四話
「えー……」
座っていた受付の人が返答に困るように藤平を見上げる。
すると奥の方から責任者っぽい人がやってきて受付の人の肩に手を置いて任せろとばかりに合図を送る。
大丈夫かな?
責任者っぽい人が俺達の方も見て手招きしていたので全員で近寄った。
「此度はレラリア国の冒険者ギルドによくぞおいでくださいました。冒険者になりたいとの話ですが、冒険者という職業がどのようなものか、まずはご存じかお尋ねします」
手慣れたと言うよりも俺達の内情を察しているような態度で責任者っぽい人が聞いてくる。
「もちろんだ」
「藤平は黙れ」
お前がわかっているのはわかった。だが俺達はわからん。
先ほどの出来事から間違っている可能性が否定できない。
で、クラスメイトが俺を肘で小突いてくる。
……しょうがねえな。
「コホン、知識に間違いがあるかもしれないので確認のために教えてください」
「ふん。馬鹿共が。そんな調子じゃ生き残れないぜ?」
藤平が俺達をバカにするような顔で見渡すのが激しくウザイ。
俺の返答に責任者っぽい人も笑顔で頷いてから資料……絵で描かれたバカでも分かる感じの物を出される。
「まず冒険者とは国が委託する請負業務の総称だとお思いください。冒険、魔物退治、関係機関に縛られない自由な所があり、いざという時に頼りにされる職業です」
自由という単語と掲示板を見て納得する。
「国内のいろんな所から仕事が舞い込み、冒険者ランクにあった依頼を達成してもらう事で報酬を支払い。活動してもらっております」
藤平の奴、興味が無いといった様子で余所見してんぞ。
しっかり聞けよ。
「依頼内容は調達、討伐、調査等、依頼者毎に様々な仕事があります」
「はい」
「そして冒険者特約として宿屋等の宿泊施設や道具や武具等の消耗品の料金を大きく割り引く事ができます。更に様々な物品の買い取りも斡旋しております」
おお、結構しっかりした制度なわけね。
さっきの宿屋に泊る時もある程度割引が利くと……ふむふむ。
そうでもしないと自由業っぽいこの仕事じゃ生き辛いのかもしれない。
「他、ダンジョン等の危険地域の入場資格等も付きます。更に詳しい事を説明するのもいいですが……」
責任者っぽい人が若干苦笑している。
何だろうか?
「まずは皆さま、どのようにして冒険者になるか御存じでしょうか?」
「能力審査をした後、即座になる事ができるんだろ」
藤平が苛立った様子で言い放つ。
微妙に勝ち誇ってるのをやめてくれ。
責任者っぽい人が藤平を哀れな者を見るような目で見た気がする。
「誠に申し訳ありませんが認識に誤りがあります」
「はぁ!?」
予想が外れ、怒りが湧き出したといった様子で藤平の眉が跳ねる。
お前、沸点低過ぎ。
頼りにならねえって感じでクラスメイトが藤平を無視して前に出た。
まあ、勘違い野郎って空気になってるもんな。
悪いがお前は引っ込んでいろ。話がややこしくなる。
「まずは身分証明をしなければなりません。貴族の斡旋であったり高名な冒険者からの推薦であったりと種類は様々です」
身分証明。
なんか日本でも聞く話だけど……それって俺達じゃ無理なんじゃ?
「この国は出生登録とか個人の身分管理もしているのですか?」
「どこの地方、国の話かは分かりかねますが、レラリア国は国民一人一人に対してそこまで入念な管理は致しておりません」
「それはどういう意味で?」
「先ほど話した通り、権力のある者や信頼のある者、金銭を寄付する者等からの紹介が多いですね」
戸籍は無いけど、何かしら力のある人からの紹介が必要って事か。
俺達の場合は城から紹介してもらえるのかな?
「ふざけ――」
何故か怒る藤平を遮って尋ねる。
「それは何故ですか? 何故証明が必要なのでしょうか?」
「まず危険な魔物が封印されたダンジョンがあるとします。そこへ身分の証明ができない者が好奇心で入ったとしたらどうなりますか?」
「危なそうですね」
「そうです。まずは侵入した者の命が非常に危険だという点、仮にその危険を掻い潜る実力がその者にあったとします。その者がダンジョン内で見つけた宝は……どうなるでしょう? 土地はその場を管理する貴族の物だとします」
日本の法律とかに当てはめる事はできないだろけど……それって……。
「盗掘……?」
「正解です。トレジャーハントをするにしても国民である事を証明し、売買を通してその品々を所持するに相応しいと判断される人物でなければいけないのです。勝手にダンジョンに潜る非合法の盗掘者が後を絶ちませんが、規則として守っていただきたい事案です」
そのダンジョンは未開であっても所持者がいる。
だからしっかりと資格……証明をしろということか。
「そして……何よりも危険だと判断されるのは別にあります。何か分かりますか?」
なんか授業を聞いているような気がするけど、先ほどの言葉から察するに……。
「危険な魔物が封印されたダンジョン。この危険な魔物の封印を解かれたら?」
「御名答です。我が国は信用の置けない人物がダンジョンに入る事を好ましく思っておりません。なのでしっかりと身分が証明できる事が大前提となります」
なるほど……確かにそれは間違いない。
ゲームとかでダンジョンに当然のように入って宝を持って帰るなんて、よく考えれば盗掘だ。
挙句下手な仕掛けを作動させて封印が解かれたダンジョンのボスに負けたら話にならない。
セーブポイントに戻るって甘い話じゃないだろう。
死ぬだけならまだ良い。そのダンジョンから危険な魔物が出てくる事になって、近隣の村や町とかどうなる?
余計な被害が出るだけだ。
「ダンジョンへの探索を行う場合はしっかりとギルドに申請を行っていただけると、不測の事態で動けなくなった場合や帰還想定日時を超過した場合、救助隊の派遣などが円滑にできるようになるわけです」
け、結構しっかりとした制度の下で作られているんだな。
「じゃあ俺達はー……」
一応、身分証明が城の方へ行けば……できるはずだよな。
その程度はしてもらえないと困る。
と言うかダンジョン探索は頼まれていた立場だし。
「えー……身分証明ができてもできなくても次の段階である国への奉仕と信用を得る兵役の任を最低2年は就かねばなりません。身分証明ができれば2年。できない場合は、まず4年は必要ですね。国への奉仕具合で時期は前後しますが……」
「つまり冒険者になるには大体2年は必要って事?」
「他にも手立てはありますが、一般的なケースではそうなります。兵役期間中に多くの仕事や活躍を行えば、冒険者になった際のランクにも大きく影響いたします」
しっかりと国で働き、信頼が置けて戦える事を証明した際には冒険者として高いランクにしてくれると……。
「他に準冒険者として現役冒険者の下で同様の任に就いたりなど、手立てが無いわけではありませんが……」
「は、はぁああああああああああああああ!?」
藤平がまたシャウトした!
「異世界地雷十カ条! 妙なオリジナル制度! テンプレでいいだろ! ふざけるんじゃねえよ!」
うるさい! さっきからお前は何なんだよ。
「冒険者ってのは普通は消耗品なんだよ! だから即日発効! 弱い奴は淘汰されるに決まってんだ! わかんねえのか!」
誰に喧嘩売ってんだお前は。
さっきから思っていたが、何か知っているマンガとか小説基準で考えてるな。
間違いない。
あんまりこういう事を言いたくはないが、こういう奴をゲーム脳とか言ったりするんだろうか?
「藤平、さっき言ってただろ。ダンジョンって所に資格の無い弱い奴が来て不用意に宝を盗掘されたり、危険な魔物を解き放たれたら困るって話をさ。しっかりとした職業としての冒険者なんだろ」
だから教育をしてから冒険者として活動してもらいたいって事なんだろうよ。
面倒だとは思うけどさ。
おそらく藤平がイメージしているのは資格の無いアルバイトみたいな連中なんじゃないか?
もしくは請負業務的な誰でもできる仕事を任されて危険な仕事をする連中。
恐ろしく割に合わないだろ。
俺は大丈夫だ! なんて狂気の沙汰だぞ。
「勝手に召喚しておいて冒険者にさせないってのはどういう事なんだよ!」
「ワガママ言うなよ。そんなになりたきゃ王様の話を受けりゃいいだろ」
国のお抱え戦士になるか兵役して冒険者になるかって話だろ。
お抱え戦士は間違いなく藤平が思い描く冒険者とそんなに差はないはずだ。
「あのさ藤平、こっちは立場で言えば国の頼みを断って、やりたいようにしようとしているんだぞ? どうやら国が管理するギルドなんだから文句を言うのはお門違いだ」
少なくとも制度に文句を言うのは間違いだ。
日本基準で考えれば、得体の知れない奴にダンジョン……遺跡の調査なんてさせるか?
逆を言えば得体の知れる、国の保証する人間ならダンジョンとやらも入れるだろう。
多分。