三百八十四話
「何より、君は既に本体を塗り替えるほどの分身……いや、もう本体と言うべきだね。迷宮王ムーフリスからムーイとなったと思ってくれて置いて良い」
「うん。そうだぞ」
「ムーイの姉貴、凄いんだな」
「おや? エミール、いやエミロヴィアと言うべきかな? 君も此度の戦いで世界創造に片足を突っ込んでいる自覚は無いのかな?」
神がぽつりと呟いたエミールに矛先を向ける。
「な、なんだな?」
「まったく……外殻とはいえ僕の世界にあんな代物を作ってしまって……あのまま世界を切り取れば外殻世界は一つの世界として成り立ってしまうのだよ? 世界樹を柱として……ね」
あの世界樹ってそれほどまでに凄まじい代物になってるのか?
規模がよくわからない。
「言っただろう? 迷宮種は世界の断片、エミール。君も小さな世界となるが世界となる事さえ可能なのさ」
「おめー……ムーイやカエルには妙に配慮しやがるな」
「そういえば……神の宝とか聖獣が迷宮種を呼んだ覚えがあるな」
「そうだね。僕は元々の世界やダンジョンを時々見て、見つけた世界の断片である迷宮種をこの世界に招いているよ。何もなく統治された世界なんて破滅へと向かうだけだから、適度に災害、試練を人々に課している。それを傲慢と呼ぶなら呼ぶが良いさ」
『フォローとして言うと、あまりにも厄介な迷宮種がいる場合は私たちの出番となるよ』
『手に負えない場合は神の領域への扉を開かせて向かわせるのだが……開いた途端に導かれるように入って行ったが、あのような場所に出たとするなら……その後の想像は容易い』
ヴァイリオ達が神の印象が悪くなり過ぎないように補足してきた。
はぁ……なんか情報量が多くて詰め込み気味だ。
とにかく、迷宮種は神にとって収集している代物って事っぽい。
そういやオウセラに始まり、この世界の人種のルーツになっているみたいだもんな。
「大上健人、君がこの世界に迷い込んだ際も、迷宮種と戦っている現場でね。まあいいかとついでに引き込んだのさ」
「ついでにってこの野郎!」
「怒りを見せて居るけど心の底からじゃないのを見抜いているよ。僕の世界の住人をずいぶんと入れ込んでいるし、何より僕の子供が気に入った子だからね。ふふ、この前はずいぶんと面白いものを見せてくれたよ」
ああ……ワン・アジンの叫びね。
いじめてやるなよ……滅茶苦茶気にしてたじゃないか。
「この野郎……性格悪いなやっぱり」
「生憎と身の程をわきまえない人間共の相手を腐るほどしてたのでね。いくら子供たちのお気に入りと言ってもそこまでやさしくは出来ないよ」
面倒くさい神様だけど理解は示してくれるって事でまあ……。
「で、兎束雪一、君は……僕を殴りにも来た訳だけど、殴るのかい?」
「殴ったら死ぬより厄介な事になりそうだからやめとく、健人に任せた」
「嫌だね。こいつは構いすぎると火傷じゃ済まねえタイプだ。俺もパスだ」
「酷いね……まあ、兎束雪一、君には殴られても我慢位はしてあげようと思ってたんだけどね。君の将来には大きな期待をしてるわけだし」
「将来?」
「そりゃあ僕の最高の宝であるムーイが選んだ存在だよ? 迷宮王と僕の孫との結婚だ。ひ孫……がどんな子が出来るのか楽しみじゃないとでも?」
と、神が告げた所でムーイが顔を赤くして照れる。
そこは嫌な顔しないのかよ。
く……どんな顔を俺は今、すればいいんだ?
ムーイを泣かせるわけにはいかないし、かといってムーイが嫌いと言う訳ではない。
「そ、それはムーイが色々ともっと見聞きしてからと決めているので未定だ」
「いやいや、割と僕の見立てではずるずると上手く行くと思っているよ? 何より……ムーイが僕の後を継いで神になって新世界の創造を担う際には君も一緒に行かせるし」
勝手に俺の将来を決めないで頂きたいと注意したいのだけど……く……下手に返事してムーイを傷つける訳には行かない。
「目玉の化け物とムーイの子供だろ? どんなのが生まれるのかわかんね」
「その辺りが気になっていて踏み出せずにいるのではないかと読んでいるよ。まあ、現状だとこんな感じの子が生まれるだろうね」
って神が影像で、俺のムーイとの間の子供の想像図を浮かび上がらせてきた。
単純に今の俺を子供にした感じなものから、宝石の部分が目のウサギ、それと背中に宝石を生やしたハムスターみたいなものだ。
「おうおう。可愛い魔物って感じじゃねえか」
「ああ、ここまで来たから兎束雪一の眷属として僕が勝手に魔物枠で作っておくものも混じってる」
「おい。勝手に作るな」
俺をモチーフに魔物を作るな。
とは思ったけど、そういやこの神……この世界の創造主だった。
この世界の魔物はこいつが作り出したようなもんか。
「だから……末の子の特徴から人間の感性では受け入れられない子はきっと産まれないので安心したまえ」
「フォローになってねえ」
「ユキカズとの子供かー……ムーイが能力じゃなく生まれる子ー」
ムーイはそこで期待している目を向けてくる。
いや、あのね……それはあくまで可能性だからね。
「ボク、お兄ちゃんとして頑張る」
ラウ、君も見当はずれな事を言ってるよ。
「く……やはり殴ったら面倒な確約をされるタイプだった。殴らなくて良かった」
「殴りたいなら殴りに来なさい。僕は人間に戻る選択をあの時しなかった君を評価しているからね」
くそう……いつか俺は殴る時が来るような、そんな気がする。
「さて……と、そんな訳である程度、緊張も解れただろうし、こっちの状況の理解をしてくれたようで話を進めるとしようか。ああ、兎束雪一とムーイの今後では無く、ここに君たちが来て願いを叶えるという方向での話をね」
「もう既に俺のライフをぼこぼこにしてそこに繋げるのかよ」
俺がこの手の話題に弱すぎるというのが理由だけど、そこは気にしてはいけない。
「まずはそうだね……僕に願いを叶えて貰うには願いを言った分だけ代価が必要となる。それはここまでの出来事で僕を楽しませたかでも評価になるから、まずは言ってみると良い」
「んじゃ俺からで良いか」
健人がここでいの一番に挙手した。
「元の異世界に戻るってのは叶えてくれんのか?」
「ああ、その程度ならここまで来た苦労で許可してあげるよ。生憎と健人、君が元々居た世界となると代価が必要となるが、違うだろう?」
「よくわかってるじゃねえか。そうだ。元の日本に帰るって興味はねえ」
健人は出会った時、神に関して説明した時から、日本に帰るって事は興味無さそうだったもんな。
「確か君は……僕の世界で知り合った気に入った者たちも元の異世界、あの世界へ連れていけないかを願っているそうだね」
「そうだよ。出来んのか?」
「さすがにそこまでだと代価が必要だよ。そこは……まあ、君たち全員で出せる代価で判断するとしようから保留として、連れていく相手の了承なども視野に入れるべきではないか?」
「お、おう……もちろん。理想は行き来出来るようにしてくれ」
「その願いを叶える場合、君が聖獣の試練を正式に乗り越えて次の階層でも同様に試練を越えたら考えてあげる次元だ」
つまり今の健人じゃ良い女たちが異世界を行き来するようにする代価を払えてないって事ね。
「落とし所としては本人たちにあちらの世界に永住するかの可否を取る形で今後、片道切符で権利を与えるという所だろう」
「くそ……マジで配慮して叶えられる願いの落とし所を見つけやがる」
ケチが付けづらいと言った様子で健人は神に愚痴った。
嫌っては居るけど配慮はしてくれるのかよ。
「ああ、ちなみにこの世界に侵入してきた連中共……あいつに操られた冒険者って連中は健人、君を送り出すのと同時にそっちに送るよ。サービスでね。ムーイに感謝するんだよ?」
「く……」
「後はそうだなぁ……ついでにこっちの世界の一度限りの招待状は用意してあげるよ。僕に行き来を願うのなら聖獣たちにしっかりと挑んできてくれれば考えてあげる」
アフターサポート込みか、涙が途切れる配慮だね。
よかったな健人、万々歳になりそうで。
「ま、叶えるかは保留のまま、次は誰が行くかい?」
「きゅー」
ラウがここで挙手した。





