三百七十五話
『答えろよ! おい! ムーイみたいに俺は無事で済むのかよ! おい!』
黙ってる事で嫌がらせしてやる。
「ガハァアアアアアアア!?」
ブシュ! っと闇獣・リヴァイアサンの喉笛は元より全身が切り刻まれたかのように鮮血のように闇が飛び散る。
地響きを立てて闇獣・リヴァイアサンが地面に叩きつけられる。
が、すぐに闇獣・リヴァイアサンは浮かび上がり、憎悪の眼光をこちらに向け、体をスパークさせアポ・メーカネース・テオスプラズマが顔を出す。
「おのれ! 過去の遺物! 新たなる神の道を阻むこと等、許されないのだぞ! エネルギー体となって不死身となった私を倒せると思うてか!」
闇獣・リヴァイアサンの前方に大きな魔法陣と、全身から幾重にも砲門が展開され、更に口を開いてブレスを放たんとばかりに光が集約していく。
「身の程を理解しない神を僭称する愚か者よ。我はそのような者どもを屠るためにされた神獣、そして機械仕掛けの神を屠る使命を与えられた新たな神獣により呼び出されし者也、貴様に課せられた名は……我に求められたものだ。そろそろ終幕としようではないか!」
「させるかあああああああ! この世界毎……消し飛ぶがいいわぁああああああああああああ!」
カッと、闇獣・リヴァイアサンがワン・アジン……世界のすべてを消し飛ばさんと一斉射撃とばかりに全エネルギーを攻撃に回して放った。
スーッと大きくワン・アジンは吸ってから……光となって突進していく。
ラグナロク・ワールドエンド
なんか結構怖い技名を放って行くなー……。
光となったワン・アジンは闇獣・リヴァイアサンの一斉射撃で放たれた攻撃を受け止めそのまま突進していく。
「うぐぐぐぐ……おのれ、こちらが押されているというのか」
「まだだ、こっちは……ぐううう、こんな、また俺が負けるわけにはぁああああ」
アポ・メーカネース・テオスプラズマとムーフリスが各々闇獣・リヴァイアサンから声を出す。
……なんとなく前の異世界での最終決戦でのやり取りを思い出す。
あの時は世界を破滅させんとムーフリスが異世界の戦士の力を集めて破滅の光を放った所を俺がナンバースキルの臨界を越えて放った光で打ち返して仕留めたんだ。
今度こそ……この戦いに決着をつけてやる。
「兎束雪一、人間のまま朽ち果てれば良いものを……それだけの力を得て貴様こそ真の化け物だ! この、世界の敵がぁあああああ!」
なんとでも俺を罵れば良い。
俺は……良い人の為ならいくらだって無茶をして、人間だって……やめてきたさ。
選択肢はあった。けど……選ばずにここまで来てしまったんだ。
これは今まで出会ったすべての人々のための戦い。
俺は俺自身がどうなっても良いと、ここまで来たんだ。
……エネルギーがカラッカラで、もう限界寸前だ。
ムーイもお腹が空いているし、俺の中にある聖獣たちの力も集約してている。
ここで押し負けたらそのまま負けだ。
けれど、今度こそ……終わらせる!
俺のスキルがアポ・メーカネース・テオスプラズマに突き刺さるのを感じる。
機械仕掛けの神を討つ者と魔導兵に効果のあるスキルの全てが。
「寄生能力のあるプラズマ体に進化した時点で終わってるよお前は。それは俺の選んだ進化で得意科目なんでね」
憑依や寄生能力とかを得られたのだろうというのはわかるけれど、その辺りは俺の特技となってしまった領域なんでね。
エネルギーに巻き込んで剥がす事が出来る因子吸収の力も大きい。
「な――ばかな! ぐううううう! ここまで来て、私が破れる!? そんな、ありえない! 嫌だ! デリートされる訳にはいかない いやだ! 世界を独占する悪魔共も、邪神にも、そのすべてを消し去り世界を創造する私がこんな、こんなところでぇええええ、この私をお前らはまたも破壊するつもりかぁああああ――」
ぐぐぐと、そのまま闇獣・リヴァイアサンに肉薄し、エネルギーとなって突き抜ける。
それは光の本流となって空高く……この世界、いや……後にブルやフィリンが居る方の世界でも観測できるほどの光が何処からか伸びて消えて行くのが見えたそうだ。
「……この愚か者を屠った後は、もう会話をする暇は無いだろう……から、ここで言わせて貰おう」
ん? なんだ?
そんな光を放ちながらワン・アジンは攻撃している最中に呟く、いや……叫んだ。
それはワン・アジンが放つ最も怒気の籠った言葉だった。
「我が選んだ戦士が女好きなのではない! それは大上健人だけだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ワン・アジンはそう叫んだ後……そのまま光となって空高く放たれて行った。
フッと変身が解除されて俺とムーイ、そして健人が分離し空中に投げ出される。
そうして散っていく粒子が俺へと集約していく……それは闇獣・リヴァイアサンであったものも大きく含まれている。
この力は……異世界の戦士の力と、聖獣の力……?
『ん……ここは……?』
『おお、さすがは神獣様か!』
『敵に取り込まれていたウォーディアが!』
あ、そんな名前だったんだ? 別の名前でもあったような? まあ、ヴァイリオも別名あるらしいしどれでも良いか。
色々と取り込まれてて解析してても思考の外にあった。
ともかく……俺の中で聖獣がコンプリートしちゃったなぁ。
『……汝は相変わらず変な思考をしているな』
と、最後の神獣の声が聞こえてくる。
いや、意識すると神獣の気配がしていると思う。
さっきのワン・アジンの叫びはどうなの?
『コメントは差し控える。汝が弄りすぎただけだ。それとこちらもあまり話が出来ないので会話は今の所ここまでとする』
って声が聞こえると共にブツっと通信が途絶えるように聞こえなくなった。
……俺自身が神獣に近いから無意識ではなくしっかりと届く状態になったんだろう。
健人を使った変身が引き金って事で良さそうではある。
「うお!? いきなり解除されるんじゃねええ! 落ちるぅううう」
「おっと」
翼を展開して落下する健人とムーイを掴んで空高く伸びている世界樹へと舞い降りるように着地した。
……ワン・アジン。言いたい事ってそれなのか?
まあ、確かに俺が色々と思ってた事はあるけどね。ブルの親父と健人が女好きのハーレム思考な奴だって。それが最初の神獣が選んだ奴の特徴なのかとか。
神って奴が爆笑してたけど、根に持ってたのか。
ただ、その場合……ブルの親父を選んだ神獣って何なんだろう?
教えてくれるかと思ったけど、聞こえる事は無かった。
「ふううう……疲れたー」
青空を見上げつつムーイがそのまま座り込む。
「うげぇ……目玉の化け物よぉ……人の体力も魔力も根こそぎ使いやがって……なんか俺の中の何かが蠢いてて気持ち悪い」
健人も同様に疲れ切ったとばかりに声を漏らしていた。
「侵食はしてないだろ?」
「してねえけどよ! 再発したらただじゃおかねえよ!」
「させてやっても良いぞ? まあ、俺の因子だけど」
「てめぇの因子なんて御免だぜ! あーもう……なんか接続が切れてた最初の神獣の気配が未だに残ってる気がするんだよ!」
「もしかしたらあり得るかもしれないな。よかったな。異世界の戦士として新たな領域に足を踏み入れたかもしれないぞ」
「冗談じゃねえよ! 見世物になるようなもんだろうが! 時々頭の中に声が聞こえるようなもんだろ」
それって今の俺は常時そんなもんなんだが? 主に聖獣たちが賑やかに感想を述べてる感じで。
どうも神獣も声は出せなかったけど見てたみたいだし。
……賑やかな頭の中って言うのが負けた気がしてきた。
『君が選んだ事だろうに……何はともあれ礼を言おう』
はいはい。代表のヴァイリオに免じてここは聞き流すとするよ。
もしかしたら健人も似たような状態になってるかもしれないし。
「それだけ元気がありゃ、ここに居たらすぐに動けるようになるだろ」
幸いにして世界樹から生命力と言うか回復効果のある何かが俺たちに徐々に与えてくれているけれど、何もかも吐き出してやっとの事勝利したというのは変わらない……よなぁ。
世界樹が青々と……ムーフリスだった部分を全て変化させ、大樹として鎮座している。





