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三百六十八話


「作戦通りだぞー、ひっかかったなー! それはムーイがエミールに仕込んだ力の源だぞー」

「なんだな」

「いや、これは一体……」


 どうしてムーイがエミールの姿に成っていて、エミールの声が体の中から聞こえてきているのか。

 正確にはエミール主体でムーイの体を駆け巡る力を使って魔法を完成させているのか。


「はは、自分が頭が良いと思っている奴の裏を掻くってのは中々に楽しいもんだな。ゲホ、ちょっとヤバかったけど」


 健人もホッとしたように喉を弄っているようだった。

 いや、これはどういうことだ?


「な、きさまらぁああああ! おのれぇええええええ!」


 アポ・メーカネース・テオスが思い通りにならず激昂する。


「ふ、ふん。私を怒らせようとしても無駄だ。小細工をしたとしてもどうにもなるまい。裏を掻いたつもりでしかないだろう。何時まで持つことか」


 あ、取り繕っている。としか言えないけど、俺もちょっとどうなっているのかわからないので状況を整理したい。

 幸い、エミールの姿に成っていてもムーイでもあるので高速で意志会話をすることにした。

 と言うか状態を確認すると……寄生している体の中にエミールの力の源があるじゃないか!

 しかもいつの間にか俺の中に仕込まれてる! ムーイに預けさせられた力の源の中にちゃっかりエミールが混じってて、ムーイの体が俺の中からエミールにリンクして呼び出してる!

 どうなってんだ!

 俺の中に仕込むな!


「おい。どうしてエミールがいきなりここに?」


 いや、正確にはエミールであってエミールでないというか、人格としてはエミールなんだけど体は地下にあって、そっちはそっちでひん死で生きてるという。


「実は……作戦開始前からユキカズの兄貴の中から見てたんだな。ヴァイリオさん達が居る場所がなんとなく感じられたけどバレたくなくて黙ってたんだな」


 おい……いつの間にか俺の中に潜まないで?

 俺が寄生されるってのはどうなの?

 いやまあ……ムーイが分裂するんだし、体と力の源で各々同じ人格を所持しているというのは色々と実験してわかってるけどさ。


「それはエミールの力の源をムーイが預かってたんだぞー」

「ここに来る前、ユキカズの兄貴が準備している時にオウセラの翁に、ユキカズの兄貴には内緒の予備策ってので仕込んだんだな」


 いや……予備策ってどういう事だと色々とツッコミたい。


「きっとすごく卑怯な作戦、罠とか仕掛けてくるから犠牲無しで乗り越えるのは難しい。その場合、ユキカズの精神を保つためにエミールの力の源をムーイが受け取って、エミールの体の方は代用の力の源、石と土をムーイの力で力の源に似せたエネルギーに変化させて入れて置いたんだぞ」


 誰かに奪われた際に元に戻るようにも出来るようにしたとムーイは当たり前のように答える。

 薄っすらとムーイとエミールの記憶が再生されてエミールの体の中にムーイが手を入れて力の源をムーイが確保して変化させた力の源をエミールの中に仕込んでいた。

 信頼関係が構築されているからこそできる迷宮種の生体だけど、なんで俺に隠してんだよ。


「エミール。怖くなかったのか?」

「ユキカズの兄貴たちにならオデ……オデを渡しても良いんだな」


 その信頼が怖い。

 そして……今、ムーイが隠していた力の源が全部、俺とムーイ、そしてエミールの力の源と合わさり、大きく体の中を駆け巡っていく。


「ユキカズ、あいつが見せた本命をここで一気に叩くためにエミールの使っている奥の手を更に強化しよう! 変身だぞー!」

「なんだな!」


 ムーイとエミールに命令されて俺は言われるがままにEX変身を意識する。

 選ぶ因子……要素は何か。

 いや、既に因子が選ばれて決定を押すだけになっている。


「フュージョン」「エミロヴィア」「迷宮王の加護」


 フュージョンは、ムーイを媒介にして進化した際に選ぶムーイの体と高相性の因子だけどさ。

 エミロヴィアはエミールの力の源の名前かな。

 迷宮王の加護、これこの項目も因子として選べるのか? ちょっと意識した時に付けれるものじゃなかったと思うのだけど、今この時だけ使えるとか条件か何かがあるのか?

 カッ! っと俺の体の中を流れるエネルギーが特定の条件を満たしたとばかりに力が迸り、ムーイの体へと流れて行き、大きく姿を変化させていく。

 バァアアア! っと大きく魔力の膜が展開されてヴァイリオを呼び出した時と同じく、膜を破って姿を現した。

 一見すると普段のエミールによく似た、それでありながら体中に異世界の戦士の力由来の紋様が迸る姿。

 所々に神々しい光を纏わせ、体から木を宿らせたその姿……。


「この力は……ユキカズの兄貴たちがオデに任せてくれたもの……」


 エミールが手を前にかざすと呼び出されたイグドラシルが更に青々しく、天高く伸びて行き、瘴気と黒い霧、そして肉塊を浄化してゆく。


「この世界の……オデに優しくしてくれたみんなの為に、オデは頑張るんだなぁあああああああああああ!」


 エミールがグッと力を籠めると更に世界樹は明確に形作られ、光輝いた!

 同時に……やはり俺の視界に見覚えのない半透明な世界が薄っすらと見え始める。


 世界樹・イグドラシル


 と、何か二つ名がついた不思議な力へと昇華している?


「な――ぐ、抑えきれない! 邪神の下僕共めえええええ!」


 バチバチとアポ・メーカネース・テオスがスパークしながら抗おうとしたけれどエミールの放つ力の本流に逆らえず、邪悪なエネルギーは霧散してしまった。


「ゼェ……ゼェ……やった。んだな」


 ごっそりとエネルギーが減ったが建物の邪悪な気配は浄化され、町に向かって放とうとした光線は消滅に至った。

 しかも世界樹がキラキラと地脈からエネルギーを受け取り、俺たちにエネルギーを徐々に供給しているのが感じ取れる。

 パァ……っと、エミールが変身解除を意識したのか光の粒子となって変身が解除され、ムーイと寄生した俺の状態に戻る。


『少し疲れたんだな……ユキカズの兄貴たちの為に、これ以上、オデが前に出てちゃダメなんだな』

「エミール、よく頑張ったぞー」

「そうだな……」


 このまま相手を仕留められたら良かったのだけど、世界樹の浄化に抗うかのように黒い繭が脈動して大きな結界を作り出している。

 アポ・メーカネース・テオスがその内側に居て、忌々しそうに大きく目を充血させて睨みつけていた。


「形勢は決まったなおい。大層な御託と裏を取ったつもりだろうけどこっちの神獣様の力の方が上だってな。邪神だのどうなの抜かしてるけどてめえの方が邪神より下種じゃねえか」


 健人が形勢が有利になったので調子に乗るようにアポ・メーカネース・テオスを挑発する。


「ふ……こちらを多少出し抜いたからと言ってあまり調子に乗らない事だ。まさかこいつを出す事になるとは思わなかったまで、貴様ら……知らずに負けて軍門に下れば苦しまずに済んだものがあるという事を教えてやろう」


 アポ・メーカネース・テオスは健人の挑発は何処へやらとばかりに鼻で笑う。


「いつまで寝ているのだ! いい加減目覚めろ! フフフフ……この程度で勝ったつもりにならない事だ」


 そう、アポ・メーカネース・テオスが声を掛けると黒い繭、迷宮種ムーフリスがグネグネと蠢きパクっと開いて中から……大気が震えるかのように邪悪なエネルギーを放出させて現れる。

 ビリビリと、ムーイやエミールの力の源がそのエネルギーから振動を受けているように俺も感じる。

 同時に……なんだ? 異世界の戦士の力までもが俺の体が感じ取れる。


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