四十五話
「あ、貴方は――!?」
その美少女を見てトーラビッヒが絶句する。
ライラ上級騎士は美少女が来ると同時に敬礼していた。
美少女は唖然とする俺達を見て微笑む。
「ごきげんよう」
うわ。めっちゃ金持ちオーラ!
素でこんな台詞を言う人いるんだなぁ。
と思いつつ、ここは異世界なんだから当たり前なのかもしれないと納得する。
「私はストロア=クロン=レラリアの娘、セレナ=クロン=レラリアです。どうかよろしくお願いします」
……えっと?
この名前、聞き覚えある。
確か王様の名前だ!
その娘って事は王女様!?
そんな重役がどうしてこんな所にいるんだ?
驚く俺を尻目に王女様はトーラビッヒに哀れみの眼差しを向けた。
「トーラビッヒ=セナイール。貴方から貴族の地位を剥奪……するまでもありませんね。貴方の実家は既に貴方を一族の席から抹消しております」
「い、今なんと!?」
「無論、今回の事だけではなく、自らの領地内で数々の問題行動を行なっていたのが理由ですよ。セナイール家も莫大な違約金を支払い、権力は剥奪、領地の大部分を国に返上いたしました」
「いや、そんな事はありえるはずが! 王女殿下! 誤解です! 不埒モノの声を耳にして勘違いをなさっている――」
「……いいえ、既にコレは変えられない事実ですよ、トーラビッヒ。騎士として、兵としての言葉を耳にしないのでしたら、今度は貴族としての問題を指摘しましょう」
で、王女様はフィリンの方に目を向けた。
フィリンの方は……居心地が悪そうな顔をして手を振る。
「ここにいるのは私の親友にして我等レラリア国の同盟国ペンケミストルの末姫、フィリン=ロイズ=ペンケミストル、その人です。後は……わかりますね?」
「な――!?」
トーラビッヒがフィリンを見て絶句している。
もはや言い逃れができないとばかりに口が開いてるぞ。
「貴方は仮にこの事態が最悪の結果になった場合、同盟国との友好に大きな亀裂を生みかねない問題を起こしかけたのです。わかりましたか?」
小首をかしげつつ、トーラビッヒに王女様は諭すように言った。
「更にこの新兵のトツカ様は……書類上高位の貴族が発行した推薦状で兵役に就いた経緯があるのですよ? その方の顔に泥を塗る事になりますがよろしいのですか?」
まあ……たぶん、王様辺りの権限で推薦状をくれたんじゃない?
地方の弱小貴族じゃ無理でしょ。
権力で負けてる。
「さあ、連れていけ!」
ライラ上級騎士の命令でトーラビッヒは連行されていった。
「く、くっそ! これは陰謀だ! 私は嵌められたのだ! うおおおおおおおおおおおおおお!」
抵抗するトーラビッヒだが、王女様が連れてきた兵士……じゃないな騎士にそのまま連行されていき、声が小さくなったのだった。
俺とブルは揃ってフィリンの方を見て絶句の表情しかできない。
王女様って……そんな偶然ありえるのか?
「あの……うちの国は沢山兄弟姉妹がいますし、私に継承権はほとんどなくて、貴族の嫁に行くくらいしか出来ないのですが……」
「まあ、そんな真似を私はさせませんよ?」
王女様がなんかいじわるをしてますって顔でフィリンの訂正を妨害する。
「せ、セレナ様もなんでこんな所に来てるんですか!」
「私達友達でしょ? そんな畏まらなくていいわよ。昔みたいにセレナって呼び捨てにしてほしいわ」
おー……まさに絵に描いたみたいな王女様に驚きを隠せませんよ。
「友達が大変だって聞いたら誰だって心配するでしょ? 無理を言って来たに決まってるじゃない。ライラにも頼んだのですもの」
ああ、なるほど……トーラビッヒのブラックな仕事にライラ上級騎士がタイミングよく来たのはフィリンが、更には王女が関わっているわけね。
これも全てフィリンのお陰か。
同じ部隊に配属されなかったらどうなっていた事やら……。
逆に巻き込まれたのか? よくわからないな。
しかしフィリンが王女……。
まあ、気弱なお嬢様ってのは間違いなかったみたいだね。
なんでそんな偉い人が兵役就いてんの?
家に頼りたくないって話は聞いたけど。
末姫ってどんな立場なんだ?
「というわけで今回の騒動に関して、我が国は新兵の三名には誠に申し訳ないと謝罪を申し上げますわ」
「あ、はい」
脳内の藤平がここで謎の主張をする。
謝るんだったら警察はいらねえ! その代償として冒険者の資格を寄こせよな! だってさ。
態度でか過ぎ。
まあ、俺の思いこみだという事にしよう。
そもそも先ほどの新兵の三名というのはフィリンの気持ちをくみ取っているんだろうしなぁ。
返答に困っているとライラ上級騎士も再度謝罪をする。
「本当にすまない……しかし……トーラビッヒを独房から誰が出したのか……あまりにも不自然だ。こうなる事がわかっての行動としか思えん。大遠征前の左遷すらできなかったしな。強引にもみ消すのを分かり切っての犯行だろうが……」
「ライラ、その件の調査を任せますね」
「もちろんです。王女殿下」
王女様が俺達を見つめる。
あ、ブルは権力者を前に萎縮してるぞ。
王女様がにこやかな笑みを浮かべてブルの鼻先を撫でてる。
「ブー!?」
あ、恐怖なのかブルが固まってる。
「フィリン、ライラ。オークさん……ブルトクレスさんの鼻に触ってしまいましたわ。思ったよりも可愛くて柔らかいのですのね。貴重な経験ですわ」
「王女殿下……気持ちは分かりますが、どこで隙を窺っている者がいるか分からないのですよ」
うーん。
お嬢様で国内の情勢をあんまり理解していないようにも見えるなー。
そういうのって王道だよな。
「ブルは良いオークですよ! 彼がいなかったら俺達は生きてません! な? フィリン」
「え? あ、はい! ブルさんはとっても勇敢な方です。何度も助けてくださいました」
とりあえずアピールしておこう。
フィリンも同意しくれたしね。
「まあ、そうなの? 私の友達を助けてくれてありがとうございます」
「ブ……ブブ……」
ブルは緊張していて、全く耳に入っていないようだ。
「さて……貴方達の配属された部隊が解散する事になってしまったわけなのですが……」
「事情を聞いた結果、ダンジョン内でマジックシードを使用して魔法資質の開花をさせてしまっているそうですよ。王女殿下」
「では……どうなったのかしら?」
「訓練校や学院への転属が一般的でしょうが……」
お? 結果的に出世かな?
「とはいえ、Lvも随分と上昇しているようですし……訓練校に戻すよりも実戦的な部隊への配属が良いかと」
そうなるのか。
まあ、結果的にってところだよね。
どこへ飛ばされるのかな?
なんて思っているとフィリンが俺の事を何故か凝視してる。
「どうしたの?」
「い、いえ……何でもないです」
何かあるのかな?
「あらあら」
「……」
王女様とライラ上級騎士が何か見てる。
俺の顔に何かあったかなー?
「フィリン、ブルトクレスさんが緊張してしまっているので、私はこの場を後にしますわ」
「あ、はい……」
「また話をしましょう。折角会えたのですから」
「わかりました……セレナ」
「ふふふ」
そう微笑んだ後、王女様は部屋を出ていった。
「まあ、三人ともゆっくりとすると良い。でだ……今回、君達が持ち帰った物資に関してなんだが」
「あ、はい」
「武具や物資に関しては大概は君達の所持を国が認める事になっている。相応しい活躍だからな。国へ献上すればある程度は貢献できるはずだ」
おお……まあ、ここで没収となると厳しいからな。
折角手に入れた物が没収って地味にテンション下がるーとか思っていたんだ。
献上すればそれだけ兵役に就いている時間を短縮、出世に近づくと思う。
「ただ……竜騎兵関連は例外だ。申し訳ないが、アレは一介の兵士に持たせられる物ではない。研究のために国の機関が徴収した」
最新の戦車や戦闘機を個人で所有させるような物……はさすがにな。
当然と言えば当然なので納得だ。
あの戦闘力は相当だからな。
「例の積み荷は?」
フィリンが尋ねると、ライラ上級騎士は首を横に振る。
「アレは本来君達の物じゃないだろう? 適切な輸送部隊に再度出て運ばせている……となっているよ」
まあ、そうだよね。
凄い威力だけど、できれば使いたくない。
手元にあると何かあると頼りにしそうでね。
なんて思っていると凄く自然にライラ上級騎士が俺達の手を握り。
「此度は本当に良くやってくれた。君達の修練がこうして実を結んだのだ。どんな困難があろうとも、生きる事を優先してくれ」
なんて褒めつつ、俺の耳元に顔を近づけ。
「後で君だけと話がある。王女殿下も来る」
そう、呟かれた。
「は、はい!」
「どうにか……困難を乗り越えられましたね」
「ブー!」
まあ、結果オーライとして受け入れるとしよう。
……竜騎兵の運転、楽しかったなー。
冒険者志望だったけど、竜騎士を目指すのも悪くないな……いや、権力的に無理か。





