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三十八話


「とはいえ私達もそこそこ強くはなっているので、奇襲に成功すればどうにかなるかもしれません。一応、出現階層は上の魔物なので」

「ブー!」


 ブルも勝てる見込みがあると言った様子でやる気を見せる。


「ふむ……じゃあ、いっちょやってみるか」

「はい」

「ブ!」

「とは言え、作戦は重要だ。手始めに俺が連続で矢を投げて奴等を撹乱、フィリンが習得した魔法で一番強いのを放って、その隙に――」


 手持ちの物資を材料に作戦を練る。

 俺ができる事、フィリンができる事、そしてブルができる事が関わっている。

 武器もそこそこ揃っているし、勝てない状況じゃないと思うほかない。


 そんなわけで作戦を練った後、俺達はフローデスアイレギオンの巣に忍び足で近寄る。

 目玉の魔物故に視界は優秀だけど飛行する性質故に音には少々鈍感だ。超音波などで動いているわけじゃないみたいだしな。

 怖いのは熱線や状態異常の魔眼。

 できる限りの準備をしてから挑みたい。


 作戦開始前にフィリンが入念に魔法の詠唱に入る。

 幾らスキルで取得したからと言って一朝一夕でできるものじゃない。本とかで読んでないとなんとなく程度の威力になったり、覚えているはずなのに出ないなんて事もあるんだ。


 この辺りは投擲修練に近いな。

 回復魔法ってスキルを覚えて、その中の魔法にポイントを払って威力を上げて魔法を正確に使えるようにするのは物理的なスキルと変わらない。

 どうやらフィリンは、家柄の話で魔法を習得する前に魔法書を少しばかり読んだ事があるそうだ。

 何が幸いするか分からないね。


「……行きます。雷系統の魔法なんで、閃光の効果もあるので相手の目を僅かに眩ませると思うので、ユキカズさんは続いてください」

「もちろん」


 矢筒から既に何本も取り出して投げる準備はできている。


「じゃあ行きます……1、2……3!」


 フィリンがバッと室内にロッドを向けて魔法を発動させる。


「バーストサンダーレイン!」

「ギ――!?」


 室内に雷の雨が降り注ぎフローデスアイレギオンに命中する。

 その閃光の中で俺は兜を深々と被って閃光が目に入らないようにして闇雲に光る星を出す矢……スターダストアローをフィリンの魔法が発動している最中に7回投げつける。

 そして魔法が切れる直前にフックを投擲して、部屋に侵入しながら振りまわして星をしこたま飛ばす。


「!?!?!?」


 取り巻きのブラウンフライアイボールも揃って星が命中して指揮系統が混乱して見える。


「ブウウウウウ!」


 そこにブルが突撃、溜めていた力を振りかぶってヘルファイアをフローデスアイレギオンに振りおろす。

 グチャっと良い音がしてフローデスアイレギオンの目が何個か潰れる。

 までは良かったが、閃光から回復したらしきフローデスアイレギオンとブラウンフライアイボールが熱線を放ってくる。

 もちろん、混乱した状態で放つ奴も居るから室内は所かまわず熱線が当たって煙が湧きたつ。

 やば! 流れ熱線に当たりそうになったぞ。


「ブ!」


 ブルはヘルファイアで弾いて避ける。

 やはり倒しきれなかったか?

 やけくそでシミターをフローデスアイレギオンに投げつけつつ、後退。


「ブー!」


 ブルも横っ跳びしながらヘルファイアを横に薙ぐ。

 範囲広くて移動もできる便利そうな攻撃だな。


「後一息です!」


 撤退を考えた時、フィリンの指摘にフローデスアイレギオンに目を向ける。

 するとフラフラと浮かびあがり、蠢く目玉の中から大きな目玉で俺達に狙いを絞ろうとしている。

 魔眼が来る!



『観察の眷属……いい加減お前等は見飽きた。我の期待に応えられるのか? しっかりとその目を放てよ?』



 ゾクッと声が聞こえると同時に……フローデスアイレギオンも動きが僅かに止まる。


「隙ができた? 畳みかけましょう!」


 フィリンがその隙を逃さずに掛け声を出す。


「ブ!」

「トドメです! ライトニングショック!」


 ブルがヘルファイアを振りかぶり、フィリンが雷の魔法を放った。


「スターショット!」


 俺も咄嗟に魔法を放ちつつ、近づき、投げつけたシミターを引き抜いて切り伏せる。

 フローデスアイレギオンが大きな目玉を潰されて倒れ伏す。


「よし!」


 勝利! と思いきや、ビクンビクンとフローデスアイレギオンは脈打って動き出す。


「なんだ?」


 フローデスアイレギオンは形を崩し……複数のブラウンフライアイボールみたいな形状のフローデスアイとなって壁に開いた穴から逃げていった。


 逃げた!?

 そう思った瞬間……経験値酔いが発生した。

 どうやら倒した扱いではあるみたいだ。


「まだ戦闘は継続できそうだったのに……いったい……?」


 フィリンが逃げたフローデスアイとブラウンフライアイボールを目で追いながら俺達の方へ駆けよってくる。


「仲間を呼んだとかかもしれない。早めに部屋を調査してこの場を去った方が良いね」

「はい」

「ブー」


 ……それとも、何かの気配を察して逃げた、のかな?


「さて、ブル先生! やっちゃってください」

「ユキカズさん。ブルさんを先生呼びするの好きですね」

「頼りにしてるからね」

「ブー」

「ブルさんは嫌がってるみたいですよ」

「常に尊敬できる所を見つけるのも、友達になる第一歩!」


 あ、ブルが溜息をした気がする。

 良いね。ふざけ合いを許せる仲って。

 部屋の机の棚を強引に開いて確認する。やはりIDカードと思わしき棒を発見。

 こっちの方が権限のある棒っぽい!

 後はそれらしい物は無いか。


「よーし! さっそくこの場を去ろう」

「はい。じゃあ……さっきのエネルギー室で起動させてみましょう」




 というわけで俺達はその場を後にして、前に来たエネルギー室へとやってきた。


「じゃあお願いするよ」

「はい」


 フィリンが意識を集中してロッドをその部屋の生体機械に電撃魔法を放つ。

 するとドックンと心臓の鼓動のような音がして起動した。

 壁が僅かに光って明るくなっていく。

 フィリンが生体機械の近くにあるコンソールに目を向ける。

 で、フィリンはコンソールでチェックを繰り返す。


「……再起動に成功したみたいですね」

「吉と出るか凶と出るか……」

「怖い所ですね。あ、ここに管理認証があるみたいです」


 フィリンが見つけた棒、先に偉い人の部屋っぽいのを差し込んでみる。

 すると何かエラーっぽい注意が出た。


「はずれ?」

「うーん……もう一本の方を使ってみますね」


 で、残った二本目の棒を差し替えた。

 すると今度は別の項目が出る。


「えっと……セキュリティ、ダウン……と、隔壁を入り口以外は開けて……」


 フィリンが弄ると遠くでガタガタと音が聞こえてきた。


「どうやらこっちで良かったみたいですね」

「ロッカーで見つけた方が権限があるとかどうなんだろう?」

「担当部署の違いかもしれませんよ」


 あー……なるほどね。

 なんて思いつつ、俺達は隔壁が開いただろうと思わしき場所へと向かう途中で、ゴミ置き場の方でも騒がしく音がしているのに気づいた。

 中を確認すると……焼却炉っぽい物が起動していて、つもり積もったゴミが燃え盛っていた。


「あー……」

「ブー……」

「えー……」


 なんてこったい。

 後で調べようと思っていた物が片っ端から燃料になってしまった。


「なるほど、そこも施設のエネルギー維持装置と繋がっていたんですね」

「勿体無い……」

「……ブー」

「あ、あんまり気にしていたらキリがないですよ。元々私達の物じゃない物が大半ですし、そんなに荷物を持っていられませんから!」

「まあねー……」


 しょうがない。気持ちを切り替えていこう!

 というわけで俺達は障壁で遮られた先へと向かった。


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