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四十六話

 で……今夜は三人揃って診療所で休む事になった。

 とは言っても割と早く回復してしまって暇ではあるんだけどさ。

 改めてLvとスキルの効果って凄いなって思う。

 ブルなんてさっそく日課の筋トレを始めちゃってるし。

 フィリンは助かった事を思い出して疲れが出たのか、まだ寝ている。


 俺は診療所内で本を探してくると、さりげなく部屋を後にして……診療所の裏手で待っていたライラ上級騎士と一緒に大きめの迎賓館へと案内された。

 その迎賓館の奥の個室で、王女様が待ち構えているのを俺は確認する。


「えっと、お招き与り光栄です。レラリア国新兵のトツカ=ユキカズです」


 とりあえず敬語で王女様達に挨拶しておこう。何か無礼な事でもしてしまったのだろうか?


「ようこそいらっしゃいました。トツカ様」

「あまり硬くならないでほしい。別に罰するために招いたわけじゃないのだ」

「は、はあ……」


 じゃあなんで俺だけ呼ばれたの?


「まずはそうですね。トツカ様に質問が幾らかありますので答えてくれると嬉しいのですが」

「な、なんでしょうか?」

「えー……まずお答え願いたいのは、トツカ様は……異世界の戦士でよろしいのでしょうか?」


 そのワードに若干の緊張が生まれる。


「異世界の戦士達が招かれた翌日の席で私は御挨拶をしましたので……その方々とよく似ていらっしゃるので、もしやと思い、質問させて頂きました」


 否定しても始まらないか。

 別に隠す理由も無いしな。


「はい。国の保護を断り、冒険者となるために兵役に就きました。いきなり連れ去られたのはありますが、それだけで優遇されるのはなんとなく嫌だったというのが理由です」

「勿体無い真似……とは言っても、戦いを強要されるとの話だ。断ったとしてもしょうがないか」


 ライラ上級騎士が理解を示してくれる。


「やはりそうでしたか。確かに……ダンジョンから湧き出す魔物の侵略に時に押される時があります。力になってもらいたいという父上の話に間違いはなく、帰還の術もダンジョンに眠っていると聞きます」

「あの……それが何か?」

「そうですね。いきなりの質問に疑問に思われるのは当然のことだと思います。まずは色々と理由があるのですが、トツカ様の兵役配属から今回の事件までの事で少々……」


 む? 何かあるのかな?

 するとライラ上級騎士が若干、溜息を漏らすようにして資料らしき物を取り出して説明する。


「兵役に就くまでは私達も疑問に思う所は無い。だが、その次からだ。不快に思うだろうが聞いてほしい」

「はい」

「まず、訓練校での事だ……訓練時の相棒が一度解雇された者であるオークのブルトクレスだった事」


 いやいや、ブルは悪くないでしょ。

 むしろ色々と俺の手助けしてくれたし。

 という俺の感情を理解はしているのか、ライラ上級騎士は頷いた。


「君が彼に信頼を置いているのは理解している。だが、解雇されたはずの彼に再度兵役の許可が突然下りた後、訓練校に来て君と組まされた……不自然にも取れる組み合わせであるのは紛れもない事実なのだ」

「はあ……」

「何分、オークという種族が人の世の中では生き辛いのも事実だ。何か問題があった際には君まで連帯責任を被って解雇される可能性は十分にあった」


 確かに、ブルは酷い立場にいるなとは思う。

 それでも人助けをやめないのは尊敬に値する。

 だけど、その所為で迷惑を被ると言うのは……確かにそうかもしれない。

 否定はせずに事実として受け入れないと。


「次に配属先……幾らなんでも問題があり過ぎるのは、被害を受けた君なら理解しているだろう」

「はい」


 トーラビッヒの所での事を言っているのだろう。

 間違いないね。

 アイツは明らかに頭がおかしい。

 あそこまで無能な上司を絵に描いたような奴、逆に珍しいんじゃないだろうか?

 なんせ藤平よりもヤバイからな。

 この単語だけでクラスメート達なら驚くと思う。


「まるで君がいつでも音を上げて元の場所である異世界の戦士に戻ってくるよう仕向けているかのようだ、と考えても不思議ではないと思う。ブルトクレスと一緒に行動していたのも加味すると、何か問題があって解雇されていても何の疑問もない」


 うへ……そう思うとフィリンと組まされたのは運が良かった……にしては二人の顔が険しいな。


「そしてフィリンも同様だ。トーラビッヒが無体な事をするのをわかっていて、配属したとしか思えない人事だ。その点で王女と私で両方調べたが、どうもキナ臭くてな」

「……偶然じゃない?」


 俺の問いに二人は頷いた。


「フィリンはアレで頑固な所があってね。あまり踏み込んでほしくはないが……ある意味、おてんばが過ぎている部分もある。今回の件である程度自重してくれるとは思うが……夢を壊させたくはないのだ。この国で兵役を受けてくれたのだから」


 フィリンにも何かしらの事情があって、国から出て兵役に就いている。

 その夢を邪魔したくはないけど、今回のような案件に関しては国際問題にもなりかねない。

 難しい話だな。


「我が国が他国と同盟を組んでいる事を快く思っていない勢力がいるのも事実です。先ほどの件でも分かっていただけたでしょうが、正体を隠して他国で兵役に就いていた王女が無体な事をされたと明るみになった際、情勢はどうなるでしょうか?」


 同盟が嫌な奴からしたら良い感じに拗れそうだ。


「随分と、嫌な空気ですね」

「そういう事だ。そして今回の事件だ。まるで何かある事を前提に私を先発隊に行かせ、命令通りに道を進むよう指示をしていたにもかかわらず、トーラビッヒは命令違反をしてダンジョン内の隠し通路内で罠に掛った。その罠に関しても指摘する点はある」

「なんですか?」

「一般的に転送の罠を敷いたとして……精々2階上下する程度なのだ。地下9階から地下25階など、まずあり得ん。希少な階層貫通の仕掛けが施されたとしか思えない」


 人為的な問題として仕組まれていた……?


「で、お誂え向きに積み荷の件だ。私達が押さえる前に君達が献上した品の中から先に徴収されていた。積み荷の中身は君達の証言でしかこちらも把握していない」

「アレ? しかるべき輸送部隊に運ばせたんじゃ?」

「そうお達しが出ていたのだ」


 なるほど。

 そう……まるで俺が手に取って、危険な階層の敵を相手に戦う事がわかっていたかのように、だと。

 確かに随分と都合の良い道具が都合の良い場所にあったもんな。

 言われてみればおかしい。


「しかもだ。トーラビッヒの証言によると、罠に掛る際に開けた宝箱に目当ての品……マジックシードがあると酒場で話をしたそうだ。その者に関しても調べたが、架空の貴族であったよ」


 もしかしてこの街で酒場で話をしているのを見た時か?

 うわぁ……ありがちな展開じゃないか。

 もっと踏み込んでおくべきだったか?


 いや、ここまでする連中だ。

 どっちにしても俺が罠に掛かった可能性は高い。


「これらの様々な疑問から、こうしてトツカ様に話をさせていただく場を設けさせていただきました」

「……ライラ上級騎士と王女様は何をどうしようと?」

「まずは王である父上に相談しようとは思っていますが、何分……私の話を聞いてくださるかわかりません。ですが、私のできる範囲で調査をしようと考えています」

「犯人が国内にいる者なのか、国外の者なのか分かっていないというのもある。前者だとは思うが特定できていない。できれば王ではないと思いたいところだが……」


 ライラ上級騎士が王女様の方を盗み見ると分かっているとばかりに頷かれる。


「ありえるかもしれませんね。たとえ犯人が父上だとしても、このような事をするのは間違いだと私は思います。しっかりと釘を刺しておきましょう」


 おお……なんとも頼もしい返答だ。

 良いお姫様って感じ。


「次に、新たな部隊配属になるだろう君達を私が気に入ったとして、専属の遊撃隊として引き入れようと思っている。なに、今回の活躍を見れば文句は付け辛い。既に私が目を付けていた実績もあるから不思議には思われないだろう」


 ライラ上級騎士お抱えの部隊に配属ね。

 まあ、それなら悪くないのかな?

 少なくとも見ず知らずの第二のトーラビッヒに比べたら破格の待遇だろう。


「ただ、まあ、私も色々と飛び回る仕事をしているから忙しくなると思う。それは覚悟していてくれ」

「逆に一箇所に留まらないでしょうから不穏な者達も困ると思いますわ」

「国の命令で妙な依頼が来るかもしれないのをどう対処するかがネックになりそうだがな」


 なんて様子でライラ上級騎士が考え込んでいる。


「それで俺はどうしたら?」

「その点で質問をさせていただいています。トツカ様はどうされたいですか?」


 ぼんやりと浮かんでくるのは、国は俺に異世界の戦士として戦ってもらいたいから暗躍しているんだろう、というところか。

 フィリンの件は……どうなのかは問いたいところではあるけど、誰が犯人かは分からない。

 王様には王女様が探りを入れるみたいだし……。


「このまま兵役を続けるか……辞めて異世界の戦士になるか。トツカ様さえ良ければ他国で生きやすいように推薦状を書き、他国へ送る、という事もできますよ」


 ここでまたもや、冒険者にさせろよ! とか頭の中で藤平がしゃしゃり出てくる。

 だから冒険者の立場ってのは国から委託された国民って事だろ。

 国がキナ臭いんだから資格剥奪なんて容易くできるだろ。

 仮に王女様の一筆があってもさ。


 ……。

 返答に困っていると王女様とライラ上級騎士は話を切りあげる。


「そんな直ぐに決めてほしいとは申してはおりません。じっくりと考えてくださって良いですよ」

「今回の事で、君達には自由に休めるよう時間は用意したのでね。とは言っても、何分……キナ臭い案件なのは事実だ。次に何が起こるか分からない以上、早めに決めた方が良い」

「わ、わかりました」


 俺は立ち上がり一礼する。


「送るか?」

「いえ、少し考えたいと思うので歩いて帰ります」

「そうか……どちらにしても、もう一度言わせてほしい。私は公私共に感謝している」


 というわけで俺は王女様の部屋と言うか迎賓館を後にして診療所まで歩く。


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