三百六十二話
「なんか迷宮種の力を感じるぞ」
「毒リンゴって所から考えて白雪姫の毒リンゴの王妃ってか?」
「そういった迷宮種の力が使われるのかもしれない」
「あの毒リンゴ、爆発しなかったら美味しいかー?」
「どうだろうな。まあ世界を瘴気で満たそうとしている能力だから御免こうむりたいところだ。エミールなら似た代物を作れるんじゃないか? 見て覚えただろうし」
「なんだな……」
植物系の能力って所が実にエミールがラーニングするのに良さそうな所だね。
「さてさて、バルトは元よりラルオンや健人の健康に悪いので早々に対処したいところだな」
ムーイがサッとバルトの元に駆け寄り手をかざして周囲の空気を瘴気から別の普通の酸素へと変えているようだ。
「ギギギイ!」
ボンボンと肉の柱から毒リンゴが砲弾のように狙う様に放たれて行くのを俺たちは避けていく。
毒無効のスキルを所持しているのでダメージは無いけど……いや、じわじわと、徐々に生命力が減っている。
濃度が濃すぎて耐性を貫通してきているか。
とはいえ毒解析を俺の目はしてくれたので俺を経由してエミール自身のダメージは無効化したぞ。
解析便利だな……進化した影響が果てしない。
体が勝手にしてくれているのだけどさ。
『エミール? 行けるか?』
と、体の中から意識で語り掛ける。
「ユキカズの兄貴、この姿だと出来ないんだな魔法が使える姿になりたいんだな」
大蝦蟇モードね。
あいよ。っとエミールの中に循環している力の源を制御して退化し、本来のエミールの姿に戻ってすぐに大蝦蟇の姿へと進化させる。
正確にはエミールが特に意識しない状態での進化だとこの姿になるんだけどさ。
……あれ? ふと、エミールの体の中にある力の源にエネルギー操作をする最中に視線を向ける。
エミールの力の源、こんな形だったっけ? 気のせい……? ずっと見てた訳じゃないし、今はそれ所じゃ無いか。
「よっし! これで良いかエミール」
速度は落ちたけれど対応できなくはない。場合によっては俺自身の魔力で飛んでくる毒リンゴを魔眼の障壁で跳ね返す。
で、持っていた剣を大蝦蟇モードのエミールに食べさせてパワーアップを図る。
カッと、エミールの体に入った剣から魔力が潤滑していく。
そして俺の方で収納しておいた杖を取り出して装備っと。
「良いんだな! じゃあオデの力で瘴気を晴らす植物さんを呼び出すんだな……ユキカズの兄貴の中にあるいろんな力とムーイの姉貴から預かってる力の源のエネルギーをオデに沢山流して欲しいんだなぁああああ」
エミールが能力を解放するとばかりに集中し始める。
直後にガクっと物凄い量のエネルギーがエミールの体の中で溜まると同時に消費し始めた。
1%……2%……4%……5%……。
神獣となって聖獣たちの力、更にはムーイから預かっている倒した迷宮種の力の源を加工した代物を集めて出力してもこの発動までの速度、とてつもなくコストの掛かる必殺技のようだ。
「むむむ……やるんだな。ユキカズの兄貴、ちょっとオデの、お腹の中の方に行って虫さんになって転がりつつ鱗粉をお願いするんだな」
「お? エミールからの注文とは珍しい。わかった」
と言う訳でエミールに寄生を維持したまま胃袋の方に移動して昆虫系に姿を変えつつゴロンゴロンと転がって鱗粉をブワっと放出する。
ビクン!
っとエミールの胃袋はこれでもかと痙攣し始めたのでそのまま戻る。
するとエミールの体の中を更にエネルギーが発生していく様だ。
俺が虫になって刺激することでエミールからすると凄く成長するって事だけど同時にエネルギーも生産できるって話なんだよな。
ずいぶんと活発に動いてる。ちょっと心配になってきた。発電機って訳じゃないけど最悪、発生したエネルギーを貰うのも良いかもしれない。
……永久機関とばかりにエネルギーを産み出せるか? とは思ったけど、あまりやりすぎるとエミールの体への過負荷もありそうな気がする。
23%……35%……56%
おお、ガクっと上がっていく。
こりゃあ中々良い進み具合だ。
一体どんな代物を呼び出そうとしているんだ?
そう思ってエミールが何を呼び出すのかと見ているとフッと浮かんできた。
イグドラシル
え? イグドラシルって、ゲームとか物語なんかでよくある世界樹、イグドラシル?
いや、そういった魔法と言うか能力で呼び出されるものなのだろうってのはわかるけど凄い名前の大技だ。
『ユキカズ、今の君から供給されるエネルギーも振り込んで放つのだからそれ相応の強力な術なのは当然だろう』
あ、ヴァイリオに突っ込まれてしまった。
確かに考えて見ればこの世界でも上澄みに該当する存在に今、俺たちは至っているんだからすごい力が使えるのは当たり前なんだよなぁ。
とはいえ、確かに瘴気が満ちたこの状態でイグドラシルは相応しいのかもしれない。
ただ、消耗が凄い。
俺もガクっと魔力が吸われて行くのを感じてしまう。
「ギギギ!?」
と、俺とエミールがとてつもない力を貯めているのをマシンミュータント・ミアズマクリエイターは感じ取り、肉の柱から突撃する勢いで分離して襲い掛かって来る。
「おっと、そう安々と妨害はさせないぜ?」
詠唱中のエミールだけど俺は動けるので流れるように杖でぶっ叩いて尻尾で周囲の石を拾って投げつける。
前から投擲は俺の得意な攻撃なんでね。
「あと少しだぞー!」
ズタン! っとムーイが跳躍して近づいてくるマシンミュータント・ミアズマクリエイターを叩きつけて仕留める。
更に爆撃とばかりに毒リンゴが飛んで来るのを魔眼の熱線を最小限に弾いて飛ばしてっと。
「ギャ、ギャウ」
呼吸を止めてバルトが翼を羽ばたかせて毒リンゴを風で浮かし、尻尾でマシンミュータント・ミアズマクリエイターにぶち当てる。
「ヒュー! やったYO!」
「器用な事で」
「OH! ケント、YOUもこれくらいでっきるかNA?」
「挑発うぜー。それくらいできらぁ!」
なんて感じに的確に陣形を組んで俺たちは攻撃を迎撃し、エミールの大技を完成させる。
85%……92%……。
「行くんだな!」
「おう!」
100%! エミールの体から大量の魔力やエネルギーが循環していく。
ふっと……なんだ? ぼんやりと半透明などこかの迷宮……いや、どこかの景色が浮かんで見える。
これは一体?
ピョコ……ピョコ!
っと、エミールを中心に植物の新芽が地面からどんどん生えて行き、肉の柱の足元から大きな大きな木が伸びて行き絡まりながら上へ上へと伸びていく。
それは肉の柱を締め上げつつ侵食し、天井を突き破って成長していくようだった。
ポンポンポン! っと花が咲くと同時に周囲の瘴気を吸い込んで浄化していく。
それだけで辺りの空気が清浄と言うより聖なる気配へと変化し、強酸の池が綺麗な池へと浄化されていく。
「おおー……」
ただ、禍々しい肉壁と黒い霧のようなものを完全に消し去る事は出来ずに壁に絡み合って形成されていく様だった。
「な、なんだな……やった。んだな……」
ゼェ……ゼェ……とエミールの呼吸が大きく乱れている。
色々と呼吸するうえで足りないのだろうと思い、俺も力を貸して大きくエミールの呼吸を整えさせる。
「ギイイイイ!?」
ブチュ! っと周囲に聖なる力の影響なのかマシンミュータントミアズマクリエイターは目を回して地面に落ちたのですかさずムーイやバルトを操縦したラルオンが踏みつけて仕留める。
キラキラとエミールによって呼び出された聖なる木は地脈のエネルギーを肉の柱が奪う分を吸っているようだ。
「後は……時間が掛かるけど瘴気を出してる部分を完全に壊すんだな……」
瘴気を吐き出す部分を徐々に抑え込んでいるけれど、完全に止めるのにはまだ時間が掛かりそうだ。





