元の機材に冒険者カードをかざして受付が応じる。
「こちらの依頼でよろしいでしょうか?」
受付が羊皮紙をペラっと出す。
ライラ教官はその依頼書を確認してから頷いた。
「ほら、お前の依頼だ」
それで渡された依頼なんだけど……?
「紹介の依頼? 詳細は依頼人と話をして確認って随分とアバウトな……」
「まあ、この手の依頼はないわけじゃない。込み入った事情だったり、詳しく書き込むのは憚られる案件だったりと様々だ。だが、報酬の確認だけは怠るな」
「あ、はい」
言われて報酬欄を確認する。
後払いで……銀貨1枚。
違約金は無し。前金も無し。
「依頼を受けるか否かは依頼人から話を聞いてからでよろしくお願いします。それではこの札をお持ちになって、依頼者の所へどうぞ」
「はあ……」
で、渡された札、整理番号が書かれた奴を確認する。
まあ、依頼人と話をする場合は必要になる代物ってことか。
個人を指名する依頼ならともかく、特定の技能持ちが来るのを待っているとかの場合はいつまでも待っていられないから依頼を受けた人を指定した場所に来るように呼ぶための品なんだろう。
この札はその証明のための合図みたいな感じ。
「番号札……242番」
「貴様が話を聞いて判断しろ」
「は、はい」
なんか緊張してきたな。
「ギルド内にいらっしゃるようなので、放送で呼び出しましょうか?」
「いえ、大丈夫です」
受付の善意を丁重に断り、俺は番号札を持って羊皮紙に書かれた相手が待っているギルド内の休憩所に向かう。
待ち合わせって感じでいろんな人が思い思いに休んでいる。
うわ……なんだあれ?
一目でヤバイ奴というか、凄く目立つ人物を発見。
パンクファッションって言うのか?
色黒の肌で黄色い髪の毛がトゲトゲしていて、妙な光沢のあるサングラスを付けてる。
しかもガムっぽい物を噛んでる……異世界でもあんな格好の奴がいるんだな。
いろんな意味で一番やばそう。
「番号札242の札を持った依頼人の方ーいませんかー?」
札を掲げて依頼者って人を探す。
すると……。
「おー! 俺だYO!」
さっきの一番やばそうな奴が立ち上がって俺と同じ番号の札を持って近づいてくる。
ここで俺が取れる選択が三つ浮かんだ。
話を断る。
話を拒否する。
話を拒絶する。
「申し訳ありません! お断りします!」
「ちょ――ちょっとYOU! ストップ! 落ちつけYO-!」
「いやいや、申し訳ありませんが貴方様のような方とどのような仕事をすればよいのか全く見当が付かないので、この愚かな兵役三カ月半の兵士には身に余ることです。さようなら」
「早口で逃げようとしなくて良いYOU!?」
いや、ホント貴方はどこからきた異世界人ですかね?
「こんな逃げ方をして、君の上司は許してくれるのかNA?」
と、依頼人はそう言ってライラ教官の方を指差す。
当のライラ教官は凄く微妙な顔をして俺を見ていますが?
あれなら断っても許してくれるぞ。
「きっと許してくれると思いますから、どうか放してください!」
「まあまあ落ちついて! せめて話くらい聞いても損じゃないYO!」
「聞かれたからには断ることは許さないって話じゃないですよね?」
ライラ教官に全力で、震えるチワワの目で助けを求める。
今度この目のやり方をブルに教えよう。きっと似合うぞ。
めっちゃ呆れた目でライラ教官が見てる。
ちなみに後で、あの目はなんだと注意されてしまった。
「そうなったらすぐに上司に相談に行っていいYO! 大丈夫だから!」
「わ、わかりました」
そんな訳で俺達は向かい合うテーブル席に移動して双方見合う様に座った。
「俺の名前はラルオン=リトース。冒険者だ」
そう言って身分証明とばかりに冒険者カードを俺に見せる。
冒険者だったのか……あまりにも個性的な外見のせいでヤバイ人にしか見えないYO。
裏組織のバイヤーだYOとか言った方が自然だよな。
とはいえ、名乗りは普通だった。
「えー……俺の名前は」
「知ってる。ユキカズ=トツカだろ? 君がどんな経緯で兵役に就いているのかも耳にしてるぜ」
俺は警戒を強めると、ラルオンという冒険者は上目遣いでサングラスの隙間から俺を見る。
「ああ、別に警戒しなくていい。俺はライラと同類だYO。BOYが遠征で何かに巻き込まれたことに関しちゃ同じくらいしか知らない」
「はあ……」
嘘か本当か怪しいが……何かあったら近くで待機しているライラ教官に助けを求めればいいのか?
「俺もその程度のことしか知らない。YOU-OK?」
俺はピンとこない様子で頷く。
「でだ。BOYにちょっと頼まれてほしい仕事があってこうして依頼を出したわけよ」
「何が『でだ』なのかわかりかねますが……なんですか?」
そう尋ねると、かなりふざけた態度だったラルオンは背筋を正して真面目な表情で腰掛ける。
兵役三カ月半の感覚から脊髄でこっちも座り直してしまった。
あ、何か笑みを浮かべられてしまった。
「しっかりと兵役がんばってんだな。何より何より……じゃあまずは話をしよう」
ライラ教官もそうだけど、俺が緊張というか及び腰になるのをどうにか正そうとする姿勢が、先輩としての余裕を感じる。
格好はふざけているけど、冒険者なんだな。
「単刀直入に言うとだな。俺がユキカズ=トツカにお願いしたいことは、ヒデキ=フジダイラをスカウトする手伝いをしてほしいんだぜ」
「へ?」
藤平?
この状況で一番想定していなかった人物の名前なだけに、呆気に取られてしまう。
唖然としていると苦笑いを浮かべたラルオンが頭を掻きながら説明をする。
「ヒデキ=フジダイラは複数のダンジョンで非合法のトレジャーハントを行い、その品々を一人占めして活動していたようなんだぜ。だけどな、正式な資格の無いトレジャーハントは犯罪。冒険者が盗賊ってことで捕縛したんだぜ。いやー捕まえるのに結構苦労したぜ」
そんな感じでラルオンは俺に藤平を捕まえた経緯に関して説明してくれた。
藤平は……まあ、言うまでもなく盗掘をして金銭を稼いでいたらしい。
で、資格も無いのにダンジョンに居るもんだし、冒険者カードの提出に応じないわけだから暴力でその場を切り抜けたり、包囲網を突破したりして逃げ回っていた。
最終的には食事に一服盛られ、暴れている間に薬が効いて御用となった。
今は城下町にある詰所の牢屋で寝かされているそうだ。
……アホか。
犯罪だってわかっていたにもかかわらず最終的に御用になるとか。
一応、国も大目に見るとかで身ぐるみ剥いで放逐するつもりらしい。
いやいや、甘い処分じゃないか? 不自然だろ。
まあ……国も異世界の戦士枠に戻ってほしいってことなんだろうけどさ。
つまり藤平の方にもそういった誘導が掛っているわけね。
ああ……なるほど。
ラルオンが何を意図しているのかわかった。
俺と同類って扱いで、異世界の戦士枠に戻らないようにしようとしてくれているってことか。
同部隊にしないのは……冒険者ギルドでの出来事からの報告を参考にしたのかな?
あるいは同じ場所にしておくと狙われやすくなるってことかもしれない。
「話はわかりましたけど、俺は何をすれば良いので?」
「ヒデキ=フジダイラに声を掛けて、俺が勧誘したいと……準冒険者として俺のもとで働いてほしいと誘ってほしいんだ」
「……わかりました」
こりゃあ断るのは問題がありそうだな。
あんな奴だが、妙な事に巻き込まれたら後味が悪い。
しょうがない。受けるしかないだろう。
「じゃあ頼んだぜ!」
そんなわけで俺はラルオンから話を聞いて兵士の詰め所から釈放された藤平に声を掛けることになった。





