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四十七話

 ……どうも色々と陰謀の匂いがしてくるな。

 何か判断材料になる物はないか。


「そこにいるのは……おーい、兎束ー」


 その声に振り返る。

 するとそこにはクラスメイトが手を振って近づいてきた。

 異世界の戦士として儀式を受けた奴だ。


 随分と身なりと言うか、装備が良いな。

 良い代物を着用しているのが鑑定スキルを所持したからか一目で分かる。

 護衛の騎士っぽいのも後ろで控えている。


 おいおい……狙ったみたいなタイミングで出てきたな。

 さっきの話を聞いたばかりだと疑うなって方が難しいぞ。


「調子はどうだ? なんか新兵が深い階層で取りのこされて命からがら帰ってきたって聞いたから兵役を受けた兎束じゃね? って話になってついでに確かめに来たわけよ。で、話を聞くと出かけたって言うだろ? この辺りにいるんじゃないかって探してたんだよ」

「ああ、そうなのか」


 俺の事もクラスメイト達はそこそこ話をしてるわけね。

 とはいえ、今、なんか国がキナ臭いって話をして良いのだろうか?

 あくまで偶然だとも言えなくもないわけだし、下手に教えて、余計な騒動になってもいけない。

 どこに目があるか分からないんだし。


「大活躍だったみたいだな。どんくらい強くなった?」

「Lv58」

「まあ、真剣にダンジョンに潜らなきゃそんなもんか。俺達は平均90は超えたぜ。まだ地下27階くらいでうろうろしてるけどよ」


 短い期間で随分と上がっていますねー。

 大丈夫なわけ?

 この世界のLv上限ってどんなもんなんだろう?


「最近は国の騎士や兵士の手助けって事で地下24階で訓練してたんだよ。上手くすれば会えたかもな」


 ……24階?

 つまり1階上に上がったらコイツらが居たのか。

 そして知り合いである以上、俺達は救助される。


 やっぱりおかしいな。

 少なくとも異世界の戦士と関わっている勢力が俺に罠を掛けた、というのは間違いない。

 ここは話を合わせておこう。


「そうか。俺が助かったのは運かなぁ。妙に良い武器があってさ」

「それってコレ? いざって時用に支給されたんじゃね?」


 そう言ってクラスメイトは見覚えのある柄を見せる。


「すげーよな。コレを使って戦うと楽勝でさ。負け無しで、ダンジョンの深い所くらいじゃないと歯ごたえがないんだ。お前も使ってみたんだろ? じゃなきゃ生き残れないだろ」


 つまり俺があの武器の使用感に酔って異世界の戦士になるために仕組んだ、とかか?

 儀式をすると侵食率も消えるらしいし、アレが自由に使えると思うと惜しい気持ちにはなる。


 けどなぁ……なんか胡散臭い。

 ライラ上級騎士やお姫様みたいな人がいるから国の全てに不信感があるわけじゃないけど、何か裏がある気がする。

 ここはちょっと揺さぶってみるか?


「そうらしいんだけど……侵食率がさ」

「へー……儀式を受けないと増えるのか。つーか、まだ儀式うけてねーの? そんなの儀式を受けりゃ無くなるぜ?」


 さも当然のようにクラスメイトは答える。


「パニックになってた連中はどうなんだ?」

「んー……もう収まってんな。これも儀式のお陰かな?」

「いやいや、何か危なくない?」

「そんな事よりもさ」


 ん?

 危ないって疑問がそんな事なのか?

 ちょっと軽くない?


「どうよ。兵役とか異世界とか、俺達も国がいろんな所を冒険させてくれてるから結構楽しんできてる。女子なんか割と贅沢に観光とかやってて、意外と異世界を満喫してるぞ」


 あー……楽しくてしょうがないって事なのね。

 で、儀式は安全のために掛けてくれた祝福だと。


 ……正しいのはどっちなんだろうか。


 たぶん、冒険者カードみたいな物も支給されていて自由にステータスを見れるんだろう。

 儀式をする事で戦闘能力が上がって、いつでもあの武器を振りまわして魔物は雑魚と化す。

 それが異世界の戦士なんだろう。

 良い誘惑だし、俺も侵食率を気にして、しかも弱い状態で戦う事への意味が見出せはしていない。


 けど、ブルやフィリンと一緒に潜り抜けた死線は……無駄な事だとは思いたくない。

 俺が儀式をしなかったから国が分かりやすいように困難を持ってきたんだとは……さ。


 俺を刺激しないように暗躍して誘導しているような錯覚を覚える。

 あの武器さえあれば生きて帰れるだろ、と渡された……のだろう。

 楽観的に考えると、だが。


「こっちはこっちで満喫しているよ。兵役だからこそ知れる事もあるだろうしね。ただ……どうも今回の事件、裏に何かいそうなんだ」

「ほー……じゃあこっちで調べてやるよ」

「助かる」

「藤平じゃないけど、そんな話を物語で幾らでも読んだしな。ま、待っていてくれって」

「任せた。何かあったらいつでも俺に教えてくれると嬉しい」

「おう! そういえばこの前に藤平が異世界十カ条……だっけ?」

「地雷十カ条じゃないか?」

「そうそうソレ! 何でも迷宮で休憩中だった騎士の魔導兵に乗り込もうとして追い出されたらしいぜ」


 相変わらずトレジャーハントか。

 他人の物までトレジャーハントすんな。


「その時の現場に居た兵士曰く、異世界地雷十カ条! ロボが出てくる異世界とか――とか叫んでたらしい」


 ロボじゃなくてゴーレムな。

 まあ確かに竜騎兵がアレだから、ゴーレムは尚の事ロボ臭するけどさ。


「相変わらずなのな、アイツ」

「あれはあれで面白い奴だよな」


 それはどういう意味で言っているんだ?

 半分くらい嘲り入ってないか?


「まあ、こんな所か。じゃあまたな!!」


 そう立ち去っていくクラスメイトを見ていると……なんだ?

 ユラァっと何かオーラみたいな影と、足元の影が一瞬何か違う物に変わったような気がした。

 が、何度も目を擦ってもさっきの変な物は見えない。


 気の所為か?


 ……。


 …………。


 ………………。


 ……どちらにしても、俺はライラ上級騎士や王女様の話は信じられるが、王様や国の事は信じたいとは思えなかった。

 来た道を戻って迎賓館へ向かう。


「おや?」


 ライラ上級騎士に挨拶をして再度王女様と顔を合わせる。


「どうしました?」

「先ほどの件、ライラ上級騎士の配下になる案で、お受けしたいと思います」


 どんな陰謀があるのかは分からないけど、国の思い通りにはなりたくない。

 けど、制度もあるし、世界の為とかで戦わなきゃいけない理由もあるのだろう。

 他国に逃げても、この問題は付き纏う気がする。


「よろしいのですか?」

「はい。このまま逃げるよりもライラ上級騎士の配下の方が安全でしょうし、仕事も張り合いがありそうだと思います。何より今回の件を思えば、無理のない範囲で協力したいと思います」


 無理と言うのは侵食率が上がるナンバースキルを使用する事を前提とした作戦とかには参加できないって意味だ。

 儀式も嫌なので受けない。

 本当に祝福された物である保証が欲しい。


「……わかりました。これからは一蓮托生ですね。ライラ、トツカ様やブルトクレス様、フィリンをしっかりと守ってくださいね」

「はい。守り、導いていきます」

「差し当たって……少々お願いしたい事があるのですけど……」

「なんでしょうか?」




 俺達は迎賓館で用意された大きな風呂へと案内されていた。

 凄い! 銭湯みたいに広い!


「よーし! ブルー! ダンジョンで話した約束の件、しっかりと楽しもうぜ」

「ブ!」


 王女様に貸切の風呂を頼んだんだ。

 ブルと一緒に入ろうと思ってさ!

 ちなみに男女で風呂が分かれていて、フィリンも女湯に入ってるぞ。


「背中を洗うぞー! ほら、何前を隠してんだよ」

「ブー!?」


 ややハイテンションでブルのタオルを奪い取る。

 ふむ……思ったよりも大きいね。

 やはり雄と言うか男で安心だ!

 これがオークの血って奴だろう。

 ゴシゴシとブルの体を洗いつつ、ブルに体を洗ってもらう。

 仕切りの向こうからフィリンの声がした。


「楽しそうですね」

「まあねー。やっぱりこういった風呂で羽を伸ばしたいって、ダンジョンじゃ行水すら無くお湯で拭っただけだったし」

「同感です」

「ブー!」


 体をしっかりと洗ったらお湯を被って汚れを洗い流す。

 後はー……と、湯船に入って足を伸ばした。

 ふー……異世界に来て初めて足を伸ばせるほどの風呂に入ったなー。

 温かい風呂に浸かり、今までの疲れがドッと出てくるような錯覚を覚える。


「よっと」


 ん?

 声に見ると仕切りの方からフィリンがこっちに顔を出していた。

 魔法で飛んだ?


「ブー!?」

「キャー!」

「なんで二人が悲鳴を上げてるんですか!?」


 だって女子が俺達の裸を見てる!

 恥ずかしいじゃないの!

 この痴姦! ってか?


「凄く楽しそうな声を出して気になっちゃったんですから、良いじゃないですか! 貸切なんですし」

「そうなんだけど、フィリンはもう少し乙女の慎みを大事にすべきだと思うよ」

「ブーブー!」


 この世界の男女の基準って分からないけどさ。

 少なくとも男よりも兵士は少ないと思うし、男女差はあると思う。


「ライラ上官に怒られそうですが、知りません! 何か仲間外れにされたような気がして嫌ですし」


 まあ、死線を共に潜った仲間だもんね。寂しいと思ってこっちを見ちゃったわけか。


「しかし……こうしてゆっくりとお風呂に入ると、やっと帰ってこられたと実感しますね」

「そうだね」

「ブ!」

「二人とも、今回は助けてくださり、誠にありがとうございました」

「いえいえ、こっちもフィリンがいなかったら帰るのが大変だったよ。魔法援護や竜騎兵の操作とか色々とさ」


 主にあの施設内はフィリンがいなきゃ上手くいかなかった事も多いし。


「そうですか? そう言われるとお役に立てて嬉しいです」


 若干照れくさそうにフィリンは頭を掻いてる。


「あの……それで、ユキカズさん。ブルさん」

「なに?」

「ブ?」

「これからも一緒の隊でしょうし……改めてよろしくお願いしますね」


 そう、フィリンは俺達に頼んできた。

 俺とブルは双方見合わせて頷く。


「うん。これからもよろしくね」

「ブー!」


 こうして俺は同じ隊の仲間達と、本当の意味で仲間に成れたような気がした。

 何があろうとも……信頼できる仲間を。

 ま、俺が異世界人だって話しても……きっと大丈夫だろう。

 機会があったら、もう話してしまおうとは思っている。

ここまでが一章です。

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