三百七十四話
『私の出番か?』
『ヴァイリオばかりずるい。きっと私の出番だろう』
『いや、私が……が、この羅列、私たちか?』
『ここで出られたら凄まじい力で戦えそうではないか、ちょっと期待してもイイではないか』
聖獣たちの呑気な会話が聞こえてくる。
悪い。たぶん、お前たちじゃないから見ててくれ。
『そうか、そうだとは思っていた。だが、どうか奴を倒して聖獣を救ってくれ』
もちろん。この世界の為に頑張っていた今もアポ・メーカネース・テオスプラズマとムーフリスに捕えられている聖獣を救い出す。
「お、おい。俺の体がなんか光ってやがる。いや、俺の中にあるナンバースキルだったものが反応してんじゃねえか! おい! 俺に何をする気だ!」
健人、空気を読んで合わせてくれっての。
落ち着きのねえ大人だなこいつは。
「おー! ケント、ユキカズとムーイがヴァイリオよりも凄い力が体中からあふれて来るぞー!」
「だから俺を変身に巻き込むな! 何になるつもりだぁあああ! 敵と同じような事をするんじゃねえよ邪悪な目玉よぉおおお」
健人が五月蠅い!
さっさと変身を発動させて黙らせてやる。
少なくともムーイにナンバースキルを臨界迄発動させて異形化とか絶対にさせる訳には行かないんだから。
「はぁああああああああ!」
俺の輝石コアから……いや、すべてから力があふれ出し、魔法膜を形成して大きく膨れ上がる。
「や、やめろぉおおおおお! ぎゃああああああ!」
とって食う訳じゃねえから大人しくしてろっての! 健人の奴、空気を読め!
さてさて……この変身で何を呼び出したのかと言うと……さ。
何だろうな。ヴァイリオ達を内包した段階で感じる視線とでも言うのか、その奥の奥……この世界に来た当初は無意識の中にあったソレの領域を、俺はこの世界に来て聞こえなくなった視線を感じられなかったソレに手を伸ばして引き出す。
言ってしまえば精神の奥底にある扉を手持ちにある力で強引に開いて手繰り寄せるんだ。
そのカギが健人だったってだけで、きっと……飛野とかでも出来る気がする。
『おやおや、まあ……盛り上がるから良いんじゃない? 代価を支払えるのなら許可してあげる』
『ほう……ここまで手を伸ばす事が出来るようになったとは、良いだろう。汝を選んだ我も力を貸してやろう。かのお方も許可を出した。久しぶり……と言うべきか、頑張れよ兎束雪一』
ググっと……声の主が俺が手繰り寄せるべき者へと繋げてくれる。
そのままグイっと……引き摺りだし、俺はある存在へと変身……いや、召喚を発動させた。
複数の石像が鎮座する部屋を通り抜け、一番奥にある石像に近づく感覚がした。
「行け! 始まりの神獣・神を語る愚かなる侵略者を喰らう狼<ワン・アジン>!」
『始まりのか……』
『まさか体を持って顕現出来るなんて羨ましい』
って神獣たちの声がチラッと聞こえたけれど、それも遠くなっていく。
バキン! っと魔法膜を破り、正真正銘……神獣が姿を現した。
「ハ――!?」
バチバチと口に光を貯めていた闇獣・リヴァイアサンが絶句したように声を漏らした。
そこに現れたのは銀色の山のように大きな、この世界の神が何処かの世界を破壊するために生み出した狼。
「そんなバカな!? 討伐された邪神の使徒が復活しただと!? いや、仮にそうだったとしても断片、欠片に違いない! 消し飛べ!」
バァアアアア! っと闇獣・リヴァイアサンが大口を開いて世界を消し飛ばさんとするエネルギーの本流を俺たち目掛けて放った。
「ワオォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
と、雄たけびを上げるだけで周囲がビリビリと大きく振動し……たったそれだけで闇獣・リヴァイアサンが放ったブレスが結界に防がれたように掻き消えた。
『ぎゃああああああ! 離せこらぁあああ!』
健人が変身時の異空間内で叫んでやかましい。
『そろそろ静かにしろ!』
『ケント、すごく暴れたけど大丈夫だぞー?』
ムーイが健人を宥める。
いい年したおっさんが何処まで抵抗してるんだって感じだ。
『あ、ああ?』
やっと冷静になったのか健人が静かになった。
と、同時にシュウウウ……とワン・アジンが雄たけびを終えて悠々と大地を地面に踏みしめて闇獣・リヴァイアサンの方へキリっと顔を向ける。
結構威厳がある感じに姿を現せたんじゃないか?
「受肉した体か……」
自身の体へと視線を移し、ワン・アジンは呟く。
「まさか世界を見届けるだけの存在になり果てたと思っていた所でこのような機会に恵まれるとはな。聖獣共の高揚とした気持ちも、わからなくもない」
えーっと最初の神獣で、健人を選んで力を授けた神獣。
だからこそ健人を変身の素材に使った事で力を導いて顕現させることが出来た。
どんな人格をしてるかはわからないけど協力はしてくれるはず……。
出来なかったら俺とムーイで操作すれば良いだけだ。
「こうして呼び出されたならば力を貸すのも良いだろう。出番とでも言うべきか……懐かしいな、我が創造主も認めて下さるので相手をしよう」
「な……そんなバカな! 咆哮だけで私の攻撃を弾いただと! ありえん! あってはならない! なら今までのすべては何だったのだ!」
「ずいぶんと……我らの力を利用して好き勝手してくれたものだ。その報いを受けさせるのに選ばれたのは誉れとすべきだろうな。まさかああも勇敢に戦った末の子の選んだ英雄が、この領域にまで来たとはな」
ワン・アジンはアポ・メーカネース・テオスプラズマへ蔑みの言葉を告げた後に俺……の行いに関して語った。
「私は神の領域に足を踏み入れた! お前など過去の遺物であるはずなのだ! 神獣のすべての力と迷宮種の……世界の力さえもこの手にしている! たった一撃を弾いただけで勝ったつもりになるか邪神の勢力共が!」
バサァっと翼を展開させて闇獣・リヴァイアサンは魚っぽいフォルムなのに空高く瞬時に飛び上がって行った。
何をするつもりだ?
俺が異形化する際にムーフリスが世界を消し飛ばそうとしたみたいにエネルギーを降らせるつもりかと思ったけれど、空高い所からエネルギーをその身にまとって隕石のように落下する、メテオフォームと言う攻撃を放つつもりのようだ。
いや……プラズマも纏っているのでプラズマメテオフォームか。
「確かに……貴様は我が存命していた頃に出会ったら容易く討伐されていただろう。だが、それは過去の我であり、今ここにいるのは我であって我ではない、運命を歪められた兵士にして戦士達が命を賭して進んで汝の道を阻むのだ」
ワン・アジンは大地を踏みしめて臨戦態勢に入る。
グググ……っと全身から魔力が駆け巡り、背後に……太陽とも月とも言い難い優し気な光が集約していく。
「ワォオオオオオオオオオン!」
そう、咆哮すると同時にワン・アジンの全身に太陽と月の光がキラキラと吸収されて行き、光を纏い始めた。
ハウリングムーン
と言う技名らしい。
バフ技かな? なんか影が幾重にも増しているし、感覚だとブリンクが一定時間使い放題になった気がする。
しかも攻撃とか全能力が上昇してる。
……こんな感じのボス魔物がバフまで使うとか強力過ぎない? しかも自然回復や魔力回復もバフでかかるっぽい。
この光は世界樹にも影響があるようで、闇獣・リヴァイアサンの攻撃でダメージを受けていた部分が再生している。
「遅いな……」
シュン! っとワン・アジンは降り注ぐ闇獣・リヴァイアサンに対抗するように飛び上がる。
エネルギーを纏って落下してきた闇獣・リヴァイアサンとすれ違った直後――。
フェンリル・ドライブ
そんな神を食い殺した狼の名を冠する攻撃をワン・アジンは放った。
『まあ、薄々それっぽい神獣だよなとは思った』
健人は俺が認識している技名を変身時には見えているっぽくて答える。
『そうなのかー?』
『ああ、俺たちの方の神話にいるんだよ。フェンリルって言う神様を殺した狼が』
『へー、じゃああいつにピッタリって事なのか? 神様になったって言ってたしー』
『そうなんじゃねえの? つーか俺を合体素材にするんじゃねえ! この後、俺どうなるんだよ!? おい目玉の化け物、言え! 無事に分離出来るんだよな? 代償に俺が死ぬとかお前ならやりかねねえから答えろ』
健人がうるさい。





