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四十四話

「ここはー……?」


 見覚えがあるな。

 ダンジョンに入る時の大きな通路だったはず。

 辺りには兵士や冒険者がこっちを恐る恐る見ている。

 敵意は無いと言った様子で、コックピットを開けてから両手を上げて顔を出す。


「あ、失礼……トーラビッヒ隊所属の新兵、兎束雪一、フィリン=ロイリズ、ブルトクレスの三名です。ライラ上級騎士にお目通りを願いたいので、どうか確認をよろしくお願いします」


 トーラビッヒがどうなっているかは知らんが、奴が出てくるよりも前に、ライラ上級騎士に会う方が得策だろう。




 それから少しばかり騒ぎにはなった。

 生存が絶望的だと言われた新兵が竜騎兵に乗って帰ってきたわけだしね。

 帰ってきて早々に俺達は安全な所に着いたと気が抜けたのか、健康チェックをするための診療所で全員揃って待っている間に寝息を立ててしまった。

 ああ、乗ってた竜騎兵は国が研究という名の没収をしていったよ。


 ドラゴンがドナドナな目をしていた。

 迎えに行けるのかな……。

 と言うか持ち帰った物資は全部没収かな?

 手元に残ったのは最初から持っていた物と魔法的加護だけだね。


 当然と言えば当然か。兵士だしな。

 とはいえ内定にはかなり影響があるらしいぞ。


 なんて思っていると……。

 ドカドカと音を立ててトーラビッヒとその部下共が診療室で診察を受けている俺達の下へとやってくる。

 声で分かる。


「ええい! 貴族である私に逆らうのか!」

「やめてください! 怪我人がいるんですよ!」


 衛生兵が懸命に阻止しようとするが止まらない。

 ドスッという音と……ドサッと倒れる音が聞こえる。


 おい……やばい音が聞こえたんだが……。

 そしてトーラビッヒ達が俺達のいる部屋にやってきた。


「ふん、ノコノコと出てくるとは……迷宮内で死んでいれば楽だったというものを」

「は?」


 何を言っているんだ、お前は。

 お前の所為でいらぬ厄介事に巻き込まれたんだろ。

 今すぐぶち殺してやりたい衝動に駆られる。

 いや、殺しても良いのか?


「貴様が安易に宝箱を開けて隊に被害を及ぼしさえしなければ私達はしっかりと任務を達成できていたのがわからんのか!」

「それはアンタがした事だろ」

「そうです! 責任を私達に擦り付けたんじゃないですか!」


 俺の反論を潰すかのようにトーラビッヒの配下が前に出て大声で糾弾してくる。


「隊長に罪をなすりつけようと言うのか!」

「俺達は見ていたぞ!」

「お前達新兵が身の程を知らずにトーラビッヒ様の警告を無視して宝箱を開けた事をな!」


 ……これは口裏を合わせて俺達に全部の罪を被せる算段か。

 ライラ上級騎士は何をしているんだよ。

 サッサと解雇と言うか切り捨て御免をしてると思ったぞ!


「そして悠々と勇者気取りで凱旋とは……なんとも調子に乗った事だな」

「どうやら積み荷を利用して帰ってきたようだが……その罪! 万死に値する!」

「お前等は迷宮で受けた傷が元で急死した事にしてやろう!」

「しねぇえええええええええええええ!」


 トーラビッヒ達が各々武器を持って襲い掛かってくる。

 ……都合が悪いから口封じに殺しに来たって事だな。

 かなりの実力行使。


「ブ!」

「待てブル。俺がやる。お前は罪を被るな」


 トーラビッヒ共の動きがとても遅く感じる。

 これもLvのお陰か。


「何!?」


 ベッドのシーツを投げつけてから接近。


「ぐあ!? きっさまー!」


 手始めにトーラビッヒの腕を叩き落として剣を奪い、太ももに突き刺す。

 そしてそのまま蹴り飛ばして剣を引き抜き、残りの配下の一人にぶつけ、もう一人の腹に剣を突き刺す。


「ぐ……」

「新兵の分際で調子に乗るんじゃねえぇええええ!」


 残った三人が一気に俺に飛びかかって来たその瞬間。


「ブー!」

「ぐはぁああああ!?」


 ブルが俺の制止を振り切って二人に殴り飛ばして壁に文字通りめり込ませ。


「ライトニングショック!」

「ギャアアアアアアアアアア!?」


 フィリンが魔法を残った一人当てて感電させる。

 ふう……スッキリしたけど。大丈夫なのか?

 責任は俺が全部被るつもりだけど。


「き、きさま……貴族である私に被害を与えたな! 生きている事を後悔させてや――」

「――その前に貴様がどうやって看守の目を盗んでここまで来たのかをまずは問わねばならんな?」


 そこで聞き覚えがある声と共にライラ上級騎士が倒れているトーラビッヒを踏み付けた。


「まったく……すまない。君達が命からがら帰ってきたというのに、迎えに来る事が遅れた挙句、こんな腐ったクズ共の相手までさせる事になるとはな」


 ライラ上級騎士が俺達に向かって素直に頭を下げた。


「先ほどの話からするに……」

「ああ、コイツらは既に謹慎処分を受けて街の独房にぶちこんでいたはずなのだ。どうやって抜けだしてきたか不明だが……脱走は元より、偽証罪、傷害罪、証拠隠滅を図った罪を含めて追及せねばならんな! 衛生兵に治療を急がせろ!」

「「「は!」」」


 ライラ上級騎士が命じると、新たに来た兵士達がトーラビッヒ達を縛り上げ、先ほど倒れたらしき衛生兵の治療を始める。


「みんな無事で何よりだった……救出が間に合わずすまないと思っている。奴等を謹慎処分でぶちこんだ後、急いで向かっている最中に伝令が来てな」


 ライラ上級騎士は今回の事件をいち早く理解し、トーラビッヒの放った虚言に対して騙されるような事は無かったようだ。

 俺達が命令を無視して宝箱を開けるなんて暴挙をするはずないもんな。


 で、できる限りの権力を使って俺達の救出を優先してダンジョンに潜っていたらしい。

 そういえば診療所に行く道中の掲示板で、俺達のイラストが描かれた依頼を見たな。

 救助依頼だったんだろう。


「急いで21階までは行けたんだが……結果的に君達が帰ってきてくれてよかったと素直に称賛の言葉を送りたい」


 で、その伝令が来て戻ったはいいが、ほぼ同時にトーラビッヒ達が独房から脱獄をしていて俺達を消して証拠隠滅を図ろうとした……って事だろう。


「くそ! どうして――何故そこまでしてそんな下民に肩入れをするのだ!」


 ライラ上級騎士が運び出されるトーラビッヒを蔑む目を向ける。


「監査の結果、貴様の態度に問題があった。私とて全ておいて後手に回っているわけではない」


 フィリンの腕に付けていたアクセサリーの腕輪をライラ上級騎士は手に取り、指でなぞりながら何か呟く。

 そして、何かを引き当てたっぽく、深く何かを押した。


『ふん。何を恐れているんだお前達! リスクを恐れては益は手に入らんぞ。そもそもこの宝箱に罠は無い!』

『ここに宝箱があるだなんてよく知ってましたね』

『ああ、毎度この時期になるとここにある宝が出現するらしくてな。なんと中身はマジックシードが必ず入っているそうだ!』

『なんと! という事は』

『そうだ! これで晴れて私も魔法が使用できるようになる! そうなればあの偉そうなアバズレ女など怖くもなんともない!』

『さあ! 早く手に入れようではないか! マジックシードをな!』

『何!? バカな!?』

『これは魔法効果系の罠!?』

『ありえん――』

『罠だと! そんな話聞いておらんぞ!』

『どうするんですか!』

『そうだそうだ!』

『ええいうるさいうるさいい! お前等は私を誰だと思っている! トーラビッヒ=セナイールであるぞ!』

『宝はどうなったのだ!』

『ありません!』

『と言うかここはどこだ!』

『落ちつけ皆の者! こんな時こそこれがあるではないか!』

『おおおおおおお!』

『さすがはトーラビッヒ様! さあ! 早く逃げましょう!』

『よし!』

『貴様等新兵が隊長である私の命令を無視して宝箱を開けて隊を危険に招いた。責任を被れ、口封じだ』


 つらつらと……事件当時にトーラビッヒとその配下の連中が喋った台詞がそのまま再生された。

 これは言い逃れのしようがない決定的な証拠だな。


「この声に聞き覚えがないとは言わせんぞ。トーラビッヒ」

「ぐ……ぐぬ! 捏造だ! 私に罪をなすりつけようとする者の捏造に決まっているではないか!」


 権力でもみ消してくれるといった様子でトーラビッヒは声高々に言い放つ。

 うるせえよ!

 俺達は多少は元気だけど、お前の問答に付き合うほどの余裕はねえよ。


「どちらにしてもだ……新兵は我等の後輩であり、何か危険があったら先輩として優先して守らねばならぬ存在なのだぞ。にも拘わらず危険な階層で新兵だけが何故か取り残された……貴様自身が言い逃れできない不祥事を起こしているのだ!」


 完全に呆れ果てるとはこの事だとばかりにライラ上級騎士はトーラビッヒに告げる。


「ふん! 命と言うのは重さがあるのだ。出生も分からん奴と汚れたオーク、売女如きなど、私達貴族の者と釣り合うはずもないではないか!」

「はぁ……」


 うっわ。完全に軽蔑の目をライラ上級騎士は向けてるぞ。

 どこまで道化を演じるんだトーラビッヒ。

 そんな事言っても状況は変わらないと思うぞ?


「――では上の者の声で言えばよろしいのですか?」


 そこで……聞き覚えのない透き通った声が聞こえた。

 声の方角を見ると、高貴な身分なんだろうなって感じの美少女……純白のドレスを着た人物がやってきていた。

 銀髪で、見とれるくらい綺麗な人だ。

 いったい誰だ?


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