三百七十話
「では……いくぞ! あの時のようなミスはしない! 最後の神獣さえも凌駕する力を知るがいい!」
「ふふふ……絶望の序曲だ」
そう、アポ・メーカネース・テオスとムーフリスが告げると物凄い速度でこちらに接近してくる。
目で反応することは出来るけれど、体が――と思ったらムーイ自身が体を動かして反応してくれていた。
ああ、やっぱりムーイの戦闘センスはすさまじい。
「む!」
バチっと相手が手を伸ばしてきたのをムーイが弾いて返す剣で切りつけるのを逆に弾かれる。
直後にムーイが俺由来のナンバースキルを発動させる事で紋様が体に浮かび上がり、加速してかかと落としをかましたがそこを避けられる。
「ハァ!」
っと、アポ・メーカネース・テオスの目玉が高出力の熱線を放ってくるので俺もムーイの体を駆け巡るエネルギーと自身のエネルギーを混ぜ合わせて強力な魔眼を放って相殺する。
とてつもない速度での攻防に健人も目は辛うじて追いつけているが発生した衝撃に吹っ飛ばされてしまった。
「うおう! 速度がやべぇ!」
上手く受け身と言うか着地をしてくれたけれど、うん……相手の速度が相変わらず早い。
異世界の戦士の力にムーイをプラスした……文字通りこっちのコピーみたいな動きをしてくる。
「ユキカズ、あいつ。ムーイみたいに相手を別の物に変えようとしてきたぞ」
うえ……能力も似たようなものを所持ってか?
「私は神……神へと昇華するのだ。その為にすべての迷宮種と力を集約させた。さあ! 今度は私の番だ!」
「了解……」
ピコっとアポ・メーカネース・テオスにパーセント表示が浮かび上がる。
なんだ? 何をさせているんだ?
ムーフリスからアポ・メーカネース・テオスに何かが送られている……いや、送りながら何かをしているのが分かる。
『ユキカズ、あいつ。ムーイみたいな奴を苗床に進化しようとしてると思うぞームーイに近い力も感じる』
寄生状態の高速意志会話でムーイが俺に教えてくれる。
それってつまり俺がムーイを媒介に進化したように奴も?
と言うかこの建物はムーフリスを成長と言うか進化させるために作られて、そこから成長したムーフリスから更にアポ・メーカネース・テオスが進化する?
ああもう……進化の大サービスって状況になってきてんなおい!
「はぁああああ!」
フッとムーフリスは突然姿を消して幾重にもブリンクしながら近づいてくる。
魔眼でいろんな角度から観測しているから辛うじて目視できるけどカーラルジュの能力とかも持ってるのかよこいつは!
そこからキィイイイイン! っとなんかすごい音が響き渡る。
「うげえええ……なんだこの音、頭がグラグラしやがるぞ」
健人が耳を押さえて頭を振るう。
「ラウを操った時みたいな攻撃だと思うぞ。いろんな迷宮種の力が集まってアイツ、使ってるんだぞ」
取り込んだ迷宮種の力を存分に使ってきてるってか?
しかも周囲から妙な植物が生える。
エミールの能力に類似した代物まで持ってるのか?
ズモモとボムパンプキンと言う魔物が生えて大爆発が発生した。
しかも更に無数のヴェザーマウスが何もない空間から現れて爆発するカボチャを俺たちに背負って突撃してくる。
なんだこの攻撃?
誘導性能があって性質が悪いな。
「「「ヂュウウウウウ」」」
混乱の魔眼で目を回させてその間に薙ぎ払い熱線を放ってやる。
相手の得意な攻撃だろ?
ボンボンとカボチャが連鎖して爆発して行ってくれるぜ。
「そこだ!」
「おっと」
ブリンクしながら俺とムーイ目掛けて叩きつけを行うと大きく地面が抉れてクレーターが発生した。
おおう……腕力増強の迷宮種かな?
「遅い!」
で、今度は地面から間欠泉が飛び出し、津波となって襲い掛かって来る。
「こっちだって負けないぞー!」
ムーイが地面を叩きつけると同様に地面が盛り上がって防波堤となり津波を遮る。
能力で地面を液状化させた後に硬質化させて遮ったって所だな。
まあ、勢いは抑えたけど水自体は降りかかる。
「まだまだぁあああ!」
ボコボコボコと水が……泡に変わり強酸をばら撒いて弾ける。
とはいえムーイは全耐性持ちなので耐えきれたけどね。
「こっちも行くぜ」
で、負けじとこっちも未来視の魔眼を駆使しつつブリンクで相手の背後を取り、流れるようにアクセルエアを当てようとしたのだけど羽化したみたいな上半身に受け止められて反撃を食らいそうになったのでムーイの耳を操って弾いてそのまま跳ね上がる。
「これでも喰らえぇええ!」
ズモォオオ! っと地面から黒い瘴気が大蛇の形を成して俺たちへと食らいついてくる。
おうおう……大盤振る舞いのその場で見てないと情景が想像しづらくなってくる猛攻をしてくるじゃないか。
「とおおおおお!」
ムーイが力強く剣を握りしめて叩き切りつつ、俺は耳を広げ、その先端から閃光魔法を放って目つぶしを仕掛ける。
が……効果は薄そうだなぁ。
「その程度か!」
「そう思うか?」
俺たちの隙だとばかりに飛び掛かって来たので動きを読んで拳を叩き込むのだけどそれを受け止められその手を物質変化されそうになったのをムーイがやり返してレジスト。
「ふん!」
ブワっとムーフリスが背中から煙を放出したかと思うと、周囲にキラキラと幻覚が発生する。
「幻覚には耐性持ちなんだね。何よりこっちは見るは得意分野だ!」
「だろうな! そこは読んでいた!」
幻覚を見極めて魔眼を当てようとした所で地面から石造りの……家のようなものがムーフリスを守るように生えてきた。
ドゴォ! っとぶち壊すが既にムーフリスは中におらず俺たちの横に回り込んで異世界の戦士由来の剣で切りかかっていた。
「おっとぉおおお!」
ズバァっと斬られたけど辛うじて俺とムーイの力の源に当たらない様に避けて再接続からのー。
「腹の中かっ捌いて、石を入れてやる」
「な――」
ズバァっと流れるように腕のない所から腕を生やして俺の居るムーイの腹を切って石を詰め込まれて俺が分離させられてしまった。
これも迷宮種の力か? ピンポイントで引き出されたぞ。瞬間移動に巻き込まれたみたいだった。
なーんか……健人に使ってそうな力だなそれ。狼の腹に石を詰め込むってね。
「ユキカズ!」
まあ、あぶなかった! 俺が盾にならなきゃムーイの力の源が引き出されてたかもしれない。
「どうだ? 中身を引きずりだしてやったぞ! 臓物は無いみたいだな!」
ムーフリスが勝利の笑みを浮かべて片手で俺の耳を掴んで叩きつけてくる。
「うげ!」
いってえな! だがな? 実はそれ、俺の本体じゃないんだわ。
本当はムーイの額の方にある宝石が俺の本体な訳で。ダミーボディに引っかかってくれて何より。
狙ってると思ったから尻尾とすり替えてた。
……電磁パルス!
バチバチっと俺とムーイを中心に魔導兵とか機械に大ダメージの範囲攻撃を発生させる。
「く! 猪口才な!」
ムーフリスは防御態勢を取り、そのまま大きく丸まりながら跳ねて衝撃を利用して距離を取る。
息もつかせぬ猛攻といろんな能力のオンパレードで来やがって……どんだけ迷宮種の力を使ってきやがるんだ。
ま……やはりと言うかなんて言うかいろんな力を持ってはいるようだけど使い方が浅く感じるんだけどさ。
ただ、種類が豊富なのでこっちも下手に踏み込むと反撃を受けかねない所は厄介だ。
しかもムーイと似たような物質変化の能力はしっかりと使いこなせているっぽく見える。
「いろんな攻撃してくるぞー」
ムーイが分裂した体を繋ぎ合わせ、俺の切断された尻尾となっているダミーボディも元の位置に合わせてくれる。
おーし、戦闘中だけど接合して回復をしてっと……。





