四十三話
じんわりと、竜騎兵に倒した魔物の経験値が入っていった感覚がある。
魔石回収とばかりに剣で腹を開いて、魔石を回収……。
「活動時間の延長になりますから魔石を食べさせてあげてください」
「ああ、うん」
こりゃあいいや。
そう思いながら手に入れた魔石を口に放り込ませて燃料補給する。
「じゃあこのまま24階目指して行けば良いかな?」
「はい。宝箱もできる限り拾っていきましょう」
そんなわけで見つけた宝箱なんだが……あんまり無いな。
細道で見つけたのと大差が無い。
いや、くまなく回れば良いのかもしれないけど、竜騎兵の燃料が勿体ない。
ドスンドスンと音を立てながら24階への入り口目掛けて歩いていると。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!」
ウォーターグリーンオルトロスが一匹現れた。
まだいたのか!?
と言うかデカイな。
俺達が戦った奴よりも二回りくらい大きい。
「勝てる?」
「だ、大丈夫だと思いますけど、油断はしないでください」
「わかった!」
というわけで抜剣してウォーターグリーンオルトロスに向かって突撃する。
羽を広げて跳躍……あ、飛べるんだ。
燃料の消耗早いみたいだけど、それなら楽勝だな。
高く跳び上がってブレスを何発も放つ。
のだけど、ウォーターグリーンオルトロスは華麗なステップで避け、高々と跳躍して大きく口を開けて噛みついて来る。
確かに速いし油断ならない!
着地して盾を前に出して受け止める……が、もう片方の頭で腕に噛みつかれた。
ダメージ表示が出た。
更にオルトロスは乗りあげて、炎まで吐いてきやがる。
こんな攻撃を隠し持っていたのか。
いや……俺が戦った際はそんな時間を掛けずに仕留めたからか。
「キャアアア!?」
「ブー!?」
コア内が衝撃で揺れて、後ろで立っている二人が声を上げる。
「ギャオオオオオオオオオオオオ!」
ドラゴンのメンタル的なゲージもあって、怒りに振り切りそう。
制御関係がぶれる。
地味に扱い辛いな。ロボットとは異なって生きてるし意識もあるのか。
噛みついてきた頭を片方の手で殴りつけてから、剣を振りおろす。
が、見切られていたのか避けられた。
落ちつけ……ボスだけどこの竜騎兵なら勝てない相手じゃない。
そう信じるんだ。
再度飛びかかってくるのに合わせて……軽く体を捩じらせて尻尾で顔面に向けて薙ぐ。
「キャン!?」
ドラゴンの思考が僅かに感心の感情を浮かべたのが分かる。
その直後にねじりからの引き戻す勢いを利用してオルトロスの体に向かって剣で横切りする。
パワースラッシュって技だったかな。
良い手ごたえはしたのだけど、上手い事受け身を取られた。
傷が浅いな。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! ワオオオオオオオオオオオオオオオン!」
激怒したのかウォーターグリーンオルトロスは遠吠えを上げる。
カッと何か赤いオーラを纏う。
能力が上昇した……んだろうな。
ウォーターグリーンオルトロスが素早くステップして分身したみたいな動きをして飛びかかってくる。
ブリンクミラージュって技だったか。
横に薙ぎ払いのシャインブレスを発射!
すると分身が消えて一匹が高く跳躍して避ける。
その一匹に向けてパワースローで剣を勢いよく投げつける。
ガツッと剣はオルトロスの腹に突き刺さった。
「ガ――」
それでも戦闘を継続しようと受け身を取る動作をしたので、翼を広げて羽ばたいて前方に移動し、口を開けて、思わぬ接近に驚いたオルトロスの喉笛を一つ、噛み千切る。
そして腹に刺さった剣を引き抜いて、残った頭目掛けて突き刺した。
「ギャン!?」
やっと……ウォーターグリーンオルトロスは絶命した。
地味に炎とかのダメージを受けて損傷部分があるな。
辛勝ってところかもしれない。
そりゃあ経験なんて無いんだし、対戦ゲーム程度の認識しかないもんな。
というか重力が地味にきつい。
だけど……謎の武器に頼らずに倒せたのは良かった。
「な、中々に乗り心地はハードですね」
「そうだね」
「ブー」
二人の顔色が悪い。
まあ、コロコロ動き回るし、重力がきついからな。
飛んだらそれだけGを感じるし、速く動き過ぎたら失神するかもしれない。
ダメージに関しては自動である程度は修復できるみたいだけど、どっちにしても油断ならないか。
倒したウォーターグリーンオルトロスから魔石を取って……あ、他の食欲もあるのね。
バリバリと肉を食べる。
「ウォオオオオオオオオオ――……」
声の方角を見ると……増援のオルトロスが二匹。
多いな、回遊型のボスのくせに。ただ、小柄だ。
もしかして……これが親個体だったのか?
「逃がしてはくれなさそうですね」
「……そうだね。冷静に、倒していこう!」
「がんばってください! この子もがんばって!」
『ギャウ!』
フィリンの励ましにドラゴンも応えてくれた。
後はまあ、冷静に戦った感じだ。
二匹だから多少のダメージは受けてしまったけどさ。
ホワイトパピー:グロウアップ エネルギー残量 72% ブレス弾数2
肉体装備
頭 試作量産型第一世代バイオモンスター。ホワイトパピー+7
体 強化型第一世代バイオドラゴン。グウィバーD+6 破損
手 先行量産型第一世代バイオドラゴン。グウィバーD+7 破損
足 先行量産型第一世代バイオドラゴン。グウィバーD+5
尻尾 先行量産型第一世代バイオドラゴン。グウィバーD+5
翼 強化型第一世代バイオドラゴン。グウィバーD+7 破損
所持装備 竜騎兵戦闘用ソード+5
竜騎兵戦闘用シールド+6 破損
竜騎兵戦闘用アーマー+5
武装
シャインブレス
スターブレス
スローイン
ダメージの修復に期待だね。
すまない、ドラゴン。
俺の腕前が悪くて。
で、スタミナ等を回復させた竜騎兵は、24階の入り口を目指して進んでいく途中、オルトロス達が来た方角で発見した。
その道中で大きい豪華な宝箱発見。
大きな巣穴があるけど……ここってオルトロスの巣か何かかな?
ツメ跡がそれっぽいけど……。
「大きいね」
「そうですね。多分、重量が大きい代物が入っているのかと」
「例えば?」
「希少金属の塊とか、武具ですよ」
こんな物まで完備とはなぁ。
ある意味凄い。
「やっぱり罠とかある感じ?」
「もちろん……このクラスの宝箱の罠だと大型爆弾の罠とかもありますね。引っ掛かったら一巻の終わりです」
とは言っても俺達が探しているのは帰路のオイルタイマーなわけだしな。
なんて思っていると宝箱にターゲットマークが出る。
解析中……魔法で仕掛けられた罠を感知……解除成功。
「おお! こんな事もできるのか」
「相当優秀な頭部パーツを使ってますね!」
凄く便利だな。俺達だったらワザワザ降りなきゃできない。
あ、でも普通の宝箱にはこの機能が作動しないって事は大型宝箱限定なのかも?
何だかんだ言って鑑定のスキルのLvが低いからパーツの一つ一つがどんな物なのか分からないんだ。
この頭に鑑定ができれば自分の体を鑑定させるんだけど……機能しないところを見るに無いのかもしれない。
そう考えながら宝箱を開ける。
なんだこれ?
大きな懐中時計?
「こ、これは帰路の懐中時計ですよ!?」
「お? 名前からすると帰路のオイルタイマーと似た感じ?」
「はい! 竜騎兵や魔導兵も飛ばす事のできる脱出アイテムです。しかも……性能を上げられれば、階層の入り口と出口を測定してくれる便利な代物なんです!」
おおおお! そんな便利な代物があったのか!
「しかし……なるほど、合点がいきました。帰路のオイルタイマーが出なかったのはきっとこの帰路の懐中時計の所為ですね」
「そうなの?」
「はい。同様の品が発掘される階層だと、他の物は近くに無いと聞いた事があります」
えー……しかもここってどう見てもオルトロスの巣だよね。
俺達、オルトロスを全滅させなきゃ詰んでたって事?
こんなデカイ宝箱なんて人の手で開けられるもんじゃないし、何か厄介な罠もあったみたいだし。
「燃料はー……まだ少しばかり残ってますね。使用しましょう」
「どうやって使うんだっけ? オイルタイマーはトーラビッヒのお陰で知ってるけど」
「えっと……まずは脱出する空間をしっかり設定しないと、どこへ飛ばされるか分からなくなってしまうそうで……ちょっと降りますね」
「うん」
ハッチを開くとフィリンが帰路の懐中時計にドラゴンの体を伝って登っていく。
それから腕に付けていたアクセサリーを懐中時計に近づける。
すると淡く懐中時計が光り、カチカチと動き始める。
フィリンがコックピットに戻ってきた。
「後は上のダイヤルを回して12時になるようにすれば作動する……はずです」
「おお! これで帰れるのか!」
「ブー!」
なんかホッとする。
「よーし! じゃあさっそく、帰ろう!」
ダイヤルを弄って12時に合わせる。
すると帰路の懐中時計から光が溢れて転送する人の設定が出てくる。
俺とフィリンとブル、そしてこのドラゴンを指定してから、決定する。
すると一瞬で……視界が切り替わった。





