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四十八話

 ダンジョンから生還して三日程経過した。

 まあ、事件が事件だった訳で、国も俺達を仕事に復帰する事を強要なんて出来なかったんだろう。

 というか……事後の処理のために特に指示もなく、兵舎での待機を命じられたって感じだな。


 その間に王女様とライラ上級騎士……もうライラ教官になるのか。

 ライラ教官が色々と手回ししてくれた。

 まあわかり切っているけど色々と再確認しよう。


 トーラビッヒは部隊を私的に利用し、貴族の地位まで使って好き勝手していた罪と、命令無視をして隊員をダンジョンに置き去り、謹慎中に懲罰房から脱走、挙句証拠隠滅の殺人未遂で豚箱行きとなった。

 この国のどっかにある刑務所で相当重い罪で収監されるそうだ。

 もちろん国の兵とかの立場は解雇された。


 逆に俺とブル、フィリンは今回の生還劇と持ち帰った物資の評価から、正式に新兵から上等兵への昇格となった。

 同期からすると異例の二階級飛び越しでの出世だな。

 しかもライラ教官の直属となると階級以上のポジションを約束されたみたいなものらしい。

 まあ実際は様々な事情から俺達はライラ教官の部下になる訳だけどさ。


 で、俺は現在、空を飛ぶ船……飛空挺のデッキから一人、ムーフリス大迷宮のある駐屯地を見ている。


「ふう……」

「なんだ? 浮かない顔をしているな」


 ライラ教官がそんな俺を見つけて声を掛けてくる。


「あまり長くダンジョンを経験することができなかったなーと思いまして」

「アレだけ命の危機を潜り抜けて貴様はまたダンジョンに行きたかったのか!?」


 そんな呆れたようなことを言わなくてもいいじゃないか。

 あれはダンジョンで起こった遭難サバイバルであって、ダンジョンを経験したとはまた違う経験だと思うんだ。


「そりゃあ大変でしたよ? ですけど、その後また任務で潜るのかとか思っていたら即座に異動ですよ。強くなったのを自覚する暇すらないんですよ」


 まあ、なんていうのだろうか。

 大遠征中ではあるんだけど、異動の件もあって俺達は遠征組から交代する事になってしまった。

 俺達の代わりに補充要員が駐屯地にやってきて、俺達はライラ教官や王女様を乗せた飛空挺での雑務が仕事になった。

 しかも今回は高速艇で急いで国の首都へと戻るだけなので、そこまで仕事はなく、割と暇な状態。


「そんなに実感したければ私が直々に稽古をしてやるから安心するがいい!」


 やば! 地雷を踏んだ気がする。

 ライラ教官が若干青筋を浮かべて俺を恐喝してくる。


「滅相もないです! 俺はダンジョンでTUEEEEを実感したかっただけです。ごめんなさい」


 言ってから気付いたが、ライラ教官が嫌いそうな返答をしてしまった気がする。

 具体的には藤平っぽい言動とでも例えればいいのか。

 アイツは絶対ナンバースキルでそういう感覚を味わっていたはずだ。


「はあ……まあ、青い時期があるのは私も理解できる。貴様がそういった経験をあまりしていないというのもわかるがな……」


 おや、思ったよりも優しい返答だ。

 しかし、やっぱそういった自惚れる時期ってあるんだなー……とはいえ、ライラ上級騎士、貴方は幾つなんですかね?

 年齢を聞いたら怒られる流れなので、聞かないけどな。


「兵役半年未満のお前らが潜ることが許可される階層などたかが知れている。マッピング作業など苦痛にしかならないと言われる業務を進んでやる必要などない」

「それは個人差かと」


 マッピングが好きな奴がいてもおかしくはない。

 それにムーフリス大迷宮は定期的にマップの形状が変わる。

 浅い階層の場合、兵士たちが見回りをしてマッピングをするのが仕事なんだとか。

 他にも隠れた道とか調べたりと、仕事がないわけじゃない。

 隠し通路とか割と興奮するよね。

 ともかく、俺達のLvだと潜る事を許可される階層なんて精々地下10階まで。

 今の俺のLvだと楽勝も良いところってことなんだろうね。


「また妙な仕掛けに巻き込まれたいのか?」

「そんなつもりはないですよ」


 まあ、地下25階から命からがら生還した件に関しては、運が良かったというか……俺に異世界の戦士として戦わせようとする陰謀なんだろうと確信している。

 またあの駐屯地にいてダンジョンに潜ったら同様に深い所に飛ばされかねない。


「安心しろ。地方にもダンジョンは存在する。私が回る範囲で貴様らが潜る仕事が来る可能性はゼロではない。精々それまで鍛錬を続けることだな」

「はい! そうなんですけど、哀愁くらい味わわせてください、ライラ教官」

「ふむ……まあ、大冒険をした後、その地から離れる時に感じるものがあるのもわからなくはない……か」


 そんな感じで小さくなって行くムーフリス大迷宮を二人で見つめていたのだった。


「どちらにしてもだ。お前は私の直属の部下になったのだ! これからビシバシと使ってやるから覚悟するのだぞ」

「お、お手柔らかにお願いします」

「何をふぬけたことを言っているんだ。お前の同郷の者が見たら笑うぞ」


 いやー……俺の同郷の連中は言ってはなんですが、割と楽好みですよ。

 少なくとも好きこのんで兵役を受けて、理不尽な命令を受けたら音を上げます。

 異世界人に幻想を抱き過ぎですよ。


 なんて言っても無駄なんだろうな。

 期待してくれていると思って受け入れるほかない。


「まず手始めにすることだが……姫様の部屋の見張りを一緒に行う。よいな?」

「はい! で、ブルとフィリンは?」

「ブルトクレスは船の機関部で仕事を始めていて、フィリンは船内の魔法装置のチェック……研修中だ」


 うげ……二人とも仕事するの早いよ。

 ブルがしていたのは石炭みたいに魔石を船のエンジンにスコップで掘って入れる仕事をしているそうだ。

 高速艇故に燃料の消費が激しいらしい。

 フィリンは魔法を習得したので魔法兵としての仕事として研修中。

 俺もすることになりそうだ。


「そして私は暇そうにしている貴様に仕事を言いつけに来たというわけだ。じゃあ行くぞ」

「うぇーい」

「返事は『はい』と教わらなかったのか!」

「はい!」


 ……ん?

 甲板の上を青い透明で大きなガラス玉みたいな物が転がっていくのを見かける。

 大丈夫なのか?


 そう思ったんだけど、ガラス玉は不自然な動きをして船内へと転がっていった……。

 ちょうど俺達が向かう先だったのでそのまま歩いて行ったんだけど……その大きなガラス玉は影も形もなかった。


「???」


 そんな訳で俺達は高速飛空挺に乗って一路レラリア国の首都である城下町へと向かったのだった。

 で、お姫様の部屋の前で見張りとして槍を片手に棒立ちで待つ。

 ぶっちゃけ……楽だけどすげー暇な仕事だな。

 警備員のアルバイトってこんな感じなのかなー……なんて思いつつ俺はライラ教官と一緒にずーっと警護の仕事を続けた。


「トツカ様、トツカ様、お話ししませんか? トツカ様のいた世界はどんな場所なのか教えてほしいですわ」

「姫……」

「あら?」


 一番の障害は……まあ、そこそこ退屈そうにしている姫様なんだけどね。

 俺の想像とは違って、書類の束に何か書く仕事をしているはずなんだけど、優秀なのか仕事自体が簡単なのか、暇になったみたいでメイドにお茶を出すように命じて飲み仲間を探していた。

 俺は見張りの仕事をしてますから参加はちょっと……ライラ教官もそこは引かない。


「困りましたわね」

「フィリンを呼ぶのもダメですよ、姫」

「もう……言う前から潰さないでほしいです」


 かなりお茶目な人なのか?

 気にしないでおこう。

 ともかく、暇を持て余したおてんばとも取れる姫の誘惑をはね退けて俺達の船旅が……過ぎていった。




 船が船故にあっという間に首都に到着。

 その足で俺達は城へと戻ってきた。

 異世界の戦士枠で一度来た城内だけど一介の兵士として入ると、また何か違う感じがする。


 なんて思いつつライラ教官の後ろを護衛のモブ兵士として槍を持って続く。

 ちなみに姫様の活動は駐屯地の士気を上げるため、という名目で遠征だったそうだ。

 俺達も姫様の演説を聞いている。


 皆さん、がんばってください。


 みたいな演説を駐屯地の大きな建物内でやったっけ。

 竜騎兵の護衛に囲まれて、大々的に姫様が喋っていた。

 姫様は兵士達の間で人気みたいで、ちょっとしたライブ感があったなぁ。


「父上、ただいま帰りました」

「うむ、よく戻ったぞセレナ」


 玉座の間に一旦挨拶とばかりに姫様が入る。

 一介のモブ兵士として来てる俺のことを王様はわかるかなー?

 たぶん、分からないだろうなー。

 ブルみたいな個性的な姿をしてないし……ちなみにやはりブルは種族的な評価の影響で今回の謁見は外された。

 個人的な問題ではなく、周囲の貴族が俺達や姫様の弱みを握らない為……らしい。


「大迷宮の遠征……経過はどうであった?」

「はい。国の兵や冒険者の皆さまが一丸になって攻略を進めていらっしゃるようでした」

「ハッ! 姫様の演説により、兵や冒険者の士気も高まり、より進軍をできたことでしょう。此度の大遠征……素晴らしい物資の発掘ができることは間違いないかと」


 大臣っぽい奴が姫様の演説に関して絶賛している。


「そうかそうか。それは何より」


 そんなわけで割と当たり障りのない王様との謁見を終え、一介の兵士は玉座の間を退場することになった。

 色々と姫様が話をするのは俺達がいない所でって事だろう。

 ライラ教官は残ったけどさ。


 その後は……兵士の詰め所で俺達は待機する事になった。

 立場的にはライラ教官の直属故に、城勤務の兵士達も俺達に命令や見回りはさせられない扱いらしい。

 地味に居心地悪いです。


「ブ、ブ、ブ」


 暇を持て余し始めたブルが筋トレを始めたので、本の確保ができなかった俺は一緒に筋トレを始める。

 ライラ教官は訓練とか怠らないタイプだろうし、鍛えておいた方が後々楽そうだからな。


「よ……っと」


 フィリンは魔法の修練としてペンを浮かせて何か文字を描いている。

 中々やりごたえありそうだ。


 そんな割と暇な時間が続き、鍛錬を終え、椅子に腰かけて仮眠をしていた。

 そこにライラ教官がやってくる。


「全員整列」


 三人揃って整列して敬礼する。

 もはやこの動作も慣れてきたなー。


「船から降りる前に話していたが、国の命令で明日から客船飛空挺で国の各地を回ることになる。貴君たちは明日に備えて英気を養い、しっかりと準備を整えるように……とはいっても夕方に実技訓練があるので訓練場に集合」


 つまり実質夕方まで休みってことですね!

 ヒャッホー!


「では各自解散!」


 という訳で、俺達は自由行動が許可された訳なんだが……。


「あ、トツカ上等兵は話がある。一緒に来るように」

「は、はい」


 えー……休みじゃないのー?


「ちなみに退屈な姫の話し相手ではないぞ?」


 飛空挺での出来事を根に持ってませんか?

 少しばかり期待していたのでがっかり。

 フィリンが俺とライラ教官を交互に見ている。


「そんな心配せずとも取って食ったりしない。安心してくれ」

「そ、そうですよね。さすがにライラ教官がそんなことをするはずないですよね」

「……フィリン、君は私をなんだと思っているのか一度しっかりと話し合った方が良いような気がしてきたよ」


 ライラ教官が若干困ったような顔をして頭を掻いている。

 それってどっちの意味ですかね?

 性的な意味ですか?

 それとも物理的にですかね?


「トツカ上等兵? その舐めた態度は私に喧嘩を売っていると判断していいのか?」

「滅相もない!」

「ブー!」


 とまあ緊張をほぐして俺はライラ教官の案内で歩いていくことに。

 城を出てー……あれ? この方角は冒険者ギルドじゃないかな?


「トツカ上等兵……いや、今回は名前で呼んだ方がいいか。ユキカズ」

「はい」

「話というのは貴様に国からの依頼だ。もちろん依頼であって指令ではない。断る権利もあるので気楽に話を聞くことになる」

「はあ……」

「まあ……報酬もそこまでないが、そこまで大変な仕事ではないと思う」

「それって俺だけでできるんですか?」

「そう聞いている」


 なんて感じに冒険者ギルドに到着した。

 相変わらずちょっと古い感じのする建物だなぁ。

 石造りの壁が無ければ市役所とか職業斡旋所みたいだと思う。


 ギルド内は昼間だからか、そこそこ冒険者や兵士……他に依頼者で活気づいているように見える。

 そんな中でライラ教官は歩いていき、受付カウンターの前に立って受付に声を掛けつつ冒険者カードらしき物を提出する。


「いらっしゃいませ。レラリア国冒険者ギルドへようこそいらっしゃいました。本日はどのような用件でしょうか?」

「国からの依頼を受けにきた。ああ、私の部下を指名した依頼だ」


 なんとも手慣れた感じだなー。

 これが冒険者の日常なんだろうか?

 まあ……ライラ教官って騎士だし、実力主義っぽいし、この辺り詳しいだろうしな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「国からの依頼を受けにきた。ああ、私の部下を指名した依頼だ」 色々と暗躍している者がいると推測しているのに、明らかに怪しい指名依頼を受けるの?
[気になる点] トーラビッヒ、また脱獄するんじゃ?以前、どうやって脱獄したかもわかってないのに。 あのとき殺さなかったから、謎の黒幕の意のままか。
[気になる点] >トーラビッヒは部隊を私的に利用し、貴族の地位まで使って好き勝手していた罪と、命令無視をして隊員をダンジョンに置き去り、謹慎中に懲罰房から脱走、挙句証拠隠滅の殺人未遂で豚箱行きとなった…
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