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四十話

「う……詠唱の妨害をされました。もう一度!」


 フィリンが再度魔法詠唱に入る。


「ブブブブ! ブ!」


 ブルが俺達へ回避を提案する動作をする。

 ああ、そうだな。

 こんな奴の強烈な一撃を俺達は耐えられるようにできちゃいない。何せブルが背負っていた盾は俺達が装備している鎧と大して違いが無いんだからな。

 で、ドラゴンが剣を持つ手を後ろに下げて……なんか見覚えのある構えをしてるぞ?

 ライラ上級騎士が放つアクセルエアという風を起こす剣技スキルの予備動作にしか見えない。


「ブー!」

「ええ!」


 ブルがドラゴンに向かってオルトロスの牙ピッケルを投げつけ、フィリンがバーストサンダーレインを放った。

 ピカッと閃光と雷の雨を受けつつ、その中でブルのピッケルがドラゴンの腹部装甲に突き刺さろうとした時。

 ドラゴンがスキルを放つ前に盾を前に出して受け止めてしまう。

 あの盾……大きさは元より、随分と強度と分厚さがあるように見受けられる。


 さて……どうする。

 場所が場所故にアクセルエアを回避するには……壁に掛っている大き過ぎる盾に隠れるか?

 そんな真似をさせてくれるだろうか?


 ドラゴンが若干笑みを浮かべつつ、盾の方に視線が行ったのを俺は見過ごさなかった。

 間違いなく……盾を破壊する威力でアクセルエアを撃ってくる。

 俺達を逃げ場所の無い所へと誘導するだけの知能があると見ていい。

 そうはいくか。


「ブル、フィリン! 急いで盾に隠れるんだ」

「ブ」

「は、はい!」


 と、壁に掛った盾の方へ逃げ……。


「ガアアアアアアアアアアア!」


 勝利の確信を得た声を出すドラゴンが縦一文字でアクセルエアを俺達目掛けて振り下ろした瞬間。

 Lチャージ状態で、二人の襟首を掴んで横に飛ぶ。

 そのまま壁を足場にしてドラゴンの腕から背中へと飛び乗った。


「ブヒャアアアアアアアアア!?」

「ええええええ!?」


 二人が絶叫を上げるが、申し訳ない。

 あのまま作戦なんて話していたらばれて別の手をされるところだったんだよ。


「ガ!? ガアアアア!」


 思わぬ回避運動にドラゴンが状況を理解するのに数瞬のタイムラグが発生していた。

 もちろん、俺達が逃げようとしていた大きな盾は発熱し、真っ二つになっていて隠れようとしていたら死んでいたのは間違いない。


「うううう……目が回ります」

「ブー!」

「いいからじっとしていて! 振り落とされると危険だ」


 ドラゴンの皮膚の感覚がどれくらいまで察する事ができるのか次第だ。

 で、ドラゴンは後ろに振りかえり、俺達がいないのでキョロキョロとしている。


 武器のチャージ終了まで後10秒。

 無事乗り切れるかと思ったけど……というところで、何か魔法的感覚が通り過ぎ、即座に背中に引っ付いていた俺達の方へ首を向ける。

 ドラゴンの首の可動範囲広いな。

 魔法か何かでサーチして俺達の居場所を特定したな。


 もうブレスの二射目が放てるのか大きく息を吸い込み始める。

 残り3秒……。


「ブ!」

「はい!」


 ブルとフィリンが羽織っていたオルトロスの毛皮をドラゴンの顔面に投げつけた。

 お!? 良いね!

 フックを投げつけて一周させる。

 それだけで毛皮がドラゴンの顔面に纏わりついて、視界を奪う。


「ガアアアアアアアアアアアアア!」


 目視からレーダーに切り替えるついでにドラゴンが闇雲に炎を吐くのを俺達は足元に居座る事で回避。

 剣を落として顔面に着いた毛皮を剥ぎ取るドラゴン。


「ユキカズさん!」

「ブー!」

「おう! これで……終わりだ!」


 視界に浮かぶ攻撃名を俺は叫びつつ、フィリンが指定したドラゴンの弱点と呼ばれる胸にある逆鱗、その下にあるコアに向かって謎の柄を振りかぶった。


「ハンドレッドダガー!」


 カッと、ドラゴンの足元から胸を突きぬける勢いで俺の放ったハンドレッドダガー……無数の光る魔法の短剣が一点に集約して貫く。


「ガ、ガ、ガ、ガ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオ!?」


 ドラゴンが悲鳴を上げる。胸部の逆鱗を貫かれその先にある赤く光る何かに短剣は突き刺さり……砕けて液体が滴る。

 血とも異なる何かだ。

 やがてドラゴンは信じられないといったような驚きの表情で……電池が切れたかのように動きが停まり……白目をむいて動かなくなった。

 直後、ガタンと音がしてドラゴンの方にある扉が開く。


「ふう……」


 ドラゴンと死闘を演じるなんて、思いもしなかった。


「あれ……? 経験値は?」


 あれだけ強い魔物ならいつもはドカンと経験値が入ってちょっと重い感覚が来るんだけど。


「野生化した物とも異なる、製造された竜騎兵だから無いかと」

「そういうものなんだ?」


 何か骨折り損な気持ちもするけど命には代えがたい。


「まさか第一世代バイオドラゴン。レッドD:ラースを相手に戦う事になるなんて思いもしませんでした」

「何なのこれ?」


 動かなくなったドラゴンを尻目に俺達は戦闘で使った品々の回収をする。


「竜騎兵ですよ」

「え? これが?」


 城やダンジョン前の基地でそれっぽい物を遠くで見たけど、なんとなく違うような気がした。

 フィリンは動かなくなったドラゴンの腕辺りから首筋をロッドで示した。


「見てください、肉が若干へこんでいるのが分かりませんか? 生体パーツとして培養接合されている証拠です」


 出てくる時の液体に満たされたカプセルを思い出す……作られた生き物って事か。

 竜騎兵っていったい何なんだ?

 てっきりドラゴンの背中に乗って戦う職業だと思っていたぞ。

 それから胸……俺が破壊したコアと逆鱗辺りを見る。


「心臓も一緒に破壊されていますね。ユキカズさんのその武器がどれだけ強力な代物なのか分かります」

「う、うん」


 うぐ……力を吸われた所為なのか、武器を振りかぶった所為なのか、体の節々が痛い。

 かと言ってこんな所で倒れるわけにもいかないので根性で耐える。


「ブ?」


 ブルが俺の状態に気付いたのか首を傾げる。


「大丈夫だ」

「ブー……」

「それでフィリン。倒したわけだけど、皮とか剥いで素材にすれば良いの?」

「確かにそれは良い手ですね。鱗は下手な盾よりも耐性が高いですし……さっきブルさんが使った盾よりは頼りになるかと」

「わかったよ」


 というわけで動かなくなったドラゴンの背中辺りにある鱗を剥ぐ。

 物凄く硬くてオルトロスのピッケルとツメを使ってやっと剥ぎ取れるぐらいだ。


「残りは……持ち運ぶには厳しいか」


 ゲームとかだとアイテムボックスとかあるのだろうけど、俺達には持ち運べる物は限られている。


「あ、せめて血と骨の一部を確保できないでしょうか? 上手く持ちかえれば良い材料になるかと思います」

「わかった」

「あ、頭を含めて胴体、四肢、尻尾、翼のそれぞれから取ってください」

「理由は?」

「先ほど話した通り培養接合をしているからです。別々の部位を接合したりして作られた個体もあるんです。アンプルと同様ですね」


 へー……なんかロボットと言うかブロックみたいだな。

 ドラゴンの形をしたキメラなのか……。

 で、アンプルの使用先もこれか。

 そう思いつつ、言われた通りに肉を裂いて、骨の一部と血を採取する。


「ブー!」


 ブルが今度はドラゴンの爪と牙を引っこ抜いて持ちあげる。

 ああ、武器に使えそうだもんな。

 コア近くにあった肋骨っぽい骨を再利用して、オルトロスの牙ピッケルの持つ部分に使用するみたいだ。

 更に強度が上がった感じだな。


「じゃあ……ちょっと名残惜しいけど、早めに行こう」

「はい」

「ブー!」


 来た道を戻るのもどうかと思うし、新手が来る気配も無い。

 そのまま俺達は奥の方へ足を運んだ。

 で、奥の方へと行くと竜騎兵の武器庫っぽい場所に出た。


 壁には巨大な武器や盾が設置されている。

 その奥には大きな檻があったみたいだけど、中身は空になっていた。

 ここから出ていったとかもあるのかなー。


 脇に小部屋があって、先ほどの監視室へと繋がっていた。

 フィリンが端末に鍵を差し込む。三階の奴。


「……これで区画のセキュリティは解除できました。外へと繋がる隔壁以外は問題ないと思います」


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