四十一話
「あのドラゴンは何だったの?」
「うーん……専門用語が多くて分からない所が多いのですけど、何かの試験的な運用をする場所だったのかと」
よくこんな文字読めるなー。
さすが整備兵志望者。
「ただ……私の読み間違いで、処刑場やコロシアム、訓練場である可能性も否定できません」
「ああ、うん。かもしれないね」
嫌だなぁ。そんな場所に迷い込むなんて。
研究所っぽいとは思ったけど、逆に闘技場と言われても不思議じゃない間取りでもある。訓練所とかね。
俺達が居た訓練校にも似たような設備はあったし。
「ブ?」
「じゃあ次行こう。施設内に出現した宝箱を探すのが俺達のやる事だし」
「はい」
監視室を出て、少し歩くと元居た部屋へと帰れそうな道を発見……たぶん、こっちから回りこめば余計な戦闘は避けられたんじゃないだろうか?
悶々とした思いをしつつ進む。
大きな道を歩いていくと二つに分岐するようだ。
片方は……隔壁が掛っているけど外へと繋がる道のように見える。
「あっちは外へ出そうだね」
「はい」
「じゃあもう一つの方へ行ってみよう」
「ブ!」
もちろん、道中で宝箱は落ちてる。
中身は俺達が見つけた武器と似たような物ばかりだな。
若干性能が低いので、開けると同時にその場で放置している。
そんな感じで進んだ先は……大きな水槽が結構浮かぶ謎のエリアだった。
下水処理場……?
昔、学校の授業で出かけたダム見学で似たような設備を見たような気もする。
他に似た物と言うと水族館だろうか?
ともかく、謎の水槽がびっしりと広がるエリアの上に区分けされた道がある感じだ。
水生系の魔物とか出てきたら嫌だな。
なんて思いながら水を見る。
……緑色でよくわからない。
何の液体なのかすら分からないぞこれ……匂いは……妙な化学臭がする。
毒ガスじゃないみたいだけどさ。
あ、若干透明度の高い水槽を発見……中を確認すると何にも無い。
骨っぽい物が水底に沈んでいる。
……あの時のドラゴンが入っていた物を連想するな。
おそらく、同じ物だ。
「建物内のマップとか無いのかな?」
「機密エリア的な感じだったのではないでしょうか。そういった施設の場合は安易に内部構造は分からないかと」
「まあね」
なんて思いつつ宝箱やゴミを調べる作業を続けた。
いい加減帰路のオイルタイマーが出てきてほしい。
今の俺達の生命線なんだし!
で……なんか壁に無数の水槽がある通路を通る。
そこはやはり何か骨っぽい物をぶら下げたり、沈んでいる水槽ばかりある。
そんな通路を抜けた先で……閉鎖されたゲートを発見。
近くに端末がある。
認証が必要って事かな?
フィリンが端末を弄って鍵を差し込む。
だけど両方ともエラーっぽい表示が出た。
「行き止まり……か」
「ですね。そろそろ戻るべきでしょう」
そう判断しようとした時、ブルが鳴いた。
「ブ!」
「ん? どうしたんだブル?」
それから天井を指差す。
……排気ダクトがあるよ。
ぴょんと器用にブルは跳躍してダクトの蓋を外して中へと入り込んでいく。
音からして扉の先に行ったぞ。
それから直ぐに扉が開いた。どうやらフィリンの見よう見まねで扉の端末を弄って開けたっぽい。
「内側からは開くようにできてるって事ね……」
「はい……」
「で、何があったのかな?」
そう思って部屋に入ると……ズラーッと水槽が浮かんでいる。
右の方には大き過ぎる扉。
で、水槽は開いている物や中身が白骨化している物が殆どだったのだけど、左端の一つ……大きな水槽に赤ん坊の様に丸まったドラゴンが一匹。浮かんでいる。
「竜騎兵の量産プラントだったんですね!」
フィリンがそこで目を輝かせて言い放った。
先ほどのドラゴンから連想する事はできた。
そんな感じの設備なんだろうなーってのは。
「さっきのもそうですけど、状態の良い竜騎兵ですね」
「近づいた瞬間、水槽割って飛び出してきたりしない?」
「だ、大丈夫だとは思いますよ」
大きな水槽に浮かぶドラゴンを見る。
体色は……白っぽい。
大きさは12メートルほどはある。
さっき戦ったドラゴンよりも小柄かな?
体付きは少しばかり細いか。
なんとなく子供っぽく見えてしまう体付きをしているように見える。
「これはー……? 先行量産型第一世代バイオドラゴン。グウィバーD:ブリテンでしょうか。どっちにしても凄いです!」
試作第一世代バイオモンスター・ホワイトパピー:グロウアップ
「試作第一世代バイオモンスター・ホワイトパピー:グロウアップって名前みたいだけど」
「ああ、なるほど……似たモデルがあるので間違えました。けど……でも、バイオモンスター? グロウアップなんてコード名あったっけ?」
フィリンが首を傾げている。
変わったドラゴンって事なのかな?
「ブレス器官と翼の性能が良さそうです」
なんか生きてる兵器でそれぞれの部位がパーツ扱いなんだってのは分かった。
「状態も良いですね……上手く登録できると良いんですが。モンスターテイミングはユキカズさんが習得してますけど……スキル、ライディングが無いと登録できても……いや、来た証として報告すれば……自律起動で……護衛をしてもらえば……」
何やらフィリンがぶつぶつと呟いている。
「ライディングなら持ってるよ?」
乗り物酔いに効きそうだと思って思いきって取った。
するとフィリンが俺を見て眉を寄せる。
「あの……本当ですか? ライディングって特殊拡張スキルで騎士クラスの人が授与を受けることで習得できるスキルなんですけど」
「え? あれってそんなにレアスキルなの? 酔い止めに使ってたよ」
当然のように習得できたから気付かなかったぞ。
「ユキカズさんはもしかして……いえ、今は関係無いですしね。では、ちょっと弄ってみますね」
「ブー」
ブルがなんか呆れ顔で声を出している。
俺ってそんな間が抜けてる?
「うーん……魔力の循環に異常は無いです。本当に程度が良いですね」
ドラゴンの横の端末でフィリンが唸る。
何か認証をするように鍵を差し込んでみるけどエラーっぽい表示が出てるな。
ロッカーにあった奴で無理なんだからダメなんじゃ?
そう思っていたら三階の部屋で見つけた鍵を差し込んだ。
「これで一時認証は通って……次が……」
で、ロッカーに入っていたのを差し込んだ。
すると別の画面が出現する。
「これで登録はできるようになりましたね。どうやらこの鍵は……三階で見つけたのが施設の代表に値する人物の物で、更衣室で発見したのはパイロットの物だったみたいです。しかもパイロット側は施設警備も携わっていたのかも……」
どっちも重役の鍵だったって事か。
「本来、ダンジョンにある施設から竜騎兵を発掘する場合、ハッキングをして認証を誤魔化すんですけどね」
「そうなの?」
「はい。後は力で持って強さを証明するとか、手段は色々とありますけどね。面白いのだと輸送用竜騎兵なんてものもあって、馬車の停留所を掘りだすと捕まえられるなんてのもあります」
……なんか昔やったゲームにそんな戦車があった気がするな。
「後は所持スキルの認証になります。ユキカズさん、ここに手を」
「え? うん」
言われるまま、端末に手を当てる。
すると何かピリッとしたかと思うと俺の手形が付いて消える。
「……本当にライディングを持ってますね。認証が通りました。竜騎兵が起動します」
ゴポゴポゴポと音を立てて、目の前の水槽の水が抜けて、ケーブルが外れる。
そして音を立てて、水槽のガラスが上がっていった。
ドサリと四肢で体重を支え、全身を震わせてからドラゴンは大きな瞳を開いて俺達を見る。
だ、大丈夫なわけ?
いつでも戦えるように身構えていると、ドラゴンは俺達に向かって割とフレンドリーな様子で見つめてから首を傾げて鳴いた。
「ギャウ!」
「さ、ユキカズさん、私達が味方であると体を使って説明をしてあげてください」
「あ、うん」
俺はフィリンとブルをそれぞれ手を繋いでから手を振る。
すると目の前のドラゴンは理解したとばかりにフィリンに親しげな鳴き声を上げた。
ブルには……舌舐めずりをしている!
「コイツはお前の餌じゃないぞ!」
「ブ!?」
「ギャウー……」
俺が叱りつけると、ドラゴンはシュンとした表情で俯く。
うむ、わかったのなら良いんだ。
なんで俺が偉そうなんだと思わないでもないが。
「と、とにかく……襲い掛かってはこないみたいだね」
「はい。認証ができたみたいです」





