三百八十八話
そうして三日の時間はあっという間に過ぎて行った。
俺が弱体化はしたけれどヴァイリオ達が復活したので特に大きな問題はなく、世界は平和としか言いようがない程、特にこれと言った問題は無く経過した。
ラウは神と謁見した後に俺たちが生活している健人の孤児院に送り届けられた。
「きゅ、ただいま。お義父さんお義母さん、これからもよろしくお願いしますっきゅ」
両親との別れの挨拶はしっかりとして帰ってきたので、一回り精神的に成長をしたようにお辞儀をしていた。
成長が早い事で。
ああ、オウセラの力の源は取られる事は無く、呼び出そうと思えば呼び出せる形でラウの所有物となっている。
「GODに話を付けて元の世界に帰してくれるなんてなんて優しいGODだYO! ME達のやった事を許してくれるなんて太っ腹だNE」
「ギャウ」
ラルオンは神の話をすると慈悲深いと言っているけど、あれはそういう類じゃないと思うんだけどなぁ。
「ムーイに嫌われると思ってるから助けた程度の認識で良いと思う。お気に入りなんだとさ」
「OH、恋のライバルが神って辛いNE」
「そんなんじゃねえ……面倒くさい家系の当主が絡んできてるのが近い」
「そっちはそっちで厳しいNE。MEもあって見たかったヨ」
「ラルオンなら問題なく話は出来そうではある。いや……疲れさせるタイプだから逆効果か」
「そりゃ酷いYO! MEはしっかりと話が出来る。ネゴシエーションは得意だYO」
ラルオンの交渉って相手を疲れさせて諦めさせる系だと思うんだけどなぁ。
「色々と君には助けられたね。また再会できる日が来るのを楽しみにしているよ」
ヴァイリオ達聖獣が集まってお見送りをしてくれている。
大きさもあるので圧巻だ。
「短い間だったが君を体に入れるのは面白い経験だったよ。いろんな物がよく見えて楽しかった」
ローティガの言葉にペリングリ、ウォーディアも頷く。
ああ、今後の苦労もあるだろうって聖獣たちが俺に力を分ける形でそれぞれ一度寄生をさせてくれた。
と言うか、ヴァイリオが経験した物を感じたかったらしい。
「これからこの世界から旅立つものも時々出てくるだろう。少し寂しくもある」
この世界の人々への啓示のようなものが信仰深い人には聞こえたらしい。
曰く、健人と一緒にあっちの世界に移住するかと言う話だ。
「ご丁寧に定期連絡を俺にもさせてくれる見てえなのが実に嫌らしいぜ……」
カトレアさんのような健人の良い女たちはすぐに一緒に来てくれるって人も居なくはないけどみんな各々居場所があるという感じで断わったり保留にしている人もいるそうだ。
即決してくれたのはリイとレルフィさん。リイは地元に送り届けて村の人たちと相談した結果、来てくれるそうだ。
俺やムーイ、ラウに始まり健人のフォロー役として良いだろうという事らしい。
まあ、健人がしっかりと責任を取るそう。
レルフィさんは単純に冒険を楽しみたいのが理由だとか……ちなみにあっちの異世界にミノタウロス系の獣人が居るので馴染むのは早いだろうって健人は言ってた。
カトレアさんは保留寄りの辞退。孤児院の経営があるからってのが大きい。
ただ、あっちで健人の作った村での治安が良いなら移住も検討するそうだ。
ルセトさんは同行寄りの保留、子供が未知の世界に興味を見せているし、あっちにも健人の子供がいるなら環境として良いかもしれないって話。
クコクコさん達も色々と事情があって来るものや来ない者も居るけど一陣は様子見って事だそうだ。
どんだけ女が居るのか数えるのもちょっと嫌になってきた。みんな性格が良いというのも悔しいし。
ともかく、そんな女性たちに定期的に情報交換をする機会を神は健人に与えてくれたんだと。
段階的に女どもが健人の村に送られてくる……って事になるらしい。
「ムーイ、ラウ、エミール。みんなと話は済んだか?」
「話はしたぞー。またムーイはここに戻ってこれるって」
「お義父さんとお義母さんと一緒に行くっきゅ」
「ユキカズの兄貴たちに誇れるように頑張るんだなって話してきたんだな」
それは何より。
「ギャウ」
「バルトはコアの方のバルトに話を付けてくれ、なんか再会するなり俺に噛みついてきそうだし」
「ギャウギャウ」
で、バルトは俺が弱体化したなら自分に乗って操縦しろと命じてきたっけね。
考えておこう。
で、時間になった所で俺たちを送り届けますとばかりに光の柱が近くに現れた。
これに入れば元の異世界に行けるらしいけど……どこ行き?
と、思っているとご丁寧にムーフリス大迷宮近くに送るっぽい。
あそこね……まあ、アクセス面は悪くないか。
「神獣様……これまでこの世界を守って頂きありがとうございました」
「何卒、神様が創造なさった古き地でもご武運を、我々は祈っております」
町長や色々と良くしてくれた人たちが揃って祈りながら感謝の言葉を述べている。
それは少し離れた所に居るこの世界の上位種族のドラゴンも同様だ。
もちろんヴァイリオ達も。
「今生の別れでは無いだろうし、余裕のある時は君と話をする事は許可されている。また話をしよう」
「次に会えた時は一緒に戦える事を願っている。ありがとう」
「ああ、じゃあな……俺、人間にもう戻れずに寿命とか訳が分からなくなってるんだけどね……また愚痴るよ」
「はは、君らしい別れの言葉だ」
ヴァイリオ達の言葉を受け取る。
「じゃあユキカズー行くぞームーイ、ユキカズが戻りたいと思った世界に行くのが楽しみだぞー! ムーイの知らないお菓子がきっとあるー」
「きゅー!」
「俺が知らないお菓子を楽しみにな」
「ったく、お前らは気楽だなおい。ま……やっと帰れるぜ。みんな待っててくれると良いけどよ」
と、俺たちは光の柱をくぐって行ったのだった。
ポータルジャンプをするのに似た空間をみんなで移動していく。
『……我らの娯楽を悪用され、多大な迷惑をかけたな』
ふと、その最中に俺を選んだ神獣の声が聞こえてきた。
今更かよ。俺が魔物になった後も声を出さずに見ては居たんだろ?
『ああ、神の手前、話す事は出来なかったが、見ていた。汝は変わらずにやり遂げ、神に許可をされた。あの方が認めてああも慈悲深く接するというのは相当なのだ』
滅茶苦茶、遊ばれてるけどな。勘弁してほしいもんだ。
結局……俺は人間には戻れてないし。次に会った時は元に戻せと願ってみるかね。
『そこは叶えてくれないだろうし下手な真似はしない方が身のためだ。ムーフリスにも同様に頼まんほうが良いだろう』
……わかっているよ。
人間には戻れないけど、それ以外……オウルエンスとかあっちの人種には化けれるしね。
人に近い姿には成れるからそこで我慢する。
何より……オークの言語はわからないけど化けることは出来るっぽいし。
『汝は本当、変わらんものだ。そのまま、雄々しく英雄として頑張ってくれ』
別に俺は英雄じゃないよ。俺は……良い人の力になりたいんだ。
今回だって、俺も戦ったけどムーイやエミールの力になって、ラウのようなあっちの世界の良い人たちの為に戦っただけなんだから。
『そうか……汝の未来に幸が多い事を願っている。それと――やっと直接会える。また会う時があるかはわからないが言わせてくれ』
ん? と思うと同時に空間内の先から何かが迫ってすれ違う。
「頑張れよ。兎束雪一。我はお前を選んだ事を……誇りに思っている」
それは一瞬と言う程の速度だったけれど、そう言ってすれ違って行った。
プレッシャーと言うか、気配が凄まじい……みんなが決戦時のムーフリスの気配に怯えていた時のような圧が何かを俺は今、肌でヒシヒシと感じたそれが通り過ぎて行ったのだ。
その姿は……白い翼を何枚も広げた目玉……の化け物。
「なんだー?」
「あれが神の作り出した倒されていない最後の神獣だよ」
「おー。あれがユキカズを選んだ神獣なんだなー」
「ユキカズの兄貴のお父さんなんだな」
「親じゃねえよエミール……」
「違ったんだな?」
俺は人間だ。
俺を選んだ神獣がアイツだっただけ。
「凄いのを見ちゃったYO! でもYOUの上位存在ってのも納得だNE」
「あれが最後の神獣ってか、凄まじいな。けど、納得するような気もするな」
健人が何故か頷いている。
「それはなんでだ?」
「要するに神獣ってのは神の使い、天使とも考えられるだろ。上位天使ってのはな、下界の出来事を神に伝える為に目玉の化け物みたいな姿って解釈もあるって話なんだ」
ああ……そういう認識ね。
まあ、他の神獣は元より、神にも丸見えな視界の共有が行われているって点では似てるかもなぁ。
そう考えると俺も天使ってか? いやいや……ムーフリスも天使と悪魔の羽を持ってたけどそんな高尚なものじゃないと思いたい。
なんて感じに思いながら……移動空間の先が光に包まれ視界が白く染まったのだった。





